第332話
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「姫巫女様? って誰?」
俺は、首をかしげて聞く。
「あ、その反応だと本当に知らないんだな。出来れば聞かなかった事にしてくれ」
シュテインは手と首を振り焦った様に言う。
神かな? それとも神の眷属とかかな? 言いたくないことというより、言え無い事を聞かれた時の反応だな。
「黙っているのは構わないけど…えっと、こっちも質問いいかな? 二人がレジスタンスで戦うなら俺達が入る必要なくない? 二人の強さは周りと隔絶してるでしょ?」
「確かにそうなんだが…こちらにも色々と理由があって表立ってレジスタンスに協力できないんだ」
「何でだ?」
ショウマ君は疑問をそのまま口にする。
よし、ショウマ君ナイスな質問だ。俺が質問するとわざと聞いてるようにしか聞こえないだろうけど、ショウマ君が聞いてくれたら自然な感じになる。
「いや、まぁ、その、なんだ。契約なんだよ。これ以上は言えん!」
シュテインは慌てふためきため息を吐くように言う。
「そうか、聞いてすまなかった」
ショウマ君はシュテインに頭を下げる。
あぁ…契約をした人は誰なのか、もしくは神との繋がりがあるのかどうかとか聞きたい事いっぱいあるけど聞いたら駄目なんだろうなぁ。
せめて、契約が俺達の知らない方法で行った物なのかどうかだけでも聞いてくれたら良いのに…
結局それ以上の裏で手を引いてる神? 人? の情報は引き出せなかった。まぁ、実力者っぽいし敵対するよりも友好関係を築けた事の方が利益が大きいだろう。
実際、ダンジョンの情報も結構話してくれたしね。
かなり綺麗な浜辺があるという事だし、ダンジョンに潜る時に水着を買っていくとしよう。
対戦した冒険者全員が出て行き、奴隷達の前にコルネットを立たせる。
今回の件で奴隷の主人が変わる事を話し、俺の血液を使い主人の変更を終わらせる。
そろそろスラムの親達の元に冒険者が到着し、子供が帰って来ない事を知るくらいだろう。
せめてコルネットを屋敷に戻したいが、多分間に合わないだろうな。
仕方なく奴隷を少人数ずつに分けて控え室のようなところへ移動させる。出来る限り知り合いの人で固まるようにしておく。
移動は卒業生にお願いをし、入り口を変装をまた着込んだショウマ君に任せる。
そろそろユカさんから電話がかかって来る頃だと思うんだけど、どうかな?
ユカさんが怒り攻撃してきたら、コロシアムの強さでは防ぎきれない可能性もあると考え少し移動し始める。
スラムのコロシアムのもっと奥の草原に椅子とテーブルを出しノートに今までの事を書きながら待つ。
思ったより遅いな? そんな事を考えていると、アヤコさんがこっちに向かって歩いて来る。
ん? 何があったんだ? なんか、怒ってる?
