第333話
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「奴隷にしないで移動させるのは悪い事じゃないだろう? 今まで通り、学園に通って貰うだけじゃないのかい?」
アヤコさんが立ち止まり攻撃が完全に止んだ。
「残念ながら、違いますよ。人を集めるというのは、戦争を起こすと言う意思表示だと近くにある獣人国に捉えらえられかねない。
今までウルフローナや獣人諸国はウェーブによっての食糧不足で難民が大勢いたのは知ってますよね?
今までは俺達が行ったウルフローナの食糧事情の改善によって、他国で食料が無く死ぬしかなかった奴隷や難民を受け入れるという形で大々的に人を集められました。
しかし、ラスーリ(鼠の国)やウゥルペークラ(狐の国)などのウルフローナ同盟国からの支援などでウルフローナと関わりを持とうとしない獣人の国も着実に復興し始めています。
新薬と塩で金銭面での優位が確定しているウルフローナが、普通の人達まで集めたら何かあるかも知れないと危険視されかねないんですよ。
奴隷や難民の移動も一月に一度、しかもかなり少数になってきてるのはその為です」
「奴隷になっていても人の移動に変わりないんじゃないかい? それなら、奴隷にしても意味はないと思うんだけどねぇ?」
「残念ですけど、主人がいる奴隷は物として計算されます。しかも、奴隷商によって大々的に移動される事もありますので何とかなるんじゃないですか?」
「そんなことが出来るのかい?」
「ティンバーさんなら出来ると思うし、契約上やるしかないんですよ。俺達が買い取った奴隷は俺の物でしょう? 俺達を守ると言う契約で新薬のレシピを売ったんですから」
「でも、口約束じゃないのかい?」
「口約束ですよ。でも、俺達が敵に回ってしまった時のデメリットを考えればやるしか選択肢が無いんですよ」
「どういう事だい?」
「ウルフローナに俺達が作った物はどのくらいありますか? それを回収したらどうなると思いますか?」
魔道バス、学園、ショッピングモール、図書館、様々な工場、宿屋、アパートなどなど全てが消えた場合にどうなるか想像するだけで恐ろしい事になる。
そして、これから設置しようとしている馬車も入れる事が出来る外周から中央に移動させることが出来る超大型バスや学生の為の学園都市建設計画など俺達がいなければ夢物語で終わりそうな計画も多くある。
それをティンバーさんは理解している。今更になって俺達が必要ないように計画を変更し国を整備し始めても100年単位で時間が必要になるだろうし、今更前に生活に変われといわれても難しいだろう。
「国自体が無くなる可能性もあるって事かい?」
「塩の迷宮があるので完全に無くなるかは解りませんが、それに近い状態にはなるでしょうね。だから必死に俺達を守る。と言っても、俺達を本気で害することの出来る者がいるかは解りませんけどね。さて、落ち着いたみたいですし、アヤコさんに接触してきた人に会いに行きましょうか」
「どうするんだい?」
「まぁ可能性の域を出ませんのでまだ言えません。行ってみたら解ると思いますよ」
「また秘密かい…だけど、話しを聞いてくれるというなら頼むよ。カナタ君と話してみてどうすれば良いのか解らなくなっちまったからね」
ふむ、アヤコさんは怒りで壁を越えるタイプではないのか。
タクミ君とアカネちゃんとコノミちゃんは我関せずだったし、ケイタ君は覇気がないといえば良いのかなんかパッとしないし、ショウマ君は奴隷の事を知っても学園に送る為だろ? ってしか言わなかったし、俺が用意したシナリオじゃ上手く行かないって事かな?
まぁいいか、そのうち何とかなるだろう。
アヤコさんと一緒に相談してきた親にすぐに会いに行く事になった。
何をどうするか決まっていないので、一応子供を連れていく事にする。
コロシアムの中でグループを作って休んでいる奴隷達のリストを確認して、前歯が上下共に無い事に気が付き頭が痛くなってくる。
可能性として考えていた事よりも酷いものかもしれない…いや、酷いものだと考えていた方がいいな。
さて、これはアヤコさんに言うべきか? いや、気が付かなかったとして会いに行くとしよう。
少女二人を連れてアヤコさんを先頭にして皆で歩いてく。
少女二人は血色は良く肉付きもスラムの子供と比べてもかなり良いが、格好はボロボロでひどい物だ。というか、服ではなくてただの布じゃない?
