第50話 薬
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます
8/2 改稿あり 加筆あり
「これはフランソワーズ様・・・どうなさったんですか? そんなにあわてて」
ファウストさんは、走りこんで来たフランソワーズ様に一礼してから言う。
「ひか・・・ひかり・・・たけ、光茸が届いた」
フランソワーズ様は、息を切らしながら言う。
「な・・・なんですと? 届いたのですか?」
「早速だが、作ってくれるか?」
「もちろんです・・・が、何処にあるのですか?」
「え?」
フランソワーズ様は、驚きの声を上げ扉を見つめる。
「あ・・・すまん、今持って来る」
フランソワーズ様は、急ぎ足で外に出て行ってしまった。
「すみません、ファウストさん。光茸は死病の特効薬の材料ですよね?」
「そうです・・・良かった・・・これで大将軍様が治ります」
「あの・・・その特効薬は、どの様にして作るんですか?」
ユカさんが、小さく手を上げて質問する。
「魔力の多い水につけて一晩置き、このスライムパウダーを混ぜて固形化したら完成です」
「「スライムパウダー?」」
2人の声がハモる。
「スライムパウダーは、スライムから取れる素材を使うので、その名前が付いたと聞いていますが、詳しくは知らないんです。聞いたところによると、いろんな物を混ぜて粉にしたものみたいですね。
液体に混ぜるだけで粒状にする事が出来るのと食用素材なので、薬に使用されることが多いものですね」
「じゃあ、ポーションを固形化したりも出来るんですか?」
俺は素直に聞く・・・粒状に出来たら持ち運びが楽そうだし。
「はい、出来ますが・・・スライムパウダーの値段を足してしまうと高価になってしまうのと、劣化が液状のときより早いのです。
容器の品質低下防止は液体にしか効果がないため、普通は作りませんね」
「なるほど、持ち運びが楽になればって思ったんですけど、仕方がないですね」
そんな事を話していると、扉が急に開く。
「待たせた、連れてきたぞ!」
フランソワーズ様は、汗だくになって駆け込んできた。
その後には、紫色の髪のエルフと思われる人が居た。
「フランソワーズ殿、ここですか?」
エルフは部屋をぐるっと値踏みするように眺める。
「そうだ、渡して貰えるだろうか」
「はい、こちらをお願いいたします」
そう言うと、箱からエリンギに似たキノコを出す。
キノコは光茸の名前の通り、ほんのり光っているように見える。
「これが光茸・・・美しい・・・素晴らしいです」
「フランソワーズ様、手に取ってみてもいいですか?」
「ああ、構わん」
そう言われ手にとって良く見ると・・・ん? これって? まさか!
「ユカさん! ちょっとこれ! これを持ってを見てみてください!」
「え? え? どうしたんですか? カナタさん」
光茸を手に取って良く見て貰うと、ユカは驚愕の表情を見せた。
「ペニシリン・・・まさか・・・なんで・・・?」
「やっぱりですか・・・俺も頭の中に出てきた時まさかって思ったんですが」
「抗生物質・・・ペニシリン」
「何だ? 何かあったのか?」
「知っている物・・・いえ、私どもの国で作っている物だったのです・・・ただ、私どもでは作れません。見つけたときに最大の発見と呼ばれました」
「そうだったのか・・・仕方あるまい、現状で何とかするまでだ! 死病の原因を究明し、光茸を巡る戦争を終わらせるようファウストよ、たのんだぞ」
フランソワーズ様は、ファウストさんを見て言う。
「はい、尽力してまいります!」
ファウストさんは、恭しく頭を下げる。
「あのね、光茸の効果は薄いみたい・・・大丈夫なのかな?」
ユカは光茸を戻し、こっそりとカナタに耳打ちする。
「え? どういうことですか? 効果なんてわかるんですか?」
「たぶんだけど、ギフトが進化したんだと思う・・・でね、ペニシリン:薬効果小って書いてある」
ギフトの進化か。薬の心から薬の心得に進化したのだろう・・・調べたい物が何となく解るということから、調べたい物を見ると目の前に文字が見えるようになるという風に変化するらしい。
まだ心得まで持っていないので、未確認だが・・・
「あの、薬が効かないこととかってあるんですか?」
「あるぞ。理由は解っていないが、その人の寿命だと言う説が多い」
フランソワーズ様は、頷き言う。
「この光茸の効果が小さいと見えるんですが・・・」
ユカさんは、光茸を指差しながら言う。
「そのようなことは出鱈目だ! どれほど大切に育てているか解るか? 人間如きが口を出すな!」
光茸を持って来たエルフが、大声で言う。
「そうですね、すみませんでした」
俺は頭を下げて、ユカさんに小声で話し掛ける。
「後で言えばいいんですよ、今は従っておきましょう」
「解りました・・・」
ユカさんはそういったものの、納得いかない表情をしていた。
