side story 五十嵐 渉真 ②
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何とか耐え続け、新学期になり俺は小学校に向かった。
休んでいた事もありイジメはエスカレートした。 だが、ジジィとの組み手の圧力に比べたら鼻で笑っちゃうレベルだった。
俺は、こんなちっちゃい事にビビッてたんだな。
学校が終るとジジィの家で体を鍛える日々・・・2年もすれば、そんな生活にも余裕が出てくる。
俺は格闘技の才能があったみたいで、めきめきと成長した。 そんなこんなで、いじめられる事は一切無くなったわけだ。
たまに生意気だと言われ、喧嘩を吹っかけられることもあるが、全部返り討ちに出来る位実力があったし問題にもならねぇ。
このまま、幸せな時間が続くと思った・・・が、続く事は無かった。
「ショウちゃん、お父さんがでてっちゃった」
お袋は、学校に行こうとしたときにそう言った。
「ふ~ん、そうなんだ。 それで何かあったの?」
「ううん、学校気をつけて行ってらっしゃい」
お袋は悲しそうにそう言うと手を振ってくれた。
俺は、このとき何も分かっていなかった。 いつもいない人が帰って来なくなるだけだと思っていたが、実際は違っていたんだ。
1年後、中学校に上がると同時に俺は引越しをすることになった。
かなり遠い母の実家にだ。 学校終わりに、ジジィの所に修行行く事すら出来ない。
俺は母に何度も何度も引っ越したくないと頼んだ・・・だが、聞き入られる事は無かった。
ジジィにも話し合いに入って貰ったが、駄目だった。
引越し後の俺は、異常だと思われるほどに荒れた。 家を破壊するのは気が引けたから、近くの公園の木を金属バットで毎日叩きなぎ倒し続けた。
子供がやったことだからと大事にはならずにすんだが、お袋や祖母は四方に謝り続けていた。
流石に困ったのか、何をしても良いからやりたい事を言いなさいと言われ、やりたい事を出来るようになった。
まず髪の毛の染色、少し派手な金の短髪にした。 目立てば、因縁をつけられ組み手相手には困らないと思ったからだ。
自分から喧嘩を吹っかければいいのだが、相手のことを良く知らずに喧嘩を吹っかけるのも気が引けたしな。
どうやら正解だったらしくその髪のせいで絡まれる事が多くなり、実践組み手と称して全て返り討ちにした。
そして、ジジィの言いつけ通りのメニューをこなし体を鍛える事は止めずに続けている。 いつか大きくなったときに、ジジィに1本入れると言う約束を叶えると言うのも理由の一つだが、単純に俺は寂しかったんだろう。
体を鍛え技を褒められ、ジジィとババァに囲まれながら過ごした日々・・・あたかも、それが唯一の繋がりであるように、必死に鍛え続けた。
夏休みになる頃には自分から喧嘩を売らない、弱い物イジメをしない一本筋の通った番長と言う良くわからねぇ評価を受けていたっけな。
夏休みはジジィの家に行き寝泊りさせて貰い、1本取ると言う約束を果たそうと必死に鍛えた。
鍛錬はそりゃ厳しかったが、俺の事を第1に考えてくれている事が伝わって来るって言うか・・・楽しかったんだ、物凄く。
結果を先に言うと、1発も掠らせる事が出来なかった。 今でもだ。
こっから先も、約束を果たせないだろう。 それが悔しい。
中3になった時、授業中に呼び出された・・・最近喧嘩をしていないんだが、何でだ?
