第268話 模擬戦
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模擬戦をしようとここまで来たのに、俺は暇だった。
テーブルと椅子を出して、オモチ新聞を読みながらお茶をすする位暇だった。
ユリの魔法は衝撃だったようで、皆から質問攻めにされていた。
それが嬉しかったらしく、八重桜学園で教えている内容や訓練について、事細かく説明する。 時折俺達教師陣のことを褒め称えるように。
「つまり職人になるにしても、冒険者になるにしても、兵士として奉公しようと考えているとしても、八重桜学園に入っておくことが最善の近道なんです」
「「ほうほう」」
「しかも、勉強にかかる費用などは後払いと先払いが選べます。 後払いでも、無理な返済をしなくても良い様になっていますし、卒業後にお金が無く武器も買えないなんて人も大丈夫です。 給与が支払われる実習制度があるんです。 私も実習でウェイトレスをしてお金を稼いで装備品を卒業後に買う予定なんです」
あ、微妙に間違ってるな。 後払いにした場合は、実習は強制になっているんだよね。
先払いの子も、実習をする子が殆どだから半強制と言えなくもないけど。
「でも、それじゃあ学園にメリットが無さ過ぎるんじゃないかしら?」
「ふっふっふ、そう思うのも無理はないです。 詳しくは教えられませんが、実習中の給与の数%は学園の運営費として徴収されますし、卒業後1年間はウルフローナ国内で冒険者や技術者をしなければならない契約となっていますので、国から援助金が出るシステムになっています。 その他にも色々なシステムがあるんですが、私には難しくてそこまで理解出来ませんでした」
それも惜しい、引かれてる給与は全部で2割、内1/4が運営費となってる。
他にも保証金や働けなくなったときのための一時金などを貯めている。
もちろん、ショッピングモールの純利益の半分も、学園や職員の何かあったときの為の保証金としてプールしている。
それでも異常な額の利益が皆に分配され、無理やり使う為に全員で魔石を大量に買っていたりするのだが。
そして追加説明。 前は3年間のウルフローナへの奉仕と言う話で纏まっていたのだが、1年間に短縮された。
生徒たちや冒険者達がお金を稼ぎすぎて1年も働けば借金があらかた返せると言う事もあるが、食事も美味しく社宅もマジックハウスなので快適。 なので、冒険者達は進んで出て行こうとしていない。
むしろ、居座りを決め込み冒険者辞めて完全に店員を目指す奴もいる始末。
なので、今の所ちゃんと書面で契約していないのが現状だ。 口約束での契約でもきっちり働いてくれている。
「あのよ、自習中のお金が徴収されるって言ってたが食べていけるのか?」
「あ、食事は朝、昼は無料です。 夜は実習している場合は賄いが出るので無料になりますけど、自分で好きな物をかって家に持って帰って食べる事も多いです。 あと、徴収されるお金ですが本当に少ないです。
私の先月の差し引かれた後の給与が大銀貨1枚(約10万円)と少しだったので、たまに買い食いしても十分貯金も出来ますよ」
「「ええ!?(はぁ!?) そんなに貰ってるの(か)!?」」
「そうです。 でも、職人志望の友達は1.5倍位貰ってるんですよ。 新アイディアを何回か採用されたのでボーナスも貰ってましたし、給与アップもしてますから」
その言葉に全員呆然として止まってしまった。 そりゃそうだ、年齢は1つ位若いユリの方が稼ぎが断然良いのだから。
と言うか、そろそろ模擬戦を始めないと時間が勿体無い気がするんですけど。
その後も少し話し合って、ようやく俺の気持ちが通じたのか、模擬戦を始める準備をし始めた。
初戦の相手は、男の子組のリーダーのようだ。 リーダーの武器は大剣となっている。
対するユリは、槍を構えている。
生徒達が使っている槍は、突きだけではなく切にも対応した特別製だ。 刃の長さを増やしロングソードが槍の先に付いている様な形となっている。
普通なら重さで振り回しにくいはずなのだが、石突や柄を重くして振り回せるように工夫されている。
