ナリッシュとダンジョン(2)
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最初の対戦は、カリッシュ対蛇人族か蜥蜴人族の男。
爬虫人は、僕達獣人と同じく魔法が苦手だったはずだから、魔法の心配はしなくても良いだろう。
二刀流の剣士という感じのようだし、カリッシュの槍の方がリーチがあり有利だろう。
しかし、カリッシュのいつもの武器はグレイブ(西洋薙刀)なので大丈夫かな?
「では、2人とも構えて。 始め!」
対戦相手はリーチに不利がある事を理解しているのようで、一気にカリッシュに近づいて近接戦を挑むようだ。
だが、移動が直線過ぎるし遅すぎる。 ある程度左右にステップをしながら来ている様だが、リズムも全く変わらないステップ。
カリッシュがタイミングを合わせ防御が厚いと思われる鎧の胸に石突の渾身の突きを放ってあっけなく勝利。
本当にこの人は何がしたかったんだろう?
カリッシュが戻ってきて俺とミリアに片手でタッチし横に並ぶ。
2回戦目は、ミリアと豹族の男。
豹族の男は斥候なのか軽鎧とショートソードの様だ。 ミリアも斥候タイプでラウンドシールドに剣とか短槍を使うから決して相性は悪くないだろう。 今回は木製のラウンドシールドに短槍を構えている。
始めの合図があり、戦闘が始まった。
豹族の男はミリアの周りを回転しながら様子を伺っている。 カリッシュが1撃で倒してしまったので様子を見られているのだろう。
しかし、埒があかない。 いつまでぐるぐる回っているつもりだ?
ミリアも呆れてきたようで槍を両手で持ち前に構る。 タイミングを図りバックステップをする。
相手もミリアに合わせ一定の距離を保ち回ろうとする。
相手の背後に壁が来た瞬間にミリアは突進をする。 ミリアの突進はかなり早い、瞬発力だけなら僕達の中でも1番だ。
相手の豹族の男は突進の速度に驚いたが、直ぐに切り替え手に持った武器で槍をはじいて横に飛びのき距離を取るが体制を崩した。
ミリアは槍を地面に指し壁を走り壁を蹴り、もう1度相手に向って突進をする。
相手はショートソードの腹を前面に出し、槍の攻撃を受け止めようとする。 ミリアはショートソードの腹を石突で突いて武器を破壊し、槍を地面に刺して回転しその勢いで相手を蹴り地面に降り立ち槍を相手の顔の前にそっと突き出す。
「参った。 俺の負けだ」
「ありがとうございました」
ミリアが戻ってきて、カリッシュと同じくタッチし横に並ぶ。
すると、豹族の男が僕に質問をしてきた。
「なぁ、本当に6級のPTなのか? 偽ってたりしないよな?」
「はい、本当に6級です。 故郷で鍛えてもらって強くなったと思うんですが、どのくらい強くなったのか解らなくって」
「ん? どういう事だ? 余り魔物と戦っていないのか?」
「いえ、そう言うわけじゃないんですけど・・・師匠に3対1でいつもボロ負けをしていたので、僕達がどのくらい強いのか解らないんです」
「俺達が5級PTだから4級クラスじゃないか? PTとしての連携がどのくらいなのかは見ていないが」
「連携はある程度自信があるんです。 師匠にも褒められましたし」
「そうか。 最後の質問だが、何故ここへ来たんだ? 一攫千金って訳じゃなさそうだが」
「修行の一環と、5級に上げる為にドワーフの国に行く途中に寄った感じです」
「おお! そうか、なら運が良いな。 このダンジョンでもグランドワイバーンが見つかったんだ」
「本当ですか!?」
「ああ、最近現れるようになったんだ。 しかし、群れているのは外と同じだから楽って訳じゃないがな」
「ありがとうございます。 ドワーフの国に行く手間が減りました」
「おう、そりゃ良かった。 それと、リーダーは4級に上がったばかりだが強いぞ? 頑張ってこいよ」
「はい!」
リーダーは熊の獣人の人だった。 リーダーでもある熊も獣人の武器は大きな両側に刃が付いた両手斧だ。
刃が潰れているとはいえ、こんなものを食らったら死んでしまうだろう。
僕の武器は片側に刃が付いた斧とラウンドシールド。 いつもの武器はバルディッシュなので少し形が違うが重さなどは一緒だし大丈夫だろう。
戦闘が始まると、リーダーさんは叫びながら猛突進をしてきた。
昔の僕なら気合負けして動けなくなっていただろうが、ショウマ様の圧力を喰らっても動けるように訓練した僕には効かない。
冷静に相手の動きを見て、リーダーさんの振り下ろしを弾き、振り上げをバックステップで躱す。
下手に当ててしまうと大怪我をさせてしまうだろうし、どうしたものか・・・
リーダーさんは、カリッシュとミリアの動きを見たからなのか遠慮なく攻撃してくる。 これは僕が強いと認められていると言う証だろうけど、どうなんだろう?