職員室に、お袋がいた。
「ショウちゃん、落ち着いて落ち着いて聞いて欲しいんだけど・・・佐藤さんが倒れたんだって」
お袋の話に俺は、何も言い返す事が出来なかった。
俺は気が付いたら走り出していた。 走っていけるほど近くない。 どんなに急いでも間に合わない。
そんな事は解っていた。 でも、何かしなきゃいけないと思った。
校門を出ると、ガタイの良い高校生位の奴3人に声を掛けられる。
「おい! 待てよ! その金髪間違いねぇ。 お前、五十嵐渉真だろ? 弟が世話になった様だな、お礼に来てやったぜ」
「今はそれどころじゃねぇ。 てめぇと遊んでる暇なんてねぇんだよ!」
俺は無視して横をすり抜け駆け出そうとした。
だが、上手くはいかなかった・・・頬を殴られバランスを崩し転がってしまった。
そこからは泥沼のようだった。 止めに入った奴らも混じえての殴りあい、そこには武術の影も無かった。
3日の出席停止処分・・・ようは停学処分だ。 相手が上級生で、先に手を出してきたのもあり軽い処分と言えるだろう。 反省文はクソめんどくさいけどな。
その時間を使って、ジジィの元へ。
病院に走り、ジジィがいる病室へ。
病室には誰もおらず、酸素吸入のマスクをつけたジジィが横たわっていた。
「おい! ジジィ! 起きろ! 起きろよ! まだまだ死なねぇって言ってたじゃねぇか! おい!」
俺はジジィの服を持ち揺する。
「あん? 誰だ? キッタネェ言葉遣いをしてやがるのは?」
ジジィは、不機嫌そうに目を開け俺を見る。
「ショウマ! てめぇ、何度言ったら解るんだ! キタネェ言葉使いをして入ると心まで汚れちまうって言っただろが!」
ジジィは、そう言うと俺にデコピンをしてきた。
あれ? 痛くない? 怪我人だから力が入らないんだ、きっとそうだ。
「ショウちゃん、お見舞いの品忘れているわよ! あ、佐藤さん、大丈夫なんですか?」
お袋は、微笑みながら言う。
「ええ、もうすでにピンピンしてますよ。 医者が無理やりここにいれただけなんです。 五十嵐さん、ご心配おかけしました」
「いえいえ、いつもお世話になって入るんですからこの位なんでもないです。 無理をなさらずゆっくり休んでください」
「ええ、お言葉に甘えまして座ったままで失礼します。 所でショウマ? その傷は何だ? また喧嘩か?」
「そうだよ。 わりぃかよ」
「悪いに決まってるだろこの馬鹿チンが!」
ジジィの拳骨が、頭の上に炸裂する。 頭の奥に響く痛みが走る。
ぐぁぁぁ、痛ってー! 威力は落ちてない、さっきのはやっぱり気のせいだったんだな。
「お前は同年代の子供よりは確かに強い。 だが、その程度だ。 ナイフの1本でもありゃ死ぬ。 恨みを買うような事を止めて技の修練に勤しめって言ってただろうが」
「解ってるよ。 いつかジジィから1本取ってやる」
「がっはっはっは、そうなって貰わなきゃ困る。 俺の技を最後まで教えたのは、ショウマだけだからな。 師匠孝行ってのは、師匠を超えることだ。 強くなれショウマ! 誰より強く、優しくあれ」
「あったりめーだ! ジジィを完璧に倒して、世界最強になってやるさ!」
「がっはっはっは、大きく出たな! まぁその位でないと1本も取れんだろう」
俺がジジィと話してるときに、ババァが帰ってきてお袋と話すと言って出て行った。
ジジィに型が崩れていないかを確認して貰いながら、楽しく話し家路に就く。
帰ったらちゃんと反省文を書くと約束しちまったしやるとすっかな。
数ヵ月後、ジジィは帰らぬ人となった。 胃癌だったらしい。
既に全身に転移していて手の施しようの無い状態で、3年も生きながらえていた。 体の痛みを俺に全く見せず、いつも笑っていたジジィ。
病院に行ったときにお袋は知らされて、俺宛の手紙を預かったそうだ。
“最初で最後の弟子 ショウマへ 心を寛大に保ち、技を磨き、体を鍛え。 強くなれ”
手紙の内容は、これだけだった。 ジジィらしい。
しかし、俺の最大目標は変わらないジジィを超えるそれだけだ。
その後に、イジメにあっているという子供に簡単に護身術を教える。 殴るのは誰でも出来るから、主に防御についてだ。
ジジィに教えられた事をどう教えればいいかを悩み、試行錯誤する日々を過ごし、高校に上がった時最初の目標の世界1を目指しボクシングを始めた。
ジジィ、いつかあんたの隣に並んでやるからな! 待ってろよ!
◇◆
ふわぁぁぁ・・・懐かしいな。
ジジィの夢なんていつ振りだ? んなこた考えてもしかたねぇか。
でも、この榊原さんって人は、なんとなくジジィに似てるな。 遠い所をみていると言うか、雲のような感じと言うか。
まぁ、どうでもいいこったな。