第310話
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午前中にもコルネット・タルーンを動かし商店を訪れる。 訪れているのは衣料品店、麻の服を卸す為だ。
麻の素材のカラムシは、栄養価など気にしなくて良いのでガンガン増やしたら大変な事になり過剰在庫になってしまっている。
この実験はウルフローナでの実験ではなく、ミスティの星にある素材用マンションで行ったものだ。
そのワサワサと育ってしまったカラムシを見て心の底からマンション内でやって良かったと思ったものだ。
回収するゴーレム、煮て糸に加工するゴーレム、糸を布にするゴーレムなどを作りどうにか事なきを得た。
その布や糸は生徒達の教材や商品開発の布として大量に桜商店の針子さんの所に送られた。
布が多く運び込まれていた最初は喜ばれたものだが、減らない布を見て最終的に針子さんが引きつった笑顔を見せていた。
針子さんに大量に服や袋など様々な物を作ってもらい、亜空間収納やマジックバッグにもかなりの量が入っている。
訪れた衣料品店を見渡すがほぼ中古でつぎはぎが多いものも目立つ。
桜商店の服もあるにはあるがめちゃくちゃ高い。 販売している値段の5倍の値がついている。
こんな値段じゃ誰も買わないだろう。
販売価格よりも少し安い値段で子供用から大人用、体が大きい人用にいたるまで様々なサイズの新品を商店に販売する。
あまり高い値段がつかないように最大でも2倍ほどの値段で売る事をお願いする。
他の商店でも同じように販売し、領主の屋敷へ戻る。
今日は兵士達を鍛えていないが、体の動きがぎこちない兵士が多い。
昨日の今日だから筋肉痛などで仕方ないと言えばそうなのかもしれないが、どうにも情けなく感じてしまう。
フランさんが残る事で兵士達が間に合わなかったとしても、俺達全員が盗賊捕縛作戦に参加できる様になったのだが、本当にスノードロップ領の守りが大丈夫なのか? そう思ってしまうのだ。
出発を遅らせた方が良いのか?
いや、兵士達が来るのを待つよりも、盗賊の問題を解決させた方が色々と早いはず。
焦る心を落ち着かせるように計画書をもう1度読み直す。 すると、アスターさんが尋ねてきた。
「カナタ様、兵士の皆様がご到着しました」
「何とか間に合ったんですね、良かった。 これで後ろを気にせず作戦に集中できます」
ここからが本番だ。 何らかの妨害がある可能性も考えながら動かなくてはならない。
リョウさんからの連絡で、盗賊と思しき集団以外に動きはないらしいが何が起こるか解らない。
今回の作戦にフランさんは不参加、これはヘデラ侯爵からの提案でそうなった。
フランさんはウェーブを切り抜けた時の英雄だし、獣人の国の要と言っても良い人でマーテルマルベリーでも血濡れの歌姫としてかなり恐れられているらしい。
強さよりも知名度が戦況を左右する事もある。 主に兵達の士気が違うと言う意味で。
ダンジョン都市とスノドロップ領の中心から円状に俺達全員を配置(中心に向う方円の陣)。
卒業生の前衛の殆どと中衛は商隊の後方で真ん中に卒業生達が少ないお椀状(鶴翼の陣)に配置されている。 商隊にもある程度の前衛希望の卒業生を配置しているので防御も大丈夫なはず。
ショウマ君もある程度移動したら広報部移動し包囲網に加わる。 コルネット・タルーンの護衛が消えるのは良くない為、ショウマ君に似せたゴーレムも用意してあるので万全だと言える。
盗賊が既に出発をして全員が着いた事を通信機で知らされると、コルネット・タルーンを馬車を動かし進む。
俺とショウマ君も鎧を着せられた馬型ゴーレムに跨りついていく。
馬車の数は昨日と同じ10台、便乗している行商人も多数いるので驚く人数だ。
後衛に配置する事になっていた生産職メインの卒業生を数名馬車の御者の場所に乗せ、前衛・中衛の卒業生もゴーレム馬に乗っている。
