第59話 奴隷契約
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「交渉・・・畏まりました。事務所へ参りましょう」
奴隷商は首をかしげ言う。
「はい、お願いいたします」
来た道を戻り、入り口近くの建物へ入ると、左側の扉を開け
「では、こちらで少々お待ちください」
「はい、ありがとうございます」
通された場所は応接室なのか、真ん中に長方形のテーブル、長椅子は2つと1人掛けの椅子が2つ、壁には女性の天使の絵がかかっている・・・ゴテゴテしておらず、かなりシンプルな部屋だった。
「お待たせしました。喉が渇いておいででしょう・・・どうぞお召し上がりください」
奴隷商はそう言うと、コップを3つ出す。
中は紅茶のように見える・・・毒とか入っていないよね?
「ありがとうございます」
ファウストさんが何の警戒も無く飲んだ・・・が、何ともないようなので、一口飲んでみる・・・美味しい。
「紅茶ですか? 美味しいですね」
「はい、御口にあったようですね。では、早速ですが商談させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
「奥にいた3人なのですが、全員犯罪奴隷となりますが、よろしいですか?」
「はい、構いません」
「規則ですので、どのような犯罪をしたのか申し上げたいと思います」
「いや、聞いてますので大丈夫です」
「畏まりました。それで、家族全員買っていただける・・・それでいいですか?」
「もちろんです」
「3人で、金額は大金貨1枚ですが、よろしいですか?」
「それは・・・」
「その金額では、前回と同じだ。奥さんが死病ということを考慮しないのか?」
グロスさんが俺の言葉を遮り奴隷商に言う。
あらら、先に言われちゃったな・・・
「失念しておりました。金貨7枚でいかがでしょう? 最初に2人を買い取った金額ですのでこれ以上は・・・」
あれ? 一気に下げたぞ。もしかして・・・良い人なのか?
考えてみると、奴隷のことを一度も奴隷と言っていない。商品だと言っていたし、臭いは酷かったけど掃除は行き届いていたように見られるし、怪我をした奴隷も手当てされていたし・・・
人族は、利益至上主義だと思っていたよ・・・
「まずは、あなたの事を誤解していたようです。申し訳ありません」
「何のことでしょうか?」
「奴隷商というと、人を人と思わず、利益のみを追い求める人だと思ってしまっていました」
「なるほど、それで交渉をといったのですか・・・そうですね、そういった奴隷商が多いのも事実です。仕方ありません・・・しかし、私は敬虔なるレティア教徒です。全ての人を愛せ・・・ですよ」
にっこりと微笑む奴隷商・・・宗教は知らないけど、良い人ではありそうだ。
「ならば何故! セードルフ達を他国になど!」
グロスさんが声を荒らげ奴隷商に言う。
「死病の傍らにいれば、死病になるのは必然・・・ならば、別れた方が命の無駄にはなりますまい」
奴隷商は変わらず淡々と言い放つ。
「家族をわける事がどれだけのことか解らんのか!」
「貴族であれば、手厚く保護されましょう・・・ですが、平民は・・・自分から出て行くものもいるのですよ? 知りませんかな?」
そう言われるとグロスが黙ってしまった。
「すみません、後学の為に聞かせていただきたいのですが、あなたにとって奴隷とは?」
俺は軽く手を上げて聞く。
「奴隷ですか・・・あくまで商品でございます」
「手足が無い奴隷・・・いえ、商品もいましたが、手当てがされていましたよね?」
「手当てするのは当たり前でしょう? 商品ですので・・・そういうのが好きな方もいますしね」
「掃除もされていた気がするのですが」
「もちろん毎日していますよ。商品が病気などをして働けなくなってしまったら、意味は無いでしょう?」
「なるほど、商品たちには長く働いて貰いたいという事ですね?」
「その通りでございます。皆様のお役に立つのが奴隷の務めでございます」
「なるほど、解りました。ありがとうございます。他の奴隷商も同じ考えですか?」
「いえ、私どものようなロートルは同じ考えの者が多いですが、今の主流は・・・」
顔を背け悲しそうな顔をしている。
「では質問があります。他の奴隷商が、大金を稼いだらどうなると思いますか?」
「あまり考えたくありません・・・死病を患っているのに、健康だと偽って売ってしまうようなやつらですので」
「陛下が、犯罪奴隷を買おうと言っているのを偶然聞いてしまったのですが・・・しかも大人数を・・・この国の全ての奴隷商に均等に発注した場合、どうなると思いますか?」
「まさか! そんな・・・いえ、多くの死病患者の温床になってしまうかと・・・」
「他の奴隷商を改心させる事は可能ですか?」
「無理でしょう・・・利益のみを求めているので・・・」
「では、私とグロスさんが陛下に言ってみましょう。ここで買うようにと」
「お待ちください、それでは余りにも・・・」
「独占になってしまうと?」
「その通りです」
「しかし、こう考えられませんか? 奴隷であろうと人として接することが必要である。その事を他の方々に知らしめるいい機会であると・・・
そう、これは・・・女神レティアがあなただけに与えた試練なのかもしれません。
私どもがここに来たのも、何らかの啓示やも知れません。
実行する・しないは自由ですが・・・もし、試練だった時に実行しないを選んでいた場合、何かの拍子に、女神レティアに出会ってしまったらどうしますか? あなたはどの様に言い訳するのですか? 気が付かなかったと? 荷が重すぎると?
