第331話
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ショウマ君がリミッターを解除してからは一方的な戦いとなっている。
全ての攻撃は躱し打ち落とし掴み投げ、シールド持ちも格闘使いも攻撃が当たっていない。
直接攻撃どころか魔法攻撃すら掠りもしない。いや、魔法は掴まれ投げ返したり、かき消したりしている。
というか、格闘使いも魔法を使えた事に驚いた。
そろそろ見ているのにも飽きてきたから、決めてもらえると有り難い。
その場から殆ど動いていなかったショウマ君が、一気にシールド持ちに近づき両手に持ったシールドを殴りシールドを弾くと、一瞬で懐にもぐりこみ顎に強烈な一撃を加え気絶させる。
格闘使いは、シールド持ちがやられた事で大声で吼え先程よりも速くショウマ君の所へ。
先程よりも小手が強く光ると、キレがあり無駄の少ない連撃を繰り出す。ショウマ君は、片手で全て難無く受け止めている。
格闘使いの魔力がどんどん小さくなっていく…いたちの最後っ屁、火事場の馬鹿力か?
そんな必死の攻撃を片手で簡単に受け止められる気分はどう言う物なんだろうな…
それでも折れる事が無く必死に攻撃を続けているが、程なくして攻撃速度が驚くほど落ちていく。
「もういいだろう? 負けを認めろ」
「誰が…認めるかよ!」
格闘使いは、息を切らして殴り続けている。
「そうか…」
ショウマ君は、格闘使いの顎を殴り気絶させる。
なんと言うか、かなり強かったと思う。
この世界の主流は、技も無くただ一撃に全てをかける攻撃だ。魔物との戦闘時、攻撃力の劣る人種は一撃特化に偏るのは仕方がないとは思う。
確かに一撃を当てる為に連携したり、武器でのフェイントを入れたりとかはしているのだが、結局は一撃入れるための呼び動作にすぎない。というのに、この二人には技があった。
攻撃も強弱をつけ筋肉や目線でのフェイントを入れ、少しずつ敵を削っていくなど初めて見た。完全に対人戦を意識して技を開発している。
ショウマ君の師匠との関係も気になるし、起こしたら全部聞いて見るとしよう。
全員、奴隷として買取が終了し冒険者達に簡単な食事を配り今回のイベントは終了した。
しかし、思った通り食事の人気が凄い、飲食店の出店の計画を早めるべきか?
いや獣人のみの客なら大丈夫だけど、人族の客が来たら色々と面倒なことになる可能性があるから街を手に入れてからだな。
ショウマ君のズタボロになった全身鎧以外は概ね予定通りだ。
今回のイベントで一番の功労者はセラン君の武器を作ったワイグロ君だ。
ブックメーカーとして賭け事を取り仕切り、販売を行う卒業生商人連合と繋がり色々と動いてくれた。
アイディア自体は駅弁売りやスタンド内の売り子に似た形だが、戦闘終了でスムーズに集合、販売出来たのは間違いなくワイグロ君の手腕だろう。
何故こんなに商売に精通する能力があるのに、鍛冶師希望なのだろう? まぁ、得意な事がやりたいことって訳じゃないのは重々承知しているのだが。
確か夢はドワーフのところで学ぶ事…だったかな? タクミ君がドワーフの所へ行く時に一緒に連れて行ってもらおう。
「コルネット様、二人が起きました。会いますか?」
コルネットは頷き、治療室へと向かう。
めんどくさいなぁ…もう全部終わったんだから、冒険者達も帰れば良いのに。
治療室にはいると、シールド持ちが椅子に座り格闘使いがベットに寝転がりながら談笑をしていた。
こちらに気が付くと目線や意識はこちらに向いているが、敵意のような物は一切感じられない。
「いやぁ、お前達は強いなぁ…っと、すまん。俺はシュテイン。こっちはアンフィだ」
椅子に座っているシールド持ちことシュテインが言う。
格闘使いのアンフィは、お辞儀をする。
「私はコルネット。後ろに控える二人の事を知りたければ契約を交わして貰いたい」
「はぁ? 契約? どういう事だ?」
