ナリッシュとダンジョン(3)
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僕達は今もダンジョン内で探索を続けている。
「ふぅ・・・外の時間では夕方過ぎてるし、いつものキャンプ地に戻ろうか」
「「はい」」 「は~い」 「了解しました」
カリッシュとミリアだけではなく、新しく入った2人も返事をしてくれる。
新しく入った2人は簡単に説明すると犯罪奴隷で、1人はポーターもう1人は魔法使いだ。
最初は冒険者ギルドや探索者ギルドのPTメンバー募集をしたのだが、余りにも酷かった。
お試しで一緒にダンジョンに潜ったのだが、カリッシュやミリアが襲われそうになったり、荷物を盗もうとするやからがいた。
僕達も中堅PTとして結構有名になったから、そんな事にもなったと言えるんだけど・・・今思い返しても酷かった。
そんな事があり皆で話し合いをした結果、奴隷を購入する事になった。
ポーターの子は河馬の獣人の子で名前はフェーアト、迷宮都市までの道のりで空腹で盗みを働いて捕まってしまったらしい。
大食いでコストが掛かると言えるけど、料理も出来るし解体も出来るし力持ちだし素直だ。
魔法使いの子は人族の子で名前はレーティアネーレ・ディウスト・ベレッディアーレ(通称レーテ)、領主お抱えの魔法使いだったと言う凄い経歴の持ち主。
だが、領主の息子に手を出されそうになって逃げたら指名手配になっていたようだ。 領主の息子が買い取る予定だったのだが、興味が無くなったのか売られてしまったらしい。
なんとなくだが、戦争して大量に戦時奴隷(犯罪奴隷と同義)が入ったからなのではないかと思う。
「ナリッシュ様! 積み込み終わりました」
フェーアトがリヤカーの隣で言う。
「うん、ありがとう。 それにしても凄い量になっちゃったね」
「そうですね。 でも、残していくのは勿体無いですし」
「リヤカー押せそう?」
「このぐらいどうって事ないです! いっぱい食べさせてもらってるんですから、頑張りますよ!」
「了解、僕が後ろから押すからミリアとカリッシュは周囲の警戒、レーテは氷でお肉の温度を下げるのとバックアップをよろしく」
いつものキャンプ地で1泊した後、転移石(ボスを倒し奥に進むとあるクリスタル)で1階に戻りリヤカーを無理やり持ち上げ階段をあがりダンジョンを後にした。
オーク肉や魔物の素材の納品をするために探索者ギルドへと向かう。
探索者ギルドに僕達が入ると、一瞬の静寂から少し騒がしくなる。
今ここにいるのはランクの低い新人のような冒険者達、中堅でグランドワイバーンを倒し冒険者ランクは既に4となった僕達の様な中堅の探索者が入ってくれば騒がしくなってしまうのはしょうがないと思う。
鍛えて欲しいと言われたり、PTへ入りたいと縋って来なくなっただけましだと感じている。
「はい、納品と余った素材の買い取りは終わりました。 報酬はいつも通り冒険者カードに振込みでいいですか?」
受付嬢が笑顔で言う。
「はい、お願いします」
「畏まりました。 振込みは明日となりますのでご了承ください」
「了解しました。 あと、手紙は届いてませんか?」
「まだ届いておりません。」
「そうですか。 じゃあ、皆行こうか」
最近の僕達は30層までの新人探索者が好んで探索するところを中心に回っている。
奴隷の2人を鍛える意味もあるのだが、グランドワイバーンの皮を使用した鎧が出来上がるのを待っていると言うのもある。
グランドワイバーンの皮を売り、店売りしているグランドワイバーンの革鎧を買ったほうが調整するだけだからすぐに受け取れるのだが、お金も結構持っているので特注したわけだ。
現在着ているカナタ様が作った革鎧を元にして作ってもらっているから、動きも阻害されないだろうし他にも改良して貰った箇所もあるから楽しみだ。
