第54話 打算
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「何だと!? 父上が!?」
「待って下さい! 私たちに任せて下さい」
フランソワーズ様も駆け出そうとしていたが、ユカさんが大声を出して止める。
フランソワーズ様と治療師の2人と料理の数々を部屋に残し、残りのメンバーは大将軍のところへと向かい、歩きながら容態などを聞く。
「薬がまったく効かずに息を荒くされてしまいまして、聖女を呼んできてくれと仰いましたので・・・」
「なるほど、それで呼ばれたわけですか・・・意識はあるのですか?」
「あります。ただ治療師の魔法は効かなくて・・・」
「そうですか・・・ユカさんの回復魔法なら、ある程度の回復は出来るはずです」
「素晴らしい! 聖女様と呼ばれるわけですな」
「止めて下さい、私は聖女なんて大それた者ではないです・・・出来る限りのことはしたいと思っていますが・・・」
「そうですね、手伝いますのでやるだけやってみましょう、ユカさん」
部屋の前に着き、ノックをしてから部屋の中へ入る。
気を失ってはいない様だが、息も絶え絶えになっている大将軍がそこにいた。
「あなた」と言い駆け寄っていくエルフ・・・やはり母親だったのか・・・見た目が若いな~。
「ユカさん、何から手伝いますか?」
「ちょっと待って下さい。ヨシさんも一緒に手伝ってもらって良いですか?」
「もちろんよ、どうすればいいのかしら?」
「私は体内を・・・いえ、内臓を癒すようにします。ヨシさんは筋肉など解すのをお願いします。カナタさんは私たちのサポートを」
ユカさんは、大将軍から目を離さずに言う。
「了解です」
「解ったわ」
「急激な回復ではなく、状態維持をした後でのゆっくりとした回復をイメージしてください。いきますよ」
ユカさんは内臓のダメージのある部分を魔力眼で見極め、流れを正常にし始める。
ヨシさんは痛みにより硬直してしまっている筋肉を、ほどく様にしているようだ。
俺は2人のサポート。ヨシさんのほうは特に問題なさそうなので痛み止めをしながら、ユカさんの魔法に合わせていく・・・2つの魔法の同時使用、今のところ俺とミズキさんしか出来ない技だ。
数分の回復、顔色が良くなり始めた大将軍・・・何かを言っているようだが聞き取れない。
「みなさん、ありがとうございます。本人もありがとうと申しております」
大将軍の奥さんは、泣きそうな顔をしながら感謝の言葉を述べてくる。
「感謝はまだです。死病が去ってからにしてください」
ユカさんは、治療の手を休めずに言う。
「しかし、薬は・・・もうない・・でずぅぅ」
大将軍の奥さんは、最後には泣いてしまった。
「ありますよ、しかも最大級の秘薬が・・・使って下さい」
「しかし、それは同じ物ですよ・・・同じ薬が効くとは・・・」
「ファウストさん、黙っていた事がありました。すみません。
エルフ様方が持ってきてくださった薬の効果は【小】で、私が今もっている薬の効果は【特】なのです。
これは薬の心得を持っている、ユカさんの鑑定結果ですので間違いないと思います。
私どもは、エルフ様方が持って来て頂いた物を無碍には出来ず、言えなかったのです。
本当に申し訳ありません」
俺は、治療を手伝いながら頭を下げる。
「ごめんなさい、苦労して出来た物だと聞かされていたので・・・本当にごめんなさい」
ユカさんは、治療しながら言う。
「それであの時・・・」
ファウストさんは、納得した様に言う。
「いただけるのですか? 貴重な物ではないのですか?」
大将軍の奥さんは、祈るようなポーズをして言う。
「お渡しします。命には代えられませんので・・・早速飲んでいただきましょう」
意識を失いかけている大将軍を座らせる。薬を出すと気力を振り絞り無理やり飲んだようだ。
「ユカさん、どうですか?」
「薬はそんなにすぐには効きませんよ。回復魔法で全体的に癒します。治療師の方もお願いします」
1時間位で荒かった息が収まり、寝息に変わっていく。
「良かった・・・効いてきたようです・・・魔力の流れが綺麗になっていきます・・・すごいですね」
ユカさんは、治療の手を止めほっと胸をなでおろしながら言う。
「本当ですね・・・ただ、使いすぎると効かなくなるんでしょうね」
「回復魔法の時もそうですが、綺麗な水で患部を流し清潔にするように指導していかないと・・・」
「感染経緯はやっぱり菌の蓄積ですか?」
「たぶんそうだと思いますが、ちゃんとした研究機関がないので何とも言えませんよ。
でも、街中にも鼠や虫などがうようよしてますから、清潔な街にしないと違う病気が蔓延する可能性もあると思います」
ユカさんがそう言うと、ゾワゾワっとしたのか、体をこすり始める。
「そうですね、インフラ整備をして、手洗いうがいの徹底とかするだけで、死病だけでは無く病気に感染する回数も減りそうですよね」
「はい、それをどうすればいいかまでは解りませんが・・・」
「峠は越えたようですよ、もう大丈夫です」
ファウストさんは、魔道具で大将軍の体調を確認しながら言う。
「ああ、良かった・・・皆様、ありがとうございます」
大将軍の奥さんが、涙をためて頭を下げる。
今思うと、王族が平民の俺らに頭を下げるのって結構凄くない? フランソワーズ様も気さくだし凄い国なのかも。
「いえ、助けられて良かったです。フランソワーズ様にも報告をしに行きたいのですが良いですか?」
「はい、フランも気になっていることでしょう。お願いいたします」
「畏まりました、では行って参ります」
「容体が安定しているようなので、私も行って来ます」
ユカさんは手を軽く上げて言う。
結局、俺、ヨシさん、ユカさんの3人でフランソワーズ様の部屋へ向かう。
フランソワーズ様の部屋に着く・・・考えてみたら姫様の私室に入ってるんだな、結構凄いことじゃない?
