第47話 交渉
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7/28 改稿あり 加筆あり
「ところでエルさん、売買契約ってどうするんですか? 信用貸しとか?」
「そんなことしませんよ! 魔法契約紙ですよ!」
エルさんは、驚きの顔をしてこちらを見ながら言う。
「魔法契約紙? どんな物ですか?」
「え? ご存じ無いんですか? えっと、魔法契約紙とは、破れない約束事を書きとめておくという物ですよ」
「今持ってるのなら見せてもらっていいですか?」
「はい、この紙がそうですよ」
エルさんは、縁取りが鮮やかな羊皮紙のようなものを見せてくれる。
「なるほど、なにも書いていないんですね・・・例えばでいいのですが、どのように書くんですか?」
「そうですね・・・AさんがBさんに金貨1枚貸しました。返済は1年後、金利は〇〇で、不履行があればこの身を奴隷として差し出します。のように記載します」
「はい、それでBさんは奴隷になるんですか?」
「そうです。Bさんが逃げたりすると、破ったとされお尋ね者になり、一生街には入れませんし、入った場合は即奴隷になります。
しかも、血縁者の皆さんはAさんが被った不利益を全額払うしかなくなるのです。
払えなかった場合は、血縁者が全員奴隷になるのです。
ただ、契約紙と魔法のインクが高いので、大口の物でなければ使いません。
今回はかなり大口ですので使用しますが・・・」
「契約紙って予備はあるんですか?」
「もちろん、ありますよ? え・・・まさか・・・あげませんよ!」
「魔鉄の価格で買えたとしたら、評価は鰻上りなのではないですか?」
「まぁそうでしょうね・・・でも」
「しかも、フランソワーズ様から直々に言われたのではないですか?」
「どうしてそれを!」
「という事はです、想像を膨らませましょう。地位と名誉が上がり、颯爽と現れるエル・・・街からの大勢の応援の声・・・どうですか? その想像が目の前にあるんですよ」
エルは目をつぶり、軽く手を振っている。
「はわぁ~、ハッ・・・1枚だけなら」
「フランソワーズ様に、大いに助けられたと伝えておきましょう」
「はい! お願いします!」
2人が帰って来るまでの間暇だったため、コロッケパンを出してあげた。
エルは嗚咽を混じらせ泣きながら食べていた・・・正直汚い・・・
「「ただいま」」
ケイタ君とタクミ君の声が玄関より聞こえてきた。
「2人が戻ったみたいです。早速出かけましょうか・・・いや、顔洗いに行きましょうか」
4人で先にお金を下ろしに協会に行き、鍛冶場に向かっていく。その間にケイタ君に商人ゴラントの情報を教えて貰う。
「商人は4人家族で、妻娘息子がいます。従業員として奴隷を2人持っているみたいです」
ケイタ君は眼鏡をクイッとしながら言う。
「そっか、商店は持ってるの? 取り扱ってる商品は? 所持金は?」
「商店は持っていますね。結構無理して買ったんではないかと思われます。取り扱っている商品は、鉱石やインゴット、宝石の原石です。所持金は不明です」
「そっか~、他噂みたいな物は?」
「奴隷には厳しく、家族とお金持ちの客には優しいみたいです。奴隷は何かで叩かれてる所を何度か見られているみたいです」
「ありがとう、助かったよ」
いよいよ決戦か! 上手く引っかかってくれれば良いんだけど。
「すみません、ゴラントさんは居ますか?」
「上だ」
鍛冶師は、ものすごく嫌そうな顔で言う・・・やっぱり相当嫌われたなぁ。
「ありがとうございます」
事務所にノックをすると「どうぞ」と聞こえたので中に入る。
「ようこそ、あの板を売りに来て頂けたのですか?」
ゴラントさんは、いやらしい笑みを浮かべて長椅子に座りながら言う。
「それとは別件です。お時間よろしいですか?」
「こちらは忙しい身、時間はあまり取れないかと・・・」
「それは残念・・・この国の騎士の装備を一新すると言われて、この工房が良いと紹介させていただこうかと思ったのですが・・・失礼します」
「おま・・お待ちください! 用事など従業員で十分です。お話を聞かせていただきたいのですが」
やはり食いついたか・・・
「そうですか? では、お邪魔させていただきますね」
「はい、どうぞ向かいのほうへお座り下さい」
後の冒険者が変わっている・・・契約期間が終わったのか?
