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努力の実る世界  作者: 選択機
第2章 ティンバー・ウルフローナ王国
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第58話 グロスの願い

ブックマークや評価など、本当にありがとうございます

これからも、面白い! と言っていただけるように、頑張ってまいります


8/23 改稿あり 加筆あり

「えっと、詳細をお聞きしてもよろしいですか?」


「はい。買っていただきたいのは、冤罪で奴隷に落とされた執事なのです」

 グロスさんは、言ってから礼をする。


「冤罪ですか?」


「はい、その通りです。話は少し長くなりますがよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「まず彼との出会いは、他国の王の後継者御披露目のパーティーでした。

 そのパーティーには、諸国の王や重鎮の皆様がいらしておりました。

 その頃私は大きなパーティーに出席するのが苦手で、失敗をしてしまいまして・・・」


「失敗ですか?」


「はい、御恥ずかしい話ですが、大将軍閣下の洋服を汚してしまいまして・・・そのときに助けていただいたのが、新人執事の彼・・・セードルフなのです。

 彼は新人だったのですが、仕事をそつなくこなすベテラン達と、変わらぬ動きをしていました。

 その後何度も同じパーティーに出席をして、執事談義を交わすほど仲良くなったのです。

 ・・・が、ある時、彼の息子が死病にかかってしまったそうで」


 執事談義って何? そんな物あるの? 仕事が趣味みたいな人たちなの?


「息子が死病にかかったと同時に、かなりの金額を横領をして捕まったとも聞きました。

 ・・・いても立ってもいられず、御暇おいとましようと陛下に相談したのです。

 そうすると陛下が事情を聞き、手を回してくださり、彼をこの国に移動することになったのです。もちろん、奴隷として家族全員をこの国に移動していただきました。

 ですが、横領は嘘でも死病の事は本当でした。

 ・・・この国の重鎮でも無い、ましてや死病を持っている者を貴族街に入れるわけにもいかず・・・どうするか悩んでいたところだったのです。

 どうかカナタ殿のお力で死病を治し、彼を雇っていただけませんでしょうか?

 もちろん、彼の借金および購入費は私が御支払いします」


「なるほど・・・私も最近忙しくなり、誰か雇おうと思っていたところです。

 そのように能力がある方なら渡りに船ですね」


「では、お願いしてもよろしいのですか?」


「ええ、もちろんです。セードルフさんの所に案内していただいてもいいですか?」


「もちろんでございます。カナタ殿、本当にありがとうございます。このご恩はいずれお返しします」


「いえ、気にしないで下さい。最初に助けて貰ったのは私ですし」


 この後ちょっとした押し問答になったが、そのまま奴隷商の元へ・・・


 即日買いたいというのは出来るが、相性などがあるので一度会って欲しいといわれたため、薬は持ってこなかった。

 一応屋敷に薬のストックは2つあり、効果:中と効果:大がまだ残っている。屋敷に帰れば治療は大丈夫だろう。

 ファウストさんは、診断の魔道具を持ってついて来てくれている・・・診断できれば有り難い。

 そんな事を考えていると、奴隷商の所へ着いた。


「ここでございます、カナタ殿」


「結構綺麗なんですね、もっと汚いと思ってました」


「一応商売ですので、色々と気をつけているのでは無いかと・・・」


 入り口に着くと門番達が立っており、「用件は?」と聞いてきたが、グロスさんが話すとすんなりと通された。


「直ぐに迎えが来ると思います」

 グロスさんは、俺に言うなり礼をする・・・なんか気恥ずかしいんですけど・・・


 扉から、人族の執事の様な老紳士が出てくる。


「これはこれは、グロス様、ようこそおいでくださいました」

 奴隷商の男は恭しく礼をする。


「ふん、思っても無い事を言わなくてもよろしい」


「何をおっしゃいますか! 商品達の食事の寄付を頂いていますので、助かっております」


 奴隷の事を商品って言ってるな。ちゃんとしてる所なのか?


