第307話
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キョウ・サワギ・シレネが本当に行った事は、かなり先を読んだ策ではない。 結果的にそう見えただけの物なのだ。
最初に、ウルフローナ国が発表した新薬は偽物だと思っていた。
その昔、色んな団体や国が薬を開発したと次々に発表し詐欺を行ってきた歴史があるし、獣人族の技術力は人族の最弱国よりも低いとされていたからである。
なので特に何の反応も示さず、寄付金を増やす算段を考えていた。 鹿の獣人の国を征服する事と砂海を渡る船の案が良い例である。
しかし、昔に目的があると言い短期雇用した凄腕の錬金術師と再会し新薬の存在を確認できたのである。
新薬は国交のある国から順に渡されており、ダンジョン都市を挟んだ人族の国には入ってきていないのが確認が遅れた原因と言える。 慌てて策を巡らしだしたのだ。
そして、スノードロップ領やダンジョン都市含むジャーロス領にも人が集まっている事が確認でき、錬金術師がヴァンパイアの封印を解きたいと言っていた事を思いだす。
その後に、エリカ・ストック・ムスカリを送れば色々と策が巡らせられる事を思い付いたのである。
今回のスノードロップ領でのカナタたちの足止めなどは策ですらなく、流れによる副産物に過ぎない。
キョウ・サワギ・シレネは頭は間違えなく良いのだが、今までの者達が相手にならず先を読む事を殆どしなくなってしまっていたのである。
こうして、カナタとキョウ・サワギ・シレネの2人は思い違いをする事になった。
カナタは見えない敵ことキョウの事を過大評価し、キョウはカナタ含むソメイヨシノの事を過小評価している。
カナタは、自分の思い描く最悪にならないように布石を打つ、たとえ使われずにただの労力になったとしてもだ。
キョウは、自分に勝てる者などいないと高をくくり未だに遊び半分で相手をしている。
この二人の思い違いがどのような結果になるのだろうか。
◇◆
死屍累累、この言葉がぴったりに合うようなこの状況。
兵士達は誰も死んではいないんだけど、過呼吸になってしまったものや吐しゃ物で汚れている者もいる。
はぁ、もう少しまともに戦えると思ったんだけど、ボロボロだな。
まず最初に卒業生達を見て兵士が舐めた態度を取っていた。
第1試合のセラン君に手も足も出ずに負けたのを見て気を引き締めていたみたいだけど、それではもう遅すぎる。
しかも、ここまで体力が無いものなのか? まだ、兵士1人の練習試合数は3試合しかして無いぞ?
フランさんとヘデラ侯爵が頭を抱え何かを話し合っている。
組み手が一通り終わった時、兵士達全員を介抱し着替えさせて地面の上に正座させる。
見取り稽古とまではいかなくても、卒業生達の練習試合を見せておこうと思う。
力押しだけの勝負ではなく、気合で威嚇し打ち合い技で受け流しまた打つ。
最近はショウマ君に学生の指導を任せたから気が付かなかったけど、かなり成長しているようだ。
特にユリ(カナタファン、詐欺師に騙されてた家族の娘)の成長が凄い気がする。
私は戦闘が苦手で勉強も苦手で、良い所なんてないんですって言ってた事を昨日のように思いだされる。
いまでは、左手の木刀を防御に右手の木刀を攻撃に使用し、攻撃により過ぎないように戦っている。
しかし、もっとも凄いのはセラン(セードルフの息子)とベトニア(カナタファン、塩の迷宮の帰り道に助けた鬼族の男の娘)だ。
主体は防御だが、攻撃、魔法のタイミングがものすごく上手い、攻守のバランスのとれたセラン。
主体は攻撃、一点突破なら誰にも負けないが防御が鬼のギフトの硬化頼りのベトニア。
最終的には2人が残って戦っている。
2人の成長を見ていると感慨深い物を感じる。
最終的に勝利したのはセラン。 手の内を知り尽くしているってのもあるけど、俺達の修行を長く経験した差が出た感じだな。
兵士達に食事を配り、卒業生達には依頼料を配る。
