第312話
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タダシさん達と別れ、俺達は商隊に追いついた。
卒業生達に渡した装備やゴーレム馬を回収し、依頼を受けて一緒に行動している冒険者を装ってもらう。
ゴーレム馬に乗っている騎士型ゴーレムは未だに出したままだ。
しかし、ダンジョン都市に向う途中に襲われる事は無かった。 本当にどうなっているのか理解に苦しむ。
ダンジョン都市の形は簡単に言うとドーナッツのような形だ。
中心にダンジョンがあり、半周弱の部分が獣人や亜人種と呼ばれる種族がいる街、もう半分弱が人族の街だ。
人族の街にはエルフとドワーフは入場できる。 エルフは見た目も良く精霊魔法が強力で、ドワーフは武器や防具を作るのに優れているからと言うテンプレのようなもの。
人族と亜人種の街の間には緩衝地帯として冒険者ギルドや商人ギルド、鍛冶工房、スラム街などのスペースがある。
だが、緩衝地帯を使っているのは人族のみとなってしまっているようだ。
そんなこんなで俺達の番になる。 コルネット・タルーンの身分証はスノードロップ領で発行済みなので特に何も無く通り抜ける事が出来た。
門を通り抜ける時にも思ったのだが、この街は臭い。 下水が整備されておらず、汚物は週に1回エルフに頼んで門の外に流しているらしい。
スノードロップ領では汲み取り式にしてあり、門の外に肥溜めのような物がある。 それを肥料として畑に使っているので、この街も同じような感じだと思っていたのだが・・・
リョウさんから渡された資料は大変読みやすい。 しかも改善にはどうしたら良いかなども書いてある。
かなり合理的な改善方法と言えるが、人を完全に排除して一気に作った方が簡単じゃないか? 俺も、街づくり人のような感じになっている様だ。
宿を取っても良いのだが面倒なのでライナを呼び、土地を販売している所まで案内してもらう。
ライナと別れ土地を販売する店を訪れ、店員と話をする。
スラムに近く門にも近い所だと結構な大きさの空き地がある様で、とりあえず案内してもらう。
近づくとなんとも言えない。 空き地ではなく焼け崩れた大きな建物があり背の高い草が生えている。
案内した店員に事情を聞くと、人族は中心街近くの土地は買う事が出来ないらしい。
昔に人族の拠点となり色々とやらかしたようだ。 今回案内された場所は、無理やり買って放火された建物なのだと言う。 人は死んでいるわけではないが、不気味なので買い手がつかなかったらしい。
コルネット・タルーンも人族の見た目なので仕方がないと思う。
土地を買う事を告げ、契約書の名前をソメイヨシノとして俺が契約した。 かなり怪訝そうな顔をされたが仕方ない。
他人に渡す為に土地を買う事もあるので、誰が買っても特に問題がない。 だが、人族とは色々あったと言う事なので思うところはあるんだろう。 口にしないだけ良しとしておこう。
隣り合っている空き地もあったので、そこの場所も買っておく事にする。 ますます怪訝そうな顔をされるが問題ないだろう。
出来れば緩衝地帯のスラムを全部買いたいが、いきなりは無理だな。 スラムの人たちに俺達を信用させて、八重桜学園に放り込み後々ダンジョン都市にショッピングモールを作った際に店員として働いて欲しい。
ウルフローナの王都モンステラのショッピングモールの店員を半分くらいこっちに連れて来れないかな? そうすると、人がギリギリになっちゃうか。
来年になれば店員希望の人も結構いたから人が過剰になると思うが、現状では保留しかないな。
そんな事を考えながらゴーレム馬車を移動させ、手当たり次第のお店に入り食料を販売していく。
ダンジョン都市で足らない食材は、麦類と塩などの調味料。 食材ではないものだと服や雑貨も足りていない。
珍しい食材は買って、麦や塩などを販売する。 と言うか燕麦がかなり人気だ。
燕麦を保存食(スティールカットオーツのような物)にして売っているんだし、解らないでもないがあんまり美味しい物じゃないんだよね。 めちゃくちゃ喉乾くし。
ある程度の店を回り商品を売ったところで、買った土地へ移動する。
コルネット・タルーンがソメイヨシノお抱え商人だと言う宣伝はしたが、相手はどう出るかな?
