第260話 陛下に会いに
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材料は切り終わり、組み立てに入ったところで夕方となり屋敷に帰る事に・・・木工師達は、酒盛りを始めていてグデングデンになってた。
こんな風になる前に、職場に帰れば良いのに・・・
屋敷に帰り汗を流すと、タダシさんの手伝いには入る。
「カナタ、ようやくお出ましか。 今リサーから面白い食材をもらったぞ。 ちっと見てみろ」
「え? はいは~い、どんなのですか? ってこれ? 卵から触手が出てる感じのこれですか?」
「ああ、果実らしいぞ。 ホレ、食ってみろ」
タダシさんはそう言うと、お湯の果実を割り中のとろとろした果肉をスプーンに掬って渡される。
匂いを嗅ぐといい匂いがする、ナッツとチーズを混ぜた匂いっぽいかな? 味は? お、チーズだ!
「チーズですね。 チーズの味がします。 匂いはナッツを混ぜたような感じですけど」
「おお! ほとんど正解だ。 グリエールチーズと言う種類のチーズに近いな。 収穫した時期によって味が変わるらしい、今度取りに行かんか?」
「良いですね! どこら辺で取れるんですか?」
「クアッカワラビーと言う種類がすんでる沼の木らしいぞ? 確か一月ほどと言ってたと思うが」
「そんなに? エルフの国に行くのとほぼ同じ位かかるじゃないですか」
「まぁな。 しかし、これは欲しいな」
タダシさんが、果実を手に持ち見ながら言う。
「それは俺も欲しいですよ。 ブラックビーフはここら辺に少ないですし、チーズなんて他国からの輸入ですから異常なほど高いですし」
「そうだよなぁ・・・残念だ。 何とかならんもんか」
「あ~もう。 解りましたよ。 もう、ただケイタ君にリョウさんのやろうとしていた事を引き継いでもらって、リョウさんに行ってもらうと言う事で良いですか?」
「本当か? 良いのか? だが、果実の代金はどうする? 食料と交換するのか?」
「食料と交換もしますが、貸しを返して貰って多く貰いましょう」
「貸しだと? クアッカワラビーの獣人など見た事は無いが?」
「俺も見たこと無いですよ。 貸しがあるのはクアッカワラビーに対してではなく、リサー姫に対してです。 もしかしたら苗木が貰えるかもしれませんよ?」
「本当か!? やはりカナタに相談してみるもんだな。 さぁ、晩御飯はチーズフォンデュだ。 カナタは、その皿を持って行ってくれ」
夕飯を皆で囲み雑談をしながら、チーズフォンデュを楽しむ。
夕食後、リサー姫を応接室に呼び出して話をする。 タダシさんは、ケイタ君とリョウさんを呼んでいた。
「え? あ! 抜かったわ。 貸しってそう言うことだったのね。 私がやろうとしていたことだし、黙っていてくれるのならなんでもするわよ」
「そうですか、助かります」
「迷惑をかけたの解っているもの、何をさせたいのかしら? 処女はあげられないから、リョタさんと初夜が終わったら1晩くらい付き合っても良いわよ?」
「それも魅力的な誘いですが、違いますよ。 やって欲しいのは、クアッカワラビーの里への橋渡しと、チーズの実がなる木の苗木が欲しいということです」
「苗木? え? 育てる気なの?」
「何かおかしい事でも?」
「いえ、木を育てるのは構わないんだけど花が臭いのよ。 見に行った事があるけど、咽て涙を流して散々だったわ。 しかも服にも臭いがついて、臭いが抜けるまでた天日で干して5日かかったのよ?」
「え? そんなに臭いの? まじか。 俺達は魔法があるから何とかなるだろうけど、植えたら臭いで王都が無くなるかな」
「多く植えればそうなるかも知れないわ。 ただ、体や服についた臭いを取る方法があるの」
「え? そんな方法があるの?」
臭いを取る事が出来るのに何でリサー姫はやらなかったんだ?
