side story セラン編(2)
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「セラン君は、ただ速く動きたいって事? それとも、戦ってる相手に速いって錯覚させたいって事? その両方?」
カナタ様は、腕を組んでこちらを見て言う。
「両方ですが、ある程度は速く動きたいです」
「なるほどね。 それなら、まずはギフトを取った方が早いかもね。 見てあげるから魔力を体に流してみてもらえる?」
ギフトの習得をする? 魔力を流す? 気軽な感じでカナタ様は言う。
新たなギフトの習得など5年修行しなければ手に入らない。 ギフトのランクを上げるのも同じだ、知識、能力の相性、何よりも強い意志が求められる。
それを「片足で立ってみて」と同じぐらい気軽に言う。 いや、カナタ様は3日で一流(〇〇の心を持っている)にまでなれると言っていた方だ。
カナタ様が言うのだから僕にも才能があるのかもしれない、出来る限り頑張ってみよう。
「ん~、流れてる魔力量が少なすぎるね。 もっと全身に一定の魔力を流す感じで」
「こんな感じですか?」
僕は出来る限りの力を使い魔力を練る。
「そうそう、流れる量はそんな感じ。 だけど、魔力漏れすぎじゃない?」
「そうなんですか? 魔法使うときみたいな感覚で使ってるんですけど」
「一旦ストップ! なるほど、なるほど。 セラン君、人族と獣人族どっちが魔力が多いか分かるよね?」
「はい、人族です」
「そう、確かに魔力量だけを見ると倍ほども差があるように見える。 でも、獣人は魔力の体外排出は少ないよ。 そうだな・・・たぶん人族の1/3~1/4位だと思う。 そう考えると、獣人の体力が優れてるってのも解るね」
「えっと、出来る限り解りやすく言っていただく事は出来ますか?」
「そうだな。 人族と獣人族の魔力量が同じだと仮定して、両者が魔力100使用するギフトの身体強化を使用する。 人族はロスも合わせて魔力200を使用して発動する。 そして、獣人族はロスも合わせて魔力150を使用して発動する。 数値的には50の差だけど、長い戦いになればなるほどその差は顕著に現れると言う感じ。
獣人の体力が多いってのは、そんな感じで魔力を節約しながら過ごす術を身に付けているって事だと思う。 魔力が底に着きそうになると動きが鈍るでしょ? 難しいかな。
えっと、例えば、桶に汲んでおける水をバケツで汲んでばら撒くのと、コップに汲んでばら撒くのとの違いと言ったら解るかな?」
「何となくですが解りました。 ギフトの習得だけではなく、魔力を操る技術も向上させなければ成らないと仰っているって事ですね?」
「そうだね。 近接戦闘のみで戦うのなら、そのくらいしないと勝てないのは解ってるでしょ?」
その後、カナタ様と共に身体能力+を手に入れるために特訓に付き合ってもらった。
努力のかいあって、魔力の流し方はほとんど覚える事が出来た。 あとは反復練習だ。
魔力を操る技術は、ミズキ様が1番上手いと言うことで教えて貰えるように・・・頼めないな。 綺麗な方だとは思うけど、表情が余り動かずどうすればいいのか解らない。
確か母上が基礎的な魔法を少し使えたはずだし、教えてもらおう。
毎日毎日毎日毎日、体力作りと魔力作り身体強化の反復練習、魔力が漏れないように制御する訓練、もちろん仕事も座学も手を抜かない。
そんな時に、身体能力+を手に入れる事が出来た! 父上も母上も同じように一緒に習っている友人も、ソメイヨシノの皆さんでさえ喜んでくれた。
だが、獣人族と比べると身体的ハンデがあり、勝てない事がある。 これ以上どうすれば良いというのだろう。
「それで、もう1度俺の所に相談に来たのか」
「はい、総合的な戦闘では何とか1番になれてますが、近接戦闘のみだと戦えてると言う程度です。 今後はどうすれば良いのか解らなくなってしまいまして」
「そうだなぁ。 あとは無駄を無くすとかかな?」
「無駄と言うのは、フェイントとかですか?」
「違う違う。 えっとね、走る時に右足と左手が前に出て次に左足と右手が前に出るでしょう? そうすると腰で捻りが生まれて力が少し無駄になる。 ひねりが無ければ、同じ行動をした場合に先に技を出せると言うメリットが出来る。 ただ、捩れが無いと威力が落ちたりするから一長一短だけどね」