あなたは解っている筈です。このままではいけないと・・・本当にいいのですか?」
「そう・・・その通り・・・そうですな! 目が覚めました! あなたの仰るとおりです!
御代は金貨3枚・・・いえ、結構です。商品の3人は、私からのお礼として受け取っていただきたい。死病にかかっているかもしれませんが、治るように祈っております。
陛下にはよろしくお願いいたします」
あれ? やっちまったか? どうしよう・・・最近交渉ばかりやっていたから、へんてこなギフトでも増えてるんじゃないのか? 詐欺師のギフトとかか?
あぁ・・・最近ギフトを調べてないから、調べとかないとな・・・
「解りました、進言させていただきます。ですが、100%では無い事をご承知ください」
「もちろんでございます。私だけで・・・いえ、私どもだけで今の奴隷の待遇を改善してみせます!」
「それは頼もしいですね、よろしくお願いいたします」
「直ぐに準備をしますので、少々お待ちください」
奴隷商はそう言うと、さっと外に出て行った。
「カナタ殿・・・どうなさるのですか?」
グロスさんが、心配そうに言う。
「少しやり過ぎちゃったかもしれませんが・・・まぁ、何とかなるんじゃないですか?」
「あんな一瞬で人が変わる所を初めて見ました・・・魔法ですか? 魔道具ですか?」
ファウストさんも驚いたように言う。
「そのような魔法も、魔道具も、ギフトも、持っていませんよ! たまたまですたまたま」
「奴隷の件、進言だけはしてみましょう・・・ですが、移動させようとしたことは忘れません」
「う~ん、そうですね。たぶんですが、奴隷商が言ってたように、死病に2人がかからない様にしたかったのでは無いかと思います。最後まで働いて貰いたいみたいにも言ってましたし、グロスさんも気が付いてましたよね?」
「それは! 頭では理解していますが、気持ちが・・・」
「まぁ、3人がお金がかからないで手に入ったんですから、万事オッケーってことで」
そんな会話をしていると、1人の筋肉質の人が来て「準備ができましたこちらへ」と言い、俺達は別棟に移動する。
そこには奴隷商と3人がいた。3人とも首輪を着けている。
「お待たせいたしました。全ての準備が整いました。後は血を一滴、首輪の魔方陣の部分に垂らして頂ければ完了です」
奴隷商は満面の笑顔で対応してくれる。
「ありがとうございます」
「いえ、あなた様がいらっしゃらなければ、私は目が醒める事もありませんでした。女神レティア様に感謝を」
跪き、祈りのポーズを捧げてブツブツ言っている・・・邪魔しちゃ悪いと思い、血を一滴ずつ首輪に垂らす。
首輪の魔方陣が淡く輝き、数秒して輝きが収まる。
「失礼いたしました。今刻んである命令は、主人の命令遵守、主人への反乱禁止です。
命令変更は、魔方陣に手を触れながら【命令変更】といえば変更できます。
成功した場合は淡く光り、失敗した場合は警告音がなります。
命令の詳細を見たい場合は、こちらに御越しいただければいつでも確認ができます」
「この首輪は取ることはできないのですか?」
「妻と子の首輪は取ることが任意で出来ますが、少し様子を見た方がいいかと思われます・・・取った直後に殺される主人もいますので」
「分かりました、ありがとうございます。助かりました」
「いえ、あなた様に女神レティア様の祝福があらん事を」
奴隷商は終始笑顔を絶やさず、答える。
とりあえず全員で屋敷に戻ることに・・・