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努力の実る世界  作者: 選択機
第4章 ウルフローナ国 新王都モンステラ編
360/406

暗躍するキョウ・サワギ・シレネとエリカ・ストック・ムスカリ司教の続き

ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。

◇◆ キョウ・サワギ・シレネ


「やぁ、ようこそいらっしゃい。 錬金術師君」


 エリカを見送った次の日、キョウは錬金術師を呼んでいた。 この錬金術師はウルフローナで暗躍しまんまと逃げられた錬金術師その人である。

 死病を完治させるのではなく進行を極限まで抑える薬を作った天才でもある。


「枢機卿猊下、拝謁させていただき恐悦至極にございます」

 錬金術師は片膝を着き恭しく頭を下げる。


「堅苦しい挨拶は無用だよ。 フランクにお願いね」


「はい、畏まりました」


「前に言っていたヴァンパイアの封印解除しても良いよ」


「畏まりました。 直ぐに準備に取りかからせていただきます。 ですが、よろしいのですか?」


「エリカの事? 結界石も渡したし、エリカだけ生き残ればラッキー、アンデッドになったら【リンク】の実験になるから問題ないよ。 9割アンデッドになった時【リンク】は切れるんだけどね」


「問題ないとおっしゃられるなら私が言う事は何もございません。 直ぐに準備に取り掛かります」


「うん、よろしくね。 こっちでも適当な理由でダンジョン都市に何人か人を送っておくから、危険が迫ったら撤退するんだよ?」


「ご配慮に感謝いたします」


 これでウルフローナの国はこの世界から消えるだろう。 かつての勇者が倒せず封印したヴァンパイアだって話しだし、ソメイヨシノと言うクランがいかに強くても大量のアンデットを伴って生き返るヴァンパイアを倒す事は絶対に出来ない。

