第45話 鍛冶師の借金
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7/23 改稿あり 加筆あり
鍛冶場を出た後、ファウストさんのところに向かった。
「カナタさ~ん、お疲れ様です」
ユカさんが、ファウストさんの研究所? の前で手を振っている。
「すみません、待っててくれたんですか? 1人で出かけたら危ないですよ」
「はい、すみません・・・ショウマ君が送ってくれたんです、が・・・1人で入る勇気が出なかったのです・・・」
「そうだったんですか。でも、最後の言葉は、一緒に入りたかったので待っていました・・・と言うべきなのではないですか?」
「一緒に入りたかったので待っていたんです(棒読み)」
「わぁ、本当ですか? 嬉しいです(棒読み)。では行きましょうか」
「突っ込みは無いんですか! 恥ずかしいですよ!」
「すみません、あまりに可愛かったものですから」
「むぅぅ、もういいですよ!」
「はっはっは、すみません」
中に入り、ユカさんの持っていたお弁当をテーブルに置く。
「来られましたね! お二人とも! お弁当も! 早速昨日の復習から! その後、毒薬の製造を」
「はい、お願いします」
「そうでした、昨日のお弁当は最高でした! 冷めているのにパンはフワフワでオーク肉もえもいわれぬ味付けで、サクサクで・・・何ですか? 今まで食べていた物が悲しくなるような感じと申しますか・・・とにかく! すばらすぃぃ! の一言です」
「それは良かった。今日は違う味付けの物が入っていると思いますよ」
「今日はハンバーガーですよ。フライドポテトにケチャップも入っていますよ」
「昨日と違う味なのですか! 作ってくださっている料理人は・・・もしや神なのでは?」
「どうでしょうか・・・もしかしたらそうなのかもしれませんね・・・まぁ美味しい料理なら何でもいいと思いますよ」
「その通りですね! ありがとうございます、子供の分まで頂いてしまって」
「あの・・・そろそろ始めませんか?」
「申し訳ありません、始めましょう!」
今日も問題がなく終わるはずだった・・・急にフランソワーズ様が駆け込んでこなければ・・・
「ファウスト、急にすまん。カナタ、ユカ皆が呼んでいる。戻れるか?」
フランソワーズ様は、息を切らしながら言う。
「これはこれは、フランソワーズ様。お二人を呼びに来られたのですか?」
ファウストさんは、恭しく礼をしながら言う。
「ああ、至急戻ってきて欲しいと頼まれてな」
フランソワーズ様は頷きながら言う。
「畏まりました、明日はずっと居ますのでいつでも来てください」
「「はい、ありがとうございます」」
俺とユカさんの声が重なった。
「とにかく戻るぞ! ついて来い」
いきなりの呼び出しで、急に屋敷に戻ることになった・・・一体なんだ?
「おう、帰ってきたか・・・飯はまだか・・・先に食っちまって悪いな」
タダシさんは、何てことない顔でいう。
誰かが怪我したとかではないのか・・・よかった~。では何だろう? 解んないなぁ・・・
「大丈夫ですよ、先に食べるのは仕方ないですし」
「今から温かいのでも作るか?」
「いえ、これをいただきます」
俺は、ハンバーガーが入っている籠を指差しながらいう。
「私もこれを食べますので大丈夫です」
ユカさんも、同じく言う。
「解った。じゃあ、せめて温かいスープを出すから座ってて待っててくれ」
タダシさんは、奥のキッチンに向かいながら言う。
「はい。それじゃあ、いっただっきま~す」
こんだけゆっくりしてるって事はそんなに大した事じゃないんだろう。先に腹ごしらえをするか。
「私も頂こう」
フランソワーズ様は、しょうが焼きと大盛りパンを置いて食べ始めた。
いつの間に持ってきたの? てか大盛り・・・皆食べ終わってるっぽいし、お代わりになるのか?・・・
「すみませんカナタさん。急いで話したいことがあったので、フランソワーズ様に頼んで呼んでいただきました」
ケイタ君が、黙っていた口を開く。
「今朝のこと? 何か問題が有ったの?」
「まず、申し訳ありません。たぶん、気が付いているかもしれませんが、鍛冶場は少し・・・いや、かなり不味いことになっていまして・・・」
「それで、俺をあの商人に会わせたと?」
「はい、その通りです」
「考えている事は予測でしかないから、詳しく聞かせてくれる?」
「はい。あの商人は、武器の素材でもある鉄鉱石や屑鉄なんかを取り扱っている商人です。
そして今、この街に居る鍛冶師達は、迷宮都市で鍛冶をしていた者たちです。
ウェーブ前に武器や防具の買い替えが多く出て、鍛冶場は賑わっていたそうなんです。
その時に鍛冶師達は、商人と出会いました。最初の頃は鉄鉱石を相場よりも安く卸してくれ大変助かったらしいです。
いつも親切にしてくれたあの商人を信用してしまい、鉄鋼石の売買契約書を読まずに5回位サインしてしまったみたいなんです。
その為借金まみれになり、言いなりになっているみたいです。
借金を返すために働いてましたが、借金中はあの商人経由以外で武器や防具を売ることが出来ない契約を交わしたそうなので、ピンはねをされ借金は増えてく一方らしいです。
ここには鍛冶師募集がかけられ、その報奨金目当てで来たそうです。他に鍛冶師が居ないために武器の価格を操作しやすく金になるからと、酒を飲んだ時にこぼしたと聞いています。
カナタさんは、どう思いますか?」
「それで、借金はいくらあるの?」
「今のところ約金貨3枚ですね」
「鍛冶師達を救って欲しい・・・ということでいいのかな?」
「お金出してくれるんですか?」
タクミ君がガバッと立ち上がり、喜色満面でいう。
「えっと、そんな単純なら俺を鍛冶場まで連れて行かないでしょ?」
「お金があれば、借金を消せて問題解決でしょう?」
「自分達でお金を作ったらね。俺が貸したら貸している人が変わるだけでしょ。それじゃあ解決にならない」
「あの商人より、僕らの方が良いに決まっています! 何でですか?」
「まず、鍛冶師たちのやる気はどんな感じ? 見た感じだとやる気が見られないけど」
「それは、あの商人から借金しているからであって!」
「う~んと、お金を貸してあげたとするよね? それで2人が借金の主になるわけ。そんな相手に鍛冶を教えてくれると思う?