ゴラントは冒険者の方を向き、
「お客様と儂にお飲み物をお持ちしろ!」
女性の冒険者の方が、うんざりした様にお茶を入れだした。
「大変失礼いたしました。装備はどの様なものですか?」
「この籠手は、こちらの工房の物ですよね?」
装備の打刻の部分を見せる。
「この打刻は、間違いなくうちの物です」
「隣に居りますエル様は装備主任でして、その籠手を甚く気に入られて工房を紹介することになったわけですよ」
「それはありがたい! それで・・・装備の数と種類は?」
「この籠手と同じ作りの物を、胸当て、ショルダーガード、腿当て、脛当て、もちろん籠手も、5種類全部を今のところ100ずつ。良ければもっと増える可能性もあります」
「ひゃ・・・ひゃく・・・もっとふえ・・・アッ! 失礼しました、期間はどの位で?」
これだけでも予想だと金貨8枚の利益になるだろう。食いつかないわけが無い。
「1年以内にです」
「ほうほう堅実ですな。もちろん喜んでお受けしたいですが、魔力を補充できる者が・・・」
「解りました。ショウマ君とタクミ君を補充要因としてお貸ししましょう」
「よろしいのですか? 非常に助かります」
ここまで来たら、利益で目の前がお花畑になってるはずだな。
「その代わり、今まで通り鍛冶を学ばせてあげてください」
「それはもちろん、好きなだけ技を盗んでください」
「ありがとうございます。それでですが、私への紹介の手数料を頂きたいのですが、宜しいですか?」
「このような大口の依頼ですので出来ることはいたしますが、何を望まれますか?」
「依頼の成否にかかわらず、鍛冶師達の借金を消していただきたいのですが、いかがですか?」
「それは・・・」
「待ってください。その金額として、この装備の取引で出た利益を全てお渡しします。ただし、防具の値段は今現在の売値に固定してください。どうでしょうか?」
「それでは、こちらが利益を貰いすぎですが・・・」
やはり疑うか・・・当たり前だよな。
「なにを仰られているのですか、こちらは利益を十分にもらえます」
「それは? どういうことですか?」
「ゴラントさん、商人にとって大切な物って何ですか?」
「お金ではないですか?」
「それもありますが、私は繋がりと信用だと思っています」
「なるほど、この話がまとまれば信用が得られると?」
「そうです。しかも大将軍の娘であるフランソワーズ様との繋がりと信用です。この後いくらになるか見当も付きません」
「ほほぅ! なるほど! それは羨ましいですな、その時は一口かませていただきたいものです」
「タイミングがあえば・・・ですね」
俺はここであくどくニヤリとする。
「はっはっは、これは手厳しい」
「それで、どうでしょうか? お受けいただけますか?」
「ええ、それはもちろん。是非今後とも良いお付き合いを」
そう言いながら右手を差し出してくる。
「そうですね、お互いに」
俺も右手を出し、にこやかに握手し返す。
「早速ですが、魔法契約紙にサインを頂いても良いですか?」
「はい、喜んでさせていただきます」
エルから渡して貰った魔法契約紙を、じっくり読む。うん、間違いない。ちゃんと同じ材料の防具を注文するとしてあるし、装備の値段は今現在の値段となっている。
読み終えてから、サインをして血判を押す。
ゴラントもサインをしてから血判を押す。
ああ、この顔はもう安心しきって疑っていない顔だな・・・借用書は一度貰おうと思ってたが、めんどうだし破棄して貰うか。
「鍛冶師達の借用書の破棄をお願いしてもよろしいですか?」
「それはもちろん! 直ぐに破棄いたします」
契約紙に血をたらし、魔力を込めて破棄と言うと、魔力を失いただの紙に成り下がる。
「非常にいい取引でした」
ゴラントさんは、やりきったような笑顔を見せて言う。
こいつは駄目だなぁ・・・商人としては三流位かもしれないな。
堅実にやっていれば二流位にはなれたかも知れんが・・・
まったく・・・借用書がなきゃ・・・・どうやって鍛冶師達を縛るんだ? もっと良く考えろよ・・・
「ありがとうございます。それで、もう一つの取引をしませんと」
俺は笑顔を崩さないように注意しながら言う。
「板の取引ですか? もちろんでございます」
後ろに立っていた、ケイタ君とタクミ君を呼び、ネムガさんを呼んで欲しいと言う。
「ネムガを呼んでどうされたんですか?」
「借用書を見せるのですよ。やる気を出していただかなければいけない訳ですし」
「そこまでお考えでしたか! 私もまだまだですな、がっはっはっは」
笑ってる・・・これだけのヒントを渡しても気が付かないのか・・・
「来たようですね」
3人が入り口から入ってくる。
「ネムガさん見て下さい、これが皆さんを苦しめていた借金の魔法契約紙です。効力は無くなってますので後で皆さんと一緒に破ってください」
「な・・なん・・と」
「先に、聞きたい事があって呼んだのですが、この籠手はあなたの作品ですよね?」
「え?・・あ・・・あぁ、そうだ。見本になれば良いと思って作ってやった。それが?」
それを言われて、心の底からにやりと笑う。