最初と同じ振り下ろしが迫る。 初撃と同じく弾いて対処しようとするが、武器が弾かれてしまった。 先ほどより断然重い! 弾かれた勢いを利用し後転をし体勢を大きく崩したが何とか逃れる。
最初の攻撃は様子見だったのか! そう思った瞬間、迫る影を捉える。
やばいと思い横に転がり、地面の砂を相手に浴びせ何とか離れ体勢を整える。
怪我を負わす訳にはいかないので、武器を破壊、もしくは吹き飛ばそうと両手斧に向けて攻撃する。
だが、武器も壊れずリーダーさんは武器を落とす気配もない。
「なるほど、確かに強い。 だが、経験が足りん! さぁ、ドンドン行くぞ!」
◇◆
「あっちゃー。 あの兄ちゃんうちのリーダーに好かれちまったみてぇだな」
豹族の男はポツリと呟く。
「え? どういう事ですか?」
ミリアが首をかしげながら言う。
「うちのリーダー普段は温厚なんだが、長く戦闘しちまうと加減を忘れちまうって悪い癖があってな。 最初の頃は手加減をして戦えるんだが、ああやって武器を多く振るうと戦闘しか目に入らなくなっちまうんだ」
「それって呪われているとかですか?」
「いや、ただの戦闘狂だ。 顔を見たら解るぞ」
「すっごい笑顔ですね」
「あんな笑顔になるなんてトロールの上位種とタイマンした時位じゃねぇか? まぁ、そっちの兄ちゃんも言えた義理じゃなさそうだがな」
2人で斬り合い薄く笑い声が響いて来る。 これって止めた方が良いんじゃないかな?。
◇◆
これは、これは楽しいぞ。 体力と技量は僕の方が上、力と経験はリーダーさんの方が上、一長一短で拮抗している。
鎧の下に付けている重りを取れば僕が一瞬で勝つだろうけど、ここまで拮抗した戦いはなかなか味わえるものじゃないし続けたい。
でも、そろそろ僕の勝ちだろう・・・体力が1番重要か、本当に教えの通りになっちゃったな。
リーダーが両手斧を振り下ろすタイミングを見計らって、両手斧の上に振り下ろしを喰らわせる。 すると、両手斧が地面に叩き付けられる。
「俺の負けだ」
リーダーさんは膝をつき言葉を呟く。
「ありがとうございました」
僕はリーダーさんに頭を下げ皆の所へ戻る。
「やったね、ナリッシュ」 「お兄ちゃん、グッジョブ!」
2人が笑顔で出迎えてくれた。
戦闘で全員が勝った事もあり、滞り無く探索者登録が出来た。
今回試験に付き合ってくれた鮮血の牙の面々にお礼を言うと、気に入ってくれたのかダンジョンに一緒に潜る事になった。
初めてのダンジョンだし、色々教わる事も多いだろう。 他にも、イサオさんの情報なども知り合いに聞いてくれると言ってくれた。
その代わりどんな特訓をしているのか教えて欲しいと頼まれた。
僕達はまだ人に教えられるほど強くないので、一緒に訓練するなら・・・と言う事になった。 すでに商隊で一緒になった紅の爪も一緒に訓練しているし、鮮血の牙が入っても特に何も変わらないだろう。
カナタ様から言われたイサオさんの情報も手に入れられそうだし、話を聞いてくれる人手が増えるのは、かなりあり難いよね。
こうして、僕達のダンジョン探索が始まった。