「アヤコさん、何かあった?」
俺は、アヤコさんの方を向き笑顔で聞く。
しかし、アヤコさんは無言でずんずん近づいてくる。
俺が座っている椅子の横に来ていきなり停止してアヤコさんは俺を睨む。
「え? 何? 何? どうしたんですか?」
アヤコさんは右足を出し左手を引き顔も殴ろうとして来る。
利き足の右足を踏み込みに使う事に違和感を覚え、どんな攻撃が来ても大丈夫なように準備をする。
左手は顔を狙い、右手は腹を狙っているのが見えた。アヤコさんは山突きを繰り出したようだ。
アヤコさんの左手は手で受け止め、右手は腹筋に力を込めて当たった瞬間に椅子ごと風で後ろに吹き飛び力を逸らす。
傍から見たら攻撃で吹き飛んでいるようにしか見えないだろう。しかし、殴った本人は手応えがおかしい事に気が付いたはずだ。
着地点でジャリっと音がする。アヤコさんが操る熊のぬいぐるみが構えているのが音により解った。
今から風で方向転換をしようとしても、移動されて待ち構えられるのがオチだ。
ぬいぐるみのいる方に盾を出しカーボンナノチューブで自分の体に固定し、打ち上げをくらう様に少しだけ体の向きを変える。
ガンと盾に衝撃を受けてたのが解り、狙い通り少し吹き飛ばされる。風で距離を取り体制を整え着地をして、アヤコさんに向き直る。
「さて、アヤコさん。訳を説明してもらえませんか?」
「本気で不意打ちしたんだけどねぇ。全て防御されるとは思わなかったよ」
アヤコさんは構えを崩さずに言う。
「何度も不意打ちをされてますから、それででしょうね」
俺は、構えて様子を伺いつつ言う。
アヤコさんは一気に俺に近づき攻撃を始める。攻撃を逸らし避け、ぬいぐるみにのみ攻撃を加える。
アヤコさんが本気で俺へ攻撃していないのは解っているが、理由も分からず攻撃を受けようとは思わない。
さて、どうしたものか…このまま防御を続けても埒があかない。
しかし、原因に心当たりがありすぎて反撃していいものかどうか解らない。
「あんたは、親子をなんだと思ってるんだい!?」
アヤコさんは攻撃をし、俺は避けながら会話を始める。
「俺にとっての親子? ですか? 親子の情がどうかって事ですか?」
「両方さ!」
「さぁ? 解りません。親の心子知らずって言いますし、親になった事がないので」
「はぐらかすんじゃないよ! 親子ってのはそんな簡単なもんじゃないんだよ!」
もしかして、子供だけを奴隷にしている家族の事で怒っているのか? それなら俺に突っかかって来ないはずだ。
奴隷になるのは本人の意思か家族の意思だと言う事はわかっている。
奴隷になった人々も家族の為に奴隷になったといっていたし、無理やり奴隷にしようとした場合には元締めが出張ってくるから冒険者達もやらなかったからね。
なら何で? 奴隷にしたのは俺じゃなくて冒険者達なんだけど?
「奴隷にした事を怒ってるのなら、その家族に怒るべきですよ。俺が無理やり奴隷にしたわけでもないし、冒険者達も無理やり奴隷にしていないと解っていますから」
「無理やり奴隷にしていない? それなら何で泣きながら訴えかけてくる親がいるんだい!」
「え? 泣きながら訴えてきたんですか?」
え? どうなってるんだ? 自分を借金奴隷として売って家族や兄弟にお金を渡してるのは知っている。
冒険者達が奴隷の首輪や腕輪の値段としてピンはねをしていたけど、誤差の範囲と言うところの金額だったのはオモチとリョウさんの調べで解っている。
「そうだよ! だから一発殴って一緒に子供を連れて謝りにいこうと思ってるのさ!」
「子供をここに残すって事ですか!? それがどう言う事か解ってますか?」
「家族が一緒にいれば、何とかなるもんさ! 家族ってのはそういうもんなんだよ!」
アヤコさんはさらに力を込めて攻撃してくる。
「泣きながら訴えてきた親は保身のために子を売って、対価として金を貰っているんですよ? 口減らしにと捨てる親もいるんですよ? それで子供のために涙を流して助けようとしたとか変だと思いませんか?」
アヤコさんの攻撃のリズムが少し変化する。もう少しかな?
「子供を売って対価を得て、コルネットが負けたら報酬を貰うという話をしていた親もいましたけど?」
「な! そんな!?」
アヤコさんの攻撃は弱く遅くなっている。
「子供を帰すのは構いませんよ。俺達がいる間は、食事などの支援を続けるのも構いません。俺達が戻った後は言伝を渡して続けても良いです。でも、帰した子供達はそれでいいんですか?」
「落ち着けば家族で移動する事も出来るようになるんじゃないかい?」
やはり勘違いしているのか。人を移動させると言うのは他国にどう思われるのか考えていない。
まぁ仕方がないか、地球だと人を受け入れる方が大変だし住んでいた人と軋轢を生むから受け入れる国が評価されるからなぁ。
「最後にアヤコさん、人を奴隷にせずにそのままウルフローナへ移動させたらどうなるか解ってますか?」