ナリッシュとダンジョン(4)
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「おい! おい! ナリッシュ! 聞いているのか?」
ピエッリさんに肩を掴んで揺すられハッと目を覚ます。
「すみません。 気絶していたようです」
「おいおい、大丈夫か? まぁいい、この武器はどこで手に入れたのか聞いても良いか?」
「はい、えっとですね。 ウルフローナ国の1級クラン、ソメイヨシノのメンバーのタクミさんとケイタさんが作ったものです」
「聞いた事のない名だな。 てことは、先祖返りのドワーフと高Lvのエルフか?」
「いえ、2人とも人族です」
「待て・・・じゃあ、これは人族が作ったって事か? そんな人族がいたら大騒ぎになるだろ」
「大騒ぎと言えば大騒ぎしていますね。 桜グループって解りますか?」
「ああ、ウルフローナ発祥の手広くやっている商店だろう? あそこの酒はいい物が多い高いけどな」
ピエッリさんは、お酒の味を思い出したのかニヤニヤしだした。
「何!? 酒だと!? どこにある? さっさと出せ!」
武器を事細かく見ていた師匠さんは酒と聞き、ピエッリさんの方をもち大声で言う。
「んなもんとっくのとうに全部飲んだ! 師匠が来ると知っていたら用意出来ない事も無かったが、いきなり連絡も無しに来やがるからだろう」
「それでも俺の弟子か! 今日中に用意しろ!」
「無理に決まっているだろうが! ウルフローナでも数量限定で売ってるというし、ここに運ばれてくる酒は人族が殆ど買い占めちまってるらしいからな」
「それでも師匠のために用意するのが弟子だろうが! ほんっとうに可愛げのない」
「うるさいぞクソ師匠! 話が進まないだろうが、黙って武器を見ておけ!」
「これだから最近の弟子は・・・」
「あの・・・もしかしたら、お酒が送られてくるかもしれません。 前にも調味料とか少し送ってもらえたので。 少し前の物でも良ければ残ってますけど」
僕は2人の会話がそれそうだったので助け舟を出す。
「「本当か!? 是非持ってきてくれ」」
2人の声がハモる。
「は、はい。 解りました」
酒を渡せば今回の鑑定やメンテナンスの料金がタダになった。 お酒は、情報を送る報酬として調味料を送ってもらう中に入っていた物で、お世話になった人に渡すように書いてあったし、あげちゃってもいいはずだ。
フェーアトが宿屋に行き急いで持ってきてくれる事になった。
なんだかんだ横道にそれたが話を戻す事に・・・
「その桜グループの商店を作った人達が、僕達の武器を作ったんです」
「はぁ? 意味が解らんぞ? そいつは商人で鍛冶師なのか? いや、クランと言っていたし、大人数の中の数人が商人とかか」
「商人・・・になるのかは解りませんが、クラン全員がその魔鉄を作る事が出来ると言ってました。 武器を作るのはタクミさんが1番上手いらしいんですけど」
「おいおいおいおい、そんな事あるわけないだろう? どの規模のクランかわからんが、そんな奴らがいたら噂くらいは届くぞ」
「かなり小規模クランなんです、12人しかいませんし。 クランが出来たのは3年前くらいですかね?」
「3年? その前は何をやってたんだ?」
「クランのリーダーのカナタさんは行商と言ってましたけど、何処にいたのかとかは知りません」
「そうか・・・まぁいい。 バラして細かくメンテしても良いんだよな?」
「はい、お願いします」
短剣の鑑定をしてもらったが、魔剣と言う事も無く儀式用の宝石が付いたものだと言う。 特に誰も必要としなかった為そのまま換金した。
鎧はかなり良い出来で、今までよりも重くなっていたが予想通り動きも阻害されないし今までの鎧のように動ける。 特に僕が拘った篭手がかなり良かった。 篭手そのものに盾を取りつけたようになっているのだ。
