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努力の実る世界  作者: 選択機
第4章 ウルフローナ国 新王都モンステラ編
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移民、ウルフローナの王都へ

ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。

 ウルフローナへ移動する移民群は進んでいく。

 ウェーブでの貧困でただただ死ぬよりも、受け入れてくれるというウルフローナ国へ移動をする。 家族で移動するものもいるし、子供だけの集団もいる。

 他の国の人たちも合流しかなりの数の人間が移動する。 多くの人間が移動すれば当然危険も増える。

 だが、冒険者達がその危険を退しりぞける。 なぜか移民の移動に護衛として冒険者が雇われていた。

 その冒険者の数がかなり多いし、質も高い。 普通ならこんなに移動が遅いと文句を言われたり置いていかれたりするだろう。

 しかし、誰1人と見捨てない。 食料もオークを狩り焼いて皆に振舞ったり、野草を採取しスープにしたりしている。

 大半が自国に残っていたときよりも既にいい生活をしているので文句が出てこない。


「ライナ! 後少しで塩の迷宮都市:ザルツサーレに到着。 国境付近で兵士が多数待機。 ライナが先行して話をしてくるのが良い」

 ソップ(ライナの追っかけ水色の髪の斥候)がライナのそばに行き報告する。


「ソップ、ありがとう。 先行して話し合いをしてくる。 皆も後少しだ! 気を抜かないで進んでくれ!」


「「「おう!!!」」」

 冒険者達が、片手を上げ答える。


 無事に兵士達に移民は受け入れられる。 ザルツサーレに辿り着くと皆が一様に驚いていた。

 ゴミや汚物などが全く無く住んでいる全ての住人の顔が輝き、奴隷ですらやる気に満ち溢れて仕事をしている。

 冒険者達にも横暴な者は殆ど居ないようで、門の前で口をあけて呆けていた移民にも丁寧な言葉で声をかけその横を通り過ぎる。

 居るだけで暴言や暴力にさらされる事もあった者は驚き泣き出すものまでいた。


 簡易的なテントと炊き出しが行われ、明日の朝一に出発すると伝えらていた。 出発までなら自由に行動してもいいという事だった。

 お金も無く、疲れていたので歩き回る者は殆どいない。 しかし、少数の体力のある若者は歩き回って居るようだ。

 歩くのには疲れていたが、不思議と寝ると足や体の疲れなどは取れている。 最初の頃は驚いたが今では慣れた移民が多い。

 炊き出しを食べ終わり、木皿を返すと1人の青年に声をかけられる。

 年齢的には、たぶん下だが身なりが少し上なので身構えてしまう。


「なぁ、兄さんは家族連れで移動か?」


「ええ、農家だったんですけどウェーブで全滅してしまって農具なんかも・・・」


「そりゃ災難だったな。 まぁ俺も年季奉公してた商家が焼けちまって路頭に迷っていたところで、移民の話を聞いたんだ」


「そちらも結構な災難でしたね」


「あぁ、生きているだけもうけもんだ。 でもよ、なんかおかしくねぇか? オークの肉を配ったり、あのスープを配るだけでも結構な金がいると思うんだけどよ」


「それはそうですね。 ライナさんと言われていた冒険者の隊長も結構高位だったと思います。 オークを片手で放り投げていましたし」


「んだよな。 しかも。オークを見たんだが体に傷が1つも無い。 ってことは、1撃で倒されてたんじゃねぇかと思ってるんだ」


「そんな・・・まさか」


「そう思う気持ちは解るが、事実なんだよな。 しかも、この休んでる場所ってなんか変じゃねぇか?」


「変ってどうしてですか?」


「端っこの方とはいえ、こんな良い街に何でこんなポッカリ開いた場所があるんだ? こういう場所にはスラムみたいな物が出来るのが普通だと思うんだが」