この世界では、大型魔物とか多いっぽいしデカイ武器でヒットアンドアウェイを繰り返して攻撃するほうが安全なのだろう。
たまに、近接武器を使う人もいるのだが。
話を戻そう。 リーダー君の強さは、ゴブリンよりも少し強い位だろう。 身のこなしや武器の扱いは想像以上に駄目だった。
勝負もあっさり決着がついた。 大剣を大きく後ろに振りかぶった時に、ユリは石突で1歩前に出ていた足を横に払う。
びっくりする位のクリーンヒット、リーダー君は倒れ込んで足を持って喚いていた。
骨が折れてはいないようだが、脛に罅が入ったようだ。 うるさかったので回復魔法で治して次の人と交換するように言う。
あまりにも不甲斐無く、何も出来ないような戦闘は全員が倒されるまで続いた。
半分過ぎた頃からユリに驕りが出てきたのか、少しの間開始位置から動かず攻撃しないで受け流しをして防いだりしていた。
自信を持つのはいい事だけど、ちょっとやりすぎだな。 帰ったらベトニアかセランに頼んで凹まして貰おう。
「さて、全員敗北したね。 分かってた事だけど、やっぱり悔しそうだね」
2組の冒険者は、全員悔しそうにしていた。 悔しがるってことは良いことだね。
「あの、1級だとどの位の強さなんですか? 全然想像が出来なくって」
女の子の冒険者が、手を挙げて訊いてくる。
「そうだな~。 じゃあ、俺をじっと見てて」
そう言うと、俺が通り抜けられる位の風の道を作り出し、ギフトと魔法の身体強化を使い冒険者達の後ろへ移動する。
亜音速での高速移動、1秒にも満たない時間で背後に移動する。
「今だとこんなものかな。 この腕輪で力と魔力を半分以上封印してるからこれ以上のスピード出すのはちょっときついんだよね」
冒険者達は、かなり驚いた顔をして俺のほうに振り返った。 全員が驚いて言葉を発せないようだ。
「スゲー!! 何だよ今の! 動いた事は解ったけど、どこ行ったのか解らなかったぜ!」
男の子の冒険者のリーダーが目をキラキラさせて叫ぶ。
「頑張ればこの位は出来るようになるんじゃない? とりあえず、今日はおとなしく家に帰る事。 索敵は俺達がやっておくからさ」
「うっす。 俺達が足手まといってことだろ? 約束はちゃんと守る。 皆、帰るぞ」
男の子のリーダー君がそう言うと立ち上がる。
「あの、最後に1つ質問良いですか?」
女の子のリーダーが手を挙げる。
「いいよ、何が聞きたいの?」
「私達成人してるんですが、学園にはいることは可能ですか?」
「うん、可能だよ。 一応1年間限定だけど、成人の学び直しも行っている。 まぁ、1年過ぎても入学しなくても授業を聞くだけなら無料だし、朝の鍛錬にも参加できる。 ただ、入学しなければ昼食はただじゃないし、実習に参加する事も出来ないし、学生寮にも入れないんだけどね」
「あの、私入学したいんですけど、大丈夫ですか?」
女の子のリーダーがそう言うと、周りの子も一斉に入学を希望する。
「解った。 全員入学希望ってことだね。 じゃあ、帰るときに一緒に王都へ行きましょうか」
「「はい、ありがとうございます」」
全員を1度村に戻すと、ユリに釣竿を出してあげる。 俺はその間に軽く周りを一周しモンスターがいないか確認する。
特にモンスターもいないようなので、俺も釣りをすることにする。
俺のは釣竿がないリールのみの物を取り出し、それに巻いてある透明なカーボンナノチューブの糸を操り釣りを始める。
ザックィンムの蔓で出来た犬をカーボンナノチューブにしたのだが、思ったよりも滑らかに操れるようになった。
しかし、操っている間は集中しないと動きが乱れる。 ゴーレムにするのが良いか? ゴーレム化すれば動かすのに集中しなくても大丈夫だが、単純な動きしか出来なくなってしまう。
俺が目指しているのは、武器を先にくくりつけたりして戦いの補助が出来るようにしたい訳だから、自分の意識を汲み取り自在に操れないとならない。
インテリジェンスウェポンとか高度思考型ゴーレムとかギフトの並列思考と言うのを覚えられれば、一瞬で解決だが、今は無理だな。
あれ? 並列思考? 自分の思考が2つ同時に出来るようになるってことだよな?
ああ! そうか! これならファ〇ネルできるかもしれない! お屋敷に帰ったら早速実験だ。