第57話 薬の作り方を教える
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ティンバー陛下の後ろについていくと、1つの扉の前で止まった。
「この部屋は今は使われていないが、掃除はされているのでちょうど良いだろ」
「昨日言った物は準備されているのでしょうか? 無ければ屋敷からとってきますが」
「もちろん大丈夫だ。準備したが材料や設備などがあれだけで、良いのか?」
「私が教えられる物は、初歩中の初歩でございます。後はファウストさんと薬師の皆様でお願いいたします」
「それで良い。他に何かあれば言うがよい」
「では、1つだけ・・・薬は量産でき、色んな方の手に渡すことが出来ると思いますが、危険がございます」
「情報の漏洩か? 犯罪奴隷を使い、喋らぬ様縛るつもりだ。そして、城の地下を改装中だ。倉庫だったところを製作現場にする。速記もやめたぞ」
「漏洩もそうですが、薬の効果についてです」
「効果とな? 同じ物が出来ぬということか?」
「いえ、同じ物は出来ます」
「もったいぶるでない、何があるのだ?」
「薬に頼りすぎると、薬が効かなくなってくるのです」
「ポーションの飲みすぎの時のように、身体が薬に慣れてしまうということか?」
「いえ、薬の効かない病・・・いえ、死病が進化し、薬が効かなくなってしまう事があるのです」
「何だと! そうなったらどうすれば良いのだ? 何かあるのか?」
「もっと強い薬を開発するしかありません・・・そうならないために、死病の予防をしてみるのはいかがでしょう?」
「予防とは? もしや防げるのか? 死病をか?」
「絶対ではないのですが、聖女ユカさんや私の見立てですと、防げる可能性があります」
「何をすれば良い? 祈祷か? 生贄か? 何をすれば?」
「端的に言いますと、整理・整頓・清掃・清潔ですね。まずは、手洗いうがいの徹底。大きな所ですと、下水の見直しから行うのが良いかと」
「そんな事でか? 死病の原因は何なのだ?」
「汚れなどについている細菌が原因ではないかと思います。細菌は体の自浄作用により排出されますが、排除が間に合わないほど多く、取り込んでしまっているのでは? と私は愚考いたします」
「汚れだとすれば、農奴が1番汚れているが、死病はいないぞ。何故だ?」
「魔物や汚れた武器での傷や傷口に、汚れがついている時に回復魔法などで、無理やり傷口を塞いでしまい外に出ずに、身体の内部に残ってしまったんだと思われます」
「なるほどな。では、傷を負ったときはどうすればよい?」
「綺麗な水で洗い流すか、浄化魔法で傷口の菌を取り除いてから、回復をした方がいいと思います」
「なるほどな、解った徹底させよう」
「ありがとうございます」
「では、早速だが薬を頼む」
「畏まりました」
陛下は一度頷き、踵を返して去っていった。
「素晴らしいですね、カナタさん。良く陛下とあのように話が出来ますね」
ファウストさんは、拘束を解かれたようにふぅとため息をついてから言う。
「そうですか? 気さくな陛下ですから、大丈夫だったのでしょう」
「私は10年ほど御仕えしていますが、まだ慣れません」
「仕えていないから話せるのかもしれませんよ。じゃあ、時間がもったいないですし、薬の作り方をお教えします」
「最初に質問なのですが・・・何の薬の作り方なのかをお聞きしても良いのでしょうか?」
「もちろんですよ。光茸に代わる、死病の新しい薬ですね」
目を見開き、口をぽかんと開けて微動だにしていない・・・大丈夫なのかな?
「お~い、大丈夫ですか~? お~い!」
目の前で手を振って呼びかけても、反応が全く無い・・・死んでるんじゃないのか?
「へ? 失礼失礼・・・聞き間違いですよね? 薬師にとっての悲願でもある物を作れるだなんて・・・」
「良かった生きてた・・・一応製作者はこの国ということになっています。絶対に喋っちゃダメですよ」
それを聞くと、頭を抱えて奇声を発し、膝を突いてクネクネと動いている・・・壊れたっぽい。どうすりゃ良いんだ?