「そう言えばそうですね。 なんかそう言う陰みたいなものが見えませんね」


「なんかキナ臭い。 でも、契約しちまってるからいまさら逃げる事すら出来無いんだけどな」


「そうですね。 せめて子供達だけでも何とか助けられれば良いんですけど」


「いい親なんだな。 その時は力を貸すぜ、力は弱いけどな」


「ありがとうございます」


 そんな時、周りがガヤガヤと騒ぎ始めた。


「ちっと聞いてくる」


 そう言うと元商人見習いの青年は人ごみの中に消えて行った。 家族のほうを向き1人で考える。

 この移動に参加し、本当に良かったのだろうか・・・もし失敗だとしたら、命に代えても子供達だけは。

 そんな事を考えていた時、元商人の青年が戻ってきた。


「なぁなぁなぁ、聞いてくれよ。 この国はおかしい」


「え? どういう事ですか?」


「あ、悪い悪い。 駄目な方の意味じゃない、かなり良い方の意味でだ」


「え? 良い方におかしいですか?」


「ああ、この場所は元スラムなんだとよ」


「え? ここがですか? 何にもありませんけど」


「そうだろ? なんでも王様が金を出してスラムの住人を捕まえ借金奴隷にしたらしい」


「へ? それじゃあ不味いんじゃ無いですか?」


「あぁ、いやいやいや。 言い方が悪かったみたいだな。 えっと、その借金奴隷達は、無料では学園って所で勉学を教えられ一般市民として働いてるんだってよ! しかもだ。 料理、農業、商人、木工、皮細工、鍛冶、骨細工、他にもあったが・・・冒険者! と、他にもあった気がするがまぁ良い。 色々教えてもらえるみたいだ」


「え? そんな事をして国にメリットが無いんじゃ?」


「いや、それを行っていたのは国じゃなくて、冒険者クランのソメイヨシノってとこらしい。 国は全面的に支持して色々便宜を図ってるって事だそうだ」


「ますますそんな事する意味が無いんじゃ?」


「まぁ、これは眉唾の噂なんだがソメイヨシノのメンバーは全員、神の化身らしい。 この街も発展していると言えるが、王都は段違いらしいぞ?」


「そ、それじゃあ、移民に乗って大正解って事?」


「そうだ! しかも、兵士や冒険者、一般市民まで知っている事実らしいぜ? やったな! 子供の将来だけではなく俺達の将来も安泰だ!」


 ところどころでこんな噂が多く流れこの街で暮らそう、この移民の列から逃げ出そうと思っていた人々は王都への希望を膨らませた。

 嘘は一言も言っていないのだが、移民は不安が大きい。 これからどうなるのか、これからどうすればいいのか・・・不安に陥った移民は暴動を起こしやすい。

 だが、希望を流布されればどうだろう? 誰かが脱落しそうになれば、鼓舞し、手を貸し、誰1人の脱落者を出す事無く王都へとたどり着く。


 案内の兵士に連れられて、1つの門を過ぎるそこはお伽の国と言える光景が広がっていた。

 誰もが誰も、何も言えず只々その光景を眺めている。


「お、おい! 俺達と同じ獣人が魔法を使っている!」


「なぁ、この道何で出来ているんだ? 硬いぞ? レンガか? でも切れ目が無いし」


「何であんなに高い建物があるんだ? ここは貴族様の住む場所なのか? 俺達がいてもいいのか?」


 そこら中からザワメキが溢れ、どうすれば良いのか解らない状態が続く。

 そんな時、笛の音が鳴り響き遅れずに付いて来る様に言われる。 良く解らないかなり大きな建物の前にある広場に集められ、セードルフさんと言う人族が説明を始める。

 前に噂に聞いた事と大差無いものだった。 まず学園で勉学をして、何になるかは自分で決められる。

 学園には、子供だけではなく大人も入る。 読み書きや計算などは必須だと言う事だった。

 衣食住は、基本的には保障される。 良い生活をしようとするのなら、努力しろ・・・と言う事だった。

 住む部屋も申し分なく、着る物もかなり良い物だ。 なんと言っても食事が美味い!

