第315話
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
先に一人で飲んでいる情報屋と呼ばれる男の前に酒を2杯置き話しかける。
「なるほどな、どこまで情報を拡散出来るかを聞きたいってことで良いんだな? そうだな、人の街の全域と獣人の街が少し、スラムは半分弱って所だな。で、何を広めるんだ? 初顔だし、安くしとくぜ?」
「そうですか、ありがとうございます。しかし、まだちゃんと店を買っていないので宣伝を頼むのはもう少し先になりそうです」
「そうかい。酒を奢ってもらって感謝するぜ」
「いえいえ、宣伝の時はよろしくお願いします」
奴隷の溜まり場に行き、商品を見るように良く見回す。
こうしていれば、たぶん向こうから声を掛けてくるはず。
「おい! 俺の物に何の用だ?」
「おお、あなたのでしたか。 こちらを譲っていただく訳にはいきませんか?」
予想と少し違い、一番強いと聞いていた冒険者の仲間が話しかけてくる。
「あ゛? 殺すぞ? 消えろ!」
それだけ言うと冒険者はテーブルに戻ろうとする。
「大銀貨6枚」
「あ゛?」
冒険者はこちらを振り返る。
「大銀貨6枚でいかがでしょう? 奴隷の売値相場の3倍ほどになるかと思いますが」
「けっ、そこまで言うなら金貨1枚にしろよ。 はっ、無理な話か」
「そうですな。では、金貨1枚で買わせていただきます」
「は? 即金で、今すぐ出せ。出来ないだろ?」
「ええ、畏まりました。左の(カナタ)、払えるかどうかお客様が気になっているようです。軽く財布を開いて見せて差し上げて下さい」
コルネットは俺をチラッと見て冒険者達のテーブルを顎で指す。
「コルネット様、畏まりました」
俺は一礼をして現在いる中で一番強いと言われた冒険者達がいたテーブルに向う。
腰につけたマジックバッグから両手くらいの大きさの革の巾着袋を取り出し開いてみせる。
中には金貨、大金貨がぎっしりと詰まっている。
基本的に俺達がもっているのは紅金貨なので、金貨や大金貨はある程度しか持っていなかった。
なので、全員の持っている金貨と大金貨をかき集め革袋1つ分しか持っていない。
ここで上手く乗って来ないで買い取る事になっても、今日の行商出店エリアの売り上げで補填できるだろう。
でも、一人ずつ買い取るのは面倒だから乗って来て欲しいな。
「お金に関しては十分に持っていますので、ご心配なさらぬようにお願いいたします」
革袋をすぐにしまって、コルネットの近くへ戻る。
冒険者ギルドカードに貯金が出来るのに、こんな大金を革袋に持っているのはかなり怪しい。だが、目の前に大金を置かれたら誰でも感覚が狂うはず。
「おい、待て!」
現在いる中で一番強いと言われた冒険者が声を掛けてくる。
「何でしょうか?」
コルネットがにっこり笑って反応する。
「俺の奴隷も金貨一枚か?」
「見ていないのでなんとも言えませんね」
「さっき見ていた奴の隣の隣だ」
さっき見ていた奴隷の隣の隣は三十台前半位の人族の女性がいる。
たぶん、この人の事だろう。
「なるほど、金貨一枚では厳しいですな」
「なら、いくらだ? 借金奴隷だから、借金の金額の大銀貨7枚は欲しい」
「むむむ、大銀貨7枚ですか。ちと厳しいですな」
「ギフトの料理の心を持っているが、どうだ?」
料理の心を持っている? 嘘だな。そんなギフト持っていたら手放すわけはない。
「ギフトの確認をさせていただいても良いのなら、買い取れます」
「ちっ、仕方ねぇな。他の奴隷もいるそっちも見て見てくれるか?」
「それはかまいませんが。会話から察するに、急に金が必要になった様に思われますが?」
「そうだ、その通りだ。前回の探索で自分の得物が限界になっちまってな。 食い物も武器も全部が全部高くなってるのは知ってんだろ?」