いや、女性用の衣装のサリーとかなら1枚の布を巻いて服にしたりするし民族衣装的な何かだと言える…訳が無いか。
アヤコさんもひどい格好なのは気が付いている様だが特に何も言わないようだ。スラムの子供達よりもひどい気がするけどアヤコさんは見てなかったからなぁ。
木造の平屋の前に着き、アヤコさんが声をかける。
中から薄汚れてヨレヨレだが、ちゃんとした服の人族の女性が出てきた。
ふむ、親は思ったよりもいい生活をしてそうだな。血色もいいし、服もまともだし、家も布で補強されているとはいえ木で出来ている。
女性は泣きながら少女二人に駆け寄って抱きしめ、すぐに嗚咽と鼻をすする音が響く。
少女二人は、生気の無い顔で下を向いているだけだ。
そんな光景を見て、アヤコさんは「良かったね、良かったね」と呟いているが、俺はその光景を反吐が出るような思いで見ていた。
少女二人は全くなんの反応も無いのに、親だけが泣いてるのはどう考えてもおかしい。
そして、この少女二人の内一人はこの女性の子供では無い可能性もある。
奴隷になった人が文字をかけないので、卒業生に代筆を頼んで自分の産まれた場所を書いてもらっていたが、一人は他国で産まれたことなっている。
スラムの人間が他国からここに流れ着いた可能性も無いとは言えないが、移動手段が乏しい世界なのでスラムの人間が移動してきたと考えるのは無理がある。
「あ、すみません奥さん。この二人は奥さんの子供ですか?」
「はい、そうです。と言っても、私の産んだ子は一人だけなんですが」
「だから二人はあんまり似ていなかったんだね」
アヤコさんは何度も頷きながら言う。
「ええ、そうです。一人は先立った旦那の連れの子なんですが私の子に違いはありません。二人が戻ってきて本当にどう感謝すればいいのか…」
慣れてると言うか、話す内容でも決まっていたのかと思うほどすんなり出てきたな。
「二人の値段は、今のところ一人大銅貨5枚ですので合計銀貨1枚になります。とりあえず払って下さい」
「「は??」」
俺の言葉に二人とも言葉を失い口をぽかんと開いて固まっている。
「世の中にただと言う物はないですよ。そして二人を売った金額を回収するだけですから問題ないんじゃないですか?」
「私はお金なんて受け取ってません! 娘を無理やり奴隷にさせられたんです!」
「ちょ、カナタ君、待って何を言っているんだい?」
「冒険者が奴隷に誘う時の最低金額ですよ? それを貰って無いっていうのはおかしいですよね?」
まぁ、この子達は冒険者に買われたわけじゃないんだけど。
「私はお金なんて受け取って無いんです! 子供が攫われて見つけたと思ったら奴隷に! 冒険者に言っても聞いてもらえなくて…」
奥さんは涙ながらに話し訴えかけてくるが、胡散臭い事この上ない。
「言った通りだろう? 親子は一緒に住むのが一番だよ。渡しておやり」
「この子達は借金奴隷です。売った場合にお金が入ってくると思うんですけど?」
「さっきも言ったように、攫われたんです!」
「そうですか…解りました。では、奥さんの今の仕事はなんですか? 家族3人で暮らしていけるような物なんでしょうか?」
「し、仕事ですか?」
「ええ、聞かせてもらえますか? 住んでいる場所がスラム街とはいえ、仕事もしていないのに暮らしていけないでしょう? とても苦労なさっているのは解りますよ。スラムに住む他の家族と比べると顔色も良いですし服装もまともですから」
皆様は風邪など引いてませんか?
作者は絶賛風邪ひき中です。38℃を越えたりなんだり…インフルで無かったのがせめての救いですかね。
次ぎの投稿も遅くなるかもしれません。申し訳ありません。




