白い悪魔(1)
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いつものように晴れた日、俺は狩場に来ていた。
ここは人気の狩場で、いつも通りごった返していた。
「よぉ、兄ちゃん。 首尾はどうよ?」
このおっちゃんはいつも狩場で会う奴だが、どこで何をしている奴なのかは知らない。
と言うより、ここに集まった連中の顔は解るがいつも何をしている奴なのか、知っている奴など1人もいないと言っても良い。
「まぁまぁだな。 そっちはどうだ?」
俺は、適当に話を振ってみる。
「こっちは駄目だ。 今日は全くついてねぇよ」
「そんな時もあるさ。 にしても、最近あの女を見ないが何か知っているか?」
「ん? 兄ちゃん聞いてないのか?」
「何をだ?」
「本当に知らないみてぇだな。 あの嬢ちゃんは、白い悪魔に攫われたって噂だぜ?」
「白い悪魔!? 本当にいるのか? そんな奴」
俺は驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
「こっちも眉唾だと思ってたんだがな。 なんでも、最近また現れてるらしいんだ」
「そんな・・・マジなのか?」
「マジもマジ、大マジだ。 最近じゃここいらでかなり噂になってるんだぜ? 兄ちゃんは噂とかあまり興味なさそうだから忠告しておいてやる。 何故だか知らねぇが、白い悪魔は1人で居る時にしか手を出してこねぇ。 移動するときには2人以上で移動するこった」
「忠告感謝する。 礼としてこれをやるよ」
俺はおっちゃんに先ほど狩った物を投げる。
「おお! こりゃあ脂が乗ってて美味そうだ。 ありがたくいただいておくぜ」
下卑た笑い顔を残し、おっちゃんは奥の方へと消えて行った。
白い悪魔・・・それは少し前から出没し始めた俺達を捕らえてどこかに連れ去るものだ。
狩られていると言う可能性もないとは言えないが、狩られているのなら血痕や肉片などが散乱するはずだが、そういった痕跡など全く見られない。
一飲みにされているのではないかと噂もあるがその可能性も薄いだろう。
白い悪魔の大きさは、俺達よりも少し大きいくらいしかないのだ。 白い移動する物体を目にした者が多数いるが大きさなどもほぼ一致しているから大きさは間違いないはず。
しかし、ここ最近は出没しなかったのに何故また? 何かあったのか?
いや、考えても答えなどでない。 用心をしながら狩りをしていこう。
気がつくと、いつもの時間よりも長く狩りをしてしまった。 やばい! 忠告されたばかりだと言うのに・・・
急ぎ足で帰っていくと、ふと変な事に気がつく。
前のほうを歩いていた奴等が居なくなっているのだ。 な! 何があった? 崖か? 落とし穴か? 魔物か? 音も無く一瞬でどうやって?
俺は怖くなり、踵を返すと先ほどよりも急ぎ足で狩場まで進む・・・俺の記憶は、そこで途切れる事となった。
気がついたのは暗い闇の中だった。 周りからザワザワと話し声が聞こえてくる。
「ここは? どこだ?」
俺はポツリとつぶやいた。
「その声は、兄ちゃんか?」
「その声は、おっちゃんか!?」
俺は、いつもの声に驚き聞き返す。
「おお! こんな所で出会うとはなぁ。 奇遇と言って良いのか、なんと言って良いのか」
「全くだ。 それで、ここが何処か解るか?」
「いや、ぜんぜん解らねぇ。 たぶんだが、移動している箱、もしくは檻の中って感じじゃないか?」
「はぁ? 移動している?」
「おう、そうよ。 この振動が何よりの証拠だな」
俺は振動に集中してみた。 なるほど、何かに向かって進んでいるようだ。
「まぁ、なる様にしかならねぇ。 今は何もできねぇし、休んどくのが吉と言えるだろう」
おっちゃんは、そう言うと何も語らなくなった。
逃げるにしても反抗するにしても体力が必要だろう。 俺も休んでおくのが吉と言う言葉に従い横になる。
気がついた時には移動が終わっていた。 いつの間にか眠ってしまったらしい。
「移動が終わっている?」
「お、兄ちゃん起きたか? 一晩位たったみたいだぜ?」
