第317話
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ユカさんに案内されるまま、どんどんスラムの奥の方へ。
何故かガタイのいい男が3人付いて来ている。護衛なのか監視なのか全くわからないが、何もして来ないのなら放置するしかない。
「カナタさん、こっちです」
「それは解ったけど、俺って元締めに挨拶した方が良いんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。昨日来た時に皆の事を言っておいてますから。それよりも、これから行く所の説明をします。これから行く所では決してマスクを取らず、フードを被りアイシールドも装着して下さい。あと、エアヴェールも維持して下さい。出た時に浄化し熱湯での消毒か自身に火魔法をかけて完全殺菌して下さい」
「随分と厳重だね」
「それはそうですよ。現状では何があるのか解っていませんから」
「ん? 死病の患者が…とかではないの?」
「死病の患者もいますが、嘔吐や下痢などの症状の人が多いですね。魔流眼ではお腹の辺りが変な感じになっていますので、新しい病気か寄生虫だと思います」
「病気か寄生虫か。やっぱり異世界でも寄生虫っているんだね」
腹下しの毒とかもあるにはあるが、スラムの人達さらにその少数の人に毒を飲ませるのは不可能だろうし意味もないだろうからな。
「見た目は違いますけど、生態系は地球とあまり変わらないんじゃないですか?」
「そうかもね。まぁそこは置いておいて、周りの人は何?」
「護衛の人です。間違えてスラムの人が襲って来ないように居てくれているんです」
「護衛と言うか、監視に近い気がするんだけど」
「そうかもしれないですね。護衛の人がいればスラムの人は襲って来ないんですから」
スラムの奥の方へ向うたびに建物が酷くなっていく。木の間にロープなどを括り皮をかけただけの簡素なテントだ。
もっと置くに行くと、そのまま寝かされた人々が居る。思ったよりも酷い。くそ、俺はまた地球を基準に考えていた。
地球じゃないんだ、難民の物資支援などない。しかも、ここは国にはさまれた紛争地帯とも言える場所。どちらの国もスラムのみならず人に物資を支援したりしない。
「驚きましたか? ですよね、驚きますよね。これが現実です。昨日は奥に遺体が積み上げられていたんですよ」
何も言えない。こんな物を見たら…そうじゃないな、ここでの出来事を見ても皆は同じようにしていたってのか。
この世界に来て色んな物を見ているが、未成年に見せない方が良いモノが多すぎる。実際はそんな事を言ってられないんだけど。
「まず何をすれば良いのか指示してもらっていい?」
「介護用ゴーレムって作れますか?」
「うん、出来ない事もないけど」
「じゃあ、それを作って下さい。私は回復魔法をかけて、昨日カナタさんがタダシさんに作ってもらっていた甘酒で最初に虫下しを飲ませますから、効果が無いようなら新しい薬を調合してみます」
今回の甘酒は、ポーションや耐性拡張の薬などを混ぜた異世界の甘酒だ。
熱を加えたり牛乳と飲んだりなんだりすると薬の効能がなくなる事もあるが、タダシさんヨシさんが作った甘酒ならそんな事も無く副作用が少なくなったり薬効が強くなったりと利点が多くなる。
回復魔法で胃腸を回復させながら飲ませれば体の抵抗力が強くなり、虫下しでの異物を排除する力も増える。
しかし、死病の患者はそうはいかない。回復魔法でも一時的な処置でしかないのだ。
少し回復させたら、借金するかどうかを聞かないといけないな。
俺が作った介助用ゴーレムは、介護用ベットに手とローラーが付いた形の物だ。これがあれば治療に赴かなくても、勝手に連れてきてくれる。
この介助用ゴーレムは最終的には燃やしてしまうので、ただのトレント材で作ってある。
魔晶石もゴブリンの魔石を複数合わせて作った物だから、俺達にとっては価値の低い物言える。
