第279話 実験(1)
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「また何か思いついたのか?」
ショウマ君が困ったような呆れたような顔をして言う。
「うん、まぁ治療が出来るって訳じゃないんだけどね。 ただ単に興味本位の実験って所かな」
「じゃあ、私達は魔シルクの回収をしててもいいですか? アヤコさんが欲しいみたいなんで」
ユカさんの通信が入る。
「うん、問題ないよ」
現在大進行の前兆のようにラネアクロウラーが大量に湧き出している。
去年の大進行はかなりの量の魔物が一気に押し寄せる異常だったようだが、今回の大進行は例年並みになるだろうと予測されているらしい。
先人の知恵と言うか、おばあちゃんの知恵袋的なものなので余り信用し過ぎちゃ駄目なようだが。
通信機をパーティに切り替え話し始める。
「結局何をするんだ?」
「最初にゴブリンやオークを捕まえよう」
俺はそう言うとゴブリンの死体を亜空間収納にしまう。
ゴブリンを捕まえ同じように腕をくっ付けてみる。 それにより回復出来る魔物と出来ない魔物に分ける。
ここで便宜上回復出来る(自然発生した)魔物を①、回復出来ない(母から生まれた)魔物を②として話を進める。
②の腕を切り石化させる。 ①を石化させ、その石を使って切断された②の腕を作りだす。
「まさか、生き物から石を作り腕にしようとするのか?」
タダシさんが、呆れたように言う。
「その通りです。 だから、腕を治す手段ではないと言ったでしょう?」
「それはそうなんだが、あまり良い事ではないと解っているんだろう?」
「それは、もちろんですよ。 動物実験と言えなくもないですから、余り良いことだとは言えません。 だからこそ、知っておく必要があるんです。 綺麗な道だと思って進んでいたら、汚すぎて悪魔にも劣る道にいる事だってあるのが人間ですから」
「それは解っている。 だがな・・・」
「これはいけない事だというのは、昔やったことがある人がいるから知っている事なんです。 もし、今回の石化回復を思いつく人がいた場合、確実に人で試すと思います。 出来なかった場合は危険性を含め皆に教えようと思います」
「出来てしまった場合はどうするんだ?」
「秘匿するしかないですね。 死体を石化して使用する事が出来るのが唯一の救いとしか言い様がありませんが」
「そうか、全ては結果を見てからにするか」
「そうですね」
そして、綺麗に付け②の石化を解除する。 ②の腕は再生しない、失敗。 やはり、①と②では合わないようだ。 しかし、ここまでは想定通り。
②をもう1度石化させ、別の固体の②も石化させ、それを素材に腕を作る。
綺麗に接着をすると、石化を解除させる。 結果は、腕が完全に回復してしまった。
そして、その魔物に変化が訪れる。 ゆっくりと周りの魔素を取りこみ体が膨らみ薄く光り始めたのだ。
この反応はヤバイと思い、いそいで首を刎ねて事なきを得た。
「今のはなんだったんですか?」
ケイタ君が疑問を口にする。
「今のは俺の失敗だね。 腕を作ったとき、魔石が入っちゃっていた所を使用しちゃったみたい。 それで魔物が進化しようとしたって感じかな?」
「強制的に存在進化させたって事ですか。 危険極まりないですね」
「うん、そうだね。 腕は回復させる事が出来たけど、こんな事にもなりえるんだしやっぱり秘匿するしかないだろうね」
俺は、顎に手を当ててあきらめた様に言う。
「そうですね。 じゃあ、オークを探しましょうか」
ケイタ君の言葉に俺は驚いた。
「もしかして、やっぱり気が付いてた?」
「それはそうですよ。 自然に発生した魔物の部位欠損を治し食料に出来るかも見ておきたいんですよね?」
「うん、ヒントも無しに良く解ったね」
「1年も一緒にいれば嫌でもその位の考えは読めますよ」
「それもそっか。 じゃあやってみようか」
オークを探しに最初に降り立った森の中に入るとかなりの魔物がいることが解った。
