第306話
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夜に指しかかった頃には全員が領主の屋敷に集まった。
最後に集まった女性チームは食事がまだだったが、軽食としてサンドイッチなどを出し渡した資料を読んで貰っている。
皆が読み終えたであろう所で話し合いが始まる。
ヘデラ領主には、口を挟まないようにフランさんからお願いをされているので見ているだけだ。
「まず最初に、渡した資料に目を通してもらったと思います。 何か気が付いた点がある人は手をあげてから発言して下さい」
「はい、カナタ先生」
「はい、コノミちゃん」
「これってやる意味あります? ズバッと犯人を教えてくれれば解決ですよね?」
「あのねぇ、コノミちゃん。 俺とケイタ君の二人の答えは確かに近いものだった。 でも、違う観点から見れる人がいるかもしれないでしょ? それも含めて考えたいの」
「三人寄れば文殊の知恵ってヤツですか?」
「なんか違う気がするけど、まぁいいや。 で、どう考える?」
「え? いきなり私に聞きます? こう見えて知略担当じゃないですよ?」
コノミちゃんは胸を張って言う。
「それは知ってるから安心して、どう思う?」
「ん~、冒険者ギルドと探索者ギルド、マーテルマルベリー、レティア教の3組が手を結んでいるとかですかね?」
「うん、それもあると思う」
こうやって全員に話を聞くが、殆どコノミちゃんと同意見のようだ。
タクミ君だけは、テンプレだと宗教関係が怪しいですよねと言っていたが、特に根拠はないらしい。
「俺とケイタ君は意見が一致して、全てレティア教の仕業だという結論に達しています」
「やった。 当たった」
タクミ君は小さくガッツポーズをする。
「ちゃんと最後まで聞いてね。 事の発端は新薬にあると思うんだけど、ちょっと難しいけど順を追って説明していくね。
新薬を手に入れる為には、どうすれば一番速いと思う?」
俺はアカネちゃんに掌を向ける。
「え~? 買うとか~?」
「うん、アカネちゃん正解。 でも、売ってる量が少なくて手に入らない場合は?」
「持っている人から奪う、ですか?」
「そうです、リョウさん。 皆の挙げた3箇所に言える事だけど、有名処で奪うにしても大義名分が必要でしょ? 同じ奪うなら大元から奪ったほうが良いと考えるのは自然だよね。 そこでアンデッドを使う」
「前にわいてきたアンデッドをですか?」
「そうそう、アンデッドが大量に現れた時に偶々いたのがムスカリ司教。 一緒に戦い勝てれば、交渉で優先して手に入るように交渉できる。 負けてムスカリ司教が亡くなっても、ウルフローナ国へ騎士などを送る口実になる。 ムスカリ司教に急いで行けって言ったのは、大義名分を得る為なんだろうね」
「おいおい、そりゃあ酷い話だな。 あんだけ大量のアンデッドが襲ってきたって事は・・・」
「俺もそう思います、タダシさん。 たぶん捨て駒にされたんでしょう。
新薬を作っている施設を押さえれば、自分達でも作れると考えたんじゃないかと思います。
そして、大量のアンデッドで俺達の足止めも出来るとか、後で戦争になっても兵士が傷ついている国など相手にならないとか。 想像を膨らませれば限がないほど理由があります」
「質問だ、カナタさん。 アンデッドを大量に出したら自分達もやばいんじゃねぇか?」
「そう思うよね、ショウマ君。 それで、このスノードロップ領に人を大量に集めたんだと思う。 壁にする為にね」
「ん? 良くわかんねぇけどどういう事だ?」
「今回の戦争騒ぎも盗賊騒ぎも、最初から仕組まれてた可能性が高いって事」
ショウマ君は腕を組んで首をかしげる。
「まず、レティア教の誰かが新薬を欲している。 そこまでは良いね?」
ショウマ君達は頷く。
