第37話 食事会(パーティ)
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男から手渡された物を見ると、見た目は知っている物と同じだが、大きさだけは倍ほどもあった。
「これって、ジャガイモモドキね・・・原種じゃないみたいね、芽を取るだけでいけそうよ」
ヨシさんは、ジャガイモを見るとそう言う。
やっぱりジャガイモなのか。
「そうですね、でもなんで家畜の餌? 食べればいいのに」
「多く食べると腹を壊す、毒がある食べ物なんです」
男は、こちらをチラチラ見るとポツリとそう言う。
「あらあら、そうなのね~。フランちゃんに報告しなくちゃね」
ヨシさんは、頬に右手を当てて言う。
「そうですね、これは安く買えるのですか?」
俺は、男の人を見て聞く。
「はい、家畜の餌の販売店で買えます」
男は、答えてくれる。
「ありがとうございます。今夜はパーティーしますので来て下さいね」
「私達が行ってもいいんですか? みすぼらしい服しか無いのですけど・・・」
男は、自分の洋服を見て言う。
「気にしないで下さい。でも、一緒に食べるのは気が引けますか?」
「あ、あの・・・平民の方と一緒だと怖いです・・・すみません、わがままですね、すみません」
男は、顔を伏せながら言う。
「なるほど~、じゃあ、仕切りを付けておきますよ。皆さんはこっち、冒険者などはそっちみたいに」
「いえ・・・そこまでやって貰うわけには・・・すみません」
男は、顔を伏せたままつぶやく様に言う。
「逆に、そこまでやりますので来て下さいね。皆さんにも言っておいてください。家族全員で来ることって」
「はい、仲間にも言っておきます。ありがとうございます、ありがとうございばず・・・うぅ・・・」
男は、泣いてしまった・・・
街から逃げても魔物がいるし、他国へ渡れたとしても奴隷になるだけだろうし、結局解決出来ないよなぁ・・・助けられればいいのだが、今の俺に全員助けるのは不可能だし・・・何とかできない物か・・・
ヨシさんと一緒に、男から教えて貰った家畜の餌の店に行くと、ジャガイモが大量においてあった。
しかし、ジャガイモの種類は1種類しか置いていないようだ。
「すみません、このジャガイモは一袋いくらですか?」
「え? 家畜の餌ならコーンの乾燥した方がオススメですよ」
店員は、驚くような顔をしてそう言う。
家畜の餌にもジャガイモは使われたりするが、あまりお勧めはしていないのだろう・・・なるほど、毒があると言うことが浸透しているのか・・・
毒が無くなったとしても、食べてもらえるか微妙かもしれないな・・・やるだけやってみるのがいいかな。
「なるほど、コーンの方も1袋いくらか聞かせてもらえますか?」
「ジャガイモは1袋2レティア、コーンは1袋4レティアですよ」
ジャガイモの袋はコーンの袋の3倍ほどの大きさなのだが、かなり安い。
「うん、ここにあるのも食用として問題ないわよ。色々作れそうね」
ヨシさんが、こちらを見て言う。
「じゃあ、買うのは確定ですね。種芋用にも買っておきますか?」
「ええ、今日の食事会にも出せたらいいわね」
「そうですね・・・ただ買うとしても大量ですね、後でリョウタロウさんに頼みましょうか」
「そうね、それがいいと思うわ」
「すみません、コーンも見てみたいんですけどいいですか?」
「はい、こちらですどうぞ」
店員はこちらに来て案内してくれる。
「だいぶ安いですけど、どうしてですか?」
俺は、コーンを指差して言う。
「ここにあるコーンは、皮が硬い種類の売れ残りなんです。粉にしても皮が残りますし、茹でても時間が掛かるので人気が無く安いんですよ」
店員は、袋の中からコーンを取り出しこちらに見せながら言う。
「うん、これならポップコーン作れるわ。こっちも量が多いから、リョウタロウ君と一緒に来た時に買った方がいいと思うわ」
ヨシさんは、コーンを手にとって見るとそう言う。
「そうですね、それじゃあ後での方がいいですかね?」
「そうね、一度戻りましょう」
「解りました。後で買いに来ます」
俺は店員に笑顔でそう言って外に出る。
「はい、お待ちしております」
