ナリッシュとダンジョン(5)
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話を聞くと、薬やら何やらの取引でウルフローナへ鍛冶師として行く為に国を出て、弟子の顔を見て行こうとここに寄ったらしい。
いつ到着するかとかそう言う制約はないらしいのでのんびり向かっても良いそうだ。
「最後に1つ聞かせて欲しいんだが、この武器の最後の加工はなんだ? 魔道具の回路の様にも感じられるが、こんなもの聞いた事も見た事もない」
師匠さんは、真剣な目でこちらを見てくる。
「たぶんそれは、付加魔法と言うものじゃないかと思います。 強制的に魔武器にしてしまう魔法だと言ってましたけど。 燃費が非常に悪く、凄い効果が有るものになるとエルフでも使用出来ないっぽいんです」
「はぁ? じゃあ、これは魔武器って事か? 魔物の素材の本来の力を発揮させたものやワシ等ドワーフの様に鍛冶の最中に力を込めるクリエイションマジックや迷宮で拾える物以外で魔武器が・・・」
「詳しくは知らないんですけどそう言ってましたね。 穴がどうのって言われたんですけど本当に良く解らなくて」
「穴? 穴など空いてないぞ? どういうことだ? いや、それよりもこれが本当に魔武器だとすれば、とんでもない・・・ん? 魔武器? あ! 何故獣人のお前さん達が使える? 魔力が高いエルフでも使えないのではなかったのか?」
「えっとですね。 低い効果の物なら、僕達は人族のかけだし魔法使い程度の魔力量があるので何とか使えるって感じですね」
「獣人が魔力を? どういう事だ?」
「その武器を作り出したソメイヨシノの皆さんの訓練に参加するとLvも魔力も身体能力もギフトも上がるんです。 まぁ、訓練で死ななければですけど・・・」
「いやいやいや、死にそうになる訓練はやっているところも多いがLvなど上がらんし、魔力が上がるなんて聞いた事もないぞ? ま、まぁその目を見たらうそではないと言う事は信じても良いが」
「未だに夢を見ます・・・最後のほうは師匠の手足を縛って手合わせをし、僕達が大怪我しないようにしてもらってましたけど、最初の頃は毎日骨折や大怪我をしてました」
「師匠の手足を縛って手合わせして負けていたって事か? そんだけ強い奴がいるってのはにわかに信じられんが・・・期待のホープと呼ばれているナリッシュが言うんだ。 信じたほうが良いだろうな」
「期待のホープ?」
「知らんのか? 探索ギルドで噂になっておったぞ? 成人して間もない3人組が4級に上がって、PTを強化しているとな」
褒められて悪い気はしないがやはり落ち着かない。 今までゴブリンを3人で何とか倒してお金を稼いだり、お金が無くて蛙や飛蝗なんかを捕獲して食べて過ごしてたわけだしね。
「もう1度、武器を詳しく見せてもらっても良いか?」
「ええ、どうぞ」
僕は師匠さんに槍を渡す。
「魔力を入れてみても良いか?」
僕は了承すると師匠さんは武器を詳しく見始めた。 驚くほど真剣な眼差しで隅々まで見ている。
ハンマーで叩きたいと言われ軽くならばと了承すると、軽くハンマーで叩いた。
「なるほど、硬化が付いていたのか。 ふむ面白い」
満足したのか武器を返してもらうと、また武器を売って欲しいと迫られる。
断ると、今度はドワーフの国に武器について報告して良いか聞かれ、本人に直接聞くと言う事で話はまとまった。
帰り道に冒険者ギルドに寄り手紙が届いていないか確認する。 まだ届いてないようだ。
いつもなら既に届いている日にちなのにおかしいな? 何かあったのかな?