「ねぇ、ナリッシュ。 そろそろ武器もメンテに出した方がいいんじゃない? カナタ様達の付加魔法(硬化:硬くなるだけなので魔力消費がかなり少ない)のお陰で斬れ味は悪くなってはないし、どこにも痛みはないと思うんだけど」
ミリアが武器をチラッと見て言う。
「その方が良いのかなぁ?」
僕も武器を見ながら呟く。
「メンテナンスの仕方や研ぎについて事細かく教えられたけど、半年に1度はちゃんとしたメンテに出すように言われてたわけだし」
「そうだね。 半年も過ぎてるし細かいところまで見てもらおうか」
「ええ、鎧をお願いしたドワーフのピエッリさんにお願いすれば大丈夫よ」
ピエッリ工房に到着すると、店番をしている奴隷の人にピエッリさんに会いに来た事を伝える。
ピエッリさんと見た事のないドワーフの人が出てくる。
「お、ナリッシュか。 革鎧、もう届いているぞ?」
ピエッリさんは僕達を見て笑顔で言う。
「ありがとうございます。 あと、このナイフの鑑定を・・・」
僕はお礼を言い、ダンジョンで拾った宝石つきのナイフをカウンターに出す。
「おまえさん、どこでその武器を手に入れた!?」
見た事のないドワーフが僕の言葉を遮って僕を指差して言う。
「え? このナイフは、ダンジョンの宝箱で取ったんですけど」
「違う違う、その槍の事だ。 そいつをどこで・・・どの工房で手に入れたんだと聞いているんだ」
見た事のないドワーフは僕の槍を驚きの表情で見ながら指差している。
「これはお世話になった方達から餞別で作ってもらった物なんです。 作ったのはタクミ様とケイタ様ですね」
「タクミ? ケイタ? 聞いた事もない。 頼む・・・少し、見せてもらえないか?」
「おい、師匠! ナリッシュたちは俺の客だぞ! 客に変な事すると師匠だろうとぶん殴るぞ!」
ピエッリさんは師匠と呼んだドワーフに向き直り言う。
「何を言ってやがる! 見て解らないのか!? かぁ~~~情けねぇ!」
師匠さんはピエッリさんを見て心底あきれた様に言う。
「なんだとてめぇ! 表に出ろや! その面ぁぶん殴ってやる!」
「おう! 上等だ返り討ちにしてやる!」
2人は凄い剣幕で外に行こうとする。 僕は、唖然として何も言う事が出来なかった。
「待ちなさい! 革鎧の受け渡しとナイフの鑑定と武器のメンテナンスをしてから殴りあって! 迷宮から出てすぐここに来たんだから早くして!」
ミリアが大声で2人に言う。
ドワーフの2人は驚き、顔を見合わせて頷き合う。
「いや、すまなかった。 頭に血が登っちまってな」 「俺も、すまなかった」
2人は、僕達に頭を下げる。
「いえいえ、大丈夫で・・・」 「武器のメンテナンスの料金をサービスしてくれれば」
僕の言葉に被せてミリアが笑顔で発言する。
「あぁ、解った解った。 格安でやってやる。 だがメンテナンスだけだぞ?」
ピエッリさんは苦笑して言う。
奥にある工房に移動して作業台の上に武器を並べておく。 僕の武器を見たピエッリさんはすぐに驚愕の表情をする。
「真魔鉄・・・なのか」
ピエッリさんが呟き、師匠さんを見る。 師匠さんは何も言わずに頷く。
「真魔鉄って何ですか?」
僕は首をかしげながら言う。
「真魔鉄って言うのはな、とてつもない高魔力で精製した超高純度の鉄の事だ。 我等ドワーフの神事の時に使われるインゴットの1つじゃな」
「え? 神様に捧げるような凄いもので出来ている武器って事ですか?」
「まぁその解釈で間違ってはないが、真魔鉄のインゴットを武器にするためにはインゴットを作るよりも多くの魔力が必要になる。 それこそ最低でもエルフ100人ほどのな」
僕達は驚きの余り何も言え無くなってしまった。 目の前で鉄を粘土の様に動かし作られ、簡単に調整してもらった武器がそこまで凄いものだとは思ってもいなかった。
何をどうしたら良いのか全くわからず呆然と立ち尽くす僕達・・・




