第273話 治療院別館
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治療院の別館にて、ここに居る人々の怪我の理由が戦争では無く、いう事を聞かせるためだと知り考えがまとまらなくなる。
何かをしてあげたいと思うが、何をどうすればいいのか解らない。
報復をすることは簡単だが、エルフの里で殺さずにもっと上手く立ちまわれたんじゃないかとたまに悩んでいるカナタは・・・
◇◆ ここから本編 ◇◆
「カナタさん! 大丈夫ですか? しっかりして下さい!」
ユカさんの大声で気が付く。
「あ、ごめん、考え事しちゃって。 ヨシさんとアヤコさんを手伝えばいいんだよね?」
「そうですけど、本当に大丈夫ですか? 無理なら休んだ方が」
「大丈夫。 1人でも多く助けるように尽力するよ」
うん、そうだ。 今は変な事を考えている場合じゃない。 生きたいと願っている人が多くいるし、痛みに耐えている人達がいるんだ。
皆を癒す事だけを考えないと。
「はい、お願いします。 でも、コネクト(相手の心理と繋がるスキル)は使っちゃ駄目ですよ?」
「うん、解ってる。 相手の感情が俺にも流れてきちゃうみたいだから、スキルを使い続けるとどうなるのか解らないもんね。 あ、それとミズキさんも来てるからね」
「それは助かります。 魔力が豊富なミズキちゃんが手伝ってくれれば助けられる可能性も増えますので」
ユカさんとの話し合いを終え、回復魔法待ちの人々の所へ向かう。 ヨシさん、アヤコさんの指示に従い大きな怪我をした子供を優先して回復させていく。
どんなに魔力を込めても、欠損部位は治らない。 魔力を多く込めた方が傷が治るスピードはあがるのだが、それだけだ。
欠損部位を治す魔法は出来る事は分かっている、ミズキさんが開発は出来るけどなにかが足りないと言っていた。 今は開発が出来ないということだろう。
それならば、別のアプローチで回復する事は出来ないだろうか? スキルの身体再生を封じ込めた魔道具の開発とか。
グダグダ考えてる暇はない。 今出来る事をやろう!
数人の治療を終えたとき、近くで声が聞こえてくる。
「痛い。 痛いよ。 手が痛い」
治療が殆ど終わっている少年が、無くなった方の手の先を押さえ痛がっていた。
ヨシさんもアヤコさんもどうすればいいのか困っている。
「俺が何とかします。 皆は治療をしてください」
俺は少年の所に行き、鏡を出して体の中心線の所へ置く。 映すのは少年の残っている方の手。
「いい? この鏡を見て。 分かる? 左右両方の腕が映っているでしょう? 両方の手をゆっくり開いていって、そう焦らない様にゆっくりでいいからね」
「あれ? 痛くなくなった。 ありがとう。 おじちゃん」
少年は、嬉しそうに言う。
「いえいえ、どう致しまして。 このポーション飲んだら疲れているだろうし1度寝な。」
「うん、解った」
そんな様子を見て、悲しみと怒りがふつふつと沸きあがる。 だが、治療を止めようとは思わない。
人々が頑張っているのに、俺が怒りにかまける事など出来ない。
そんな事を考えていると、急にアヤコさんが声を掛けてきた。
「カナタ君、ありがとう。 本当に何でも出来るんだねぇ。 あと言いにくいんだけど、悪い知らせがあるんだけど聞いてくれるかい?」
「はい、何でしょう?」
「あたしとヨシさんがこのままだと魔力切れになる。 ミズキちゃんは、治療院の人に言われてユカさんの手伝いに向かったからね」
「まじっすか。 あ、どうしよう。 俺1人でも治療出来るけど時間がかかりすぎるし」
「皆を呼ぼうとヨシさんとは話していたんだよ。 カナタ君はどうした方が良いと思う?」
野戦病院のような状態を皆に見せる? 映像やなんかで残っている皆も見た事はあるだろうけど、怒りに呑まれないとは限らない。
だが、これは良い機会とも言える。 戦争の悲惨さや苦しみを見る事で、自分達の力を使う方向を決める判断材料になる。
力を持った責任なんて、強者の慢心、弱者は守られて当然と言う考えはして欲しくない。
こんな力は要らない、この力があったから、なんて能天気で頭の中お花畑の考えもだ。 そんな自分だけが幸せな場所にいる様な考えをする位なら、どう使えば皆を守れるかを考えろって言うもんだ。
ここの人々を治療する経験で、自分で考え自分の力をどう使えばいいか指針になるかもしれない。
ここにいる子供達は、痛くても常に我慢をし大声を出さない。
