第257話 リサー姫の願い?
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「では、魔道具は何ですか? それも思考誘導系ですよね?」
「これ? これは、友愛の首飾り・・・怒りなどの不の感情を友情や愛情の感情へと誘導するもの。 もちろん全部を変換できるわけではないですが」
リサー王女は、首飾りを取り出して言う。
「それがあれば、仲間を増やせるって訳ですか・・・なるほど、恐ろしい物ですね」
「そうでも無いわ。 効果には有効期限があるんですもの・・・1月に1度1時間は密室で一緒にいなければ、私を奪うために行動を起こしてしまう。 もっとも1km以上離れていれば呪いの効果は無くなるみたいだけど」
「なるほど。 何故そんな大事な事を話したんですか?」
「取引をしたいからよ」
「取引ですか?」
「そう、取引。 私との1晩と引き換えに、食料とファウスト男爵への紹介をお願いしたいの」
「1晩の事はおいておくとして、何故ファウストさんへの紹介を? 食料だけでは無いんですか?」
「ええ、私の乳母が死病なの・・・ファウスト男爵は城の研究室から出てこないし、人払いをしている。 私では研究室に近づく事すら出来ない・・・本当はウルフローナ王を誘惑して新薬を貰うつもりだった。 でも、あの人は心が壊れかけてる・・・私の言葉も香りも何も入っていかなかった。 だからお願い」
リサー姫は、俺のソファーの近くに来て頭を下げる。
「陛下の心が壊れかけている? そんな印象は受けたけど・・・後で話し合いに行かなきゃ行けないな」
しかし、薬は共同開発にしているはずだよな? 俺の名前ってそこまで広まってないのか?
それとも、意図的に誰かが防いでくれているのか・・・まぁ良い事だし保留で良いや。
リサー姫は、俺が考えている隙に手を握ってくる。
「うっふっふっふ、油断したわね? それで、取引は成立と思っていいのかしら?」
「いや、不成立で」
「え? 何で? どうして?」
リサー姫は驚愕の表情を浮かべる。
「かなり焦っているみたいですね。 俺は、肌に触れると呪いが発動してしまって操られる可能性が否めませんでしたので、対策を取らせて貰っていただけです。
しかし、中々良いタイミングで手を握ってきたので動けなくて手を握られてしまいました。 今後の課題とした方が良さそうですね」
俺はリサー姫の手を振りほどき距離をとる。
「あっはっはっは、本当に私の負けのようね。 手袋やマスク位じゃ私の呪いは防げないはずだもの、私対策で魔道具を身につけてたとかじゃない?」
突然の訪問だったから、ワイバーンのインナーと手袋をしていただけです。
アカネちゃんとミズキさんに状態異常を防ぐ魔道具を作ってもらうように依頼してたけど、間に合わなかったんです。
これで防げてたすかったぁ・・・
「さて、どうでしょう?」
「今までの無礼を本当に心をこめて謝罪するわ。 私はどうなっても良いからお願い、新薬を1つだけ融通して欲しいの。 新薬の欲する理由までは嘘をついていないわ」
リサー姫は土下座をする。
「最初から素直に頼めばよかったんじゃないですか? そうすれば心象は悪くならなかったと思うんですが?」
「貴方に頭を下げても貰えるとは限らない。 私は可能性が高いほうを選んだの」
「解りました。 まず1つ質問に答えていただけますか?」
「ええ、何でも聞いて頂戴」
「リサー姫、もしかして出身は地球ですか?」
「え? ええ、そうよ。 でも良く解ったわね」
「ポテトチップとポップコーンの食べ方ですよ。 初めてみると言うより、懐かしそうに食べていたので」
「じゃあ、貴方達も地球人? って事は、日本人なの!?」
「はい、日本人ですよ? ソメイヨシノというのは桜の品種の名前ですし」
