第262話 少年
ブックマーク・評価 本当にありがとうございます。
話し合いも終わり、1人で城の中を歩いている。
やっぱり1人だと気を使わなくて楽だなぁ。 今日は王城へ行くって言ったら見張りは入れないから無しで良いって言われたし、どこを回って帰ろうかなぁ。
そんな他愛もない事を考えながら門へと歩いていると、鹿の耳の5歳位の少年が泣きそうな顔できょろきょろしながら歩いてきた。
「こんにちは。 こんなところで何かあったの?」
俺は膝立ちになり、目線をあわせて話しかける。
少年はきょろきょろ周りを確認し始め、少し後ずさりをすると一気に後ろ向きになり走る。
だが、数メートル行った所でつんのめって顔から廊下にダイブした。
顔だけ持ち上げると、うぇぇぇぇぇぇ! と大きな声で泣き始めた。
あちゃあ、どうしようかね。 見捨てるのは可哀想だし、少し相手をしてあげようか。
俺は少年に近づき、立ち上がらせると話しかける。
「あららら、痛かったね。 どこが痛いかいえるかな?」
少年は、泣きながら「ごご~」とほっぺを指差す。
いや、タンコブはおでこに出来てるんだが・・・
「そっかそっか。 痛い所をちゃんと言えて偉いね。 ご褒美に痛い痛いが無くなるおまじないをかけてあげよう。 痛いの痛いの飛んでけ!」
俺はそう言いながら9級回復軟膏をこっそり指に付けてタンコブに塗る。
少年は痛いのが収まってきたからなのか泣き止み、じっとこっちを見ている。
「うん、泣き止んで偉いね」
俺はそう言うと、頭を撫でる。
「うん!」
「おじさんがいきなり声をかけたからビックリしちゃったみたいだね。 お詫びにこれでも食べる?」
俺は、プチシューを手の上に取り出す。
「これ何?」
「プチシューと言って甘いお菓子だよ? 食べてみたら?」
「でも、知らない人から貰った物は食べちゃ駄目って言われてるから」
少年は名残惜しそうな目でチラチラ見てくる。
「そっか、約束をちゃんと守れるなんて本当に偉いね。 そうだな、じゃあ先に知ってる人を見つけようか。 どっちから来たか解る?」
「あっち? ん~解んない」
少年は首を傾げて言う。
とりあえずメイドか執事に聞くため、1番近くで仕事をしているメイドさんの所へ。
少年にこっそり近づいて驚かそうと話し、こっそりと背後に忍び寄る。
「すみません」
俺が声を掛ける。
「ヒャッ」
メイドさんは驚きのあまり小さく飛び上がり、転んでしまった。
その様子を見ていた少年は大爆笑をしていた。
「驚かせちゃったみたいで、すみません。 この子の親御さんとかどこにいるか解りませんか?」
「カカカ、カナタ様、驚かさないでください。 心臓が飛び出るかと思いました」
珍しく気安く話してくれる人だと思ったら、お腹の音を盛大に鳴らし胸の上にパンカスをつけて怒鳴られていた新人ちゃんだった。
「あぁ、新人ちゃんか。 胸の所のパンのカスでペナルティとか?」
「え? 気が付いてたんですか? それならそうと言って下されば」
「無理無理、最初に気が付いたの迎えに来た執事さんだし。 話を元に戻すけど、この子の知人がどこにいるか知らない?」
「あぁ、新しく準男爵になった方のお子さんですよ。 案内しますか?」
「お願いします。 もう少しでパパとママに会えるぞ!」
「やった~」
その後、準男爵が間借りしている部屋への移動中に、他国の貴族が移動して来たと聞いた。
中身を聞いたが、緘口令が出ているようで話してくれなかった。
部屋の近くまで案内されると、鹿族の女性が心配そうな表情でキョロキョロいろんな所を見回していた。
「ママ~!」
少年はそう言うと、女性の元へとかけて行く。
「どこへ行ってたのよ! 心配したんだから!」
女性はそういうと、少年を抱きしめる。
「ごめんなさい。 あのね、あのおじちゃんが一緒に探してくれたの」
「そうなん・・・だ。 ひ、人族!」
そういうとお母さんは俺を一目見ると驚いて、少年をぎゅっと抱き締める。
