side story セラン編 (4)
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冬の間は連携強化や金策、個人鍛錬に奔走した。
武器防具のメンテナンスにも作成にもお金がかかるし、食費、滞在費、薬品代、雑費などを工面しながらだと冬の間に確実に金欠状態になる。
冒険者として暮らすためにPTメンバーと一緒に暮らし始めてから解る親のありがたみ。 先輩冒険者はどうやって暮らしていたのだろう?
その疑問を解消すべく冒険者ギルドへやってきた。 そこにはライナさんがいた。
「金策の事か~・・・う~ん。 使わないってのが1番早いと思うけどな」
ライナさんは、腕を組み首を傾げながら言う。
「使わない? ですか?」
「そうだ。 たとえば、剣と短剣だとメンテナンスはどっちが安い?」
「短剣です。 短いので自分達でもメンテナンス出来ますし、どこに出しても安くやってくれます」
「そうだろう? じゃあ、短剣とそこら辺の枝や石を比べたらどうだ?」
「そりゃ枝や石ですけど・・・まさか!」
「そうだ。 そのまさかだよ。 短剣で枝を尖らせれば槍になるし、石は投げる事も出来るだろう? あとは、石を袋とかに入れて袋の紐を長くすれば即席ブラックジャックの出来上がりってわけだ」
「なるほど、自然にある物を利用して敵を倒すのが基本と言う事ですか?」
「いや、基本ってわけじゃない。 今の主流はこっそり近づき魔法をぶち込み数や力でねじ伏せるって感じだからな」
「え? どういう事ですか?」
「人それぞれやり方があるって事だ。 俺達は3人でやっていたから罠を張り、敵を釣りおびき寄せ罠に誘導し一方的に攻撃をして狩ってきた。 もちろん失敗して正面から戦ったり、罠が使えないところでの戦闘も多く経験している。 これがかっこ悪いと言われた事もあるし、弱いからだと言われた事もある。
しかし、命あっての物種だろう? どんなに強くても死んでしまったらそこで終わりだしな」
「そうですね。 僕達も1度オークジェネラルと戦って死にそうになった事があるのでわかります。 あんな戦いを何度もやりたくはないです。
あの、冒険者の手の内を聞くのは失礼な事かもしれません。 ですが、お願いします。 僕にも罠の張り方などを教えてもらえないでしょうか? もちろん報酬は何とかします」
「はっはっは、別に教えるのは構わない。 もちろん無料でな。 この後すぐに、兄さんに罠の張り方を教えるんだが、一緒にこれないか? 用事があるってんなら後でも構わないが」
「え? そうなんですか? 是非行きたいです! が、本当に無料で良いんですか?」
「ああ、兄さんから依頼料を渡されたからな。 金額の桁がおかしいと言ったんだが、使い場所が難しいから何とか使ってくれって言われちまってな。 なんかこう金銭感覚がおかしくなりそうだ」
「カナタ様らしいと言えばカナタ様らしいんですね」
「ああ、そうだな。 どうやって使えば良いか聞いてくるからな逆に困るんだよな。 まぁいい。 ロングブーツは持っているよな? 泥濘を少し歩く事になるからな」
「はい! 準備が出来たら門集合ですか?」
「おう、兄さんが来るまでに時間があるしそれで大丈夫だ」
僕はPTメンバーと暮らしている家に戻り装備を整え門へと向かう。 まだお二人とも来ていない。
良かった、1番だったようだ。 ほっと胸をなでおろし自分の装備の点検をもう1度やる。
考えてみたら鎧下や鎧、ブーツなども全部貸してもらっているものだ。 これ全部買い取る事が出来るのだが、お金的にきつい。
やはり実習を増やしたほうがいいかもしれない。 しかしそうすると鍛錬の時間が減っちゃうし。
今後の事を考えると鍛錬の時間を減らすのはかなり厳しい。 獣人族と比べると身体能力的に劣る人族の僕だと魔法・近接戦闘・遠距離戦闘の全てをある程度こなせるのが理想だろう。
武器と盾的に斥候は向いていないが、技術だけは何とか覚えたい。 元1級冒険者であるギルドマスターが技術の全てを教えてくれているわけだし、今覚えておかなければ一生覚えられないだろう。
魔法だってそうだ。 こんなに丁寧に教えて貰うことなんて絶対にないと言える。