店員は、軽くお辞儀をしていた。
時期的に植えるのはギリギリか少し遅そうだが、冬の収穫には間に合いそうだといっていた・・・ちゃんとカレンダーがあるわけじゃないから、大体の感覚でしかないらしいけどね。
(この世界の暦は、光1~6で春夏・闇1~6秋冬の12ヶ月、火水土風無と曜日が分かれている。一月は30日)
ジャガイモのことをタダシさんに話すと、ジャガイモの料理の話になり、今夜のパーティーで何の料理を出すか話す。
「え? ポテトチップも作れるんですか?」
「ああ、できるぞ」
タダシさんが、頷きながら言う。
「前に作ろうとしたらベチャってなっちゃったんですけど」
「なるほどな、薄切りにした芋をお湯で洗っていないだろう?」
タダシさんは顎を触りながら言う。
「え? 洗うんですか?」
「揚げる時に、芋のでんぷんが表面についてるからベチャっとなるんだ。お湯で洗えばデンプンが剥がれてカリッとなるぞ」
「へぇ~知りませんでした」
「いい機会だ。料理教えてやるから、一緒に手伝え」
「はい、お願いします」
買い物にはリョウタロウさんヨシさんに行って貰って、俺はタダシさんの手伝いに入った。
外のパーティションもちゃんとやっておいたし、集中して料理の手伝いをしよう。
そうこうしているうちに夕方になり、気が早い人はポツポツと集まり始めた。
「もう数人来て、お酒飲み始めちゃいましたが大丈夫ですか?」
リョウタロウさんが、キッチンに顔を出してそう言う。
「気が早いですね~、まだ全部終わってないのに・・・」
「おいカナタ、手が止まっているぞ。揚げ終わったのは皿に乗せてくれ」
タダシさんは、ジャガイモを素早くフライドポテト状にしながら言う。
「は、はい、すみません」
俺は、此方をあまり見ないで注意されたことに驚きながら返事する。
「グロス、一皿位出してやってくれ」
タダシさんは、グロスさんに言う。
「畏まりました。先に一皿だけ出して、待って貰うように言っておきます」
グロスさんはタダシさんに礼をし、外に出る。
「あぁ、頼んだ」
タダシさんは、外に行くグロスさんに返事する。
先に来てくれたグループに一皿出すと、あっという間に無くなっていた。
「来たぞ! 料理の進展はどうだ?」
フランソワーズ様が、キッチンに入ってくるなりそう言う。
「ほとんど終わったぞ。それでな・・・これなんだがな」
タダシさんは、フライドポテト、ポップコーン、ポテトチップを乗せた皿を出した。
「初めて見る食べ物じゃないか! 食べてもいいのか?」
フランソワーズ様は、ポテトチップを手に取りまじまじと見ている。
「お待ちください、それはジャガイモなのです」
グロスさんは、慌ててフランソワーズ様を止める。
「なんと! 毒のある食べ物ではないか!」
フランソワーズ様は、驚きの表情でタダシさんを見る。
「毒はな、この芽の部分に入っているんだ。とってしまえば毒は関係なくなり・・・ほれ、食ってみてるが体はなんとも無いぞ」
タダシさんは、フライドポテトを食べながら言う。
「そうですよ、食べてますけど毒なんて無いですよ」
「本当なのか? グロス見ていたか?」
フランソワーズ様は、ますます驚いた表情でグロスさんに言う。
「はい、食べているところを見ていましたが、本当なのです」
グロスさんは、しぶしぶ頷きながら言う。
「食べ物について嘘はいわねぇよ。料理長とやらを連れてきて確認させてみればいいんじゃないか?」
タダシさんが、にやりと笑いながら言う。
「あぁ、そうだな急いで連れてくる」
フランソワーズ様は、部屋を駆け出て行こうとする。
「先に始めてるぞ!」
タダシさんは、フランソワーズ様の背中に声を掛ける。
「了解だ。身体強化して駆けて来るので、時間は取らせん」
フランソワーズ様は、顔だけひょっこり出して言うと、ビックリするほどの勢いで走り去っていった。
外に行ってどのくらい人がいるのかを見て、つぶやく。
「予想以上に集まりましたね」
「あぁ、そうだな。材料はまだまだあるんだ、足りなくなりゃ作ればいいだろ」
タダシさんは、にやりと笑いながら言う。
「そうですね、じゃあ、はじめちゃいます・・・か・・・って、お帰りなさい、フランソワーズ様」