「いい。彼らは変わりないか?」


「ええ、健やかにお過ごしいただいております。・・・ですが、そろそろ他国へ移動させようと思っているところで・・・」


「何! 便宜を図っているだろ! 何がある!」


「便宜を図っていただいている事は承知しておりますが、死病に犯された商品が亡くなれば、他の商品へも影響します。それならば安くしてでも他国に渡すのが道理と言うもの」


「いつだ? いつ移動する・・・」


「便宜を図っていただいている事を含めましても、最大一週間後にでも」


「あのすみません、ちょっとよろしいですか?」


「はい、何でございますか?」

 奴隷商は、こちらを向き笑顔で答え礼をする。


「安く他国の奴隷商に売る値段という値段で、買う事は出来ますか?」


「はい、もちろんでございます。隷属の儀式の料金は別になりますが、同じ値段で買っていただくことは出来ます」


「なるほど、死病の子も他国に売るのですか?」


「いえ、この国で処分されると思います」


「では、その子も買うので、処分費を引いてもらうことは出来ますか?」


「もちろんでございます。死病で死ぬと処分が特殊で、お金が多くかかりますから」


「ありがとうございます。見せていただくことは出来ないでしょうか?」


「死病を患っている商品なので、連れてくる事はできません。直接行って頂いてもよろしいですか?」


「構いません。ですが、買った後は連れて行くのは大丈夫なんですか?」


「もちろんでございます」


 その後、セードルフさん達の下へ案内をして貰う。

 左右の檻の中には、奴隷が多く入っている・・・子供や老人、男に女、手や足がないもの・・・ずっと寝たきりになっているような人まで・・・でも、簡単ではあるが手当てされてるように見える。

 そして、奥に行けば行くほど臭いもきつくなってくるが、そこまで汚れた印象を受けない。


「掃除が行き届いているんですね・・・軽く臭いはしますけど」


「先程は取り乱してすみませんでした、カナタ殿」


「いえいえ、仕方がないことですよ。気にしないで下さい」


 進んでいくと、檻ではなく金属の扉の前に着く。


「ここからは死病が発病してしまった商品の檻になります。この布で鼻や口をお塞ぎ下さい」


「隔離しているのですか?」


「その通りでございます」


 扉をくぐると、先程と同じく左右に檻が有り、突き当たりにも檻がある。

 檻の中を見ると、ゼェゼェと言いながら寝ている人がいる。

 ・・・死病にかかってしまえば、犯罪奴隷も借金奴隷も結局は同じ扱いだと実感した。

 一番奥の大きな檻の前に行くと、3人家族が入っていた。

 1家族で1つの檻を使っているものはいなかったので、高待遇を受けているといっても過言ではないのだろう。

 簡易式のベッドに子供が寝ていて、奥さんが看病している・・・夫は少しでも良い環境を整えようとしているのか、掃除をしている。

全員人族で、夫婦揃って顔が良い・・・奥さんは綺麗系の顔立ちで、夫は年をとればダンディになりそうな雰囲気をかもし出している・・・子供も顔が青くて息が荒いが、整った顔をしている。


「ここでございます。お話しされますか?」


「はい、案内ありがとうございます」


 俺達は、檻の中に入る。


「調子はどうだ」

 グロスさんがセードルフさんに声をかける。


「良い訳ないだろ!? ・・・いや、すまん」


「いや、子供はどうだ?」


「相変わらずだ・・・普通に暮らしていても光茸なんて手に入らん・・・出来ることなら代わってやりたい」


「そうか・・・すまん」


「お前が謝ることじゃない」


「あの~すみません、子供の側に行ってもいいですか?」


「誰だお前・・・何のようだ?」


「そうですね・・・皆さんを買おうと考えている者ですよ」


「お前は馬鹿なのか? 死病持ちなど買っても無意味だろう」


 にやりと笑って、セードルフさんに近づき小声で話す。


「私が死病を治せたらどうしますか?」


 驚いた顔をしてこちらを見て、意を決したような顔になる。


「私の命を差し上げる」


「はい、交渉成立ですね。では、子供のところに行って症状を緩和しましょう」


 そう言って奥さんに退いて貰い、手を取って回復魔法をかける。

 荒かった息が通常とは行かないまでも、かなり緩和される。


「ああ・・・ありがとうございます」


「応急ですよ、治ったわけじゃない」


 奥さんを見ると、泣いていた・・・少し顔が赤い? 泣いたから?


「ファウストさん、診断の魔道具で2人を見て貰うことは可能ですか?」


「素晴らしい、もちろんさせていただきますよ」


 診断してみると、セードルフさんは異常なしだったが、奥さんは死病にかかっていた。

 子供の看病中にかかってしまったのだろう・・・病気の場合は赤い字で出るんだな・・・異常なしだと緑っぽいのに。


「奴隷商さん、奥さんも死病にかかっていたみたいです」


「やはり、そうですか・・・残念です。夫だけ買っていかれますか?」


 やはり? どういうことだ? まぁ考えても仕方ない。


「いえ、3人買っていこうと思いますよ・・・早速ですが、交渉しましょうか」

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