第294話
ブックマーク、評価 本当にありがとうございます。
次の日朝早くに起き、深夜に出来上がった報告書などを読むとため息が出てくる。
情報なんていつかはバレるものだし、売っている物はそこまで重要なものはないのだが・・・
服、武器防具、インゴット、棚や箪笥、農耕具、薬、鼈甲、魔道具、石材など保存が利くものから、調味料や食材、料理など保存の効かない物までかなり買い漁っているようだ。
中でも、服、武器防具、薬、調味料、鼈甲や革や貴金属で出来たアクセサリー、櫛などの小物は売っているもの全て買い取る勢いである。
鼈甲以外はストックが十全にあるため特に問題はないはず。 しかし、鼈甲はヒリス(骨細工の師匠)さんの所でしか扱っていなかったのでストックが余りない。
ヒリスさんからの報告ではグランドタートルの甲羅は余るくらいあるらしいが、骨細工師を目指す生徒たちだけではやはり手が足らないようだ。
「このままではショッピングモール内の1店舗が休みになってしまう。 仕方ない、手伝いに行ったほうが良いかな」
一人呟き、考えをまとめると、訓練へ出かける。
いつもの訓練を開始すると、見知らぬ人族の女性が3人俺達が推奨している運動着に着替えて現れる。
その中の1人は、昨日話した女騎士のようだ。
「カナタ殿、おはようございます」
女騎士は、ストレッチをしている俺に話しかけてきた。
「おはようございます。 今日は参加されるのですか?」
「ええ、やはり体験して見ないと解らない事もありますので」
「そうですか。 余り無理をなさらないように気を付けてください」
「ありがとうございます」
そんな他愛もない会話をすると俺は訓練を開始する。
訓練中に女騎士達を確認すると、2人はランニングでへばってしまったようだ。 1人の女騎士は形を必死に覚えているところだった。
訓練が終わり、整理体操をしているとまたも女騎士が話しかけてくる。
「カナタ殿、この訓練は凄いですな。 特にあの身体強化の魔道具。 あれはエルフの国のダンジョンで手に入れたんですか?」
ん? 俺達がエルフの国のダンジョンを攻略したのを知っているのか。 まぁ、隠す必要もないけど。
「あれはダンジョンで手に入れたものではなく、俺達で作った物なんですよ。 動かすのも俺達ソメイヨシノのメンバー以外がやると壊れます。 中の魔法陣を覗こうとしても壊れるように設計してありますので動かそうとしないでくださいね。 作るのは結構面倒なので」
「あのような物が作れるんですか!? 身体強化の魔法など発見もされていないのに」
「魔法はオリジナルなんですよ。 逆にこの世界の魔法は俺達には使いにくくて」
「オ、オリジナル? 自分達で作った? そんな馬鹿な事」
「まぁ俺達は特殊なので気にしないでください。 食事を取りに行かないとなくなっちゃいますよ」
よろよろと食事を取りに良く女騎士を少し眺めると、ヒリスさんの工房へ移動する。
「カナタさん、待ってました!」
ヒリスさんの満面の笑みと言葉に苦笑して工房の中に入る。
工房の中には余り人がおらず、すいすいと奥まで進む事が出来た。
俺がいつも使っていた素材置きに移動すると、グランドタートルの甲羅が無くなっていた。
「あ、奥のほうに倉庫建てたからそこから持ってきて。 出来上がったのは隣の倉庫だからね。 これが鍵だから、設計図はテーブルの所に置いておくからね。 じゃあ、よろしくね」
「相変わらず人使いが荒いですね」
「カナタさんも言ってたじゃない。 立ってる者は親でも使えでしょ? グランドタートルは今日の午後納品されるから全部やっちゃっていいからね」
ヒリスさんの言葉に俺は苦笑し頷き倉庫で材料を亜空間収納に入れて持って来て作業を開始する。