 生き残りに新薬製造に携わっていた人がいれば良いけど、いなければ製造所の跡地でも押さえれば良いだろ。

 両方とも失敗しても死病を抑える薬を今まで通り売れば良い。

 さて、ヴァンパイアを龍神皇国に引っ張る準備をしておかないととばっちりを食うのは嫌だしね。

 キョウは、思考をめぐらせ自分の利益がどうなるのかを考えた。


 しかし、ソメイヨシノがいつも封印状態で行動している事を知らない。

 カナタ達が特別隠しているわけではないが、封印状態でも異常に強いので特に話題にすら上がらない事が幸いしたのだ。


◇◆


 次の日、私が起きたのはお昼近くになってからであった。

 朝食も楽しみにしていたが、お酒を飲みすぎてぐっすり眠ってしまったようだ。

 重い頭を回復魔法ソングマジックで癒しながら、冷蔵庫に入っている果実水を飲む。

 2人の騎士は既に鎧を身に付けている。


「朝食時には起こしてくれても良いじゃない」

 私は少し不機嫌そうに2人に言う。


「起こしましたよ。 ええ、起こしましたとも。 昨日の残りを少し食べて、なにも仰らずにまた寝たじゃありませんか」


「え? 覚えてないんですけど」


 騎士に少し小言を言われ、朝の鍛錬に参加した騎士を呼びの報告を聞く。

 この国の異常さが際立つ事になる。


「つまり学園で無償で体を鍛え食事をさせ、勉強を教えていたと?」


「はい、その通りです」


 獣人の国の文字を中心に他種族の文字を教え、四則演算までも教えていると報告を受けている。 大人の冒険者や住民も殆どが学園に勉学に励み、識字率もかなり高いらしい。

 住民は馬鹿なほうが治めやすいと言われ、私もそのように思うのに・・・だ。

 そして、驚く事は他国の貴族やエルフまで学園に通っている。 しかも、平民も貴族も同じように勉学に励んでいるらしい。

 他にも専門知識を働きながら学べるような実習という勉学の時間もあり、他国へ技術の漏洩をわざとさせている。

 いや、わざとではないかもしれないが漏洩しているのは確かだ。

 この国は? この国の王は何がしたいんだ? ただの馬鹿なのか? どうなっているんだ? 私が判断できる範疇を超えている。

 頭を抱えている時、学園の訓練を見てきた騎士がおずおずと言う。


「折角なので買い物をしてみませんか? 売っている物を見れば、この国の技術がどのくらいなのか判断できるのではないかと愚考します」


 なるほど、一理ある。 そう思いチェリーブロッサムと言う貴族専用商店へ買い物に出かける。 売っている商品を見て、私はますます頭を抱えたくなった。

 色んな物の出来が良すぎる、特に服とアクセサリーが素晴らしい。 手触りも良く縫製も超一流、こんな一定に縫い物が出来る職人がいる国などみた事がない。

 服のボタンや色をアレンジして自分だけの服を作り上げる事が出来ると言うのも魅力の1つだろう。

 気がつけば、ダンジョン都市での買い物用に渡されたお金と今まで貯めていたお金を大量に使ってしまっていた。

 食べ物も美味しいし、まだまだ見ていない店舗も多い。 折角だしお土産とかも買って帰ろう。


 しまった・・・数日間、なにも考えずにショッピングをしてしまった。 貴族専用のショッピングモールも素晴らしかったが、ソメイヨシノ区の桜商店ショッピングモールも素晴らしかった。

 桜商店の方は学園の生徒たちが作っているものが多いので基本的に荒い物が多い。

 だが、実用性が重視され値段が安い。 筒のようになっている魔道具の上のスイッチを押すと、遠くの物が照らせる懐中電灯と言う優れ物を見つけた時に小躍りしてしまった。

 って、ちが~~う!!! そうじゃない。 そうじゃないのよ。 急いで新薬の契約をしに王城へ行かなければ・・・でも、謁見待ちの人数が・・・

 しかたない、ここは一か八かで魔物を呼んで兵士と一緒に倒し外堀から埋める策を使いましょう。


◇◆


 どおしてこうなった・・・なんで? なんでアンデッドが湧いて出てきたの? ダンジョン産の魔物の誘引剤を軽くは撒いたけど、本当に薄く撒いただけなのよ?

 しかも、魔物誘引剤ではアンデッドを作る事なんて出来ないはず。 え? 出来ないわよね? 今までも出来た事無かったもの・・・誰か出来ないって言って!

 現実逃避している場合じゃないわね。 これを好機と捉えて一緒に討伐すれば信用が得られるはず。

 でもアンデッドは動きが遅くて弱いけど、時間が経つと臭いがきつ過ぎて苦手なのよね。


「エリカ様! 好機です! アンデットが丁度出てきたようですよ。 これで恩を売る事が出来れば最大の目的も達成できますね」


「解っているわ。 早速準備し討伐隊の所へ応援に行くわよ」


 全員戦闘用の装備をしてケーミを馬房の外に出し、兵士達が向っていた場所に行く。

 畑の所に兵士が並び台の上に肌も髪も鎧も白く、そして嫌味でないくらいの装飾がされた鎧を来たフランソワーズ・ウルフニアが通る声で兵士達を鼓舞していた。

 兵士達に進軍の合図を出し、台の上で皆を見ているフランソワーズ姫に話しかける。


「一緒に行くと言うのか? 別に構わんぞ。 ただ、ソメイヨシノが全員出たのでな。 我等が守れば良いのは正面だけになる」

 フランソワーズ姫が苦笑しながら言う。


 確かにソメイヨシノの12人は別格の強さがある。 だが、所詮一個人。 大多数に囲まれれば一溜まりも無いものだ。

 戦闘を見るまでそう思っていた。 いや、戦闘などと言える物ではない。 一方的な駆逐、殲滅、破壊。

 魔力が見える私だから解った事であろう。 高濃度の魔力の塊が降り注ぎ放たれ魔物が消える。

 ダンジョン産の魔道具や魔武器を使用しているんじゃないかと思う。 でも、あんなに威力がある魔武器があるのだろうか?

 もしかして、この人達は勇者なのでは? いや、あり得ない。 協会から一報が届いてないもの・・・


◇◆


 魔物の殲滅で私達は全く役に立たなかった。 一応、回復魔法ソングマジックを使ったがポーションで事足りる。

 と言うかポーションまで性能が高いのかよ! って突っ込みいれそうになっちゃったわよ。

 ここまで来たら、正攻法で交渉するしかないわね。


 はぁ・・・任務失敗か。 どうやってキョウ兄様に報告したら良いのかな。

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