おお! 渡りに船とはこの事か。
「そういうことだったんですか。でしたら、私の依頼を受けていただけませんか?」
「依頼だと? 得物が駄目になったと言ったばかりだろ?」
「いえ、そんな難しい依頼ではありません。私の護衛の1人の右の(ショウマ)を倒していただきたいのです」
「はぁ? 護衛を倒す? どういう事だ?」
「この右のは私の命令を違反する事が多くて困っていたのです。話し合いを何度もしましたが進展はありませんでした。そんな時、右のは何十対一の対決でも勝てると言い放ち護衛日の値上げを要求してきました。まぁ、負けたら奴隷にでも何でもなると言ったのですが」
「なるほどな、そいつを倒すのが俺達への依頼か。報酬は?」
「報酬は、どうしますかね」
コルネットは悩んだようなしぐさをする。
「こういうのはいかがでしょうか? 右のを倒せれば大金貨十枚」
「まじか!」
周りで聞いていた冒険者達も騒ぎ始める。
「しかし、大人数だと余り旨味が無くなりますね。それならば、参加費用を払って貰い報酬を個別に渡すのがいいかも知れませんね」
「こっちは金がないと言っただろう」
「参加費用を奴隷にするのはいかがでしょうか? 奴隷1人で1口として、その口数分の報酬を払うと言うのは?」
「結局いくらなんだよ! 解りやすく言え!」
「参加費用は最低奴隷1人で、勝利すれば金貨5枚を払う。参加費用として出した奴隷の人数が2人なら金貨十枚と増えていく形です。これで勝たれれば私は損をしますので、皆さんにもリスクを負って貰いたいですね」
「リスクってのはなんだ?」
「皆様が負けたら、参加費用の奴隷を大銅貨5枚で売っていただくというのはいかがでしょう? 相場よりも安い買取となりますが、参加費用の奴隷の価値を決めていないんですから仕方ないと思って下さい」
「なるほどな。しかし、そんなに奴隷を集めてどうするんだ? 身なりから言って奴隷商ではないんだろ?」
「確かに私は奴隷商ではありません。ですが、奴隷を販売するルートを持っていないわけではありません。大量の奴隷を販売するのも今回が初めてと言うわけでもないのですよ」
「解った、依頼を受けたいと思う。それで、最後の確認だ。何日後に行うか、何人まで参加してもいいかを聞きたい」
「開催は3日後、場所は待ちの外スラム側。参加人数は何人でも」
思いのほか上手くいった。もう少し宣伝をしたいけど、情報屋と呼ばれる人が拡散するだろう。
ケイタ君は上手くいってるかな? レティア教の情報収集なんてすぐに終わると思えないけど、見つからなければ時間を掛けてゆっくりやっていけばいい。
帰り際に行商出店エリアに寄り、売れ残った商品を回収すると家へ移動する。
移動の最中に出店エリアの話を聞く、小さいトラブルはあったようだが商品はかなり売れて忙しかったようだ。
屋敷に入って料理をしていると、ユカさんがキッチンまでやってきた。
「おかえり、キッチンに来るなんて珍しいね。何かあったの?」
「カナタさん! スラムの人たちを何とかして下さい! カナタさんなら何とか出来ますよね?」
「いきなりどうしたの? 何かあったの? タクミ君とアカネちゃんは?」
「タクミ君とアカネちゃんはもうすぐ来ますよ。それで、スラムの人を助ける為にはどうすればいいんですか?」
「それはまだ駄目だっていったでしょ? 今は奴隷を先に助けてからって言ったでしょ?」
「何とかならないんですか!? いつもの様な裏技みたいなのを使って下さい!」
「裏技って…情報が圧倒的に足らないからなんとも出来ないよ。 他にもやらないといけない事と…か」
「じゃあ! 明日は一緒にスラムに来て下さい!! 情報でも何でも調べて下さい!」
ユカさんは、俺が作業している台を叩いて大声で言う。
はぁ…少し前に話し合いで奴隷を先に助けて、次にスラムって話し合ったのに。




