第291話
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「ミスティ、少し待ってもらって良い?」
そう言うと通信機を取り出し、ミスティに善哉を作って欲しいと言う事をヨシさんとタダシさんに送り亜空間収納からお餅を取り出す。
「善哉を作って欲しいってタダシさんとヨシさんにメールしておいたから、お餅を持って行けば作ってくれるはずだよ」
「ありがとうございますですの! 早速行ってみますわ」
嬉しそうに走っていくミスティを眺めてから、殆ど使われない会議室へと移動する。
ソファに腰掛けて仕事をしながら、ユカさんを呼んでもらう。 程なくしてユカさんが扉から入ってきた。
この部屋にいるのは、セードルフ、ミランダ、ベトニア、ユカさん、俺の5人となった。
「お疲れ様。 なんか面倒な事になっているね」
「御疲れ様です。 はぁ・・・本当にどうすれば良いのか解らなくて、相談したいんです」
「うん、聞いた聞いた。 まさかお迎えが来るとは思って無かったよ」
「はい、本当にそう思います」
「で、あの人達ってどこの誰だかは聞いたの?」
「はい、簡単にですけど聞きました。 なんでも、聖印レティア教会から来たと言ってましたけど」
「レティア教会って言うと、宗教がらみ?」
「たぶんそうだと思います」
「厄介な相手からのラブコールか、または本当に人助けの集団からのお誘いか。 どっちだろうねぇ」
最近厄介ごとが少なく、神のように崇められてしまっているから多少の息苦しさを感じていたのでこういうのは楽しい。
「面白がってニヤニヤしないでください」
「え? バレた? 顔にそんなに出るかなぁ? まぁいいや、ユカさんはどうしたいって考えてるの?」
「え? 私が出て行ってもいいんですか?」
「いやいやいや、そんな変な意味じゃないんだ。 今の現状を考えてユカさんの率直な気持ちを聞きたいって事だったんだよ」
「どういう意味か解らないんですけど」
ユカさんは眉間にしわを寄せて言う。
あちゃあ、ユカさんを怒らせちゃったっぽいなぁ。 色んな人に言葉が足りないって言われるけど難しいもんだなぁ。
「えっとね。 現在の俺達がいるソメイヨシノだと獣人の各国やエルフの国には絶大な影響力がある。 しかし、人族の各国、ドワーフの鍛冶連盟国、龍神皇国など様々な国には影響力が無い。
どのような宗教かは知らないけど、レティア教に入ればそんな国の様々な人達を治せる可能性もある。 人助けをするのが生き甲斐になっているユカさんにとっては良い事と言えるんじゃないかな?」
「そうかも知れません。 でも、でも」
「もちろん、出て行って欲しいと考えているわけじゃない。 むしろ、出て行って欲しくはないと思っている。 でも、道が違っても最終目的が同じでしょ? なら、最終的には一緒に進めるって信じてる」
「それは・・・」
「たとえば、俺がここで出て行って欲しくないと言うのを押し付けたとする。 それで、人族のどこかの国が疫病などの病や魔物の襲撃でいつ滅んでもおかしくないほどの窮地に立たされていたとするよね? そのとき、俺達は獣人の国にしか影響がないからその事を知りもしない。 あとでその事を知ったらユカさんはどう思う?」
「悔しくて・・・やるせない気持ちになると思います」
「そう、その通り。 そして、あの時に違う道を選んでいれば、出て行って欲しくないと言う意見を聞いていなければ・・・ってなる可能性がある」
「そんな! 私はそんな事思いません!」
「いや、可能性の話ね。 大半の人は他者の助言で動いて失敗した場合、助言した人を恨んで心の安定を保とうとするもんなんだ。 最終的にどう行動するか決定しているのは自分なのにね」
大半の人がと言ったが、本来は自分の事だ。 本当に自分は弱く情けない。
それがわかっているからこそ、人の答えや助言は参考として受け止め決定をしているのは自分だと考えるようにしている。 でなければ、人を恨むだけだから。