「カナタ君ごめんなさいね、後は2人に任せて大丈夫かしら? 書置きはしてきたけど、心配してるだろうから戻ろうと思うのだけど」
「はい、こちらは大丈夫です!」
ユカさんは、にっこり笑って言う。
「大丈夫です。皆さんにも説明しておいて貰えますか?」
「解ったわ、じゃあ帰るわね。
あ! うどんの器は今度持って来てって言っておいてね」
ヨシさんが帰った後、扉をノックする。
「フランソワーズ様、入ってもよろしいですか?」
「うむ、入れ」
声がそわそわしてる。やはり気になるのだろう。
「失礼します。気になっているでしょうから結果を・・・大将軍様は無事です」
「そ・・・そうか・・・良かった・・・」
「治療は成功し、このまま改善へ向かうと思います」
「うむ、何から何まですまぬ」
「それで、1つ相談があるのですが、良いですか?」
「何でも言ってくれ、出来る限りのことはいたそう」
「人払いをしていただいても良いですか?」
「私も出て行ったほうが良いですか? お邪魔でしたら・・・」
ユカさんは、チラチラこちらを見ながら言う。
何を勘違いしてるんだ? 愛の告白をすると思っているのか?
「いえ、居てください」
フランソワーズ様は、治療師など様々な人を外に出し、扉にも近づかぬように厳命を出す。
「人払いをしたぞ、何を望むのだ?」
「これを、見てください」
そう言い、ペニシリン溶液を手渡す。
「ポーションか? これが何なのだ?」
「これは、光茸と同じ成分で出来た物です。しかも、ありふれた物で作り出しました」
「お・・・おい・・・な・・・どうなっているのだ? そんな物、作れるのか? 本当に? どうやるのだ?」
「それはお渡しします。あとでファウストさんにも見て貰えば、本物かの判断は出来ると思います」
「解った、調べよう・・・これを定期的に買って欲しいということか?」
「違います。製造法を売りたいと思っております」
「バ! 馬鹿な事を言うでない! 何を言っておる? 大発見なのだぞ? 何を考えておるのだ!?
この功績のみで後世に名が残る程だぞ? 一生どころか国すら買えるかも知れぬほどの物の製造法だぞ!? 売るなら最低でも発表をしてから売れ!」
「発表は出来ません。一個人、しかも平民が薬を開発したら他国はどうすると思いますか?」
「こぞって買いに来るであろう」
「それだけならいいのですが、作れる者を誘拐しようと考えませんか?」
「そういう短絡的なものもおるかもしれん。しかし、人を雇って護衛させれば良かろう」
「護衛は自分達のみです。もし知り合いの方が人質になったら・・・」
「だが! そんな事!」
「いいのです。私にも打算がないわけではありません」
「何だ? 何を望む? 何でも言ってくれ!」
「私と仲間の安全が欲しいのです」
「何? どういうことだ?」
「私どもの作る防具や薬、洋服、料理、様々な物が利益となると考えています」
「うむ、そうだな。皆が作る物は、見た事も無い物が多い・・・いや、見たことが無い物しかないと言っていい・・・危険か・・・
なるほど、皆を他国から干渉されぬよう守って欲しいと言う事か」
「その通りです。その為に矛であり盾でもある他国全てが欲している薬の製造方法をお渡ししたい」
「解った、一度衛兵を呼んできてくれぬか?」
「畏まりました」
廊下のところに立っていた衛兵を1人連れて戻る。
「至急、叔父上を連れてきてくれ。国の復興が叶うと伝言付きでな」
衛兵は「ハッ」と短く返事をすると駆け出していった。
「叔父上にも説明をしてくれ」
「畏まりました」
とは言ったものの・・・・どうすんの? 王様だよ! 下手すりゃ殺されかねない! いや、落ち着け2人の命を救ったんだ、大丈夫なはずだ! と思いたい・・・