「新薬のレシピか工場、働いている人のどれかを手に入れたい。 レシピは口外出来ないように魔法契約している、働いている人は城から1歩も出して貰えないし管理もかなりのものだ。 となると、工場を押さえるのが楽だと考える。
武力を持って攻め入りたいが体面がある為攻め入れない。 となれば、モンスターに襲わせれば良い。
俺達の強さは噂になっているだろうから簡単な敵じゃ駄目。 で、アンデッドを多く召喚する事を思い付く。
ただ、自分達も危険になる可能性があり壁となる所を作りたい。 食料を滞らせれば、スノードロップ領に冒険者が移動するはず。 その為には、食料を高くする必要がある。
そこで、盗賊をするように人族の探索者ギルドを唆す。 ある程度高くなったところで、マーテルマルベリーのジャーロス伯爵領に戦争が起こりそうとか言って食料を買わせ、もっと食料を高くする。
ますます冒険者がスノードロップ領に移動し、兵力として確保される。 これで、壁が一枚完成する」
各々顔をしかめている。
「アンデッドを召喚し、ウルフローナ王都モンステラが落ちれば成功。
落ちなかったとしても、司教が相応の働きをしていれば交渉が有利に運べる。
もし、司教が亡くなったとしても仇を撃つ為の出兵という事で攻め入る事が出来る。
最悪、ダンジョン都市を落とせばマーテルマルベリーの軍を王都に送る事も可能になる。 つまり四段構えの作戦。
しかし、ここで問題が起こった。 俺達がアンデッドの集団に無傷で勝ってしまったのだ。 危険だと思っていたアンデッドの集団を数人で倒した冒険者をダンジョン都市に移動させればダンジョンを攻略されかねない。
そうなると四段の全ての作戦すら使えなくなる。
すると、次の手を繰り出す。 それは、俺達の足止めと兵糧攻めの強化。
戦争が起こりそうと伝えられれば、強い冒険者をスノードロップ領に置いておきたくなる。 俺達はウルフローナ国に肩入れしていると見られているだろうし、強く出れないとでも思ったんだろうね」
「カナタさん、わりぃ。 俺達の足止めって、司教のヤツが依頼されてなかったっけか?」
「うん、それはマーテルマルベリーからの依頼。
たぶんだけど、イサオさんが俺達がいると攻略が遅れるとか言ってたんじゃないかな? 俺達の事を甘く見て、アンデッドで足止めは十分だと思ってたみたいだけど。
今回のは黒幕からの直接的な足止め、武力じゃなく心理を上手く使ったものだから前よりも面倒だね」
「わかんねぇけど、つまり面倒な敵って事で良いのか?」
「まぁ、それで合ってると思ってもらって良いと思うよ。
さて、ヘデラ侯爵殿。 俺達の見解はこんな感じですけど、何か質問がありますか?」
「確かに話の辻褄が合っています。 ですが、憶測であって確証がある物ではないですし、問題が解決した訳でもないです」
ん? 当たりが柔らかくなった? もしかして、食料の問題が解決したからか?
「まぁ、それはそうですね。 当面の問題解決として、ダンジョン都市に送った精鋭の兵士を戻しましょう。 そうすれば、戦力としては申し分ないと思います」
俺がそう言うと、フランさんに本当なのか聞いていた。 俺が何か言うよりもフランさんからの報が信用出来るって事だろう。
まだ完全に信用を得ていないって事か、まぁどうでもいいことだけど。
「わかりました。 しかし、実際に自分の目で見なければ信じられません。 兵士達が戻るまで居て頂きます」
「兵士を呼びに行きたいんですけど、それも駄目ですか?」
「1人だけ行くと言うのであれば構いません。 ですが、3日間でお戻り下さい」
あ、やっぱり喋り方が柔らかくなってる。
「それで構いません。 そうだ、待ってるのも暇でしょうから、卒業生達と兵士の皆さんで練習試合でもしませんか? そうすれば、戻ってくる兵士がどの位の強さか分かると思いますよ」
本人の希望により、リョウさんが兵士達を呼びに行く事になった。
次の話の冒頭にて、ズレの話が少し入ります。