side story 五十嵐 渉真 ①
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俺は、父親と言うのをあまり知らない。 父だと言ってた奴は、半年に1回しか家に帰ってこなかったし、小学校高学年になる頃に浮気して出てった。
養育費も慰謝料も払わず今はどこにいるのか解らないとお袋が言っていたし、特に興味すらない。
いや、俺の幸せだった時間を邪魔しやがったんだったな。 見つけたらぶん殴ってボコボコにしてやる!
現在は、プロボクサーを目指して日々練習している。
本当は、キックか空手が良かったんだよなぁ。 昔に空手? を教えてくれたジジィに、蹴りの方が才能あるって言われてたからな。
キックや空手は日本だと金を稼ぐのがかなり難しいんだよなぁ。 いや、格闘技全般に言えることか。
日本を出て海外に渡ればそれなりに暮らせるところまで行ける気がするが、1人で俺を育ててくれたお袋を置いて行くのは申し訳ないと思っちまうし、どうしたらいいかわからねぇな。
ジムの人にでも相談してみるかな。
おっと、バイトの時間だ。 さっさといかねぇと。
それがこんな事になるなんてな・・・どこだよここは? バイトに遅刻するとやばいんだが。
いや、事故なら仕方ないのか? まぁ、こんだけ盛大にやらかしたんだ。 そのうち、助けがくんだろ。
◇◆
その夜、俺は寝つきが浅かったのか懐かしい夢? 思い出? を見た。
俺は子供の頃泣き虫だった。 軽く小突かれたり、悪口言われただけで泣いてしまう位だったことを覚えている。
俺が泣くことが面白かったらしく、他の奴らは良くからかって来た。
それが物凄い嫌で、毎日の学校が嫌で嫌で仕方なかった。
勇気を出して母に相談すると、かなりの大事になってしまった。
イジメだ何だと学校中で調査が行われ・・・ますます俺は学校に居辛くなった。
学校の近所に、神社がありそこで暇潰しに虫等を見て過ごす日々。 虫に接近する為に、音を立てない移動が出来るようになったりしていた。
そんな時、俺はジジィと会った。 いや、ジジィが人を軽々投げるところを見た。
ジジィよりの大きく強そうな人を片手で持ち上げ放り投げる所をだ。
俺は興奮した。 漫画やアニメ・特撮とかで見るように人が数mも飛んだら誰でも興奮するだろう?
しかし、この時は境内の下に隠れていて声を掛けられなかったんだが。
その後も、神社に通い境内の下に隠れてジジィが来てくれるのを待った。
何日も過ぎ、夏休みに差し掛かる頃。 ジジィが神社に御参りに来た。
待ちに待った絶好の機会! 意を決して話しかけようとしたとき、鳥居の方から大声が聞こえてきた。
「おい、ジジィ! この前は良くもやってくれたな! 前回の落とし前をつけてもらうぞ!」
神社の鳥居付近には、数人のチンピラが陣取っていた。 チンピラ達は、手に棒を持ちニヤニヤしている。
「何だ? またやられにきたんか? 本当に学ばねぇなぁ」
「おい、てめぇら囲んで嬲り殺すぞ! 気を抜くなよ!」
男はそう言うと、チンピラ達は棒から刃物を抜いてジジィを囲む。
「仕込み刀か。 こんなジジィ1人を相手に情けねぇなぁ」
「落とし前をつけてもらうって言ってんだろ? てめぇさえいなけりゃ楽に仕事が終るはずだったんだよ! 死んでわびろや!」
男がそう叫ぶと、1人がジジィに襲いかかる。
ジジィはすばやく懐に入り込み、近づいたことで刀を無効化して当て身を顎に当て体勢が崩れた奴を刀を持っている奴に投げつける。
刀を持って後ろで控えていたやつが、危ないと思ったのか構えを解いて刀を背中の方に回して仲間を受け止めようと片手を前に出す。
仲間を受け止めた3人に向かってジジィは走って行く。 それがもの凄い速さだった。
あっという間に受け止めた3人をパンチで気絶させ、残りの人も瞬く間に気絶させられ残すは因縁をつけてきた男のみになる。
「クソ! 化け物め! 死ね!」
男は内ポケットから拳銃を取り出して撃つ。
「ヒィ」
俺はパンというおもちゃのような破裂音が響き、小さな声が漏れてしまった。
