第316話
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モンステラに戻っていたリョウさんの報告も聞きたいけど、後回しにするしかない。
まぁ、モンステラは前に捕まえた盗賊の事などが一番だから、俺じゃなくても何とかなると思うから大丈夫だろう。
ケイタ君からは、レティア教が奴隷を買い始める予定だと言う話を聞けた。一気に買い漁っても食料の調達で厳しくなるだろうからまだ実行されていないそうだ。
どこでそんな話を聞いてきたんだろう? 気になるけど、情報経路はヒミツと言われた。
アカネちゃんにオモチが付いていなかったようだから、2人で協力したのかな?
留守番組のアヤコさんとミズキさん、エミエミさんの弟子のアベリアさんからは、レティア教の侍際(雑用、助祭の下)の人がユカさんに会いに来たと言われた。レティア教の人かどうか解る人がいてくれて助かった。
聖女と名高いユカさんが獣人の街に来たと言う噂は結構凄いみたいだが、卒業生達(未成年入学、成人したて)や八重桜学園で学んだ冒険者(成人後に学んだ)が迷惑を掛けるなと睨みを利かせてくれているらしい。
治療院にも行っているから色々とトラブルに巻き込まれているって聞いているんだけど、それよりもスラムの問題を何とかしろか。
ユカさんらしいと言えばらしいんだけど、今までの行動を見ると人を救う事こそユカさんの呪いなんだろうな。それを呪いと呼んで良いのかは解らないけど。
「タダシさん、頼みがあるんですけど」
「解ってる。大量に作っておいてやるよ」
こんな時に頼む物は決まっているし、本当に助かるな。
「いつもすみません」
「いつも、良いって言ってるだろ? お前さんが居なきゃとっくの昔に儂は死んでるんだ。手伝いくらい喜んでやるさ」
俺は苦笑しか出来なかった。タダシさんとヨシさんが居なければ、日本で食べていた料理など食べられていないだろう。
タダシさんの呪いは、義に生きるとかかね? 常に人のために生きてる気がする。
まぁ、呪いがどういう物なのか解らないし考えても無駄か。
次の日、スラム街にユカさんと共に来ている。
スラムは想像以上にヤバイ場所だった。 壊れた武器や防具、ゴブリンの物と思われる死骸が大量にあったり、木製の壊れた物なんかも積み上がっている。
というか、テントの素材はなんだ? 変な皮に見えるけど…おいおいおい、ゴブリンの皮かこれ? マジかよ…
垂れ流された排泄物もそのままだし、昨日ミズキさんが流してくれたんだよね? 違ってたっけ?
一応吸い込まないようにマスクを外しエアヴェールを解く、すると酷い臭いが鼻を刺激する。これって凄くない? 良く病気とかにならないな。
スラムを歩いていると、自然に人が集まる。
「皆さん、炊き出しを行います! 手が空いてる人は手伝って下さい!」
ユカさんがそう言うと家の奥や家の中から人が出てくる。
「ユカさん、俺は何をすれば?」
「ゴーレムを出して野菜と肉を切るのを手伝って下さい。 三百人ほど来ますから」
「え? 昨日はどうしたの? そんな数捌けないよね?」
「昨日宣伝してもらったんです。 今日は、カナタさんがいますから何とかなりますよね?」
おいおいおい、俺は青いロボットじゃないって言ってるじゃん。
言われた通り、ゴーレムを出して野菜や肉を切る。 今回作っているのは、オートミールの豆乳粥で野菜や肉も入っている。
ゴーレムをものめずらしそうに見る子供達、種族や年齢など関係なく仲良くしている。
やはりスラムと言う土地柄、皆で助け合っていかないといけない様だ。
「ゴーレムは俺の指示で動いているけど、危ないから近づかないように気をつけてね」
一人で熱心にゴーレムを見ている狐の獣人の小学生低学年くらいの見た目の子に言う。
「なぁ、おっちゃん。これってどうやって動いてるんだ?」
「説明すると難しいな。魔法で動いてるって思ったら良いかな?」
「魔法!? おっちゃんも魔法使えるのか?」
「そりゃ、使えるよ。なんたって今炊き出しやっているクランのリーダーだしね」
「え!? おっちゃんがクランのリーダーなのか? 昨日来ていた魔法使いのねぇちゃんじゃなくて?」
ん? なんで魔法使いのねぇちゃんって言葉が出て来るんだ? 魔法使いの格好をしていたのはミズキさんだけだったよな?
