第263話 少女
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。
少年のお母さんは、かなり詳しく話してくれた。
この家族はダンジョン都市の東側にある小国の子爵の一家だったらしい。
小国は、特に特産品も無いながら静かに暮らしていた。
だが人族の国から宣戦布告され、いきなり戦争になってしまった。
攻め込んできた理由は、王を暗殺しようとした獣人が鹿族だった。
なので、この国を滅ぼすと言うもの。 横暴を通り越してなんていったら良いのか解らないレベルだな。
そもそも、暗殺をしようとしたのが本当かどうかも分からないし、暗殺が本当でも小国の人かどうかも解らないだろう。
戦争はあっさり決着がついた様だ。 もちろん人族の完全勝利として。
小国は死亡した人数は驚くほど少ない。 だが、金品や食料がほぼ全て奪われ生きている人々は奴隷に落とされたようだ。
この家族は、戦争反対を訴え謹慎を申し渡された。
しかし、戦争しても負けるだけこのままでは危険だと思い、国を出てダンジョン都市で商売をしている親戚を頼り最終的にウルフローナに来たようだ。
しかし、このお母さんが子爵婦人と言う事なんだろうけど、ぜんぜん解らん。
貴族っぽく感じないし、なんか普通のお母さんって感じなんだよなぁ。
そんな話をしていると、奥から1人の男性が出てくる。 目元が少し少年に似ているしお父さんなんだろう。
「あ、おはようございます。 お邪魔しています」
俺がお父さんに声を掛けると、驚いた表情になりお母さんのほうを見る。
「あなた、こちらソメイヨシノのリーダーのカナタ様。 フェイリスが迷子になって送ってくださったの」
お母さんは、俺を紹介するとお父さんはあからさまにホッとした表情になる。
ん? フェイリスって事は女の子? って事は少女だった!?
「お噂はかねがね。 フェイリスがお世話になりました。 何もない部屋ですがおくつろぎ下さい」
お父さんは、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。 今皆様が来た経緯を話して貰っていました。 大変だったようですね」
「いえ、たいした事はありません。 家族が全員無事なのですから」
ドンと構えて頼りがいがあると言う感じがする。 人族を見ても動じずに冷静に情報を収集しようとしたことも好感がもてる良い人だなぁ。
「家族全員と言っていましたが、使用人などはどうされたのですか?」
「ご安心ください、私どもの家には使用人はいませんでした。 かなりの小国でしたので王家か公爵家位しか使用人を雇えなかったのです」
突っ込みいれられる所発見! 少し揺さぶってみるかな?
「へぇ~、そんなに小国なら、人族が目を付けてすぐ戦争を吹っかけすぐに潰されても良さそうな気がしますが、良く残っていましたね?」
今まで人族の恩情で助かってきたけど、戦争吹っかけられて潰されてどう思う? そんな風に聞いてる事が伝わるかな?
ちょっとした挑発だが、聞いた瞬間大爆笑をし始めた。
「はっはっは、はぁ、失礼しました。 聞いていたよりも恐ろしいお方のようですね。 1つの質問なのに、色々な事を考えてしまいますよ。
私は、相手国にも人族にも恨みも復讐心も抱いてません。 ただ、国を守れなかった悔しさはあります。 ですが、戦争を受けてしまった訳ですから文句も言えないですね。
私は、家族を守るためと言い訳をして国を捨て逃亡した身ですし、何かを言える立場に無いとも言えますが」
こちらの目を見てまっすぐに回答する。 聞きたい事よりも多くの回答を得たが、まぁ些細なことだな。
「試すような真似をして申し訳ありません。 いきなり準男爵に抜擢された理由が分かりました。 これから陛下の事をお願いします」
「ありがとうございます。 多大な評価をされているとは私自身が1番分かっているつもりです。 ですが、それに見合うだけの事を成して行きたいと思います」
その後少し話すと、お暇することにした。
少年は、やはり少女だった。 服がどっち様なのか分かりにくいし、髪の毛がかなり短いのが原因だと思うんだよなぁ。
でもまぁ、お父さんの仕事への熱意は凄かった。 俺は仕事にこんな風に情熱を燃やせた事あったかな? ん~無いな。 今でも仕事の事を考えると文句しか出てこないし。
しかし、戦争はあるんだな。 共通の敵が現れた時に人は協力し合うって誰か言ってなかったっけ?