卒業生達にも食事を配っても良いと思ったのだが、ダンジョン都市に行くまでが依頼だと卒業生から拒否された。
生真面目というかなんと言うか、皆本物の依頼だと思って頑張ってくれている事に嬉しく思う。
一方の兵士達はようやく終わったとホッとしているのが手に取るようにわかる。
これは、鍛えなおさないとだろうな。
フランさんを呼び、兵士を鍛える為に王都の兵を呼び交換させる事を提案する。
「しかしな、この兵達は姉さまの私兵の者達だ。 かってに移動させる事などは出来ん。
だが、兵を呼び鍛えなおす事は可能だろう。 姉さまに言っておく」
フランさんはそれだけ言うとヘデラ侯爵の所へ移動した。
兵士達のことはこれで良いとして、明日の為に準備を始めよう。
本来は、今日にでも盗賊を捕らえてダンジョン都市に移動したい。
だが、相手が何を考えているか読めない状態では後手に回る可能性が高い。
それならば、万全を期して移動したい。
既に準備を始めている皆の元へ移動する。
◇◆ リョウタロウ視線。
本当にカナタさんは色んな事を思い付く、足手まといにならないように僕は僕の出来る事をやらなくては。
ダンジョン都市に到着し、人族専用の門をくぐり中に入る。
うっ臭い、なんだこれ凄い汚い街だな。 ゴミはそこら従に落ちてるし、排泄物も落ちている。
かろうじて真ん中の馬車が通る部分は落ちていない。
ワイバーンのインナーのマスクをしてエアヴェールの魔法をかけ移動する。
探索者ギルドに入ると、怒号が聞こえてきた。
「俺達は既に探索者登録を終えているって言ってんだろ! 再登録が必要ってのはなんでなんだよ!」
厳つい冒険者達は、受付の男性に今にも掴みかかる勢いで怒鳴っている。
「申し訳ありません、規則ですので。 再登録には金貨1枚かかりますがどうされますか?」
「だから、一月だけ街から離れただけでなんで再登録が必要なのか聞いてるんだよ!」
「申し訳ありません、規則ですので」
「お前、喧嘩売ってるのか? 説明ぐらいしろってんだよ!」
厳つい冒険者が受付の男性の胸倉を掴み引き寄せながら言う。
その時、探索者ギルドの奥からハーフプレートを着た集団が出てきて厳つい男達を囲む。
いきなりの事で呆然とする冒険者達に何の言葉も発さずに手に持つ金属の棒で叩き始めた。
冒険者達は咄嗟に武器を構えようとしたが間に合わずボコボコにされ、外に叩きだされた。
人族の探索者ギルドは思っていたよりバイオレンスな所のようだ。
ギルド内で粗末な食事をしている冒険者の集団に話しかける。
「ちょっと話を聞かせてもらいたいけど良いかな?」
大銅貨を1枚テーブルの上に置き、冒険者達いるのテーブルの空いている椅子に座る。
「話の内容による」
「ブレイブソードのライナを探している。 どこにいるか解る?」
リョウタロウは大銅貨を1枚見せながら聞く。
「ライナさんの知り合いか?」
「そうだね。 一緒に魔物討伐をした事もある」
「そうか、一昨日帰ってきて今は冒険者ギルドにいると思う。 探索者ギルドで今と同じ事があったし」
「ボコボコに?」
「いや、返り討ちにして登録抹消と言いわれていた」
大銅貨を渡し、探索者ギルドを出て中立地帯と言われる冒険者ギルドのいる区画へ。
汚れなどは減ったが、マスクを外すと酷い臭いがする。
冒険者ギルドの中はかなりの人でごった返していた。
「おい! なんで探索者ギルドの奴らに何も言わないんだ!!」
「お前らは俺達をなんだと思っているんだ!」
暴動もしくはデモのようなものが起こっているようだ。
「五月蝿いぞお前ら! 全員登録抹消されたいのか!」
二階から目つきの悪い優男が、筋骨隆々の男達を引き連れて降りてきた。
「ギ、ギルドマスター」
「探索者ギルドとは相互関係にあるが、こちらでは一切干渉できない。 解ったらさっさと散れ!」
冒険者達は悔しそうな顔を浮かべてギルドを出ていく。
話に聞いていたよりも酷い事になっていると認識し、リョウタロウは気を引き締める。