side story セラン編 (5)
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罠の事を教わってから既に数ヶ月過ぎ、カナタ様がエルフの里からかえって来た頃。
僕は・・・いや、僕達は7級の冒険者となった。
学生の身分だと10倍の数のクエストをクリアしないとランクが上がらないし、授業で倒した魔物は数に含まれない。
それでも7級に上がる事が出来たと言うのはすごい! これで、いっぱしの冒険者と胸を張って言える。
でも、カナタ様達はランクを上げるのが面倒で上げないでいたら、ギルドマスターに怒られたと言う逸話もあるので、ランクを気にしすぎても意味はないのかもしれない。
いやそんな事はない! ランクが上がればギルド提携の宿泊施設や商店、鍛冶屋などの割引サービスを受けられる。
難しいクエストを受けられたり、解体費用の割引されたり、ブリーフィングルームを使用できたり、資料室の閲覧が割引になったりする。
まぁ、学園の図書館にある資料は学生ならいつでも無料で見られるしギルドの資料室にある本よりも、色々詳しく書いてある。
薬草や野草、毒草の採取の仕方など全く知らなかったが、絵で詳しく採取の方法が書いてあり何処に行っても採取のみでやっていけるだろう。
先輩冒険者達も1度学生になり、一生懸命書き写しているし本当にすごいと思う。
1年以上もソメイヨシノの皆様の訓練を受けているので、かなり強くなったという自覚はあるし先輩冒険者と訓練しても勝つ事が多い。
なのに、ショウマ様との組み手では手も足も出ない。 ギフトを一切使わず、手をクッションでぐるぐる巻きにされ手首や肘を動かせず、足もほとんど動かさ無いにもかかわらず。
強さの桁が違う? 次元が違う? 本当に同じ人族か疑いたくなる。
自分が強くなれば強くなるほど、遠い存在だと思い知らされる。 ゴールが見えない戦いほど・・・と言うのは知っている。
でも、近づくと決めたんだ! 少しでも1歩1歩でも近づいてみせる!
「お~い! セラン!」
ランムが遠くから走ってくる。
「何があったんだ? そんなに慌てて。 ほら、少し水を飲みなよ」
僕は腰に付けていた水袋を渡す。
「はぁはぁ・・・すまん。 って落ち着いている場合か! やっぱり噂は本当だったんだよ!」
「カナタ様がミズキ様と付き合っているって噂か? カナタ様は色々多才だし優しいから仕方ないんじゃ無いか? 残念だったな、ランム」
「確かにミズキ様は憧れだけど・・・ユカ様の胸もいいよな! こう、1度でいいから持ってみたいと言うか触ってみたいと言うか、ギュッと抱きしめてもらうのもいいな。 って、そっちじゃねぇよ!」
「お前、ミズキ様が駄目だからってユカ様はやめておけよ。 マジで死ぬぞ? ファンクラブの人間に貴族様や陛下までいるって噂だからな?」
「え? そうなの? 付き合っただけで不敬罪とかで処罰されそうじゃん。 せめて英雄クラスにならないとまずいな」
ランムは腕を組んで本気で悩み始め、ハッと気が付く。
「だから、ちげえって! カナタ様がエルフの大半を借金奴隷にしたってやつだよ! 前に来たエルフには聞き辛かったから有耶無耶だったけど、コノミ様がエルフと話してたのを聞いちゃってさ。 大ニュースだと思ってかけて来たんだよ!」
「あぁ、その事か。 僕は父上から聞いてたから知ってたんだよね」
「何!? おめぇ、俺達には何も言わなかったじゃねぇか!」
「まぁそうだね。 でも、僕達も借金奴隷と変わらないだろ? 親が借金して、家族全員で働いて返す契約なんだし」
「あぁ、言われてみればそうだな。 ソメイヨシノの皆様から借金して、自由に動けているんだっけな。 なんかこんな生活していると、俺達が借金奴隷ってのはシックリこないよな。 既に一般市民みたいな生活しているわけだし」
「うん、そうだよね。 エルフ達は皆と同じく借金奴隷だから、騒ぎ立てないように。 って言われていたから言わなかったんだよ」