作り終わった物から順にユカさんに使って貰っているが、何らかの不具合がないか確認にいく。
「ユカさん、どうかな?」
「え? あ、はい。そうですね、介護用ベットに手が付いてる形なので安心して見てられますが、腕の力をもう少し強く出来なかったんですか?」
「ああ、それはやめた方がいいと思うよ。今回のゴーレムは知能が低いし、動きもロボットみたいでしょ? 誤作動で怪我するかもって思ってさ」
「そうなんですか。それじゃあ、同じ物を後3台作ってもらえますか?」
「解った。すぐ作っちゃうね」
介護用ベットゴーレムを3台作り終わり、ユカさんの指示に従い薬を甘酒で飲ませる。
自分で飲めない人にはゴーレムで姿勢を制御し、回復魔法を使い無理やり一瞬回復させて無理やり飲ませる。とりあえず、気道に入らないようにだけ注意する。
基本的には虫下しで寄生虫を外に出したら体調が回復に向う人が多いのが救いだな。
「カナタさん、御疲れ様です。ようやく、一段落しましたね。あとは、死病の人達ですけど。どうします?」
「家族のいる人には説明したし、一人身の人にも一応説明したし明日にでも答えを聞けば良いんじゃないですか?」
「そうですね。それしか…ん?」
ユカさんに近づいてくる子供の集団が居る。
「「「聖女様! これ、あげる」」」
布袋を子供が渡してくる。
「わぁ、ありがとう。中身は何かな?」
ユカさんが開けようとしたところで、俺が布袋の口を開けさせないようにする。
子供の宝物って結構ろくでもない物って相場は決まってるんだ。
「ごめん、先に中身が何なのか教えて貰っていい? 危ない物じゃないって解ってるけど確認したいんだ」
「え~、ビックリさせたかったのに」
他の少年少女もぶーぶー文句を言っている。
「ごめんね。でも、ユカさんがビックリしすぎて動けなくなったら大変でしょ?」
そう言うと、ユカさんが俺を睨んでいるのがチラリと見えた。
俺の会話のどの部分に怒ってるのか解らんが、安全の為でしょうに。
「ん~、しょうがないなぁ。おっちゃんにこっそり教えるからそれでいいか?」
一人の少年が出てきて、俺の服を引っ張って言う。
「それは、もちろん。じゃあこっそり教えて」
俺は耳を少年に近づけて声に集中する。
「オカエビが沢山入ってるの」
ああ、なるほどオカエビか…って、なる訳ないだろ! 江戸時代か!
でも、どうやって食べてるんだ? まさか生はないよな? 生で食べたから寄生虫が体内に入っちゃったとか?
とりあえず、全部憶測だし聞いて見るしかないかな。
俺は少年に布袋を少年に返し、ユカさんへ渡しても良いよと言う。
「ありがとう、本当に嬉しいよ。あとで開けてもいいかな? 他にもやる事あるからさ」
俺の話で変な物が入ってるとでも思ったのかな? 確かに変な物ではあるけど。
「うん、いいよ。お仕事終わったら開けてみてね。絶対ビックリするよ!」
少年少女達が帰ろうとする。
「あ、待って。オカエビってどうやって食べてるの?」
「え? おっちゃん、どうやって食べるか知らねぇの?」
「俺達の知ってる食べ方と一緒かどうか気になってさ。もしかしてだけど、生で食べてない?」
「食べてるよ? 火を使うと危ないから皆で食べてる」
やっぱりそうか。寄生虫はオカエビに付いていたって訳だな。
「そっか、でもあんまり生で食べるのは感心しないな。お腹痛くなったりする原因にもなるからさ」
「そうなの? でも、お腹減っちゃって」
「炊き出しをしてるから、今は平気?」
「うん、前より良い!」
今すぐに規制するか? でもどうやって? 元締めに頼るのが一番いいか?
その前に炊き出しを続けて行かなきゃいけないから、人を雇わないといけない。
やはり元締めと言う奴に会った方がいい。でも、利益をちゃんと分配させる事を考えると奴隷が良いのかな?
卒業生に頼みたいけど、俺達の奴隷でもなければ部下ではない。頼まない方が良いだろう。
「ゆかさん、元締めに会いたいけどどうすればいい?」
唐突な俺の問いにユカさんが呆れた顔をしていた。