ここにいる限り待っている事しか出来ないんだし、あせらず気長に待った方が良いな。
◇◆
「なぁ師匠。 いや、聖3等鍛冶師ラクチェ殿、ナリッシュに武器の危険性を言わなくて良かったのか?」
ピエッリは腕を組んで言う。
「なんじゃ、気が付いておったのか」
「そりゃあな。 望んだ効果が付く付加魔法か・・・恐ろしいったらないぜ」
「それだけじゃないぞ? 迷宮産の武器にすら効果を足す事が出来る可能性もある。 使い方によっては神の武器を作り出せる可能性もあるって事だ」
「本当に、とてつもない話だな。 魔武器化やクリエイションマジックした物にも付けられるんだろうな」
「そうだな。 しかし、魔武器化できる高位の魔物を倒せる奴は何を持たせても危ないだろうし、クリエイションマジックは何が付くのかは選べんから大丈夫だろう」
「それもそうだな、強い奴はそれなりの武器を持っているから今更考えるだけ無駄だろう。 でも、師匠ならクリエイションマジックの確率5割は狙えるんじゃないのか?」
「ばかもん、6割はいけるわい。 ただ、2重斬撃などのレア効果となると1%程度だろうな」
「流石師匠だな。 俺はレア効果なんて付いた事すらない」
「当たり前だ! 春まで滞在が伸びるから、きっちり鍛えなおしてやるわい」
「そりゃないぜ~・・・」
「嫌であれば、ナリッシュが持ってきた酒を用意せい!」
「ああ、あれは美味かったな」
「そうだな、美味かった」
◇◆
次の日の朝、いつもの訓練から宿にいったん戻ると宿の前に大荷物が乗った荷車や馬車が止まっていた。
宿の目の前に止められ、少し邪魔だなと思いながら通り過ぎようとすると、身なりの整った商人が話しかけてきた。
「すみません失礼ですが、ナリッシュさんですか?」
「はい、そうですけど?」
「ああ、良かった。 ダンジョンに潜っていたらどうしようかと思っていました。 カナタ様から、直接お渡しするように言われているお荷物をお届けに来ました」
「カナタさんから?」
「ええ、手紙も預かっています。 それで、この木箱5箱分なのですがどこに運びましょうか?」
荷物を受け取り、部屋へ運び全員集まったところで手紙を音読する。
「いつもいろいろな情報をありがとう。 皆で春くらいに行こうと思います。 これで依頼は完全に完了とし、お金は振り込んであるので確認してください。 あと、今までの感謝を込めて色々詰め合わせて見ました。
最後に、そっちに行ったらショウマ君が一緒に訓練しようって言ってるからね・・・」
僕は読み終わるとミリアとカリッシュの顔を見る。 二人とも顔が青い・・・そりゃそうだ、訓練も新しく入った2人に合わせて行っているし、実戦もグランドワイバーン以外は楽に狩れる魔物としか対峙していない。
「鍛えなおさないと・・・」
僕は呟く。
「うん、そうだね。 最近怠けちゃったからね・・・死にたくないし」
ミリアが震える肩を抑えながら言う。
「ダンジョンの最奥に逃げるのは? 何とかやり過ごすだけでも」
カリッシュは死んだ魚の目で言う。
「カナタさん達が来て、ダンジョンに潜って見付からないと本気で考えてるのか? 下手すると、魔物と一緒に殲滅されるぞ」
「あ・・・笑いながら敵を一瞬で蹂躙する姿が浮かんだ」
カリッシュが一種のトリップのような発言をする。
「あの、そんなにヤバイ方なんですか?」
フェーアトが小さい声でおずおずと聞く。
「普段は温厚だけど、戦闘は古龍やネームド並み」 「普段は神様みたいに優しい、本気でスキル使われたら秒で瞬殺される」 「普段は面白くて楽しい人達、戦闘は絶対なる死」
「「「ソメイヨシノと戦うなら幼竜と単騎で戦うほうが生き残る可能性あると言う格言が出来るほど」」」
「うわぁ・・・皆さんよりも遥かに強いって言うのは想像付かないんですけど」
「ドワーフの師匠さんが言ってた事を鵜呑みにするなら、魔法も凄いんですか?」
レーテが面白そうに問う。
「大規模魔法は土しか見た事ないけど、本気でやったらこの街全部壊せるんじゃないかな?」
「その土魔法に付いて詳しく聞きたいです!」
「えっと、大畑一区画の土を持ち上げて土と小石に分けてた」
「規格外なのは解るんですが、どんな魔法なんです?」
「さぁ?」
ナリッシュたちはその日より昔ソメイヨシノで行ってた訓練を模倣し体を鍛え始める・・・死なないようにと・・・




