第44話 カーボンナノチューブ
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これからも少しでも面白いと思っていただけるように努力します
7/20 改稿あり 加筆あり
食事も終わり、ユカさんと別れ洋服が置いてある部屋に入ってみる。
そこには、タクミ君とケイタ君がいた・・・何? サプライズ的な何か?
「カナタさん! 見てください! 出来ましたよ!」
ケイタ君が興奮しながら言うと、黒い糸のような物を見せてくれた。
「え? 何それ? 何が出来たの?」
「良く見てください! カナタさんが前に言っていた、多層カーボンナノチューブです! 魔力による物なので、バラバラになったりアスベストのようなことにはなりません。いい出来だと思うのですが、いかがですか?」
ケイタ君が言いながら、眼鏡をクイッとしニヤリと笑う。
「これは、撚って糸のようにしたの? バラバラにならないの? まじで? めちゃくちゃ凄いね! でもさ、アスベストのようにって良く知ってたね」
「宇宙工学が好きですので、軌道エレベーターの事も解っていました。ですが、この手で作れることができるとは・・・この技術を日本へ持って帰りたいですね」
ケイタ君が言いながら、糸状になったカーボンナノチューブを握り締める。
「どうやって作ったの? 俺は、グラフェンから止まっちゃってるんだけど」
「魔力炉のおかげですよ、地下室に魔力炉に近いものを設置しました。と言っても粘土で出来た壷ですが・・・」
「え? 陶器の壷なの? どういうこと?」
「見た目は陶器の壷ですよ、土は魔力を吸うと固まり、鉄は魔力を吸うと柔らかくなります。その原理を応用した物が魔力炉です。それを真似て2人で作りました」
「なるほどね~、魔力が火の様な物って考えると納得は出来るね」
「そうですね、陶器は火に入れると固まり、鉄は火に入れると柔らかくなるって事ですね」
「それで、どうやったの?」
「魔力が多いと形状を簡単にいじることが出来るんです・・・
メタルクリエイションと言う、鍛冶で使う魔法をミズキさんに作って貰ったことにより、正確にイメージで作れるようになったので。
そのメタルクリエイションを改良してもらい、グラフェン化、ナノチューブ化、という魔法を作ってもらった・・・
あ! すみません、簡単に説明しますと、1人は魔力を注ぎ加工しやすくし、もう1人は形を形成するナノチューブ化と言う魔法を使うだけです。後はイメージですので問題は無いです」
「なるほどね、付加魔法は付けられるの?」
「付けられます。2個つけることが可能なんですが、1つは形状記憶再生で使ってしまっていますので、実質1つですね」
「形状記憶再生? なんか凄そうだけど、何それ?」
「形状記憶再生は、その形状に強制的に再生させる付加魔法です。そのおかげでバラけることも無く、破れても再生します」
「そ・・・そうなんだ・・・色々と規格外の装備になり始めてるね・・・魔糸については聞いてたりする?」
「聞いてますよ、魔糸は1つだそうですよ」
「そっか~・・・魔糸でピタッとしたハイネックのロンTと、タイツの薄いの作って衝撃緩和とか衝撃吸収を付けて、その上にカーボンナノチューブのハイネックの、ロンTとタイツを作り伸縮自在を付けて、出来ればその上に魔糸で普通の洋服作ってもらって、温度自動調節を付けて貰う事って出来ないかな?」
「なるほど! それはいいアイディアですね、グラフェンを使った籠手と、手袋のセットにも組み込めると最高ですね! 靴はどうしますか?」
「靴下に組み込んでおけば、何とでもなるんじゃない? でも、お金大丈夫?」
「問題になりませんよ、使っている額より入る額のほうが多すぎます。魔力と言うのは便利なものですね」
「そうだね、だから科学の発展が遅れちゃったんだろうね」
「そうですね、バランスをとるのは難しいですよね・・・あと、明日一度鍛冶場に来られませんか?」
「ん? 大丈夫だよ、午前中でいい? ってか何で呼ばれてるの?」
「たぶんなんですが、グラフェンシートを販売して欲しいと言うことだと思います」
「え? どういうこと?」
「本当にすみません、ぼ・・・僕が、試作品を魔鉄の剣で切ろうとしていたところを見られてしま・・・」
「僕が周りの警戒を解いてしまっていたんです。すみません」
タクミ君が喋っていたが、ケイタ君が途中からタクミ君の言葉をかきけすように入ってくる。
あれ? 親方がグラフェンの籠手の見本を作ってたよな? 何で今頃?
それから、ケイタ君が喋りを邪魔したのは何でだ?
考えても答えは出ないか・・・まぁいい、とりあえず話に乗ろう。
「いいよいいよ、ばれちゃったのはしょうがないでしょ。俺らが帰ったら誰も作れないから、出来るだけ秘密にしておこう。じゃないと争いの種になるかもだし」
「そうですね、装備を巡って殺し合いになったりするのは避けたいですね」
ケイタ君は眼鏡をクイッとしながら言う・・・特に何らかの変化はないように見える。
そんなこんなで夜は更け、ボタンを数個作って眠りについた。
朝早くに目が覚めて、二度寝するかを模索したが結局起きることに・・・
少しボタンを作り、厨房へ挨拶に行く。
朝錬の時間までかなりあるが、そのまま外へ。
農民の方の住居の進行具合を見ると、2軒は完全に終わり、他も枠組みがされているので、もう直ぐ終わるようだ。
おとといの深夜にいじった畑に行くと、なんと畝が出来、たぶん芋も植えられている・・・はやいな。
畑の数だけは多くあるから一気にやっちゃいたいが、魔法を見られると後が面倒なんだよねぇ・・・どうにかならないかな?