始めようとした時に駆けて来る音で気が付き、流れで挨拶してしまった。
「うむ、戻ったぞ。始まっていなくて何よりだ」
フランソワーズ様は、あれだけ走ったのに息を切らさずに俺の近くまで来る。
「では、フランソワーズ様、その台の上で一言お願いします」
「む・・・何といえばいいのだ? 何も考えていないぞ・・・カナタ任せる」
「解りました・・・って、料理長は?」
「遅いから置いてきた。そのうち来るだろ」
「では、始めちゃいますね」
パーティションの真ん中、両方から見える位置に台があり、そこを上る。
「皆様、集まっていただきまして、ありがとうございます。大将軍様より日ごろの労をねぎらって食材を頂きました。
その名代として、フランソワーズ様も御出でになってくださいました。
調理したのは私どもの仲間ですが、ビックリするほど美味しいと思いますので、心行くまで楽しんでください。カンパーイ」
皆、から揚げを初めて見ると、食べられるのかどうか確認しているみたいだったが、一口食べると「うめぇ~」「さいこ~」「これなんて料理? 美味すぎる」と言いながら、凄い勢いで食べていく。
集まってくれた様々な席に挨拶をすると、涙を流しながら食べている人もちらほら発見する。
「ミミリさん、ヒリスさん、マヨネーズと言う調味料を置いていきますね、から揚げに付けてみてください。美味しいですよ」
「うもう、もももう!」
ミミリさんは、異常なほどから揚げをほおばりながら言う。
「えっと、パンを半分にして、野菜とマヨネーズとから揚げを挟むのもオススメです」
「こむ? うむむううお?」
ヒリスさんが、パンを指差して何かを喋っている。
「全く解りませんよ、ゆっくり食べてください」
「「もむ」」
2人とも必死に食べている。
他の皆も、呼んだ人へ挨拶をしている。しかし・・・来てくれた人全員、楽しそうだ。
農民の人たちも驚くほどガツガツ食べていた。仕切り作ったのは正解だったようだ。
周りを見渡しながら満足そうに笑っていると声を掛けられる。
「カナタ、お客さんが来たぞ、来てくれ」
タダシさんが、フランソワーズ様の席を指差しながら言う。
「はい、解りました」
料理長が息を切らして、フランソワーズ様の所に来ていた。
「お呼びして申し訳ありません、果実水をどうぞ」
「すまん、ふぅ・・・どれが問題の料理だ?」
「これでございます、ジャガイモを毒抜きした料理です」
グロスさんが、フライドポテトを差し出した。
「ふむ、本当に毒は無いようだ。ただ味は・・・う、うまい・・・何故? 本当にジャガイモなのだろう? これはどうやって!」
料理長は、驚ききょろきょろと周りを見回す。
「ここにある赤いソース、トマトケチャップというが、付けてみてくれ」
タダシさんが、お皿にあるケチャップを渡す。
料理長が、フライドポテトをケチャップに付けて、唸りながらどんどん食べて行く。
「何てことだ・・・食糧難が解決しますぞ! ん? それは肉ですか? そちらも食べてみても?」
料理長が、から揚げを指差しながら言う。
「ああ、もちろんだ。ゆっくり食ってみてくれ」
タダシさんが、顎を触りながら言う。
「どれ、私もフライドポテトとやらを・・・ほぅ美味いな、皆にも出した方がいいのではないだろうか?」
フランソワーズ様は、フライドポテトを食べるとそう言う。
「はい、皆さんにも食べて貰いたいですね。早速出してきます」
コロッケ、ポテトチップ、フライドポテト、ポップコーンをテーブルに出す。
フランソワーズ様からの、毒抜きをしておいしい料理に変わったと言う宣言とともに、手ずから食べるパフォーマンスのかいがあり、最初は恐る恐るだったが、誰かが一口食べると一気に無くなっていった。
俺用にラネアスパイダーの足の塩茹でが出てきて、遠慮していると無理やり食べさせられ涙目になると言うサプライズもあったが、パーティーは大成功で終わる。
まぁ、蟹のような味だったんだけどね・・・ラネアの足の塩茹で・・・見た目が・・・ねぇ・・・毛がわさわさと・・・
「カナタよ、話があるいいか?」
フランソワーズ様から、急に声を掛けられる。
「はい、何でしょうか?」
いったい何の用だろう?