「そんなに経ったのか」
「ああ、良くこんな時にぐっすり眠れたもんだな。 感心するぜ」
「図太いのは自覚しているさ」
俺が苦笑しながら言う。
「にしても、腹が減ったなぁ」
「ははは、そうだな。 こんな時にそんな事を言えるおっちゃんも俺と同じで図太いんじゃないか?」
「がっはっはっは、ちげぇねぇ」
そんな時、ガチャンと音がし箱が開かれた。
朝なのか曇りなのか、薄い光で箱の中が照らされる。 開かれた所から外にどんどん出て行っているのか解る。
「兄ちゃん、俺達も行こうぜ? ここで待ってても何も始まらないからな」
「そうだな」
箱の外は3方向が壁、1方向が扉がついている壁で囲われ、天井には何もないがとても登れそうにないほど高い、その他には雑草が少し生えているだけという何ともいない場所だった。
「ここは、本当にどこなんだ?」
「わからねぇが、逃げ出せる状態じゃないって事は解ったぜ」
「そうだな」
そんな話をしていると、扉が音を立てて開いた。 我先にと扉とは逆の壁へと走り出す。
俺とおっちゃんは、扉の奥に何があるのか観察しながらその場から動かずにいた。
扉の奥側には、森と草原が広がっているように見える。 出来るだけ慎重に、扉に近づき扉の脇から顔を覗かせ奥を観察する。
「何・・・だと・・・」
「バカな・・・そんな事ありえるのか?」
この扉に向けて、歩いて来る集団。 その中には、最近会っていなかった見知った顔の奴も多数いた。
扉の脇から覗いている奴らは全員少なからず驚いているようだ。
集団はある一定の距離にまで来ると、立ち止まる。 その集団を率いていると思われる1番前を歩いていた奴が、大声でこちらに声を発する。
「ようこそ、第1世代の方々! 我々は貴方達を歓迎する!」
どういう事だ? 何があるんだ? しかし、並んでいる見知った顔の奴を見ると、顔色もずいぶん良い。
外で出会った時よりもがっしり・・・いや、ふっくらした奴も多い気がする。
敵対の意思はないように感じるし、話し合ったほうが良いかもしれない。 周りを観察して見るが前に出て話しをしようとするものなどいないようだ。
このままでは話が進まないし、敵対しようとしていると捉えられかねない。 仕方ない、前に出て話をするか・・・そう思い、開け放たれた門の真ん中に立ち大きな声で返答する。
「少しの間、呆けてしまったようで、すまない。 こちらには敵対の意思はない。 そちらも同じだと考えて良いのだろうか?」
「もちろんだ。 ここがどこなのか。 何故ここに来たのかなど戸惑っているだろう。 食事でもしながら話したいと思うが、どうだろうか?」
こんな所で争ってもこちらに利はないし、向こうも利がないはずだ。 受けておいて損はないと思うのだが・・・
後ろを振り向き見渡すが誰も拒否はしていないようだ。
「その申し出を受けたいと思う。」
俺がそう叫ぶと、門の前にぞろぞろと集まってくる。 食事と聞いて腹が減っているのを思い出したのだろう。
俺の腹の虫も鳴りそうになっているし、周りと何も変わりは無いのだが。
大きな広場に到着すると、既に俺達が来る事が解っていたかのように見た事もない食べ物がたくさん並んでいる。
「さぁ、まずは好きに食べて飲んでくれ。 話はその後にしよう」
促されるまま食事をする。 美味い! ただ一言、それしか浮かんで来ない。
ガツガツと食事をして腹も膨れもう少し食べるか悩んでいると、後ろから声をかけられる。
「ねぇ、久しぶり。 あの、覚えてる?」
食事の手を止め振り返ると、驚くほど好みの女がそこには立っていた。
「ねぇ? 聞いてる?」
「あ・・・いや、すまない。 綺麗だったので見とれてしまった」
「え!? あ・・・あの、ありがとう。 そうじゃなくって、覚えてないの?」
そう言われ足から頭までじっくりと観察する。 あ!!
「ま・・・まさか! 君か? 白い悪魔に攫われたと聞いていたんだが」
「ええ、その通りよ。 そして貴方もね」
その言葉に俺は、やはりか・・・と思うのだった。
この話は2まで続きます。 誰の話なのかはその時解るかと・・・