魔物が共通の敵って事にはならないのかね? この世界では日常なのか?
門の外へ出るとユリが待っていた。
「カナタ様、お疲れ様でした」
「あれ? ユリ、今日が休みなんだっけ?」
「そうですよ。 なのでカナタ様と一緒にいようと思って来ちゃいました」
「そっかそっか、嬉しく思うよ。 でも、勉強は大丈夫なの? 少し苦手だって言ってたでしょ?」
「え? あ、はい大丈夫です。 後でベトニア君から集中特訓を受けるので」
「へぇ~集中特訓か。 後でベトニアにお礼言っておかないといけないね」
お屋敷へ帰り道に話を聞いてると、ベトニアとユリってかなり仲が良いように感じるんだよなぁ。
いつも一緒に行動しているっぽいしね。
「ユリは結局冒険者になる事に決めたの? 料理人と少し前までかなり迷っていたでしょ?」
「覚えててくれたんですか!? 嬉しいです。 そうですね、私は器用じゃないので、2つともやってみたい! という事は言えません。 ですので、冒険者をして資金を溜めて冒険が出来なくなったらお料理を作れれば良いかなって思っています」
「そっか、じゃあ色々頑張らないといけないね。 料理は計算が必須だしね」
「うぐ。 計算は苦手なんです。 何か良い勉強方法はないんですか~?」
「俺は、計算のほうが得意だったから教えるのは難しいなぁ。 努力と反復しかないんじゃないかな?」
「うぇぇぇぇ、嫌になりますね」
「でも、そのお陰で冒険者ギルドでのトラブルはほとんど無いんでしょ? 皆が努力した結果だよ」
そんな事を話しながら道を歩く、一般区画に入ると本当に人が多いし活気がある。
俺が最初ここに来た時、空いていた店など2軒位でしなびた物しかおいてなかった。
今では、ウチの調味料を使った料理が並ぶ露天や料理屋なども開いている。
桜食堂は値段を高いままに設定してあるので、お金を節約したいお客はこういうお店に行く。
「ユリ、このまま少し歩かない? 人の流れとか露天で何を売ってるのかとか直接見たいんだけど?」
「え!? もももももちろん喜んで! あっちのほうに大道芸人が来ているらしいですよ? 行ってみませんか?」
「うん、じゃあ行ってみようか。 って、あれ? その服新しいヤツだよね? 凄い似合ってる。 今まで気が付かなくてごめん」
ユリは、オフショルのシフォンシャツにショートパンツ、大きな花の付いたサンダルという頑張って背伸びした服装だった。
戦争の話が頭にこびり付き周りに目が行ってなかった証拠だな。
それにしても、この格好で武器を携帯してるのってなんか変だよね。
「は、はい! ありがとうございます。 実はこれ試作品なんです。 私用に作ってくれたので、すぐにカナタ様に見せたくって」
「そっか、じゃあ気合をいれてエスコートしないとね。 と言っても帰ってきたばかりだから、ぜんぜん分からないんだけど」
「大丈夫です! 私がエスコートします、良いですか?」
「もちろん良いよ。 よろしくお願いします」
こうして一般区の隅々まで歩き、色々と見て回った。
小物のお店などが結構立ち並んでおり、色々と見ていて楽しかった。
しかし、俺達のお店との格差がひどい。 これを是正しないといけない訳だが・・・
面倒だし、八重桜学園の卒業生達がお店を立ち上げるまで待てば良いかな。
それにしても、花街どこ行った!? ほとんど回った気がするんだけど、見当たらなかった。
もしかしたら、飲食店街が夜には花街になるとかなのか? これは調査が必要だ!
だが、今日サボった分建築を早くしないとだよなぁ・・・