第303話
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応接室に入ると金糸が使われたワンピースを着た女性が立っていた。 顔色も悪く、疲れが溜まっている様に見える。
もしかして、病気なのか? でも、貧血とかって線もあるか。
昔のウルフローナの王都のファッションよりも中世寄りの服装って感じだな。
「フランソワーズ・ウルフニア姫様、ようこそ御出で下さいました」
女性はそう言うとスカート持ち深く頭を下げる。
「うむ、姉さまもご盛栄で何よりだ。 急な訪問を許してくれ」
「いえ、訪問していただき嬉しく思います」
「ところで、姉さま。 その喋り方はどうなさったんですか?」
「今まで通りですが、何かございましたか?」
ヘデラ侯爵がフランさんに笑顔で答える。
「そ、そうですか。 それで、何かございましたか?」
フランさん、言葉がうつっていますよ? 大丈夫かな?
ヘデラ侯爵が国が決めた方針や法律の話をどんどん質問していく、フランさんは終始タジタジで俺のフォローで何とか質問に答える。
「なるほど、そう言う事だったのですね。 最後の質問です。 ソメイヨシノの皆さんを国の冒険者に指定しないのは何故ですか?」
国の冒険者に指定すると、国から出るだけでかなりの手続きをしなければならず、冒険者といって良いのか解らない状態になる・・・だったっけ?
「な! 何を言っているんですか! そんな事をすれば、ソメイヨシノが勇者を目指す事が出来なくなります!」
「それでも国のためにやるべきではないですか?」
「それは・・・」
フランさんは苦い顔をしてしまった。
「あ~、本人を目の前にそんなことを言わないでいただけますか?」
俺は、笑顔でヘデラ侯爵の方を向く。
「これは国事です。 冒険者は口を挟む事ではありません」
「姉さま! このカナタは・・・ソメイヨシノは国に多大な貢献をしてくれたんですよ! それなのに、彼らの目的を捨てさせ国のために尽くさせようと思うんですか!」
「それでもです! 国のお抱えになればソメイヨシノも両方に益があります! 勇者になるなど危険に晒さなければならぬなど、正気とは思えません!」
う~ん、確かにめんどくさいな。 そもそも益があるから勇者を目指さなくても良いってのはなんでだ?
俺の事を抜きにして、子供や孫、両親、兄弟姉妹、友人を皆置いてここに来てしまっている。 帰りたいと願うのが自然だろ? それとも、俺達の願いを知らないとかか?
そんな事を考えながら部屋の中や外にいる人を探る。 ふむ、天井に4人、床下に2人、扉の外に10人、テラスの入り口の影に2人。
こいつらは暗殺に向かない。 音が漏れてるし、気配が凄い。
一番用心しなきゃいけないのは、ヘデラ侯爵の座る長いすの裏に隠れている1人。 気配を消すのが上手すぎるし、索敵に引っ掛からない。 まぁ魔流眼を確認の為に使ったからいるのは確定なんだけど。
エミエミさんが鍛えてくれて無かったら危なかったかもしれないな。
「はぁはぁはぁ、話し合いは平行線ですね。 少し休憩するとしましょう。 はぁはぁ・・・どうぞ、お掛け下さい」
ヘデラ侯爵が顳顬を抑えながら言う。
酸欠になる位言い合ってたか? いや、そんな事はないと思うけど・・・
やっぱり貧血か? それとも病気か? 魔流眼で見ても魔力の滞りなどはない。 さっぱり解らないから、ユカさん呼んだほうが良いかな?
「うむ、解りました。 頑固なところも変わっていないようですね」
フランさんは、つんつんとした感じで言う。
ヘデラ侯爵がフランさんの苦言を意に介さずにお茶を執事に頼む。
俺とフランさんが座ってからヘデラ侯爵も長いすに座る。 程なくしてお茶とクッキーのようなものが出てくる。
「ヘデラ侯爵、体調がよろしくないのではないですか?」
「体調の事は現在は関係のない事です。 お黙りなさい」
「姉さま! 失礼にも程があります。 このカナタは、救国の英雄なのですよ。 先ほどから聞いていますが、言葉が過ぎると思っています!」
フランさんの中で俺ってそんな地位だったのね。 イラッとしたけど、抑えた方が良いのかなぁ。
「それは知っています。 だからこそ、この国に民に全てに必要不可欠。 居て貰うだけで良いのです。 それなのに何故国外へ行こうと言うのを止めないのですか!」
居て貰うだけって何? 俺達って客寄せパンダか何かなのか?