「私は・・・私はカナタさんのように強くなれません! どうすれば良いのか解りません」
「それなら保留にすればいいでしょ?」
「はぇ?」
「あのねぇ、別に今すぐに答えを出す必要はないんだよ? 良く考え、良く観察し、人の意見を取り込んでから決定すればいいんだよ。 今回だって考えさせて欲しいと言って待って貰えば良いじゃん」
「それで良いんでしょうか」
「良いと思うよ。 問答無用で連れて行こうとするなら良い集団じゃないと言えるしね」
「じゃあ、そんな風に伝えてみようと思います」
ユカさんは困ったような顔をする。
「大丈夫。 俺も交渉の席に加わるから」
「よろしくお願いします」
ユカさんはホッとした様な顔になり頭を下げる。
「よし、決まりだね。 セードルフ、ちょっと聞きたい事あるんだけど良い?」
「はい、何なりと仰って下さいませ」
セードルフは恭しく礼をする。
「人の家の目の前に馬車を止めっぱなしにするのは良い事なの? 前に聞いた通りなら、宿とかを取ったりして使者を送るのが礼儀なんでしょ?」
「もちろん良い事ではございません。 ですが、自分より下の者の所に行った時には出迎え準備をさせる為に馬車で待つ事もございます」
「つまり、来てやったんだから出迎え準備しろって言われてる感じかな?」
「その通りでございます」
「だってさ、ユカさん。 余り期待しないほうが良いかもね」
セードルフに外の馬車に3人は中に入る事了承した事を伝言させる。 中に入れない護衛騎士達には外に椅子とテーブル、パラソルなどを出し軽食、飲み物なども出すように指示する。
ケーミは併設する厩舎へ移動し馬車もその前に移動する。 厩舎は最近挨拶に訪れる各国の貴族用に用意していたものだ。
応接室へ人が移動した事をセードルフから伝えられ俺とユカさんは応接室の中へと入る。
応接室の中には、俺、ユカさん、セードルフ、ミランダ、ベトニア、女性騎士2人、白い修道服っぽい服を着た女性1人だ。
女性騎士2人とソファーに座る神官のような格好をした若い女性が俺達に気がつき目礼をする。
1人は先ほど話した女性の騎士のようだ。 俺が入ってくるのを少し驚いた表情をしたのを見逃さなかった。
俺とユカさんは先に入っていた3人の向かい側のソファに座る。
「皆様、初めまして。 聖印レティア教司教エリカ・ストック・ムスカリと申します」
座っている修道服の女性が言う。
少し様子を見たが、騎士2人は挨拶する気がないようだ。
にしても、司教って偉いのか? ここに来るくらいだから下のほうか? 宗教の知識は全くないから解らないな。
「そうですか。 私は、ソメイヨシノのリーダーのカナタと申します。 こちらは聖女と呼ばれているユカさんです」
俺は手のひらで横に座るユカさんを掌で指す
「よろしくお願いします」
ユカさんは頭を下げる。
様子を少し伺っていたが、こちらを向き微笑んでいるだけで何を考えているのか解らない。
う~ん、これだからニコニコしてる奴はやりにくい。
「こちらに来た理由は大体わかりますが、折角ですのでお菓子などを召し上がってみてください」
そう言うとベトニアがプチシューを大皿に乗せて運んで来た。
「ありがとうございます。 ですが、お気遣い無く」
「そうですか? 騎士の方はどうですか? 甘いお菓子です。 これ1個で金貨1枚出す人もいるほどの物なんですよ。 毒とかを気にしているのなら、ほら、美味しいです」
俺は立ち上がると同時に大皿を持ち1つ掴んで口に入れる。
最初に話した女騎士の前に歩いて持っていくと「どうぞ」と言って無理やり食べさせる。
食べた瞬間息を呑み瞳孔を開き動きを止める。 俺とプチシューを交互に見て何も言えなくなっている女騎士にもう1つ取らせて、もう1人の女騎士にも渡す。
「おいし・・・あ」
女騎士は顔を赤らめて無表情に戻る。
上司の命令を完遂するまで無表情でいるようにと言われてるのかな?
まぁいいや、さて本命にプチシューを食べてもらうとしますかね。
プライベートで忙しく更新遅れて申し訳ありません。 詳細は活動報告で。




