side story セラン編 (1)
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僕たち一家はとあるお屋敷で使用人として働いていた。
父のセードルフは執事長補佐と言う役職で、執事やメイドから尊敬されていて憧れであり目標の人。
母のミランダは、愛想も良く手際も良いので皆から慕われるメイドで尊敬する人。
僕は見習い執事として色々頑張っていたが、あまり良い出来ではなかった。
そんな時、庭の木の剪定に失敗し蕾が付いた枝を落としてしまった。
綺麗な花が咲くのを楽しみにしていた主に、罰として汚物入れの清掃を命じられた。
汚れてもいい服装とマスクを付け帽子を被り、清掃をする・・・初歩の初歩の魔法位なら使えるので、水を流しながら作業する。
こういう仕事はあまりやりたくは無いが、僕が失敗した事がきっかけでやる事になったのだから頑張らないと!
にしても、かなり汚いなぁ。 少し前にいた犯罪奴隷の男が体調を崩し療養に入っていたため、掃除が手付かずだったのは解るが、ブラシをどんなに動かしても汚物が取れない。
色々努力したが、やはり完璧に取れるところまでは無理だった。 確認が入るまでは1週間(5日間)。
それまでに綺麗にしなくちゃ。 父上と母上には、お許しをいただくまで内緒にしておこう。
じゃないと、仕事に支障が出てしまうかもしれないし。
1週間後・・・努力のかいがあり、何とかお許しをいただける事となった。
これからは失敗しないように、慎重に丁寧に仕事を進めていかなくちゃ。
僕は、その時に気が付いていなかった。 既に僕の体に病魔が住み着いていることに・・・
執事の仕事を出来る限り綺麗にこなす。 最初は時間がかかっても、迷惑をかけない失敗しない事が最優先だ。
他の場所に出かけた時に主を守るため、体力を付け剣技も習う。
僕も早く一人前の執事になりたい! でも、冒険者にもなりたいな。
英雄譚とか吟遊詩人がうたってるのを聞き、僕もそんな風になりたいと思う。 まず無理だと思うけど。
月日が流れる。 僕もゆっくりだけど確実に仕事を覚えてきた。
そして、引退してしまった先輩執事の代わりに新人が入ってきた!
僕より1つ年上だけど、後輩が入るなんて物凄い嬉しい! 解る事を教えなさいと言われたし僕は先輩となったのだ!
でも、最近体がおかしい。 風邪でも引いたかな?
おかしいと言えば、屋敷の中もおかしい。 何でこんなにバタバタしているんだろう?
もしかして、パーティでもやるのかな?
日に日に動けなくなり、仕事はおろか自分の事さえ出来なくなっていく。 医者に、死病と診断されてしまった。
両親に迷惑をかけ何も出来ない僕。 値段の高いポーションを無理やり飲まされ、回復魔法を使える人が来て何とか生きながらえている。
こんなに迷惑をかけるのならいっそ死んでしまいたい。 でも、父と母が悲しむ姿は見たくない。
苦しくても痛くても耐えていた時、僕たちは奴隷となったと言われた。
僕の薬でお金が無くなったんだ。 本当にごめんなさい。
父は冤罪で捕まったと話していた。 父は、国に納めるお金を盗んだと言う事にされたと歯を食いしばり、悔しそうに呟いていた。
僕が病気にならなければ・・・本当にごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 神様、どうか僕を、体の自由が利かなくなってしまった僕を殺してください!
僕の願いは聞き入れられず、何とか生きながらえている。 意識は混濁し上手く考えられないが生きている。
どうして? なんで僕は生きているんだろう?
起きるたびに痛みと息苦しさで、この疑問を繰り返す。 いつまでも続く地獄、果ても無くただ苦しみだけが訪れる。
もうこんな世界は嫌だ! もう嫌なんだ! 殺してくれ、頼む。 いや、本当は死にたくない! 助けて! 痛いのも苦しいのも嫌なんだ! だれか、助けて・・・
僕はもうすぐ死ぬ。 瞼すら開けられない。 耳は聞こえる。 父は誰かと喧嘩しているのだろうか?
