第318話
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「その前に、オカエビって何ですか? なんか袋がガサガサいって動いてるんですけど」
「ん? 見てみれば良いんじゃない? 日本でもお馴染み? の食材だよ」
「音を聞くだけでも虫だとわかるのに食材ですか?」
「じゃあ、袋を貸してみて」
袋を渡され少し開け、一匹取り出す。
「これがオカエビ、要はイナゴだよ。佃煮にしたりフリカケにしたりする」
「TVとかでみた事はありますけど、食べた事はないですよ。でも、イナゴの寄生虫って人に感染するんですか?」
感染ってアナタ。寄生虫だから寄生ではないのかね? まぁ、どちらでもいいけど。
「人には寄生しないと言われているけど、異世界産だから解らないよ。試してみたいとも思わないし」
「それはそうですね。でも、そのイナゴどうするんですか? 食べるんですか?」
「折角くれたんだし、佃煮にでもしたら良いんじゃない? 食べ方の一つとして教えてあげられたらいいと思うし」
「それもそうですが、なんでオカエビって名前なんでしょう? 海老っぽくないですよね?」
「海老もバッタも無脊椎動物で節足動物でしょ? だからじゃない? まぁ、江戸時代の日本で呼ばれていた名前だから、その関係で訳されたとか」
「訳された? ああ、ギフトで通訳してもらっていたんでしたね。すっかり忘れていました」
まぁ、ここに来て2年近くだし話せるとか何とかの小さい事は忘れがちになるよな。
本当に日本に戻って普通に暮らせるのか? そして、ここに…
「カナタさん? どうしたんですか? いきなり考え込んで」
「ああ、元締めが怖い人で話を聞いてくれない人だったらどうしようかと思って」
「大丈夫ですよ。ショウマ君の方が怖いですから」
「ああ、そこと比べるの? まぁ他に比べようがないからしょうがないか」
その後、ユカさんに頼んで元締めの場所に案内をしてもらおうとするが、名目が護衛の人が一端止めてきた。
話を無理やり進めると、最終的には元締めに話を聞きに行くとの事になった。
俺に会わせたくないって事か? でも、会った事もない人に警戒されるほどダンジョン都市で有名でもないはずなんだが。
話を聞く限りでは、強面のおっさんで知略に長けているとは思わない。近くにいた女性が殆ど耳打ちしていたらしいから、テンプレだと女性が元締めかもしれない。
「カナタさん、戻ってきましたよ」
言われた方向を見るとゆっくり歩いて来る人が見える。
「戻ってきたね。でも、せめて早歩き位の速度で来てくれないのかなぁ」
「まぁ、私達が頼んだんですから諦めましょう」
「それはそうなんだけどね」
スラムにかなり貢献してるんだから、走る位してもいいんじゃない? そう思ってしまうのは仕様がない気がするんだけどね。
戻ってきた男が言うには30分後なら会っても良いと言う事だった。
元締めだから威張ってるのはしょうがないけど、上から目線なのはどうなんだろう? まぁ、舐められたら終わりってのは良く聞くからそう言うもんなんだろうけど。
しかし、30分って面倒な時間だな。暇つぶしに何をしようかな。
スラムに似つかわしくない家の前で暇つぶしを実行する。せめて門の中に…庭に入れてくれれば良いのに。
時間もそんなにないので、いつ使うか解らない木刀を作っていく。この木刀は、もちろんかなり柔らかく思いっきり振ると止めの所で折れてしまう。
そんな木刀を上手く操り生徒たちに指導していた思い出深い品だ。
もう使わないかもしれないが、何となく持っておいた方が良いだろうと思い作っている。
「時間になりました。こちらへどうぞ」
家の中から人族の小さい女の子が俺達を呼びに来た。
遠巻きに様子を伺うような視線が強く感じられる。こんな女の子に何もしないのに、ご苦労なこった。
家の中に入り、庭を進んでいく。畑や食べられる実が生る木などが植えられている。
なんでスラムの子供に恵んだりしないんだ? 何故ここが襲われないんだ?