痛がって呻いている子がいたら「大丈夫」と言って笑いかけている位だ。 自分も怪我で痛いだろうに・・・
大人達は、怪我が治った子供達をタオルで拭いてくれている・・・きつい顔一つせず、笑顔で。
くそっ本当に泣けてくる。
「呼びましょう。 ここの人々を治療する事で、皆が成長してくれる事を祈って」
「そうかい。 あたしが行って来るから、頼んだよ」
「はい、任せてください。 微力ですが、全力を尽くします」
アヤコさんは苦笑し、走って治療院を出て行った。
俺は皆の治療をして、ヨシさんは幻肢痛(無くなった腕を強く握ってしまっていると言う幻覚の痛み)の治療を中心に行ってもらい魔力の消費を抑えて貰った。
治療をしていると、程なくして皆が治療院の別棟へ来た。
全員が、顔をゆがめている。 不快と言うよりも、悲しみや哀れみの感情なんだろう。
「皆いらっしゃい。 今回は、ここにいる人々の治療を手伝って欲しい。 と、その前に何でこんな事になっているか説明するから別室へ」
ユカさんから聞いた情報を全員にそのまま話す。 やはり1番怒っていたのはショウマ君だった。
「ショウマ君! 威嚇をしたら怪我をした人々にどんな影響があるか解ってる? 抑えて」
かなり怒りの顔だが、威嚇を抑えてくれた。 そのまま外に行こうとする。
「待って、ショウマ君! どこに行くつもり?」
「ぶっ殺してくる」
こちらを見ないでショウマ君が、1言だけ言う。
「僕も行きます。 ショウマが1人で行っても、どこの国なのか分からないでしょう?」
2人が連なって外に行こうとする。 他の皆はどうすればいいのか迷っている感じだ。
不味いな。 本当に不味い。 このままだと、俺と同じ過ちを繰り返すだけだ。
「タダシさん、手伝ってください。 2人を止めます。 リョウさんは、皆を連れてヨシさんの所へ」
俺とタダシさんは2人を追って外へ出る。 夕方を過ぎ人がまばらにいた。
道を歩く2人を大声で呼び止める。
「待って!! 待って2人とも! 何をしようとしているか解ってる? それはしてはいけないことだよ」
「そうだとしても怒りがおさまらねぇ。 兵士だけでもぶっ殺してくる。 止めるなら、カナタさんでも容赦はしねぇ」
戦う構えをショウマ君とケイタ君がする。 ただ、武器を持っていない事から殺意はないのだろう。
俺とタダシさんも同じく構える。
「そっか、なら力ずくでも止めるよ」
そう言った瞬間、黒い影が一瞬で近づくのが分かった。 ショウマ君としては珍しい大振りの顔面への攻撃。
不意もついていない体勢も崩していないのに、そんな攻撃するなんてショウマ君らしくない。
後ろに飛び首をねじって避けると、腕を掴み投げる。
地面に叩き付けようと思ったのだが、ショウマ君は体を無理やり回転させ足から着地する。 回転した時に掴んでいた手も外れてしまった。
ショウマ君は、また大振りの上段蹴りをしてくる。 屈んでかわし軸足を刈り取る。
体勢が崩れたのを見計らい、胴体にショートフックを放つ。 これで決まると思ったのだが、ショウマ君は両手をクロスさせ防御した。
ショウマ君は吹き飛びながら体勢を整え、こちらを睨み口を開く。
「あんな酷いことをする奴らを何で、守ろうとする? あんただってそう思っているはずだ!」
ショウマ君は、そう言いながら一気に近づき大振りの攻撃をする。
「守っているわけじゃない、良く考えろ! 今必要な事は報復じゃない、解るだろ?」
俺は受け流し回避しながら反論する。
「野放しにすればもっと酷いことなるだけだ! なのに何故立ち塞がるんだ!?」
「良く考えろと言っただろ! その兵士には家族がいる可能性があるだろ! 殺せば恨みの連鎖が始まるだけだ!」
ショウマ君は、気が付いたのか顔をゆがめる。
俺のように、エルフの国で家族全員を殺すような愚かな事はさせたくない。 解って欲しい。
「それでも! 許せない! 俺はあんたのように器用じゃない! この拳しか無い! だから・・・」
ショウマ君は、単調で避けやすい攻撃を放つ。 俺はそれに合わせてカウンターを放つ。
クリーンヒットしショウマ君は転がった。 俺はそのショウマ君を指差して叫ぶ。
「拳しかない? 結構じゃないか! 極めろよ! 最強になれよ! 拳すら触れずに相手を倒せるほどになれよ! 誰もが恐れ憧れる様な最強で最高の存在になれよ! 全世界が無視できないような存在になって、戦争と言うもの自体を抑止しろよ!」