「この国にとって必要だからという理由で引き止める事は本人の意思に反し、勇者を目指すというのを止めるのは女神レティアの意思に反します。 この国に天罰が下りますよ」
「神は何もしてくれません! 国益を、国民を思うのなら行動すべきです!」
ヘデラ侯爵はしかめっ面をして紅茶を手に取り一口飲む。
ヘデラ侯爵の爪が異常なほど白い。 やはり貧血っぽいな。
「フランさん、お話の途中に失礼します。 ヘデラ侯爵は病気の可能性が高いです。 話し合いは1度中断しましょう」
「な! どのような病気だ!? まさか、死病・・・なのか?」
ヘデラ侯爵は驚きの余り声がでないようだ。
「あ、そんな大層なものじゃないですよ。 疲れ易くなったり、頭痛がしたりとかそんな感じのものだったと思います」
「そうか。 治るのか?」
「ええ、治りますよ。 薬も必要じゃありません。 食事をちょっと変えるだけで治るんです」
「お待ちなさい! 何故貴方にそんな事がわかるのですか!」
「姉さま。 カナタは、ファウスト男爵が師と仰ぐほどの薬師です。 聖女といわれているユカの陰に隠れていますが実力のある治療師でもあります」
ヘデラ侯爵は俺に触られるのが嫌なようなので、フランさんに指示して手を見せてもらう。 やはり爪が白すぎる。
許可を取り、アロマオイルを炊いて話をもっと聞いていく。 最近の体調や食事の事なども細かく聞いた。
ダンジョン都市の食料が余り入ってこず野菜や果物、肉などが出回らず最近は口にしていなかったようだ。
冒険者が個人的に少量の肉などを持って来てはいるが、全く足りておらず最近は市場に出たらすぐに買われてしまい困っているとの事。
ビタミンやカルシウムが足らないからイライラしてたのかな?
「解りました。 とりあえず、これを食べていただいてもいいですか?」
亜空間収納からレバニラを取り出し、ヘデラ侯爵の前に置く。 このレバニラは、オークレバーを牛乳に浸し臭みを取ったものだ。
本来なら氷水につけて血抜きを繰り返すのだが、ギフトを使用すれば勝手に血が出てくれるので氷水につけてはいない。
そして、ここで使った牛乳とはブラックビーフから取ったものではない。 チーズの実がなる木の未成熟な実の汁を絞ったものだ。
これにより、牛乳が必要なレシピを作れるようにもなった。
小皿を3つ出し、俺とフランさんとヘデラ侯爵の前にレバニラを分けて置く。 汁物も出した方が言いと思い豚汁も出す。
毒見のために先に食べようと思っていたら、フランさんが既に食べていた。
「うむ、これはカナタが作ったものだな? タダシの作った物よりも味が荒い」
「タダシさんと比べないでください。 というか、最初に俺が毒見として食べるのが一般的でしょう? 何で食べちゃってるんですか」
「よそってくれたという事は、食べても言いという事だろう? 何が駄目なのだ?」
「もうちょっと警戒心を持ってですね。 はぁ・・・もういいです。 ヘデラ侯爵も食べて下さい。 ある程度回復するはずです。 出来れば残さずに食べて下さいね」
恐る恐るヘデラ侯爵はスプーンを持ち、豚汁を一口飲む。
「美味しい・・・」
ヘデラ侯爵は、豚汁を見つめながら呟く。
俺はヘデラ侯爵ににっこりと微笑むと、驚くほど鋭い視線を向けられた。
なんだろう? そんな悪い事したかなぁ?
「カナタ。 折角だ、デザートも出したらどうだ?」
「それはフランさんが食べたいだけでしょう? まぁ、でも、良いですよ出しますよ」
俺はあきれながら言う。
白竹の実で作ったモンブランの様な物を出して食べてもらう。
いつ食事をしたのか解らなかった為に、少量だけの食事となったが大丈夫だろう。
そう考えて、フランさんを見るともの欲しそうにこちらを見ていた。