「それだけ重要な事だと言う事です。こちらが魔法契約の内容ですので、確認し納得いただけましたら契約して下さい」
魔法契約の内容を一目見ると、二人とも名前を書く。一切迷いのない行動で少し驚く。
魔法契約紙をもう一度ちゃんと書いてあるか確認すると、魔法を部屋にかけてショウマ君に合図する。
ショウマ君と俺は全身鎧を脱ぎ、ちゃんとした挨拶を交わし今までの経緯を話す。
「勇者ではなく、転移者だと? にわかに信じられんが、こんだけの魔法や強さをみれば信じざるおえんのだろうな」
シュテインが頭を掻きながら言う。
「俺も質問がある答えてくれるか? ショウマと言ったな? お前は、真柳八雪の弟子だと言ったが本当か?」
アンフィはショウマ君に質問をする。
「俺の名、柳ってのは自由を意味するんだとよ。しかも、努力が報われるって意味もある。解るか? 自分に恥じないよう自由に生きろ。下に葉を出しても、上に葉を出しても、形にはまっても構わない。ただ、自由に生きぬけ最後まで」
ショウマ君は、少し泣きそうな顔をして呟く。
「なるほど、確かに近い言葉を師から聞いて覚えているし名も全く同じだ。しかも、あの動きを見れば納得するしかないか。疑ってすまなかった」
格闘使いは頭を下げる。
「頭を上げてくれ、納得したのなら構わない」
「それで、始祖様はどうした? ご健在か?」
「死んだ。寿命だといっていた」
「そうか…長命のエルフ並みに生きた訳だし仕方ないだろうな」
困った顔をしてショウマ君が俺をみるが、特に補足や追加説明はしないでおいた。
「こちらも質問だ。柳流は弟子が多くいるのか?」
「いや、残念ながらそこまで多くない。情けない事に昔に仲間割れが起こったらしくてな。完全に失伝しなかったが、大幅に人数を減らしてしまった。俺は山奥で死にそうになってる所を運よく師に助けられ、教えを受けられた一人だ。師は柳流から破門を受けていたが、始祖様を敬愛し弟子を育てていると言っていた」
「その師とやらは?」
「まだ生きているとは思うが、どこにいるのか解らん。いつも違う名だったので本当の名も解らん」
「そうか、出会える事を祈ろう」
二人はそれだけ言うと黙ってしまった。というか、ショウマ君の話し方がなんか違うんだけど何でだろう?
まぁ、とりあえず疑問に思う事を聞いて見るか。
「ごめん、質問なんだけど真柳八雪さんは、何でこの世界に?」
「始祖様は勇者だったと聞いているが、詳しくは解らん。最初に降り立ったとされている地の神龍皇国になら伝承が残ってる可能性は無いと言えない。まぁ、あるとしても王城の書庫などだろう」
アンフィは、やれやれと言った感じで言う。
あぁ、やっぱり勇者か。勇者の最後の弟子のショウマ君が呼ばれて俺達が巻き込まれたって可能性も無くはないか…
まぁ、この世界に来て楽しい事が多いし、とやかく言う気はないけどね。
「それで、二人は何で俺達が起こした奴隷のイベントに来たの?」
「ソメイヨシノへ助力を乞いに来たんだ。頼む、お嬢を助けて欲しい」
シュテインが頭を下げる。
「お嬢? って誰?」
「私の恩人の姫の一人娘、第38王女。姫は立派な方で隔世遺伝で獣人の姿になってしまった人々を助けてまわった立派な方だった。最後までマーテルマルベリーの獣人排斥に異を唱え…暗殺された」
ん? そのお嬢って呼ばれてる王女の情報薄くない?
「ああ、うん、お姫様って事ね。 それで? 何で助けて欲しいの?」
「王女は姫の意思を継ぎ獣人排斥に異を唱え、暗殺される危険があるので隠れている。そして、レジスタンスの旗頭だ」
「レジスタンスって事は、マーテルマルベリーの抵抗組織って事で良いのかな?」
「そうだ、たのむ。手伝ってくれないか? マーテルマルベリーが無くなれば、ウルフローナ国に属しているお前達も利も大きいだろう?」
「いや、残念だが手伝う事は出来ない。今は、ダンジョン攻略を目指しているからね」
「そうか、残念だが仕方がない。最後の質問だが、お前達が本当に姫巫女様の使徒って訳じゃないんだよな?」