第266話 西の村
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釣りに必要なものは全部しまってあるし、まだお昼前なので西のほうにある川へ日帰りで行ける。
背負子に乗っかってくれるとユリが言ってくれたのが、かなり大きいんだけどね。
通信機で皆に西の川に釣りに言ってくることを伝え、ユリのお母さんへの伝言も頼んだ。
連絡はしたもののあまり遅くなるのは良くないと思い、着の身着のまま門から出て行く。
魔法とギフトの身体能力強化を使い一気に加速して、川を目指す。
ユリがキツクないように、エアヴェールで風を抑えている。 本人も笑っているようだし大丈夫だろう。
目的地の川の近くにある復興中の村への用事は特にない、なので寄るかどうするか悩むところだ。
いつもの経験上こんな風に悩む時は面倒でも寄っておいたほうが良い、とは思う。
あの時思い出したことをやっていれば・・・と考える事が多いし。
村に着き、ユリを降ろすと畑仕事をしていた村人に冒険者ギルドの場所を聞くとそこに行く、そこは少し大きなテントがあった。
入る前にテントの隣に着替え用のボックスを出し、ユリに俺の亜空間にしまってあるダマスカス製の短剣と棍棒と槍、オークの皮の鎧下と多重オーク革鎧などを渡し着替えてから中に来るように言う。
盗賊に捕らえられていた人を助ける時に使う可能性があると思い、下着なども含め全種類数枚ずつ亜空間収納に入っている。
受付を済ますのは俺1人で大丈夫だし、冒険者ギルドの中には3人しかいないようだしすぐに終わるだろう。
中にはいると、一応テーブルがあり受付と思われる男性が座っていた。
「すみません、ここが冒険者ギルドで良いですか?」
「ええ、そうですけど何か御用ですか?」
「ついでに寄ったんですけど、滞っている依頼などあれば受けようと思ったんですけど、ありますか?」
「はぁ、失礼ですがギルドカードはお持ちですか?」
受付の男は、怪訝そうな顔でこちらに言う。
あ、そっか王都だと特に確認されなくなったからその感覚で話しかけちゃったよ。
ギルドカードを出そうとしたとき、外で怒号が聞こえてきた。
「てめぇ、どこ見て歩いてんだ!」
「余所見してたのはそっちでしょ!? さっさと謝りなさいよ!」
受付の人は、ため息を吐きまたかと呟いている。
外の着替えボックスの中にはユリが入ってるし何かあったら嫌なので様子をみにいく。
女の子の冒険者2人と男の子の冒険者3人がいがみ合って罵り合っていた。
ユリはボックスの扉を少し開いて、外の様子を伺っていた。
変な事に巻き込まれなくて良かった。 そう思ってホッとしていると冒険者達は武器をすぐ抜けるように柄を掴んだ。
冒険者ギルドの中からさっきの受付の人が出てきた。
「お前ら! 武器を抜いたらギルドから追い出すぞ!」
「「げっ、ギルドマスター」」
二組のパーティの全員が驚きの声をあげる。
え? この人がギルドマスター? えっと、全然強そうに見えないんだけど。
たぶん強さ的にカルジャス隊の隊員並みだよなぁ? 冒険者のランクだと4級の中位くらいか?
しかも2つのパーティはど新人って感じじゃないか? 1対1でゴブリンに勝てるか怪しいと思うんだけど。
「お前ら、さっさと中に入って報告しろ!」
ん? 報告? こんな弱い子達に何を頼んだんだ? 薬草採取とかか? 聞いてみたほうがいいかな?