もういい、2人は幸せになって欲しい。 僕の所為で色々ごめんなさい。
痛みに慣れてきたのかな? 痛みが和らいでいる? 目が開くのか?
ゆっくり瞼を開けると、父の顔があった。
「ち・・ち・・・うえ」
何だ? 無理やりなんか飲まされた?
いや、いいや。 疲れたし眠っちゃおう。 2人の子供に生まれて本当に楽しかった、ありがとうございます。
少しまどろむと痛みや苦しさを感じなくなり、意識を手放した。
気が付くと、体が軋むが起きるのに支障は無い位に回復していた。
父と知らない人が良く分からないものを食べていた。 なんだろう? 太いパスタかな? まぁなんでも良い。
父と母に事情を説明され、お屋敷に雇われたようだ。
雇ってくれた人は・・・いい人? 人が良さそう? そんな第1印象だった。
だって、冤罪であったとしても犯罪奴隷を執事として雇用し、食事と寝床、服を。 生活を保障してくれるらしい。
しかも、薬代は働いたお金でゆっくり返してもらうと言っていた。 どれだけ人が良いんだろう? それとも異常な位のお金持ちなのかな? それとも貴族様? 王族って事もあるかもな。
僕の体のリハビリも終わり本格的に執事として働こうと思う。
だって、死病の薬って最低で大金貨1枚するらしい。 カナタ様は、いつでも良いから~と適当な感じで答えていたが、そんな超大金普通に働いただけじゃ返せない。
どうすればいいんだろう? 父上、母上は、命も全てカナタ様達に捧げると言っていたから相談出来ないし・・・
カナタ様達は、冒険者として活動しているようだ。
貴族様って訳じゃなかったみたい。 しかし、思ってたより凄いお金持ちのようだ。
調味料の数が異常だ。 見たことない葉や実が所狭しと並んでいる。 しかも、足りないからと言って栽培までし始めている。
この方達は本当に何者なんだろう?
ただ、冒険者ランクを聞いたけどそこまで高くない。 と言うより新人と言っても良い。
しかし、訓練を見ると異常な強さだと言う事が解った。 2級冒険者同士のコロシアムでの試合を見た事あるけど、ここまで動きは速くない。
それをカナタ様達は全く気が付いていない。 どうなっているんだろう? 自分の強さが解らないって事なのかな? でもそんな事ある? いや、深く考えないようにしよう。
しかし、本当にうらやましい。 僕もあんなふうに動けたら、気持ち良さそうだなぁ。
僕も冒険者を目指してカナタ様達と訓練していたら、強くなれるのかな?
カナタ様は、自分のしたい事をしなさいと言ってくれた。 最初はどう取って良いのか解らなかったが、本当に僕達を進みたい道へと導くつもりのようだ。
父上に何度か冒険者になりたいと言ってみたが、怒られるだけだった。
他の農奴の子はどんどん先に進んでいる・・・僕は・・・
意を決してカナタ様に直接お願いをした。 怒られると思ったが、冒険者になる事を許可してくれた。
本当に嬉しい! 父上から少しお叱りがあったが、応援してくれるとの事だ! 頑張らなくちゃ!
遅れを取り戻すため我武者羅に訓練をした。 ショウマ様が1人で訓練しているところを覗いて動きを覚えたり、暇な時間に筋トレをしたり素振りをしたりする。
獣人と人の身体能力に差があることなど解っている。 しかし、カナタ様達も人だ。
あそこまでは強くは成れないかもしれない、それでも努力するって決めたんだ!
朝早くに起き、素振りをしているとカナタ様が1人で屋敷の前に出てきた。
「お、セラン君。 おはよう、早いね」
「おはようございます。 カナタ様」
「ストレッチはした? しないと思わぬ怪我をするよ?」
「はい、入念にストレッチしましたので大丈夫です」
「そっかそっか、無理はしないようにね」
「はい、ありがとうございます。 あの質問があるんですが良いでしょうか?」
「ん? 何? 何かあった?」
「どうやれば、皆さんのように速く動く事が出来ますか? 皆にぜんぜん追いつけなくて・・・」
カナタ様は首を傾げ考えてるようだ・・・なんか秘訣とかあるのかも!