第267話 川原へ
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「おいおいおいおい、本当に1級冒険者かよ。 こんな所に何しに来たんだ? いや、来たんですか?」
ギルドマスターが畏まった様に言う。
冒険者の2組は、「本物か?」 「ドラゴンとか見た事あるのかな?」 とかザワザワと話し合っている。
この2組はいがみ合っていると言うより、ライバル関係に近いのかもしれない。
「ただこの近くの川に釣りをしに来ただけです。 この街に寄ったのもたまたまですよ」
「そうですか。 なにかの縁と思って、どうか調査依頼を受けていただけないでしょうか? 確かに小さい出来たばかりのギルドなので、お支払いできるものなどは全くありません。 ですが、どうか!」
ギルドマスターは、深々と頭を下げる。
かなり切羽詰っている感じなのか? でも、兵士も強くなってるはずだし大丈夫な様な気がするんだけど。
「ん~、良いですけど根本的な解決にはならないんじゃないですか?」
「それはそうですが、何もなければ住人を安心させられますし、現在何もないのであれば最低でも兵士の増員が来るまで何かあっても持ちこたえられると思います。 大変恐縮なんですが、お願い出来ませんか?」
「兵士の増員ってそんな簡単に出来るものなんですか?」
「元から大進行(ラネアクロウラー大量発生)に合わせて増員する予定となっていると聞いてます。 なので、少し早めて貰えるようにお願いを出すだけですね。 王都のギルドマスターから言って頂くので大丈夫だと思います」
「あ~なるほど、解りました。 調査依頼を受けます。 報酬は貰わないので、やり方は好きにさせて貰いますよ?」
「ええ、それはもちろん好きになさってください。 ありがとうございます」
ギルドマスターがそう言うと頭を下げる。
とりあえず、俺とユリをパーティにでもして貰おうと思って、頭を下げてるギルドマスターに声を掛けようとしたその時。
「「ま、まって下さい」」
2組の冒険者のリーダーがハモリながら言う。
「ん? 何かあった?」
「「俺(私)も、連れてってくれ(ませんか?)」」
2人のリーダーはそう言うと頭を下げる。
「あ~・・・このユリと模擬戦して勝てたら良いよ」
「あ゛? こんな弱そうな奴と戦えるかよ」
「あの同い年位だと思うけど、戦えるの? 新品の鎧着てるし、冒険者に成り立てなんじゃない?」
ああ、なるほど。 装備品で強いか弱いか判断しているのか。
しかし、装備品を見る目はないようだな。 こんな珍しいソフトレザー装備を着けている人なんてほとんどいないだろうに。
「カナタ様、冒険者ギルドカードを出してもよろしいですか?」
俺の顔をユリが覗きこむ。
「ん? 別に構わないよ? パーティ組む予定だったし」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
ユリは小躍りしながら嬉しそうに言う。
パーティー組むってだけでそんなに嬉しかったのかな? いつも一緒にいるんだし変わんないと思うけど。
ユリは、冒険者ギルドカードを2組の冒険者達に見せ付けるように出す。
「えぇ! なななな何で7級冒険者なの? どうやったの?」
女の子の冒険者が驚愕の声をあげた。
「どえぇぇぇ! 7級!? そんなに強いのか!?」
男の子の冒険者は、女の子の冒険者があげた声に驚いていた。
「そうですよ! 八重桜学園の中でも成績は良いほうなんです! ここまでなるのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。
ベトニアちゃんに何度叩きのめされ心が折れそうになったか解りますか? どんなに頑張っても勉強でも勝てないし、何度泣いてここまで来たと思ってるんですか?
大体ですね、人には向き不向きがあって、20cmを超えた氷の板を、手で触れた状態で割るのなんて私には出来ないんですよ。 ベトニアちゃんは、ギフトの硬化を使って部分硬化が出来るから出来るのであって・・・」
ユリは、日ごろの鬱憤を晴らすかのごとく2組の冒険者に向けて言い放つ。
色々苦労したんだろうなぁ・・・でも、これっていつまで続くんだろう? 止めたほうがいいかな?