「なんで魔法使いのミズキさんをリーダーだと思ったの? 詳しく教えて」
「だって、一番強いだろ? おっぱい大きいねぇちゃんが言ってたし」
確かに遠距離だとミズキさんに勝てる人いないけど、やり方によってはなんとも言えなくね?
その時のタイミングによって強さって変わるしな。
いや、なんで強いって知っているかが問題か。大方の予想は付くけど。
「確かにミズキさんが一番魔法が得意だけど」
「やっぱりそうか! 俺も魔法使って見たいんだよなぁ。他の人は獣人だから魔法はあきらめろって言うし」
確かに獣人だと魔法が使いにくいが、それだから魔法使いになるのをあきらめるってほどじゃない。
簡単に言うとゲーム内の種族のような感じだから、より努力はしなくちゃ駄目だけど。
「獣人だから魔法が使えないって訳じゃないぞ? ウルフローナ国のモンステラって所に八重桜学園ってのがあって、そこで学んだ獣人の子供達は人族と変わりないほどの魔法が使えるようになってるみたいだし」
「ほんとか!! 俺も魔法使いになれるのか!?」
子供は素直でいいね。 大人だと無理だと決めつけて難癖つけて来る事もあるだろうな。
「ああ、もちろんなれるさ。 ただ、魔法使いになるには人一倍努力しなくちゃ行けないけどな」
「うん、もちろん努力する! 俺の夢だし!」
切り終わった食材を鍋に入れ、煮込み始める。途中からゴーレムに鍋をかき回すのを任せる。
これで俺がやる事はいったん終了かな?
「ところで、お父さんとお母さんは?」
「そんなもん居る訳ないだろ? 俺は皆を守る兄貴だからな」
「そっかそっか、もうすぐ出来ると思うけど皆揃っているかな?」
「たぶん集めってると思うけど、ちょっと見てくる。皆の分を残しておいてくれよ」
「ああ、いってらっしゃい」
結局何が原因でミズキさんが暴れたのか聞けなかったな。他の人も知っている訳だし、そのうち聞けるでしょ。
「カナタさん、配り始めちゃいますけど良いですか?」
「もちろん良いよ。俺は後ろで調理してればいい?」
「はい、お願いします。何かあれば言って下さい」
そう言うとユカさんは、スラムの女の人達と一緒に配り始める。
一人一人がお礼を言って言ってるのが解る。配っている時に難癖つけてきたりとか多く貰おうとするのがテンプレだと思うがどうなってるんだろ?
気にはなるけど、作り続けないと直ぐに足らなくなりそうだ。ゴーレムを追加で出して野菜や肉を切らせる。
ゴーレムって切るの下手糞なんだよなぁ、均一の大きさに切れないしさ。俺が食べるわけじゃないから良いけどね。
そんな事を考えながら野菜の補充や肉の補充、鍋への移動なんかを行う。
さっきの魔法使いになりたいといってた子の声が聞こえ、鍋の列を見るともっと小さい子供達と一緒に並んでいるところが見えた。
一通り皆に食事が配り終わり、ユカさんがこちらへ近づいてくる。
「カナタさん、動けない人が結構いるので訪問をしたいんですけど行けますか?」
既に満腹で貰いに来た皆動けなくなってるし、鍋も数個分しか中身入ってないから鍋をかき回すのとかお手伝いさんに任せちゃってよさそうだ。
「うん、大丈夫。それにしても皆きちんと並んでたね。助け合いをしなくちゃいけないから、黙って並んでいたのかな?」
「それはたぶん、ミズキさんのお陰ですね」
「ミズキさんの?」
「はい、暴力を振るおうとした人を片っ端から氷に閉じ込めてましたから」
「え? そんな事をしたら凍傷とかになるんじゃない?」
「ちゃんと魔法で回復しましたし、最終的には食事もお腹一杯になるまで渡したんで大丈夫ですよ。お腹一杯になったら動けなくて悪さも出来ないですし」
「ああ、でも難癖つけてきそうな気がするんだけど」
「お腹一杯になったら手伝いをしたいと言う方が来て、元締め? と言う方の所に連れてってくれて話しあいましたから」
え? 俺が元締めを見つけて交渉するんじゃないの?
と言うかさ。そうなると、俺は先に元締めに挨拶言った方が良かったんじゃないの? 大丈夫なの? ねぇ?