「何でそんなものがあるのに、臭いまま帰ったのかって顔をしているわね。 いいわ、言いましょう。 鳥型の魔物ジュドッフェの糞を乾燥させたものを塗りこむのよ!」
「え? マジで? 逆に臭くなったりとかは?」
「しないわ。 ただ見た目が気持ち悪い飛べない鳥の糞を乾燥させて粉にして塗るのよ? それでも取れなかったら、出来立ての糞の中に入るらしいわ」
「うわぁ・・・そんなことするの?」
「ええ、私が見たときには沼の水と糞を混ぜた泥風呂に浸かっていたわ」
「よし、リョウさんに取ってきてもらおう」
「え? リョタさんに行かせるの?」
「うん、そのつもり。 でも安心して、臭いや汚れを取る魔法はありますから」
「そうなの? そんな魔法聞いた事も・・・いえ、愚問だったわね。 じゃあ、私は果実と苗を貰えるように親書を書けば良いのかしら?」
「ええ、お願いします」
誰かが扉の前で控えているベトニアに喋ってるな。
誰だろう? やっぱり人も索敵に登録した方が良いのかな? でも、限度があるし。
そんな事を考えているとリサー姫は、紙の束を取り出し確認してから唸っていた。
親書は明後日の朝までに作り渡してくれる事になった。
なぜか知らないが、ウゥルペークラの王印の1つ下の効力がある貴印と言うのを持ってきているらしい。
なるほど、それのお陰で勝手に賠償とか決めたり出来たのか。
お偉いさんや貴族、王族なんて物語でしか知らないし、どんな風に取り決めしてるか解らないな。
少し勉強した方が良いか? 面倒だから止めよう。
ん? というか、そんなものを持って来ていたら大変な事になる気がする。
盗賊とかに襲われたら、やばいんじゃない? 頼りになりそうなリサー姫の騎士もどき達は、ランニングでへばってたし。
「そんな印持ってたら危なくない?」
「心配して貰ったけど、騎士達がいるから平気よ。 あんな訓練している皆からしてみれば頼りなく見えるかもしれないけど、オークを1人で倒せる位は強いのよ?」
「一応一人前って事ですか。 まぁ、ここに滞在している時に鍛えなおすのも良いでしょうね。 一応話は以上です」
「は~い、じゃあリョタさんの部屋へ行ってくるわね」
「前にも言いましたけど」
「解ってます!」
怒った様子でリサー姫が出て行った。
その直後、ベトニアが入ってきた。
「カナタ様、報告があります」
「うん、何?」
「セードルフ先輩が来て、タダシ様達の話も終わり了承してくださったと言っていました」
「そっか、じゃあ俺の仕事が増えるなぁ」
「僕も手伝います! 何でも仰ってください。 寝所に一緒に行くのも喜んで!」
「いや、そう言う事はしないからね。 と言うか、ベトニアって男でしょ?」
「愛は性別を超越します! 1度試していただければ解るはずです!」
「いや、しないからね? マジでしないからね? 折角だし、このまま早く寝るよ」
「かしこまりました。 気が変わられた際にはお声を掛けてください」
なんかベトニアが怖い。 こんなキャラだったっけ? 変な事をベトニアに教えたやつは誰だよ!
次の日、訓練を終えると陛下に会いに王城へと向かう。
門番に木札を出して確認してもらい中に入る。
すると執事が寄って来て、陛下は他国の王と会談中なので貴人専用の客間で待って欲しいとの事だった。
勝手に歩き回ったらまた迷惑をかけそうなので、案内して貰うことに。
部屋の扉を開けるとメイドが数人控えており、恭しく礼をされ出迎えられる。
部屋の中は魔糸をふんだんに使ったソメイヨシノ製の物が所狭しと並んでいる。
と言うか、奥のベッドって要る? 何をさせたいんだよ!
しかし、俺的には倉庫みたいな所の方が色々出来て嬉しかったんだけど、言ってみるかな?
「カナタ様。 ようこそ御出でくださいました。 私はサナキリと申します。 何なりとお申し付けください」
1人のメイドが前に立ち自己紹介をして頭を下げる。
所々声が裏返っているが、かなり優雅で綺麗な振る舞いだ。 が、俺には要らないんだけども。
「あの、汚れてもいい倉庫のような場所って無いですか? そこのほうが良いんですけど」
俺の言葉で、メイドや執事達の時間が止まる。
その後、私達は要りませんか? とか、お願いしますお世話させてください! とか、泣き落としまで入り渋々この場所でお世話されることに。
「あ、じゃあ新しいトレスグリエール(簡単に言うとチーズパン)の試食してみてくれませんか? 俺が作ったんですが、大量になっちゃって」
俺がテーブルの上にトレスグリエールを出すと、いい匂いが辺りに漂う。
「いえいえ、そんないただけません」
サナキリは、慌てて拒否する。
ぐぅぅぅぅぅ。
奥のほうで控えていたメイドの1人から、大きなお腹の音が響く。