教えてくれたとしても、間違ってることは訂正して貰えなくなるよ。逆らえないんだから」
「タクミ君、もう良いですか? それで、カナタさんは商人をどう見ます?」
ケイタ君が、タクミ君を手で制して言う。
タクミ君は、椅子に座ってこちらを見ている。
「優しい・・・かな?」
「な! な! 何でですか! 鍛冶師達は家族が奴隷にならないよう必死に!」
タクミ君は、テーブルをバン! とたたき言う。
「ごめんごめん、言い方が悪かったね・・・え~っと、詰めが甘いが正しいね」
「え? どういうことですか?」
「それはね、数回の取引で金貨3枚しか借金させていない。これはバレた時に鉄鉱石の価格が変わって・・・とか、いい訳をするために取った行動だと思う。つまり保身を考えたんじゃないかな?」
「はい、それは解りますけど・・・問題があるんですか?」
「たぶん、長期的に価格を上乗せする事を最初に思いついたんだろうね・・・これがミス1、長期でやるならもっと価格を抑えて最大でも1割位にして、バレても確実に言い訳ができ、かつ信用を傷つけないようにしないと」
「ミス1なら、もっとミスがあると?」
「そう、ミス2は奴隷にするなら完全に奴隷にするってことだよ。しかも、最後の契約の時にもっと吹っかけて多額の借金にした方が良いでしょ?
俺ならそうするしね。奴隷は売ってしまえば縁が完全に切れるから後腐れがないし、専属奴隷にしてこき使っても良いしね」
「結局、奴隷みたいになってるから変わらないんじゃ?」
「えっと、今なら借金返せば何も無く終わるでしょ? 奴隷はそうじゃない。雇い主が奴隷の家族まで全部の利益を搾取できる。つまり一生奴隷になることもあるってこと」
「ならやっぱり借金を返して・・・」
「タクミ君、それは優しさじゃないよ。無償で手を差し伸べられたら俺なら掴めない・・・恐怖が勝ってしまうよ・・・この手をとったらどんな事をされてしまうんだろうってさ」
「じゃあ、どうすりゃ良いんですか! 見てるだけしか出来ないんですか!」
「落ち着いて。助けることは出来るよ、たぶんね」
「え? でも、お金は貸さないって・・・」
「お金を貸さずに借金を返せばいいんでしょ? まぁアイディアはあるよ」
「どうすればいいんですか? 何をすれば・・・」
「その前にケイタ君、タクミ君、契約はしていないよね?」
「はい、契約はしていません。あそこまで言われれば気が付くかと・・・」
ケイタ君が眼鏡をクイッとしてから言う。
「どういうこと? 変な会話あった?」
タクミ君は、首を捻り頭にハテナマークがいっぱいだ。
「契約書に、名前を書きますよね? タクミ君はこの世界の文字を書けますか?」
「いえ、書けません」
「契約書は、2人でと言われましたよね? 覚えてますか?」
「はい、それが何か?」
「名前が書けないのに契約書を交わせますか?」
「あ・・・出来ません」
「つまり、契約はするなってことでしょう。後ろの人たちの強さが解らないから、そのような言い方になったんじゃないかと・・・カナタさん?」
「正確に汲み取ってくれてありがとう、ケイタ君」
ちょっと怖いくらいに正確に判断したんだなぁ・・・
「それで、鍛冶師の人たちを助けるにはどうすればいいんですか?」
ケイタ君が、眼鏡をクイッと上げて言う。
「そうだね、簡単に言うとさっき行ったのと同じ方法、鍛冶師の人に仕事をして貰って借金を返すってことだよ」
「装備を売ることは商人を通してしかできないんですよ? どうするんですか?」
タクミ君が、首をかしげ言う。
「待って待って。まずは、フランソワーズ様、お聞きしたいことがあります。いいですか?」