「なるほどな。 そう考えるとこの国の大半の人がソメイヨシノの皆様の奴隷って考えられるから、騒ぎ立てるほどの大ニュースって訳でも無いな」
「大ニュースは、それだけ?」
「いやいやいや、まだあるぞ。 なんと! ダマスカスのインゴットをタクミ様が作れるようになったみたいだ」
「へ? あれってドワーフだけの技術だったはずだよな? てことは、他の職人も作れるようになってことか?」
「いや、インゴット作れるのは今の所タクミ様とケイタ様、カナタ様の3人だけらしい。 だけど、ソメイヨシノの皆様は作れるようになるのは時間の問題だろうな」
「本当にすごいな。 目標にするのもおこがましく思えてくる。 でも、ダマスカスか~。 武器や防具に使えたらいいんだけどなぁ」
「いや、それがな。 ダマスカスのインゴットは買えるみたいだぞ? しかも、素材を集めて渡せば安く加工してくれるらしいぜ?」
「本当か!? と言うか素材は何を渡せばいいんだ?」
「鉄鉱石か砂鉄だってよ。 両方かなりの量だけど、地道に集めりゃいけんじゃねぇか?」
「そうだな。 近くの川原に磁石を持って行こう。 早速磁石を借りてこなくちゃ」
「おう! 全員に声かけて来る。 磁石のレンタルは任せたぞ」
「解った! ちゃんとフル装備で集合な」
僕は学園に走り磁石を借りて門へと急いで行く。
フル装備だとやはり暑いな、どんな危険があるか解らないから仕方ないけど。
門に着くと既に全員集まっていた。 挨拶もそこそこにして、川原へと出発。 特にモンスターに襲われる事も無く川原の近くへと着いた。
いつもなら少数のモンスターに襲われるはずなのに今日はいない、ラッキーだと言えるかもしれない。
「おいおい、マジかよ。 何でこんなに人がいるんだよ」
ランムがポツリと呟く。
既に川原には多数の冒険者や同じ学園の生徒、エルフ達までいる。
全員大きな岩をどかし磁石を使い砂鉄を集めているようだった。 川の中も既に人が山のようにいる。
「ここまでの道のりでモンスターが出ないのはラッキーだと思ったけど、逆だったね。 人がこれだけいたら、狩られるに決まってるね」
僕は呆然としながら言う。
「どうするセラン? 俺達もまざるか?」
ランムの問いに首を振って言う。
「いや、諦めた方が良さそうだよ。 そこのグループなんて麻袋2つ分くらい既に取ってるし、エルフの人なんてマジックバッグに入れてるから、この近辺に砂鉄は少ないだろうね」
「マジかよ! どうする? せっかくここまで来たんだぜ?」
僕はどうするべきか周りを良く観察する。 あぶれた冒険者グループが多数確認できる。 つまりこの近辺の魔物は既に狩りつくされているから、何とか砂鉄を・・・って所だろう。
それにしても暑い。 冒険者達も装備をきっちりしながら砂鉄を取ってるからかなり疲れてるだろう。
「そうか! そうだ、それがいい!」
「なんだ急に?」
「確かここの近くでブドウやベリーなんかが生っていたよね?」
「ああ、前に来たときは魔物の食料になってたけどな」
「今は魔物が狩りつくされていない。 果物は生っていると思う。 ってことは、それで果実水を作って売れば結構な稼ぎになるんじゃ無いか? 今日は休日だったから魔力も十分にあるし」
「そうか! 人の多さを逆手にとって商売をするって事か!」
「エミュニルッティ(仲間の1人)なら、果実水の配合とかって解るよね?」
「ああ、でも砂糖(遭難時の糖分として支給されている飴)が少なくて塩も心もとない。 これじゃあ、そこまでおいしい物は作れない」
「それで十分だよ。 冷やした水でも今なら売れるだろうし」
僕達は、すぐに作業に取り掛かった。
最初吹っ掛けた値段で販売をしたが、すぐに売り切れ。 僕達は結構の稼ぎとなった。
何度かはそれでかなり稼げたのだが、何度目かで既に商人が簡易的なお店を出していて僕達は引き下がった。
これだけ稼げば、大進行(魔糸を吐くラネアクロウラー大量発生)で少し稼げばダマスカス製の武器に変更でき鎧下も魔糸製の物に変える事が出来るはずだ。
セラン編は、ここで一旦終了です。