数分、ブツブツ言いながらクネクネしていたが、ピタッと止まり、正気を取り戻した。
「すみません、取り乱しました」
「いえ、大丈夫ですよ~、作っちゃっていいですか?」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いします」
部屋の中にある桶は、大体1m位でかなり大きい。1つの桶の中には、カビの生えたミカンがたくさん入っていた・・・正直こんなにいらないのだが・・・
面倒なので魔法で作ろうと思うのだが、何か言われないだろうか・・・まぁ大丈夫だろう・・・面倒だし。
布をマスクにして口と鼻をかくし、頭にも布をかぶる。
家から持ってきたスピリタスで手を消毒すると、作り方を教える。
作り方は前回と同じなのだが、カビを自然に増やすこと(今回は魔法で増やした)、水と油を混ぜた時に水だけを取り出すために、穴の開いた桶を用意すること、その他注意点などを細かく伝えていく。
ファウストさんは、色々聞きながら見ていたが、最終的には自分で作ってみることに・・・
やはり魔法がないと難しく、数度失敗をしたが、安定して作れるようになっていった。
「薬の効果は調べてみないと解らないんですが、たぶん大丈夫だと思います」
「こんなありふれている材料で作れるなんて、なんと素晴らしい薬なんでしょうか・・・」
「明日にでもユカさんに見て貰いましょうか」
「そうですね! 実に素晴らしい!」
「そういえば、スライムパウダーについての質問なんですけど、いいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「昨日作った時に、錠剤1個しかできなかったのですが、何ででしょう?」
「それは、ポーションの容器1つ分で1つの薬になるからですよ」
「そういうものだってことですか?」
「そうですね、考えた事もありませんでしたが、そういうものなんでしょう」
この世界の薬は、やはり魔法薬だからなのか、こちらの常識は通用しないようだ・・・容量についてもまったく解らないし・・・まぁ、健康になるんだからいっか~。
一段落したので手を洗い、桶を洗って外の庭に穴を掘り、桶の中に残っている汚れた水を入れて埋めて置く。
桶を部屋に片付けて、ポーションの容器に入っているペニシリンを、棚の中に並べていく・・・そのとき扉がノックされる。
「私が出ましょう。片づけを続行していてください」
「は~い、お願いします」
扉を開けると、そこにいたのはグロスさんだった。
「こんな時に申し訳ありません」
グロスさんは、入り口付近で深く頭を下げる。
「グロス殿、どうなさったのですか?」
「カナタ殿に、お話がございまして・・・」
殿!? って何? 人間思いもよらない事を言われたら、時間が止まるもんなんだな!
「え? おれ・・・私ですか?」
「折り入って頼みたいことがございます・・・よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。何でしょうか?」
「それはですね・・・」
「調子はどうだ? 捗っているか?」
グロスさんが話し始めた瞬間に、急に陛下が部屋へ乱入してきた。ビックリしたよ・・・まじで。
「む? 話し中だったか、すまんな」
「いえ、陛下の用事が優先でありますので」
グロスさんが、恭しく礼をする。
「うむ、すまんな。カナタよ、先にこれを受け取っておいてくれ、礼だ」
陛下はそう言うと、大金貨より少し大きく、ピンク色した金貨を5枚渡してくる。
「これは?」
「紅金貨といって、1枚で大金貨10枚分の価値があるぞ・・・今はこれしか出せん。公の場になったら残りを渡そう」
え? え? くれるの? ってか残り? doyukoto? 思考がストップしてしまい呆然としていると、
「ファウストよ、覚えられたか?」
「もちろんでございます。今回できたものは、ポーション容器151本分でございます」
「おお! もうそのような数を! でかしたぞ!」
「あぁぁぁ・・・ありがたき幸せ」
「ファウストも今日を含め4日後を空けておけ! 表彰するぞ!」
「なななななな・・・何を仰います! わたわたわた・・・わたくしなどとても・・・」
「決定事項だ! では、邪魔したな・・・グロス、すまんな」
陛下が出て行くと頭の整理がついた・・・が、大金持ってると思うとなんか怖い。
今度はファウストさんが呆然としていた。
「カナタ殿、よろしいですか?」
グロスさんは、こちらを見て礼をする。
「はい、何でしょうか?」
「実は、人を・・・奴隷を買っていただけ無いかと思いまして・・・」
え? どゆこと? 思考がまた停止しそう・・・
一体何があるんだろう・・・