「カナタ様? 大丈夫ですか?」
ユリが、考え事をしていた俺の顔を見て言う。
「ああ、考え事してただけだから。 中に入って事の顛末を聞こう」
「はい、分かりました」
着替えボックスをしまうと、冒険者ギルドの中へ入りギルドマスターが何を言うのか聞き耳を立てる。
「で、どうだったんだ?」
「発見出来ませんでしたけど」
「こっちも発見出来なかったぜ?」
「そうか、それなら良いんだ。 一応、万全を期すために王都の冒険者を派遣してもらえるように手紙を出しておく」
「お! 手紙を届けるのか? 俺達へ依頼してくれても良いぜ?」
「何言ってるの? 私達に決まってるじゃない」
「あ? 弱いお前らなんかに依頼したらゴブリンに大事な手紙が食われちまうよ」
「はぁ? あんた達のほうが弱いじゃない。 2回に1回は依頼を達成出来てないでしょ?」
「あぁ? 討伐系依頼は敵を見付ける所から始まんだよ! ゴブリンと出会ってもコソコソ逃げて、採取しかして無いお前達とは違うんだよ!」
「馬鹿じゃないの? 採取の時にゴブリンと出会ったら、危険を回避するために逃げるのは当然でしょ? 万全の体勢じゃないときに出会ったら逃げるのも策のうちって事も分からないの? 頭が本当に悪いわね」
「おい! お前達いい加減にしろ! この村の出身同士なんだ仲良くやれとは言わんが、せめて上手くやってくれ」
「はい」 「うっす」
冒険者達が全員返事をして、ギルドマスターに向き直る。
「で、そこで見ているあんた。 何をしに来たんだ?」
何だ気が付いていたのか、あまりにも反応が無いので気が付いて無いかと思っちゃったよ。
「お、気が付いていたんですね。 なんらかを見つけるために、2組を斥侯として出していたようですけど、何を探してたんですか?」
「ラネアクロウラー、ラネアスパイダーだよ。 聞いたこと位はあるんだろ? 1グループを村のやつが見たらしいんだよ」
「ん? その位なら兵士が何とかしてくれるんじゃ無いですか? 常駐している部隊もありますよね?」
「この村に来た場合はそうなるかもしれん。 だが、森や山に入ったら管轄外だ。 森や山の恵みがなければこの村は干上がっちまうし、何よりラネアクロウラーがいたら他の魔物が集まる可能性もある」
「あぁ、なるほど。 じゃあ、適当に周りの魔物を狩って行けば良いんですね?」
「そりゃあそうだが・・・この国でそんなことが出来そうなのは噂に名高い1級冒険者のみで作ったと言われているソメイヨシの位じゃないのか? リーダーの容姿はドエライらしいがな」
「ふっふっふっふ、皆さん聞いて驚いてください! この方がソメイヨシノのリーダーであるカナタ様です!」
ユリがドヤ顔で俺を紹介する。
「がっはっはっは、そんな訳ないだろう。 こんな何にもないような所へ高位の冒険者が来る訳がない。 まして先日交代できた兵士から、ソメイヨシノのメンバーはかなり忙しいと聞いている。
それにな、警戒をずっと解かない奴が強いとは思えんよ」
「な! 何を言ってるんで・・・」
「ユリ、いいよ。 ギルドマスター、質問ですけど何で警戒を解いていないと思ったんですか?」
俺はユリが話しきる前に遮り言う。
「その目の動きだよ。 大方、警戒系もしくは観察系、敵意感知系のギフトを使い続けてるんだろ? 街中なのにそんなキョロキョロしていたらすぐばれる。 そしてな、警戒をしなきゃいけない奴ってのは弱いか脛に傷があるヤツだ」
なるほど、それは良い事を聞いた。 まず1つは、力が弱いと誤認させることが出来ると言うこと、もう1つは敵意感知と言うギフトの事を知っているって事だ。
もしかしたら、ギルドマスターが持っているかもしれない是非とも使って欲しい。
「なるほど、勉強になりました。 もう1つ質問ですが、敵意感知と言うギフトを持っているんですか?」
「いや、持っていない。 だが、もっているヤツを1人知っていた」
「知っていた?」
「ああ、知っていた。 既に死んだからな」
「死んでしまったんですか。 出来ればギフトに付いて教えてもらおうと思ったんですが」
「やめとけ、碌な事にはならん。 良いか? あいつも最初はON/OFFして使っていたが、1度騙されてしまってOFFに出来なくなっちまった。 それが原因で自殺した」
「それが原因ですか?」
「ああ、人ってのは簡単な事で敵意を向けてくる。 例えば道を塞ぐ様に立ってしまったら、往来の人に敵意を向けられる。 人気店で食事をしたら、席が空かないと待っている人に敵意を向けられる。 とまぁ、何があっても敵意を向けられるのに気が付く、そこから逃げる為に自殺したんだ」
敵意ってのは嫉妬や逆恨みでも反応してしまうのか。 いいギフトだと思ったんだが、持たないほうが良さそうだな。
「とりあえず、冒険者ギルドカードを出してもらえるか?」
考え事をしている俺にギルドマスターはそう言う。