「あっはっはっは。 皆で食べて見てください、それで感想をお願いします。 試食と言う立派な仕事ですから今食べても大丈夫です。 誰かに見られたら、俺が無理やり食べさせたと言って下さい。 命令ですよ?」
皆が座れないので追加で椅子とテーブルを出して、座らせトマトスープとポテトサラダ、トレスグリエールを出して食べてもらう。
何故食べさせたのか、それはトレスグリエールが物凄い太りやすいからだ。
美味しいんだけど、大量にあっても無駄になるのでチョクチョク出していこうと思う。
ふっふっふ、転移前のようにやや肥満にならないように気をつけなくちゃいけないからな。
◇◆◇
私は、メイドのサナキリ。
いきなりカナタ様がいらしたと門番の報告から城全体に伝令が走る。
ソメイヨシノのリーダーであるカナタ様は、いきなり友人宅に訪ねるようにいらっしゃる。
大将軍閣下やヴォルディン殿下、フランソワーズ姫様は、新しい自転車に乗って貴族街で遊んで・・・いえ、視察していらっしゃる。
王妃様方も新作の服やアクセサリーを身に付けチェリーブロッサムに行ってしまっているし。
私達はどうするか頭を抱えた。
王家の方々と同等の地位を持っていると行っても過言ではない人をお待たせするわけにはいかないし。
執事長より、自分の責任でパルメント様しか使えない特別室へ通すと決定が下った。
「サナキリさん、執事長とメイド長からカナタ様につくように言われています」
「え? 待って、待ってください。 パルメント様をいつも接待している人ではないんですか?」
「ええ、カナタ様はお優しい方だと聞いています。 経験を積ませようと考えたのではないでしょうか? 私は伝えましたからね? 良いですね?」
そう言うと、走るように遠くにいってしまった。
あぁ、私生け贄に選ばれた? それよりもっと悪い、死刑宣告じゃない!
カナタ様より遅かった場合は死刑かも知れないと思い、汗を掻かないギリギリのスピードで部屋へ到着する。
すると私以外のメイドの先輩達と後輩達が全部で10人いた。 正直助かった~私だけじゃなかった~。
「部屋の点検や調度品のチェックも終わっています。 貴方は真ん中にお立ちなさい」
真ん中、つまりメイドのリーダーポジション。 嫌、嫌だ! それだけは嫌だ!
「ななななな、何でですか! 嫌ですよ、優しい方だって事は知ってますが、機嫌を損ねると瞬殺されるって言うじゃないですか~。 先輩お願いしますよ」
「わがまま言わない! すぐにカナタ様がいらっしゃるわよ」
カナタ様がいらっしゃり、所々声が裏返ってしまったが何とか挨拶できた。
「あの、汚れてもいい倉庫のような場所って無いですか? そこのほうが良いんですけど」
一瞬で思考が停止する。 やらかした!? 何かやらかした!? お願いします、私を見捨てないでください。
私も他の皆も、驚くほど必死に涙をためながら懇願する。
死刑よりももっと悪い、家族まで手が伸びるかもしれない、お願いします。
カナタ様は困った顔をして、居てくれる事になった。
本当に良かった首の皮1枚で助かった。
「あ、じゃあ新しいトレスグリエール(簡単に言うとチーズパン)の試食してみてくれませんか? 俺が作ったんですが、大量になっちゃって」
なんですと~! カナタ様は、料理の神と名高いタダシ様とヨシ様の1番弟子だったはず。
そんなものいただけません! 私達、死にたく無いんで。
ぐぅぅぅぅ。
高らかとお腹の音が鳴り響く。
後輩メイドの1人だ! 全員から睨まれて、必死に顔を逸らしているが関係ない! あとで砂にしてやんよ!
カナタ様は大笑いをして、試食をするように命令してきて、美味しそうなパンとスープとサラダを出してくれた。
一口食べてみると衝撃が走った。
桜食堂で売ってるものでも美味しいと思ったが、これは全然別のものだ。
あれ? 気が付いたら何も無くなってた。
「オニオングラタンスープも飲んでみてください。 コンソメも自分で作ってみたんです。 どうぞ」
スープ? なのかな? チーズにパンが入ってるけど。
一口スープに浸るトロトロのパンをかじると衝撃を受けた。
私はこれを食べる為に生きてたのかもしれない! 美味しいなんて言葉しかない自分が恥ずかしい。
ぺろりと食べると、最後に卵が殻ごと出てきた。 え? 最後にゆで卵? そんな。
「これはプリンです。 このカラメルを上の穴から入れて食べてみてください」
何これ? 何これ? 物凄い甘い! 凄い美味しい! もっと多くの言葉を知ってたらこの気持ち伝えられるかもしれないのに、私では無理。
「これは紅茶です。 飲みながら、陛下の事を聞かせてもらえませんか?」
ええ、ええ、何でも喋りますとも今日の下着の色まで何でも。
私と同じような顔をした仲間達は、陛下の現状を事細かく話す。 カナタ様なら話しても良いだろうし、食事のお礼になれば良いなぁ。