ブレイブソードのリカムさん(ピンクの髪の魔法使い、ライナの追っかけ)は、人族の魔法学院出身者で教わった事をたまに話してくれているが、酷い所だったようだしね。
現在ではリカムさんはミズキ様と一緒に魔法の研究? 特訓? をしているようだが、最初はミズキ様とリカムさんでは魔法の使い方がまったく違っていた。
ミズキ様は、魔法で足止めや弱い魔法で移動を阻害し前衛のサポートを中心に魔法を使うのが1番安全に狩りが行えると考え使っている。
リカムさんは、1撃の大きさ重さ威力を重視した魔法を使う事がいいと思っていたようだ。
確かに魔法の1撃の方が剣で切るよりも攻撃力は高いと思う。 ただ、1撃に重きを置くと魔法使用時にまったく動けない。
これでは狙ってくださいと言っているのと同じだろう。 結局全員で魔法使いを守る事になってしまう。
守りながらの戦闘は思ったよりもきつい。 動きが制限される上、なんらかがあった場合に魔法が途切れて死に直結するだろう。
リカムさんは自分でも欠点はわかっていたようで、欠点を解消するために努力している。
ミズキ様とユカ様の訓練で魔力消費-を手にし、今は魔力操作や魔法効果距離や詠唱短縮のギフトを取るためにがんばっているらしい。
僕も頑張れば魔力消費-などを取れるだろうか? 戦闘での選択肢は多いほうがいい。
ただ、多すぎると迷い間違える事も多くなるだろう。 だからこそ、鍛錬を欠かさず行う。
瞬時に選択が出来るように、その最良といかなくても良や可くらいは絶対に取れるように。
それにしても、お二人は遅いな? 何かあったのかな?
そう思っているとき、2人揃って駆け足でやってきた。
「ごめんごめん。 準備に手間取っちゃってさ。 じゃあ出発しようか」
カナタ様が苦笑して言う。
「いえ、こちらこそいきなりのお願いを聞いて頂きまして、本当にありがとうございます」
「じゃあ、少し遅くなっちゃったし早速行きますか」
僕達は、少し駆け足で近くの森まで出発した。
魔物の通り道の見つけ方、どのように行動するかなど本で読みギルドマスターにも教わっていたが所々抜けてしまっていたのでいい勉強となった。
罠はオーソドックスな草と草を結び輪にして転ばせる物や落とし穴や丸太落とし等を最初に習った。
しかし、やはりカナタ様の覚える速度は異常だ。
どうやればそんな速度で覚えられるんだろう? いや、気にする事はない僕は僕のペースで頑張ろう。
特殊な罠だと餌に薬を漬け込んだ物や竹のしなりを利用する物、くくり罠、トラバサミ、箱罠あとは設置型魔法スクロールだろう。 自然の罠は場所によって使えない事もあるが用意した罠はどこでも使える。
どうやって運ぶかどう使うかなど大変参考になった。
最後の設置型魔法スクロールだが、この国では今の所販売していない。 人にも効果がある為、作成もして無いし販売する予定もないと言っていた。
「実際使ってみたけど、魔法スクロールは便利だな。 これを普及させれば怪我が減るだろうな。 しかし、人に効果がない様にできないもんかねぇ」
カナタ様が使い終わったスクロールを見ながら言う。
「罠全般が誰にでも効果があるもんだろう? 仕方ないんじゃねぇか?」
ライナさんが首を傾げて言う。
「そりゃそうかも知れないけど、人の暗殺とかに使える物だと販売したくは無いんだよなぁ。 いつか自分に返って来そうで」
カナタ様が顎を触り考えながら言う。
「自分に返ってくると考えたから魔法スクロールは、威力がかなり弱いし麻痺や睡眠など状態異常に成るものがほとんどだ。 状態異常ならダンジョン産のアイテムで治せるしな。
しかも、他国でも販売に関して規制がされてた筈だ。 まぁ規制をしなくても人気はないんだよな。
魔力消費が大きくて値段もかなり高いから使えば赤字になるから使う奴が殆どいない。 俺だって兄さんにスクロールの金を出して貰えなかったら使わないで取っておくぞ」
「そんなもん? 安全を考えるなら使うほうが良いと思うんだけど」
安全かお金か・・・悩むところだと思う。 僕なら安全を優先したいと思うけど、お金が無くなるのは首をくくるのと一緒だし・・・あぁぁぁぁ悩むなぁ。