第52話 お皿
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気分転換に、起きてきたタダシさんに挨拶でもするか・・・そう思いダイニングへ。
「おようございます、タダシさん」
「おお! 脅かすなよ、早いな、カナタ」
「徹夜明けですよ、農民達の家はどうなりました?」
「完成して、金も払っちまったぞ? あと、耕した畑も全部終わったし、店に並べる物を考えてるところだ」
「色々ありがとうございます。店についてなんですけど、屋台ではなくて定食屋みたいなのにしようと思うんですけど、大丈夫ですかね?」
「あ~・・・厳しいな。食材も出来る限り使い切るように料理してるが、定期的に仕入れられるわけじゃないからな・・・なんで屋台をやめたんだ?」
「お皿ですよ。高いのであげる訳にはいかないですし、買ってもらうのも無理ですし・・・どうすればいいのか・・」
「なるほどな、ミミリの所の皿を売れば良いんじゃねぇか? 皿を持ってきてもらって販売すりゃ良いんじゃねぇか?」
「それも考えたんですけど、ピンと来ないんですよね~・・・」
「じゃあよ、木を薄く削ったので籠も売りゃ良いんじゃねぇか? 簡易皿としてよ、簡易皿での販売はいくら、皿を持ってきてもらうと安くするとかはどうだ?」
「それもいいですね・・・あ! 木屑! そうか! 木屑を綺麗にして皿のようにすれば良いのか!」
「おう、そりゃ良いアイディアだ。木屑ならたんまりと出るだろうからな」
「ありがとうございます、いいアイディアが出ました。今日ミミリさんの所に行ってきますよ」
「おう、じゃあ土産を持っていってくれ。後明日は食材探しに行きたいんだが良いか?」
「もちろんです。みんなには言っておいて下さいね、目を覚ますために朝風呂に行って来ます」
「ショウマが来たら、カナタが風呂に行ってるって言っといてやるよ」
「お願いします」
お風呂に入り、さっぱりしてから外に出ると、いつも通りのメンバーが居た。
徹夜したと聞いたのだろう。今日は組み手など行わず筋トレ中心の軽いメニューで終わる。
朝食を食べに行くと、エルフが3人に増えていた・・・昨日絡んで来たエルフだ。
こちらに気づき気まずそうにしている・・・ユカさん、睨んじゃ駄目ですよ。
朝食は、昨夜と同じメニューだった・・・エルフ達のリクエストらしい。
朝食を済ませ、未だに食べてるエルフに手紙の問題が終わった事を告げて、先にLvを上げに行く(Lv18.Lv17)
その足で木工ギルドに向かい、プレゼント・・・もとい試験の品を渡そうと思う。
「ミミリさ~ん、おはようございます」
「あれ? おはようです、カナタさん・・・朝早くにどうしたんですか?」
ミミリさんは、首をかしげる。
「試験の物をお持ちしました。櫛と髪留めです。木で出来た物とグランドタートルを削りだしたものの2つあります」
「可愛い! 何です? 櫛って、毛で作るブラシじゃないんですか? これが髪留めですか? 紐じゃないんですね、どうやって使うんですか?」
「貸してください・・・髪をこんな風に梳いて、後ろにまとめます。この輪っかなんですが、魔力を流すと伸び縮みするので、魔力を通して伸ばして、留めたい部分にいったら縮めると、こんな感じになります」
「これ、髪が引っ張られて痛いんですけど緩められませんか?」
「集める時に引っ張りすぎちゃったんですね、待ってくださいね・・・こんな感じでどうですか?」
「おお! 凄いですね! しかも櫛の堀の精巧さはミミリよりも上手い気がします・・・」
「それは師匠の教えがいいですからね、あと、鏡とかありますか?」
「それは、そうですね! 師匠の教えですよね! でも、鏡なんて無いですよ? 何をするんですか?」
「髪留めを付けた時の姿を見てみたくないですか?」
「見てみたいですけど、鏡なんて高級品は買えません・・・」
「じゃあ、鉄の板とかは無いですか?」
「無いですよ・・・いいんです! それより、カナタさん、似合ってますか?」
「とっても良く似合ってますよ、いつも以上に可愛いです」
真っ直ぐに見ながら笑顔で言うと、ミミリさんは、えへへへって言いながらうつむいてしまっていた。
気に入ってくれて良かった、そう思いながら工房を後にする。
ちゃんと、骨細工の試験で作った鼈甲の櫛と髪留めも渡してくれるそうだし、木屑もただで使って良いとのことだった。
屋敷に戻ったらユカさんに、作ったペニシリンを見て貰おう。
そんな事を考えながら屋敷に向かうと、エルさんが屋敷の外をうろうろしていた。
何をしてるんだ? なんとなく友達がいるかどうか覗いている子のように見える。
「エルさん、こんにちは」
「ひゃ! び・・・ビックリした、こんにちは」
エルさんは、小さくピョンと飛び胸に手を当ててから言う。
「驚かせてすみません。どうしたんですか? 何かありました?」
「えっと・・・わ・・・わた・・・僕に、交渉の仕方を教えて下さい」
エルさんは、いきなり頭を下げた。
「えっと・・・どうしてですか? 理由が解らないんですが」
「僕・・・いえ、私は女です」
「はい、そうですね」
「え? 何で? 何で気が付いていたんですか?」
「もちろん気が付いていましたよ。何故男性だと偽るんですか?」
「女だと言うだけで・・・馬鹿にされたり足元を見られるんです! 防具の心だって、必死に・・・ホント必死に覚えたんです!」
「そうですか・・・ですが、何故交渉を覚えたいと?」
「あんなふうに・・・そう! あんな風に悪魔のように交渉ができれば絶対馬鹿にされません! 絶対に」
「そ・・・そうですか、解りました」
というか・・・悪魔のようにって・・・ひどくない?