「ユリ! 苦労したのは分かったから、落ち着こうね」
「え? あ! はい、すみません。 最近ベトニアちゃんとショウマ様が教えてくださった寸勁の練習をしてたので、それで」
「いや、いいよいいよ。 ギルドマスター。 すみませんが、パーティ登録をお願いします。 あと、模擬戦が出来る場所ってどこか良い場所ありますか?」
ギルドマスターに冒険者ギルドカードを渡し登録をする。
「そうですね。 何もないところが良ければ、近くの川原ですね。 木があるところが良ければ、北のほうの森はどうでしょうか? 森は奥に行くとゴブリンなどが出ますが、川原はミントの群生地なので魔物はあまり近寄りません」
「それじゃあ川原にしましょう。 俺は準備があるので、少し皆で待っててください」
俺は皆を置いて、兵士の詰め所に移動する。
兵士の詰め所には、見たことのある兵士が3人。 うろ覚えだが隊長の所へ行き声を掛ける。
「すみません、ちょっと良いですか?」
「はい? え? カ、カナタ様! ようこそ御出でくださいました。 心より歓迎いたします」
隊長が俺に気が付くと立ち上がり、騎士礼をしながら言う。
隊長の騎士礼に合わせて、周りの騎士も騎士礼をしていた。
ふぅ危ない危ない、間違えて無かったみたいだ。
「あ、公務とかで来たわけじゃないから楽にしてて良いからね。 それで質問なんだけど、ラネアクロウラーの1グループを住人が見たって報告は把握してる?」
「はっ、把握しております。 危険がないとは言い切れないので、索敵が得意な者が周りを警戒中であります」
「おお、すばらしい。 それでお願いなんだけど、俺がこの街で魔物や盗賊が来ないか見張るから少し遠くまで索敵して来てもらって良い?」
「はっ、畏まりました。 直ぐに準備し巡回任務へ移行します」
よし、これで索敵は大丈夫なはずだ。 この3人の兵士達は、ウチの地獄の特訓を1ヶ月ほど受けているはずだしね。
これで川原での模擬戦で、ユリがやりすぎても俺がいるから直ぐに回復できるし、時間の節約にもなる。
一応リョウさんに兵士をもう少し送って貰えるように頼んでみよう。
「お待たせお待たせ。 じゃあ、川原に向かおう。 えっと、そこのリーダー君。 川原までの道案内をお願いします」
「おう、いえ、はい! 解りました」
面白い喋り方になっちゃってるな。 まぁ1級って中々いないみたいだし仕方ないだろうけどね。
川原に到着し、皆の武器を1度借りて木工で同じ大きさの武器を作る。 実際の武器よりも軽いが、何とかなるだろう。
作ってる最中は、全員黙って俺の仕事を見ていた。 と言うよりも、呆けていたと言ったほうが正しいかもしれないが。
丸太を取り出し、数度魔法を使ったら出来上がっている訳だし驚くのはしょうがないだろう。
武器を渡して感触を試して貰うと、感嘆の声が上がる。
「あの、1級になるにはこういう事が出来ないと駄目なんですか?」
女の子のリーダーが俺に質問してくる。
「駄目じゃないよ。 何か1点に集中して鍛えたほうが効率が良かったりするからね」
「あの~、私も質問良いですか?」
女の子組のメンバーちゃんが手をあげる。
「いいよ。 どうぞ」
「魔法って、私達獣人では使えないんでしょうか?」
「いいえ、ちゃんと使えるよ。 ユリ、川に向かって石球を飛ばして」
「はい、解りました」
ユリは、詠唱をはじめ石球を川に向かって打つ。
石球はこぶし位の大きさで速さは150㎞/hなのでそれなりの威力だろう。
獣人の場合、石を持って投げたほうが断然強い。 身体能力がかなり高いのだから、当たり前かもしれないが。
でも、魔法にメリットがないわけじゃない。 動きながら撃てれば牽制になるし、単純に手数も増える。
そんな理由で、生徒達に自分の得意な属性だけでも良いから覚えさせている。
「凄い! 同じ獣人なのに何で? 何で撃てるの?」
もしかしたら自分も使えるかも知れないと思ったのか、ユリが質問攻めにあっている。
これはこれでいい経験になるかな?