最近では前のようなラウンドシールドではなく、タワーシールドを使用している。 このタワーシールドはダンジョンでの拾い物で魔防具ではないが大きい割りにかなり軽く重宝しているのだが、盾をはずし採取などをしている時に襲われると大きいので装備が間に合わず危ない。
採取の時は僕が見張りで皆に採取をして貰っていたが、これで不意打ちにも対処できるようになったし盾が壊れても何とかなるだろう。
まだお酒を取りに行ったフェーアトが戻ってきていないので、並んでいる武器を眺める。
僕もそろそろミスリルに変えるべきだろうか? いや、まだまだ使えるしこのままで良いかな? う~ん・・・
結局結論は出ず、次は解体用のナイフを新調しようかとナイフを見ているとお酒を持ってフェーアトがやって来てお酒を渡し、その日は代わりの武器を貸してもらい宿へ移動した。
前よりもお金は十分にあるから買ってしまっても良いのだが躊躇してしまうのは貧乏気質が抜けないからかもしれない。
数日後、武器のメンテナンスが終わったと言う事で受け取りに向かう。
「ナリッシュ、頼みがある。 この棍棒で良いから売ってくれないか?」
お店に入るなり師匠さんから頭を下げられ、売って欲しいと言われる。
何がなんだか解らず、呆然としているところにピエッリさんが奥からやってくる。
「おい師匠! いきなりじゃ解らんだろう! ナリッシュ、奥まで来てもらえるか?」
「え? あ、はい。 解りました」
奥の工房には作業台の上に僕達の武器と棍棒が置いてある。 不釣合いにテーブルと椅子もあるので今回のために置いたのではないかと思う。
椅子に座るとピエッリさんの奥さんが飲み物を出してくれた。 かなり長い武器の説明が続く・・・
「とまぁ、メンテナンスしやすいように幾つかに分けられているが1つ1つが継ぎ目なども無く出来上がっているんだ。 この棍棒なんて継ぎ目のひとつもないんだぞ。 音の響きから中は空洞だとは思うが、叩いた時の反響がいつもと違うんだ。 切断して中身を確かめてみたいから売って欲しいというわけだ。 特殊な加工がされているのも解るが詳しくわからん。 なんで、魔武器と同じく値段以上の金額は出すぞ?」
師匠さんは嬉しそうに語る。
「あの、元に戻す事は出来ないんですよね?」
「ああ、さっきも言った通り継ぎ目がない。 綺麗に加工しているわけではなく、全くない。 鋳造で作ればこんな風に綺麗に出来上がるが空洞に作り上げる事は出来ん。 もしかすると風を操り中に泡を発生させる事も出来るかもしれんが、叩いた時の響きから言って全て均一になっていると推測できる。 鋳造する時に棒の中の見えない場所に風を空洞と同じ大きさに固定し続ける事が出来たとしたら別だが、そんな事が出来るくらいなら魔力をドワーフの国に売りミスリルでも買ったほうが楽だ。 しかもこいつは鋳造ではなく鍛造だろう? 金属を触ればそれくらい解る」
「あ、あの、魔法で金属を操って作ったと言ってましたけど、そんな魔法はないんですか?」
「おちょくられたんじゃろう。 そんな魔法などあったら儂らドワーフは商売上がったりだ。 魔力で溶かすだけなら出来るがな」
「な、なるほど。 う~ん・・・考えたんですが、売る事は出来ません」
「そうか、残念だ」
「え? そんなあっさり引き下がるんですか?」
「武器はそいつの命を守るものだ。 無理に奪ったら駄目に決まっているだろう?」
「ええ、まぁその通りですけど」
「そして、俺はウルフローナに行く事になっているから直接聞きゃ良いだろ」
「そうですね。 あ! でも、ソメイヨシノの皆さんがここに来るかもしれないですよ?」
「何だと? 詳しく聞かせろ」
手紙のやり取りをしている事と、夏までには来た方が良いと言う事を書いた事を言うと師匠さんは少し考え始めた。
そして、返事の手紙はまだ届いていない事を伝えた。
「しかたねぇ。 話が終わればウルフローナへ行くはずだったんだが、ここを動かず待った方が良さそうだな」