おっと、朝錬の時間過ぎてるかもしれない・・・急いで戻ろう。
少し遅れてしまったが朝錬をして、朝食を取り、Lvを上げる(Lv16.Lv15)。
「お金の清算をしに、ギルドへ向かいましょう」
「はい、解りました。私は解体場に行き、回収してきます」
リョウタロウさんが、解体場の方を指差しながら言う。
「儂も、リョウタロウと一緒に行こう」
タダシさんが、一緒に行ってしまった。
それだけではなく、それぞれ、用事のあるところへ向かっていく。
皆に、信用されてるって事なのか・・・面倒なのか・・・いや、面倒なんだろうな。
「いらっしゃいませ、清算ですね?」
セレネさんが、こちらの顔を見て言う。
「はい、お願いします」
「今回は、売る部位が大変少なかったため、マイナス33067となります。現金の支払いで大丈夫でしょうか? それともオークの肉を1体分を売却していただければ、ギリギリですがプラスに転じます」
「ギリギリ? オークの肉の買取、下がったんですか?」
「そうなんです。かなり大量に売っていただきましたので、安くなってしまったのです・・・ですが、一時的なものだと思われますが」
「そうなんですか~。じゃあ、現金でお願いします・・・いえ、カードから直接払うことは出来ませんか?」
「出来ますよ、手数料はかかりますが」
「では、それでお願いします」
「畏まりました」
カードを渡し、何で鍛冶場に呼ばれているか考えてみる。
魔力の補充の金額などは2人で決めていたのに、いきなりなんで? 大金になるからか? 契約書にサインをするのに呼ばれたのかな?・・・解らん。
支払いを終え、外に出る。
「ケイタ君、タクミ君、待っててくれたんだね」
「はい、そんなに時間がかからないと思ったので」
タクミ君が笑顔で言う。
「じゃあ、行きましょうか~」
鍛冶場に着き、奥の事務所に通される。そこにはソファーのような長椅子に座っている、ゴリラっぽく見えるがたぶん人族のおじさんと、椅子の隣に立っている牛の獣人、後ろに護衛だろうか、冒険者っぽい2人が待機している。
「ようこそおいでくださいました、私はこの鍛冶場と専属取引している商人のゴラントと申します」
ゴリラのように見える人が、椅子に座りながら頭を下げてくる。
「俺は、この鍛冶場を纏めるネムガだ」
牛の獣人の人が、礼をしながら言う。
「カナタです、2人がお世話になっています」
「いや、こっちが助かっている」
ネムガさんがニヤリと笑いながら言う。
「そうですとも。お二人は魔力を補充できて、鍛冶の腕前ももう直ぐ一人前・・・こんな有望な新人はいないですよ。鍛冶場に正式に入ってもらえませんか? がっはっはっは」
ゴラントさんは、椅子にふんぞり返りながら言う。
「ありがとうございます。ですが、私には決めることができません。ただ、私たちは勇者を目指していますので」
何だ? ネムガさんが、ゴラントの事を凄い睨んでる・・・仲が悪いのか?
「そうですよね、2人からもそう聞いています。実に惜しいですな」
「それで、私を呼んだ理由は何でしょうか?」
「この板のことなんですが・・・」
テーブルの脇においてあった木の箱を開け、黒いシートを取り出す。
「これの製造法を売っていただけませんか?」
「製造法をですか?」
「そうです。金貨5枚でどうですか?」
「売ることができないです」
「な・・・大金貨1枚では?」
「お金の問題ではありません。製造法を教えられる方は、このシートの構造がわかる方に限られています」
「構造ですか?」
「そうです。構造を把握し、その構造を再現すると言うのが製造法なのです」
「そんな・・・どうやって・・・」
「製造法はお教えしましたが、作成は出来ないと思います」
「しかし、この2人は作れるのでしょう? 構造を教えて下さい、お願いします」
「構造ですか・・・いいですが、髪の毛を縦に5万個に切断した1個が認識できますか?」
「な! そんなに・・・どうやって・・・顕微の魔眼か?・・・いや! そんなに細かいのですか?」
「そうですよ、なので構造をお教えしても作れません」
「ならば、定期的に売っていただく事はできますか?」
「売ることはできても、定期的には難しいですね、勇者を目指しているので1つの場所に留まり続けることはできませんし」
「ならば! ならば! 売っていただける分だけでいいので、お願いします」
「2人に聞いてみてください。2人がいいといえば大丈夫です。2人とも後は任せて良いかい?」
2人は頷き、小声でケイタが聞いてくる。
「はい、契約書はどうするのですか?」
「ケイタ君、タクミ君、2人に任せたよ! ちゃんと2人でね!」
「ああ・・・なるほど・・・解りました」
俺が言いたい事を察してくれたらしい。
そっと、ケイタ君が俺に耳打ちしてくる。
「助かりました。しかし、構造の時の髪の毛の5万分の1ですが、カーボンナノチューブの太さですよ、原子の大きさではありません」
最後にそこ!? って思いながら鍛冶場を後にする。