 努力し、出来る限り良い物が食べたい! が、労働時間は延ばして貰えない。 空いた時間に勉強をし、自分のスキルを高めるのが良い様だ。

 朝早く起きて、妻と一緒に文字を書く練習をしている。


「この国は、豊かで良い国ですね。 人が飢える事も無く、希望に満ち溢れていますね」

 妻は、満面の笑みで言う。


「本当にその通りだ。 この国に来て良かった」


「パパ、ママ、早く行かないと遅れちゃうよ?」

 娘が、服を引っ張りながら言う。


「おっと、もうそんな時間か? じゃあ、ソメイヨシノの方々の神棚にお祈りを捧げてから出発しよう」


 ただの日常は、1番かけがえの無い物と知っている移民の人たちは、努力し、協力しウルフローナの一員となる。



◇◆◇


 とある商人の話。


 今日は、なぜか解らないがカナタ様からお言葉をかけていただけるらしい。

 私で何人目かは解らないが、緊張で心臓が口から出そうだ。

 カナタ様が前に座り、説明を始める。 緊張でそれ所ではない。 話の半分すらも頭に入って来ない。


「って訳でね、移動して来てくれる人たちの中に紛れてそれと無く王都まで誘導して欲しいんだよね」


「ザルツサーレの休憩のときに適当な人に話しかけて・・・」


「そうそう、昔に俺達の事を疑ってたでしょ?」


 ど・・・どお(う)してそれを? 誰にも言った事はないし、態度にも出していなかったはず・・・私は、視界が真っ白になり始め意識が遠いていく。


「待って待って! 怒ってるわけじゃない! むしろ感心してたから呼んだんだよ」


 言葉を聴いて意識を失う直前で何とか持ちこたえた。


「最初に疑わない商人なんて商人じゃないよ。 あらゆる可能性を考え多角的に物をみる。 商人の基本でしょ? それが出来てると思ったんだ」


「そ・・・そうですか」

 意識を失わずにすんで良かった。


「流石商人、何とか持ちこたえたみたいだね。 それでね、適当な人に話しかけるとき、最初に自分も疑っていると言って欲しいんだよ」


「なぜですか?」


「疑ってた人が、街で情報を集めて信用に足りそうだと話をすれば信憑性が増すでしょ?」


「畏まりました。 この命に代えても実行してきます」


「そこまで大袈裟じゃなくていいからね。 他の人にも頼んでいるからさ」


「はい、畏まりました」


 屋敷を出るとどっと汗が出てくる。 屋敷のすぐ横で蹲り考える。

 ヤバイヤバイヤバイ、心が読めると言う噂は本当だったのか! 疑っていたと言う汚名を返上する為に、命に代えてもやってやる。


「なぁ、お前も呼ばれた口か?」


 急に後ろから声をかけられる。


「ああ、そうだけど。 ってことはあんたも?」


「ああ、そうだ。 他のやつも数人声をかけたんだが全員が最初にソメイヨシノ様に疑いを持っていた・・・と言う共通点があってな。 まさかと思うがお前も?」


 声も出ない・・・頷くしか何も出来なかった。


「やっぱりか・・・あっちで今夜に集会やる事になってるんだが、お前も来ないか? 成功させないと、やばいのは解っているだろ?」


「ああ、了解だ。 今夜だな」


「あと、呼ばれたであろうやつを見つけたら声をかけてやってくれ。 俺もまたまわってみるからよ」


「そうだな。 じゃあ、私はあっちを探しに行って来る」


「そっか、俺はこっちだな。 じゃ、任せたぞ」


 心が重なった商人の連携により移民の1人もかける事なく王都まで移動させる事が出来た。

 この時参加した商人は皆、一番恐怖を感じた瞬間はこの時だと話す事になるのだがそれは別の話。

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