ファ〇ネルを装着し、1本のカーボンナノチューブにはグランドタートルの甲羅を形通りに切るのをやらせ俺は切られた甲羅を剥き鼈甲を取り出す、もう1本のカーボンナノチューブには押さえなどのサポートと箱に鼈甲をしまう事をやらせる。
ファ〇ネルはやっぱり便利だな。 単純作業なので何も考えず淡々とこなす。
2時間ほど経った時、ゴトンという音と共に現実に引き戻される。 音のしたほうを振り返ると少年がお盆とコップを床に落とした形で固まって俺を見ていた。
「カカカカ、カナタ様、なななな何で?」
少年が方方と震えながら言う。
「あれ? 今日学校は?」
「きょきょ今日は、おおおお休みの日で、アアアクセサリーを作ろうと。 おおお客さんにお茶、お茶をだすように」
「そっかそっか。 ありがとう。 余り緊張しなくても大丈夫だからね」
「は、はい!」
亜空間収納に手を入れてグランドタートルの甲羅が何個あるのか確認すると10個ほど残っているようだ。
丁度良い、報酬として剥がした甲羅と共に貰うとしよう。 少年と握手をすると倉庫にしまいヒリスさんに報告をする。
特に何の問題も無く素材を貰い、帰ろうとした時。 なんとなくミミリ(木工の師匠)さんの工房が気になり寄って見る事に。
外から見る分には特にへんなところは見えず中へ入って見る事に。
少し進むと見た事のある木工師に声をかけられ、木工師の案内で奥へと進む。 中も特に変わった様子は無く、ミミリさんの所へ到着する。
「あれ? カナタさん、どうしたんですか?」
「ヒリスさんの所に寄ったついでに様子見に来たんですけど、特に問題はなさそうですね」
「はい、ここは問題ないんですけど、鉛筆の芯を作っている工房とベッドのスプリングを作っている鍛冶場が大変みたいですよ」
鍛冶場はタクミ君が何とかするだろうから一端置いておいて、鉛筆の芯の工房か。
魔道具を増やして対応するか? いや、増やしたとしても作業員がそんなにいないし新人を入れても逆に足を引っ張るだけだろう。 一端保留にするしかないかな。
「カナタさ~ん? どうしたんですか?」
「ああ、考え事をしてました。 他にはどこが忙しいとか知ってますか?」
「他にはですか? ん~、全部忙しいと言えば忙しいみたいですけど、自転車の工房と石鹸とか生活雑貨を作っている工房は大変みたいですね」
あぁ、そうか生活雑貨の消耗品も大変なのか・・・一応全部見て回ったほうが良いかもしれないな。
ミミリさんの工房を出て、いろいろの工房の視察に行きやばそうな所は手伝うと言う事を数日行う事になった。
俺達の足止めってこういう事なの? 売り上げが上がれば皆に還元できるし、頑張りますかね。
◇◆
太陽がまだ登らぬほどの朝方、黒ずくめの集団が森の手前に集まっていた。
「ここがウェーブの発生地で間違えないな?」
「はい、掘り返してみたら骨や死体が大量に埋まっていました」
「うむ。 では、ある程度掘り返したら設置し撤退する」
「了解いたしました」
号令に従い全員が地面を掘り返し始める。
「しかし、本当にここまでする必要があるんでしょうか?」
「司教様のお考えだ。 俺達はそれに従えば良いのだ」
「そうですけど。 下手すればこの国どころか周りの国やマーテルマルベリーにも被害が出るんじゃないですか?」
「ダンジョン都市に近づけば英雄であるイサオ殿が片付けてくれるだろう。 何の問題もない」
「イサオ殿ですか・・・ちゃんと動いてくれますかねぇ?」
「金を払えば仕事はきっちりこなす御仁だ。 全く問題がない。 さっさと設置して移動するぞ。 夜になればこの辺りは魔物で埋め尽くされる。 逃げ遅れれば俺達もただでは済まない」
「了解ですよ。 こっちの手伝いをしてきます」
太陽が出て空が白んできた頃に黒ずくめの集団は移動を始め、耕されたその場所に埋められた物は光も通さぬほど黒い玉が内側に入っている赤い水晶のオベリスクだった。