「教えてくれるんですか?」
「いいえ、教えません」
「何故ですか!? 女だからですか!」
「いえ、女の人の方が交渉や会話など上手いと思いますよ・・・えっとですね、交渉の仕方は人それぞれですよ?
まぁ人から教われば、ある程度まではいけるかもしれませんが、私のやり方は止めておいた方がいいと思います」
「でも、あんな逃げ場も無いように詰めていく交渉なんて見たことがない」
「う~ん、いいですか? 簡単にやり方を説明しますね。
人の弱みや思考をある程度把握し、1つの質問に対し3つの答えを考え、その答えに対しても答えと質問を用意する・・・まぁ、頑張っても出来る人は少ないと思いますよ?
しかも、今回は多くの材料がそろっていたから出来ただけです」
実際に交渉が上手い人なら両方に利益がある落とし所を見つけられるのだろうが、俺はそれが余り上手くないから陥れるような形になっちゃうんだよなぁ・・・
自重しなくちゃなぁ。
「でも・・・私は・・・」
「あのですね・・・エルさん・・・折角防具の心を手に入れたんですから、防具のエキスパートになったら良いのではないですか?
誰も怪我をしない防具・・・そんな究極の防具の仕組みを開発・設計し、世界に広められれば馬鹿にされることなど無いと思いますよ?」
エルは、こちらを向き目に涙をためていた・・・なんでこんなに交渉の仕方を覚えたいんだろう? 何かやりたい事があるのか?
いや、疑っても仕方ないか・・・素直だって事なんだろう。
「いつでも屋敷には来て下さい。食事もご馳走しますよ。
あと、相談があるなら言って下さいね。
私じゃなくてもみんなが居ますから・・・中に入って昼食を食べませんか?
色々話を聞かせてください」
「はい」
タダシさんやヨシさんなら、俺よりも的確にアドバイスできる気がするし紹介しておこう。
屋敷に入りダイニングへ向かうと、キッチンにはヨシさんだけ居た。
「ただいま」
「お帰りなさい、寝不足大丈夫?」
ヨシさんが心配そうに聞いてくる。
「動いていれば眠くなりませんよ、大丈夫です」
「それなら良いんだけど・・・その子はどうしたの?」
「装備主任のエルさんです。食事を一緒にとろうかと思って」
「あら、そうなの? じゃあ作っちゃうわね・・・何か食べたい物ある?」
「何でも良いですよ。お任せしますので、適当にお願いします。あと、ヨシさん」
「何かしら?」
「エルさんが悩みがあるそうなので、少しの間聞いてもらえませんか?」
「解ったわ、カナタ君はどこかに行くの?」
「昨日徹夜で作った物をユカさんに見て貰おうと思っていますよ。見てもらったらすぐ戻ってきますけど」
「そうなのね、ユカちゃんなら部屋にいると思うわ。じゃあ何かあったら呼ぶわね~」
「お願いします。食事は簡単になっても良いですからね」
ユカさんを呼び、昨日作った数種類のペニシリンを見せてみた。
「何ですこれ? ポーションですか?」
「ペニシリンです。見てみてください、お願いします」
「え? 作ったの? 本当に?」
そう言いながら、一つ手に取ると・・・驚きの表情をする。
「効果大って・・・どうやって作ったんですか? というより、チートすぎですよ!」
ユカさんまでチートって・・・たぶん学習の効果で、覚えた物を引き出しやすくなってるからだと思うんだけど・・・
「よーく思い出したら出来たんですよ・・・全部作り方が違うので、駄目な物は言ってください」
「解りました」
やはり1番最後に作った物が1番いいことが解った。
そのあとダイニングに戻ると、エルさんがヨシさんと楽しそうに喋っていた。
残っているみんなと食事をしてマッタリしていると、グロスさんが駆け込んできた。
「失礼いたします! タダシ殿、ヨシ殿、いらっしゃいますか!?」