その後もエルフはブツブツと文句を言っていた。
「では、私は薬作りに取り掛かります。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
「そうは言っても、私も何もすることが無いのですがね」
そう言いながら光茸を手で裂き、器に入れて水を注ぐ。
「後は明日の朝まで待つだけです。今日は少し早いですが解散しましょうか」
「解りました、ありがとうございました」
ユカさんは、少しイライラしている様に見えたが挨拶をして、ショウマ君を起こし3人一緒に帰っていく。
「何なんですか! エルフってもっと良い人のはずなんじゃないんですか! ほんとにもう!」
ユカさんは、憤慨しながら言う。
「まぁまぁ、落ち着いて。エルフは人間が嫌いって言う説もあるんですから」
「目つきの悪いあの野郎か? 喧嘩を直接売られたら買ってやるんだが、喧嘩を売るのは駄目なんだろ?」
ショウマ君は、腕を組みながら言う。
「ショウマ君、例えばだけど、仲間の誰かが怪我して、それを治すのにエルフの持っている物が必要だとしたら・・・どうする?」
「解ってるよ。こっちから喧嘩は売らないが、喧嘩を売られたら買うからな!」
「うん、やり過ぎないように注意してくれれば良いよ。やり過ぎないようにね!」
「おう! 任せとけ!」
ショウマ君は、ニヤリとする。
「ユカさん、あの光茸なんですけど、やはりペニシリンを含んでいる物なんですよね?」
「そうですね、ペニシリンは水溶性だったと思うので水に出すのはいいと思うんですが、スライムパウダーというのが全く解りませんでした。カナタさんは解りましたか?」
ユカさんは、腕を組んで首をかしげる。
「俺も解りませんでしたよ。良く見ても何も感じないということは、全く知らない物だということではないですか?」
「そうなんですけど、薬を錠剤にするのはかなり難しいと思うんですけど・・・そこはどうなんでしょう?」
「そうですね~、ペニシリンは胃酸に弱いはずなので、そのまま注射するのが一般的だったはずですもんね」
「そういえばカナタさん、何でそんなに詳しいんですか? 薬剤師だったとかですか? もしくは研究者とか?」
「そんな凄い職業に就いた事はないですよ。えっとですね、ペニシリンに詳しくなったのは、ドラマで見て気になって調べただけですよ」
「見てた見てた! 面白かったですよね! でもいつも思うけど、凄い記憶力ですね・・・いろんなことに本当に詳しくって」
「俺は何でも詳しいわけじゃないですし、記憶力がいいと言う訳でも無いんです。興味があることだけは覚えておけるって感じですよ。なので興味がないことは一瞬で忘れます」
「それでも十分凄いですよ。ペニシリンの作り方とかは覚えていますか?」
「詳しくは思い出せませんね、ユカさんはどうですか?」
俺は嘘をついた。うろ覚えだが、大体のことは覚えている。後は作ってみればギフトで最適化される気がする・・・まぁ、やるだけやってみて出来たらラッキー程度だろう。
「私もさっぱり覚えてませんよ・・・こんなことなら詳しく調べておけば良かった」
「全くですよ。ネットを見れれば1発なのに」
「そうですね! 医学書だけでもカバンに入れておけばよかったですよ」
そんな他愛も無い会話をしながら、屋敷に戻っていく。
屋敷に近づくと、リョウタロウが外で待っていた。
「カナタさん、急いで中に入ってください。エルフの皆さんがお待ちです」
リョウタロウさんが、屋敷の中を指差して言う。
「え? 何かありましたっけ?」
「パルメントさんからの手紙が届いたんですよ」
「なるほど、急いでいきましょうか」
中に入り客間に向かおうとすると、止められた。
「皆さんダイニングでお待ちです。食事をしていると思いますよ」
そう言われ、ダイニングへ向かう。
ダイニングでは、エルフが2人、綺麗なしぐさで食事をしていた。
「おう、おかえり。待っているだけでは暇だと思ったんで、食事をして貰っているぞ・・・凄い大食いでな、現在各5皿目だ」
タダシさんは、少し困ったような表情で言う。
「え? 5皿? 何ですか? 何を出したんですか?」
「最初に出したのはポテトサラダと明日葉のお澄まし、次にコーンポタージュ、ジャガイモが気に入ったみたいだからコロッケ、メインにはチキン南蛮、デザートにアップルパイだ。
ちゃんとパンも焼き立てを出してるぞ。
それでな、デザート以外はお代わりしていいと言ったらこの有様だ・・・
あんなに細いのに何処に入ってるんだ?」
「なるほど・・・一切喋らずに一心不乱で食べてますね」
「そして、これがパルメントとやらからの手紙だ。代表に見て欲しいと言っていたぞ、ほれ」
タダシから手紙を受け取る。裏面は蝋で封がしてあり、蝋の模様は木と弓が描かれていた。
中から手紙を取り出し、読んでみた。
最初の1行目にこう書かれていた【私に会いたければ、この問題に答えろ】と・・・