ジジィは、俺の方を一瞬見ると直ぐに男に向き直る。
「おいおい、そんな玩具を出すなんて覚悟は出来てるんだろうな?」
「うるせぇ黙れよ!」
男はジジィに向かって数発撃つ。
ジジィは、弾をするりとかわし相手の男に駆け寄り拳銃を掴むと手の甲に向けて捻る。
指を折り、そのまま拳銃を取り上げると拳銃がバラバラになり、誰もいない方向へ地面を滑らすように投げる。
「ぎゃぁぁ、指が、指が! クソ! ぜってぇぶっ殺す!」
男の指はあらぬ方向へ向かって曲がり、悪態をつく。
「おまえさん、さては馬鹿だな? 銃も効かず刃物も駄目、素手は先日負けたばかりこれをどうやって引っ繰り返す?」
「うるせぇ! 死ねやジジィ!」
結局男も当て身をされ投げられ、気を失った。
どこかに電話をし始め、通話が終ると俺の方を向き声を掛けてくる。
「おい、おぬし、境内の下に隠れてるお前さんじゃ。 巻きこんですまんかったのぅ」
僕はゆっくり境内の下から這い出す。 俺の顔を見たジジィは驚きながら呟く。
「まさか子供だとは思わんかった。 気配の消し方が上手いのぅ、どこで習った?」
「ここで虫を見てたら自然に出来た」
「ほうほう、自然を相手に勉強と言うことか。 うむ、それはいいことだ」
「あの、僕を弟子にしてください! お願いします」
「がっはっはっは・・・はぁ、辞めておけ。 武術ってのは人を壊し殺すための技術だ。 今の世の中には合わんよ」
俺が反論しようとしたその時、パトカーの音が鳴り響き言えなくなってしまった。
「おっと、お迎えが来たようだ。 じゃあな、坊主」
ジジィは警察の人に何かを話すと、パトカーに乗ってどこかに行ってしまった。 気絶している襲ってきた男達は救急車で運ばれて行った。
俺も、パトカーで保護された。 その後、お袋が迎えに来て開放されたが、その時にこってりと絞られたんだっけな。
絞られていた時にも、ジジィの戦いが頭からはなれなかったっけな。
だってそうだろう? 前に見た時よりも大人数を相手にした大立ち回り。
片手でしかも一瞬で敵をなぎ倒して行くんだぜ? 前にも思ったが、下手なアニメよりもかっこいいと思っちまった。
あんな事があった後にも、俺は神社の境内の下に潜んでジジィが来るのを待った。
何日も待ったのだが、全く来る気配が無かった。
どうしても会いたくなり、探して見ることにした。
現在は夏休み、子供が1人で歩いて手も不自然はないはず・・・ジジィは思いの他有名人だったのですぐに見つかった。
そして現在、大きなお屋敷の門の前でどうするか悩んでいる。
いきなり小学生が訪ねていいものだろうか。 じゃあ帰る? いや、ジジィには会いたい。 当時の俺は勇気が出ずに夕方まで門の前をうろうろしていたっけ。
次の日もその次の日も門の前で悩んで、どうするか考えていた。
そんな時、大きな門の脇にある小さな門が開いた。 咄嗟に隠れる所を探したが見つからず、慌てふためいてる時に声を掛けられた。
「坊や、家に何か用かい?」
そこにいたのはお婆さんだった。
「えっと、あの、その・・・武術を、武術を教えて欲しくて訪ねました」
「おジィの知り合いなのね。 中に入って、呼んで来るから」
道場の中へ入り、キョロキョロしていると後ろから声を掛けられる。
「やっぱり来たか。 まぁ、ここまで来たんだ。 話位は聞いてやろう」
ジジィが入り口に入るなりそういう。
現在俺が置かれてる状況や自分を守るために強くなりたい事を告げる。
「なるほどな、そう言うことなら自衛のための技を教えてやろう」
「本当に!?」
「ああ、教えてやるとも。 逃げ出さなければな」
その日からの生活は地獄だった。 ストレッチから始まり、ランニング、筋トレ、巻き藁撃ち、型、体の流れの制御法などの基礎トレーニングや組み手を夏休み中毎日、ひたすらやりこんだ。
最初の頃に辞めようと何度も思ったし、泣き出す事も何度もあった。
「泣けるって事は、まだ体力があるって事だ。 泣きながら筋トレしろ。 嫌なら帰った方が良い」
そう言われると、負けたくないと思って我武者羅だったな。