もちろん、ゴーレム騎士達も一緒に移動している。 これだけみると戦争でも仕掛けに行くのかと思う。
ヘデラ侯爵が前に同じような作戦をして失敗していると言うので盗賊に襲われる事はないはずだ。
便乗して移動している行商人達には護衛の冒険者を前に出さないようにお願いしている。 しかも、タダでお願いしたわけではないので出て来ないはずだ。
冒険者からしても、盗賊と戦うリスクが減り報酬が上がる訳だしね。
馬車は進み盗賊に一番襲われる事の多い場所にさしかかる。 周りは木が生えている森の中の一本道、奇襲を掛けるにはもって来いの場所だが、今回はここで襲われる事はない。
もう少し先に行けば窪地の道に出るので、襲われるのならそこになるだろう。
隠れられる場所は少ないが、高所と言うメリットがある。 奇襲ではなく、馬車が立ち往生しているなどのテンプレの罠を仕掛ければそれなりに優位に戦えるだろう。
ここでショウマ君とお別れをし、ショウマ君型のゴーレムを起動しておく。
何があっても良いように通信機で皆に窪地へもう少しで到着する事を伝える。
見つからないように敵の背後で待機すると通信が来て、コルネット・タルーンのボイスチェンジャーへと変えておく。
森を抜け窪地に入りかなり進むと、前の方に馬車が壊れて止まっているのが見えてくる。
ダンジョン都市への商人の移動は俺達が最初なのは確認してあるので、罠だと思うのだが・・・
いや、こんな情けない罠を使うか? 驚くほどありふれた手だぞ? 二重トラップの可能性も考え馬車の速度を落とし様子を見ながら進む。
埒があかないと思いコルネット・タルーンのボイスチェンジャーを切り、通信機をONにする。
「皆、調子はどう?」
「盗賊達は包囲に動いています。 二重トラップの可能性はありません。 後方も準備は良いですか?」
商隊の右に展開しているケイタ君が後方にいるショウマ君達に問う。
「おう、盗賊に見つからないように後方待機しているぜ」
他の皆も準備完了しているようだ。
「じゃあ、前方の壊れた馬車に接触をします。 各自の判断で攻撃開始して下さい」
それだけ言うと通信機をボイスチェンジャーに変更する。
皆も準備完了しているようだし、ちゃっちゃと終わらそう。
そう思いコルネット・タルーンに命令を受けた形を取り、前方で馬車が壊れ立ち往生している人たちの元へいこうと考える。
「タルーン様、お待ち下さい。 その役目、私にやらせてもらえないでしょうか?」
俺が命令を受けている時に、ベトニア(カナタファン、盗賊から助けられた男の娘)が割り込んでくる。
俺が行く予定だったが、この距離ならベトニアと商隊をいっぺんに守る事が出来る悪くない案だ。
ベトニアなら硬化のギフトを持っているので、本当の不意打ちを受けない限り致命傷にはならないだろう。
「うむ、まぁ良いだろう。 やってみなさい」
「ありがとうございます。 タルーン様」
学園で成績が良かったベトニアとユリ(カナタファン、詐欺師に騙されてた家族の娘)はコルネット・タルーンの護衛兼中衛を希望し俺のすぐ後ろに控えていた。
中衛はある程度の自由があるが、前衛の方が自分の実力を試したいと言う卒業生が多いのに2人はそうしなかった。
はぁ・・・2人の事を本気で考えないといけないか。
そんな事を考えながらベトニアの方を見る、盗賊と思われる馬車に到着し馬を降りて話をしているようだ。
話し終わりベトニアが馬に乗ろうとした時に、武器を抜きベトニアを羽交い絞めにして武器を首付近に置き人質に取った。 明らかな敵対行動だ。
その瞬間、馬車に向け矢が数発飛んで来たので風の魔法で矢を落とす。
周りは皆がいるのである程度の警戒だけで、ベトニアの手助けに・・・そう思った時にはベトニアが一人倒したところだった。 二人目も足を折られた。
なんだこれ? 俺いらなくない?
通信機をONにすると盗賊確保完了の報告をしていた。