あんなに実っていて収穫しているのに。
「カナタさん、ここの食料はちゃんと配給されています。今生っている実は私が提供したタダシさんの肥料のおかげなんです」
「なるほど、だからあんなに実ってるのか」
そういうことか、ちょとムッとしちゃって悪かったな。最近イライラしやすいのかな?
そんな事を考えながら少女の後を付いていく。廊下の壁には鎧や武器、高そうな置物などが並んでいる。
屋敷の奥の重厚そうな扉の前で止まり、ノックをして声を掛け中に入る。中には誰もいなかった。
「すぐに来られると思いますので、少々お待ち下さい」
少女はそれだけ言うと出て行った。
後から入ってくる事で自分の優位を知らしめるってあれか? 廊下にある置き物とかも売れば、もっと人をたすけられるだろうに本当に付き合いきれない。
椅子の前に立ち、元締めが入ってくるのを待つ。一応こちらが頼む方なので敬意を払う必要があるとは思っているがいるかな?
「カナタさん、落ち着いて下さい。前回もそうでしたから、すぐに来ると思いますよ」
ムッとしているのが伝わったのか、苦笑しながら言って来る。
「はぁ、解ってますよ。ショウマ君のスキルを覚えてから喧嘩っ早くていけないと自覚してるんですけど、どうにも」
「前にいってたスキルの増加、呪いの加算ですか?」
「うん、そう。呪いの解き方が複雑になる可能性や呪いを解く鍵が複数になる可能性もあるからいい事なのか解らないけどね」
「それなのにスキルを覚えるのも強化するのも止めない…」
話をしていると扉が開き熊の獣人と思われるムサイおっさんと30代くらい猫族の女性が入ってくる。
何も言わないムサイおっさんが目の前に座り女性はお茶を入れに行く。
流石にイライラする、こいつらは何なんだ?
無言で俺も椅子に座る。
「また、お前達が会いたいと言うから来てやったが用事を簡潔に言え」
ムサイおっさんが俺達に言う。
「聞きたい事がある、お前はスラムに住む人の敵か味方か。どっちだ?」
イラッとした顔でムサイおっさんに言う。
「言っている意味が解らないが?」
「本当にわからないのか? 分かっているんだろ? さっさと答えろ」
「敵でも味方でもない、全員死なないように綱渡りで暮らしている。言うなら、一種の共同体だ」
「生き残る為に弱い物を切り捨て、何とか生き延びているとでも言うのか?」
「当たり前だろう? 生きられる者達を生かす為には、死に逝く者に構っていられるほどここで住むのは楽じゃない」
「ならば、なんで廊下に高そうな置き物などがあるんだ? それを売ればもっと助けられたかもしれないだろ? 違うか?」
「あの置物や武器、防具は親の形見だ。親の形見を売ってまで助けなくてはいけない理由はなんだ?」
「共同体なんだろ? なら売って食料を買っても良いってことじゃないのか? それとも、共同体ってのは嘘なのか?」
「嘘ではない、共同体だ。共同体というのは一方から恵んで貰い一方は身を崩さなきゃいけない物なのか?」
はぁ…その通りだ。宝くじを当てた人に寄付おねだる人間の事がものすごい嫌いだったじゃないか。
宝くじを当てた人に寄付して下さいと言うのなら、自分の貯金などは全部寄付してから言えと言いたいと思ってたじゃないか。
呪いの関係か? ユカさんの思考に近い物を感じるな。
「すまない、確かにその通りだ。この通り謝罪する」
俺は素直に頭を下げる。
その行動にムサイおっさんはキョトンとした顔をしていた。素直に頭を下げるとは思っていなかったのだろう。
ムサイおっさんは咳払いをして、尋ねてきた理由をもう一度聞いてきた。
俺達が食料を渡し配布を全て任せたいと言う事、配布してくれた人に少量の金銭も渡す事、ウルフローナ王都のモンステラにある八重桜学園の宣伝もして欲しいと頼む。
食料の配布の件は快くとまではいかないが、引き受けてくれるようだ。
しかし、八重桜学園の宣伝などは断られた。本当にそんな学園があるのか確証が持てないと言ってたので、卒業生を連れてきて又会う約束をして家に帰る。