暗殺を仕掛けてくれれば捕らえて色々と聞きだせるが、後手に回らなければならないのは本当に面倒だ。
買った土地は既に均され、6mほどの高さの壁と4m位の堀が出来上がっていた。
あぁ・・・皆にちゃんと説明したはずなんだけど、なんでこんな事になってるんだ? 囮作戦は、使用されずに失敗かもしれない。
壁の内側にいた皆に、話を聞くとコノミちゃんが嬉しそうに言う。
「これだけ進入が難しそうに見える建物が出来たら、怪しいと思って進入したくなると思うんです。 職人を目指している卒業生の皆に協力してもらって進入できる様になっています」
冒険者を目指している卒業生ではなく、職人を目指している卒業生を基準に作ったから大丈夫だと言いたい様だ。
まぁ、作っちゃったもんは仕方ないし、諦めよう。 進入して来てくれる事を祈っておこう。
家の建設は明日にするとして簡易宿としてとして移動型マジックハウスを置き、ゴーレム達に侵入者を捕らえるように指示を出す。
そんなこんなをしている間にタダシさん達が盗賊の身柄を引き渡し、見知らぬ人を連れて帰ってきていた。
少年? いや、少女か? どっちか解らないけど、小さいな。
「カナタ、冒険者ギルドマスターのエミエミさんの弟子だそうだ」
「迅速のエミエミの弟子のアベリアと申します。 皆様にダンジョン内の罠の発見・解除を教えに参りました。 こちらが冒険者ギルドカードです」
冒険者ギルドカードを受け取り、名前を確認する。 確かにエミエミさんが言っていた人のようだ。
「もしかして、ヘデラ侯爵の近くにいた腕利きさんですか?」
「ええ、その通りです。 隠伏のマントを使用したのに存在に気付かれたのは初めてです。 しかも、最終的に小さい声で見えてますよって言われるとは思いませんでした」
「ああ、驚いた時の音が外に出ちゃった奴ですね。 まぁ、敵対しようとしていないってわかった後だからいいかと思ったんです。 すみません」
「いえいえ、私も修行をし直すいい機会を貰ったと思ってます。 それが無ければ、師匠の依頼を断ろうと思っていたんですよ」
おお、遠まわしに毒を吐くな。 プライドを傷つけちゃったかな?
「そうだったんですか。 じゃあ、俺達にはラッキーな出来事ですね」
その後も世間話は続き、色々な情報を聞けた。 エミエミさんの弟子なのに若い事は誰も突っ込まなかった。
俺も色々聞いてみたい事があったけど出来るだけ当たり障りの無い内容でお茶を濁した。
その後、騎士型ゴーレムなどを買った土地に各所に設置して侵入者対策をしてこの日は寝る事に。
イサオさんやナリッシュ君達はダンジョンからまだ戻ってきてないようだし、明日は探索者ギルドで登録しないとな。
はっ! その前に、俺達って偽名で中に入ったから明日何とかしないといけないじゃん!
◇◆
時間は少し過去に戻る。 エリカ・ストック・ムスカリがキョウ・サワギ・シレネに報告した時の模様である。
「それで? おめおめと戻ってきたと?」
「はい、申し訳ありません。 キョウ枢機卿猊下。 しかし、有用な情報を手に入れてきました」
「ふむ、そうか。 報告内容によっては、罰を考えてあげよう」
「ありがとうございます。 カニータ男爵がファウスト・エルバ男爵の師匠で共同開発したのが新薬だというのはご存知ですね?」
「それくらいは知っている」
「カニータ男爵の正体は不明だと言っておりましたが、誰か解りました。 それはカナタです。 ソメイヨシノのリーダーカナタがファウスト・エルバ男爵と共に開発した物です」
「それは本当か!? そうであれば、魔道具の有用性の報告とカナタと言う者が新薬に関わっているという報告の二つで今回は罪に問う事はない。 良くやったエリカ」
「ありがとうございます。 枢機卿猊下」
通信が終わりエリカはホッとした顔をする。
「エリカ司教、これで良かったんですか?」
「仕方ないじゃない! たとえ噂であってもそんな話が出てたのは事実なんだから。 それとも責任取ってくれるの?」
エリカは確証を得て報告したわけではなく、ファウスト男爵とカナタが仲が良いという事と新薬を作ったのはカナタだという噂を聞いた事を総合して行った。
エリカから見たカナタは、嫌な奴で木工師と言う認識しかない。