最初に降り立った森と言っても、繋がっているだけでかなり離れている。 これはリョウさんのミニマップと言うスキルのお陰だ。
リョウさんのスキルの遠視の魔眼がランクアップしミニマップと遠見の魔眼になった。
ミニマップは1度行った場所の小さいマップを表示し、スクロールして見ることが出来る能力。 ただしスクロール中は周りが殆ど見えない。
遠見の魔眼は、未来が見えるのかと思ったが遠くが立体的に確認できる能力のようだ。
もしかしたら、物語でもあるような自分の意思では発動出来ないスキルなのではないかと考えているが今の所そんなものは見えていないと言っていた。
「カナタさん。 あちらにオークが10匹、その奥にオーク3匹、ラネアスパイダーとラネアクロウラーがそこら中にいますし、エテグラットンやジャイアントアントなどもいるようです」
「目に付くものは殲滅し、オークは生け捕り自分の身を第一に考えた行動をするって言うのはどう?」
皆が了承し、俺とショウマ君、タダシさんとリョウさん、ケイタ君とタクミ君の3チームに分かれ30分後にこの場所に落ち合う約束をしてそれぞれ走る。
俺とショウマ君はエテグラットンがいると言われた方向へ走る。 ショウマ君が試したい事があると言った為に行く事にしたのだ。
ショウマ君は今の所壁を乗り越えていない。 負けを認め、弱さを認めるだけではなにかが足りないようだ。
エテクラットンの数は5匹、ショウマ君なら全員に囲まれても特に問題のない数だろう。
ショウマ君は1人で5匹の中心に入って行き平然と立つ。 一瞬何があったのか理解出来ないエテグラットンは、ショウマ君を見つめて止まってしまった。
呆けていたエテクラットンにショウマ君は威圧を一瞬かけると気が付いたように攻撃し始める。
大振りの攻撃をいなすと同時に投げたり軽く叩く、軽く叩くと言っても体制を崩して数メートル転がる訳だが。
それ見たエテグラットンは死角からの攻撃を実行する。 木の上で気配を消し、ギフトの気配低下も使用してみているがエテグラットンはまともに戦えば結構強いのかもしれない。
1匹を目の前から攻撃させ、死角となっている後ろからもほぼ同時に攻撃を繰り出している。
目の前のエテグラットンの攻撃を逸らすと、その場で回転し肘で後ろからの攻撃をいなし下段回し蹴りのようなものを同時に放つ。
傍から見てても無駄のない流れるような動き、本当に後ろも見えているのではないかと勘違いする。
俺ならば風の音がして攻撃が来ると分かっても、あんな紙一重で避けられるとは思わない。
普通に倒すだけなら、俺でも魔法やギフトを全部封印して武器などを持たなくても問題もなく倒せる。
それを自分から攻撃に出ず、いなすと共に軽い攻撃だけで全ての魔物を制する事は出来ると思わない。
エテグラットンは、怒りに任せて全力の攻撃を繰り返す。 だが、気が付いたら転んだり叩きつけられたりしている。
魔物は基本逃げる事をしない。 魔王が作っていると言うことから人を殲滅すると言う目的のため作られたからなのかもしれない。
または人を弱いと思っているからなのか、人から見たゴキブリのような嫌悪感を感じているのかは解らないが全く逃げない。
だが、恐怖に戦慄き始め、逃げ出そうとする個体が現れ始めた。 これは凄い! 魔物の逃走なんて初めて見る。
逃走を開始すると共にショウマ君は殲滅に移行したようだ。
ものの数秒で、5匹のエテグラットンの首に手刀を当て首を飛ばしマジックバッグにしまう。
「カナタさん、もういいぞ。 わがままに付き合って貰って悪いな」
「いいよ、気にしないで。 でも、さっき投げたりしてたのって合気だよね? タダシさんが良く使うやつ」
「ああ、ジジィ・・・師匠も良く使ってたんだが俺と相性が悪くて使って無かったんだ。 今は、相性云々よりも強くなるために必要な事は全部やる事にしたんだ」
ショウマ君は、にっこりと微笑む。 こう見ると高校生なんだなって思うよ。