「つまり、どういうことでしょうか?」
「あぁ簡単に言うと、無駄な動きを1つもしなければ1手先を取れるって事だよ。 ショウマ君も言ってたでしょ? 弱い攻撃でも先手を取れれば逃げられる可能性が高まるし、自分のペースに持ち込む事が出来るって」
「なるほど。 はい、解りました。 無駄な動きを1つもしなければ1手先を取れる。 肝に銘じて努力していきます。 ありがとうございました」
僕は、ショウマ様・ケイタ様・タクミ様のお三方に特別特訓をつけていただき無駄を極力そぎ落としたいった。
思いの他、無駄を省くと言うのは難しく。 いつもの筋肉痛とは違う場所が痛くなり、次の日動くのが難しくなるほどだった。
何度も何度も修正し何度も何度も止めようかと考えたが、慣れてくると不思議な事に周りが良く見えるようになった。
ショウマ様の特別特訓の成果で、無手もしくはそれに近い武器での攻撃と防御を一体と出来る術を学べた。
ケイタ様との特別特訓で体捌きや移動時のブレなどの修正をしていただいた。
タクミ様との特別特訓で様々な武器の長所短所の把握、どのように振るのが効率いいか教えていただいた。
お三方の特訓は、他の子も受けていたが全員何とか付いていけている程度だ。 それを呼吸するかのように行っているソメイヨシノの皆様は本当に異常だ。
特にカナタ様は、ギフトに差があるのに(昔は1個ほど身体強化系ギフトに差があった)何故ケイタ様やショウマ様に訓練で付いていけるんだろう?
ショウマ様もケイタ様もかなりやり難そうに顔をしかめる場面もある。 でも、カナタ様はいつもより楽しそうな笑顔だ。
最終的には負けてしまうが、それでも凄い。 僕もあんなふうに成りたい。
カナタ様の動きを何度も何度も思い返し、体を同じように動かし染み込ませる。 僕がカナタ様のように技を自在に使えるとは思わないが、少しでも近づきたい。
「お、今日もやってんのか? セラン。 相手がいなきゃやりにくいだろ? 俺が相手になってやるよ」
「良いのか? ランム。 畑仕事をいつも手伝っていただろう?」
いきなり声をかけられ少し驚いたが、同じパーティでサブリーダーをしてくれているランムフル(通称ランム)だと解りほっとし、組み手を手伝ってくれることは素直に喜んだ。
最初は、ショウマ様に同じ位の強さだからと言われパーティを組まされ反発したが、リーダーを決める総当たり組み手で僕が何とか勝ってから仲良くしている。
「そうなんだけどよ。 親父がLv上がって手伝いは要らないと言ってきたんだ。 て事で、俺も冒険者一筋で鍛える事が出来るって事だ」
頭を掻きながら照れくさそうに言う。
たぶんだけど、両親にお願いしたんだろうな。 ゴブリンの討伐数とオークの討伐数で1番になったし、それを理由にしたんだろう。
「おい、セラン! さっさと構えろよ」
「解った。 でも、怪我をしたら怒られるから、速度を合わせたスロー組み手にするよ?」
「ああ、技の確認してんならそのほうが良いだろう。 1/10位でやるか?」
「了解、始めよう!」
僕達は暗くなるまで技を練習し、動きを自分の物にしていった。 夜遅くなって2人で怒られたのは言うまでもない。
そろそろ冬になるな。 その準備のため時間のあるソメイヨシノの皆さんと大人達、子供達で薪拾いに向かう。
僕達が、全員護衛役と言うわけだ。 人数的には多いので、暇になってしまう。
ショウマ様の一声で探索にパーティで交互に行く事になった。
魔物が現れた場合キャンプ地への帰還が義務付けられたが、お小遣い稼ぎが出来ると喜んだ。
料理を専門的に学んでいるわけではないので、屋台の料理はかなり魅力的なのだ。
僕達は躍起に成って薬草や食べられる野草、木の実や果物などを見つけバックパックにしまっていく。
タダシ様が高値で買い取るといっていたポポー、ベビーキウイなどを見つけホクホク顔で1度キャンプに戻る事にした。
「オークだ! 全員、キャンプに戻れ!」
その声を聞き全員で顔を見合わせ頷き、僕達は急いでキャンプへ戻る。
明けましておめでとうございます。 なかなか書く時間が取れず、更新遅くて申し訳ありません。