俺は頭をかきどうしようか悩んでいると、新人のメイドちゃんが一歩前に出てピシッとした雰囲気になる。
「奥様。 こちらに御座しますのは、高名なクラン、ソメイヨシノのリーダーであるカナタ様です。 そのような対応をされるのであれば、陛下に報告しなければならなくなりますので、ご承知の程是非お願いいたします」
「それは大変失礼いたしました。 お噂は聞いていたのですが、ずいぶんと噂と違いましたので許していただけないでしょうか」
お母さんは、深々と頭を下げる。
変わり身早! 女性だからなのかもしれないが、尊敬できるほど凄いな2人とも。
というか、未だに人族に嫌悪感をもっている人がいるんだよなぁ。
でも、ここまで解りやすく反応した人は少ないし、緘口令は人族絡みなんだろうな。
「あ、気にしなくて良いですよ。 俺は友人宅に訪ねてきた友人ってだけなので。 それよりも、人族を嫌ってる理由を聞いても良いですか?」
「いえ、しかし」
「ねぇ、ママ~。 お腹すいた~」
「ちょっと待ってて」
「あっはっはっは。 じゃあ、ママが許してくれたら、お菓子食べようか。 ヨシさんが作ってくれた物を出すからびっくりする位美味しいぞ~」
「いいの? いいの?」
少年はママの顔を見て聞く。
「ええ、いいわよ。 ありがとうございます。 カナタ様にちゃんとお礼を言って。 本当にありがとうございます」
「はい。 おじちゃん、ありがとう」
「どういたしまして、じゃあどっか部屋を借りれる?」
俺は新人ちゃんの方を向いて聞く。
「申し訳ありません。 今すぐに使用出来る部屋がありません」
そりゃ困ったな。 と言うか、新人ちゃんはもっと砕けた感じだと思ったんだけど仕事モードだと違う感じなのかな?
食堂は遠いから却下だろう? どこか適当な所空いてないもんかな?
「それでしたら私どもの部屋へお越しください」
「良いんですか? それであれば助かりますが」
「ええ、構いません。 こちらについて来てください」
少年とお母さんは手を繋いで歩いて行く。 その後を俺と新人ちゃんも付いて行く。
ん? 何で新人ちゃんも? そう思い新人ちゃんを見るとかなりいい笑顔でサムズアップする。
仕事は良いのか? 後で絶対起こられる気がするんだよなぁ。 まぁ本人が良いのなら良いか。
部屋の中には入ると、中を見渡す。 そこはかなり質素な部屋だった。
まず奥側に扉が2つ、片方には人がいる。 さっき言ってた準男爵になったと言う父親が疲れて寝てるのかもしれない。
「皆様ここに座ってください。 今お茶を入れます」
お母さんが、隅にあるヤカンの様なものに近づく。
お茶位なら、俺が出すのに。 そう言おうとしたとき俺の後ろに控える新人ちゃんが喋りだす。
「奥様、カナタ様が良いお茶をお持ちなので出していただけると思いますよ?」
え? あ、まぁ出すけどさ。 何で俺じゃなくて新人ちゃんが言うんだ?
「はい、出しますよ。 子供には、お茶じゃなくて果実水がいいかな?」
テーブルの上にクッキーとポテトチップ、ポップコーンを最初に出しテーブルに置くと新人ちゃんが中央付近に置く。
その後プリンを人数分出すと、またも新人ちゃんが配ってくれた。
今回のプリンはガラスの器に入った高級なタイプ、ヨシさんが作ったものだから俺のプリンよりも数段美味しい。
「新人ちゃんも一緒に食べれば良いんじゃない?」
俺の言葉に親子も了承してくれ、全員でプリンを堪能する。
新人ちゃんは、俺の肩をバシバシ叩きながらん~ん~言っている。
親子2人も無言で一気に食べる。
「気に入ってもらって何よりです。 ただ、このプリンは売って無いので買いに行ってもないですからね」
「えぇ! 無いんですか!?」
新人ちゃんが驚愕の声をあげる。
と言うかなんで新人ちゃんが1番驚いてるんだよ! 自重しろよ!
「では、人族を嫌っている理由を聞いても良いですか?」