「あ・・・あ! タナカリョタロウ。 タナカリョタロウさん知りませんか!? 鉄の箱・・・名前は忘れたんですが鉄の箱を操る仕事をしているはずです! 知っていたら何でもいいので教えてください!」
俺は驚愕の顔をする・・・もしかしたら別の、田中良太郎なのかもしれない。
同姓同名もいることだし・・・だが、鉄の箱はバスの事で合っているだろう。
そう考えると、リョウさんの事で間違いは無い気がする。
「1人知っている人がいます。 もしかしたら違っている可能性もあるので、何があったか聞かせていただいても?」
リサー姫は、ゆっくりと語りだす・・・その人の容姿や趣味、馴れ初めと事の顛末・・・
要約すると、リサー姫とリョウさんは出会い恋をし結婚する予定だった。
だが、リサー姫は窃盗団の一員で、抜けたいとリーダーに話すと捕まって殺されてしまったらしい。
その後魂がここに流れ着き、1言謝りたい一心で転生したようだ。
物凄い執念だな・・・俺がリサー姫の立場だったらあきらめてるだろうな。
「そこまで思っていたんですか・・・その人に会ったら謝るだけですか?」
「本当はやり直したい。 でも、無理なのは分かってる・・・だからせめて謝りたいの。 許してくれなくても殺されてしまっても構わないわ。 あ、もちろん死にたいわけじゃないわよ」
「そうですか。 しかし、今までの態度を見て話すかどうか迷います。 どうするか決まったらお知らせする形でいいですか?」
リサー姫の気持ちがどうあれ、リョウさんは捨てられた、裏切られたと感じている可能性が高い。
そんな中で会わせてしまったら、リョウさんが暴走する可能性もある・・・出来る限りリスクを減らしておかないと・・・
「そんなぁ・・・でも、それじゃあ」
「情報を教える教えないに関わらず、新薬を渡すというのはいかがですか? もちろんタダではありませんが」
新薬を渡す・・・そう言っているが、別に量の指定などはしていない。
つまりギフトの鑑定で名前が出る位水で薄め効果を無くした物でも良いわけだ。
嘘を言ってる感じはしなかったが、人間の記憶ほど曖昧で当てにならないものはないし用心に越した事は無いだろう。
後はリョウさんしだいって所か。
「本当!? 魔法誓約書に書いてもらっても良い?」
「ええ、いいですよ。ワイバーンの羊皮紙あたりでいいですか?」
「はぁ? 何でそんなに高い物を使うの? ラムダーマトンとかでいいんじゃない?」
「そうですか? じゃあお言葉に甘えて」
契約書に、確認が取れ次第新薬ペニシリンをリサー姫に渡すと書き、名前と血判を押して渡す。
受け取ったリサー姫が隅々まで羊皮紙を確認する。
「え? ペニシリンだったの?」
「そうですよ? 自分で作れるなら契約を白紙にしても良いですが」
「そんなの無理に決まっているじゃない。 名前は知ってても、作り方なんて知らないわよ」
「そうですか。 知っているのならスカウトでもしようかと思ったのですけど」
「まぁなんでもいいわ。 新薬を貰える事になったんだし、今日の所は帰るわね」
「解りました。 玄関まで送りにいきます」
帰るリサー姫を、玄関までエスコートする・・・間には、ミランダが入り怪しい動きをしないか見張る。
こんな時に、洗脳をしてくる事はないと思うが念には念をいれる。
階段を降りて行くときに、誰かがいきなり出てくる・・・索敵を使用してたが、発見出来なかった。
「あ、カナタさん。 どうです? 私も隠伏の魔法を使えるようになったんですよ?」
リョウさんが階段の下で手を振って言う。
あぁ・・・俺の失敗だ!
隠伏の魔法を練習している事を失念していた・・・大丈夫か? どうする?
「あ、お客さんがまだいらしてたんですね。 遅いのでもう帰ったと・・・」
「リョタさん! 私、私マリアです! リョタさん、覚えてますか?」
リョウさんの言葉をさえぎり、リサー姫が大声で叫ぶ。
リョウさんはリサー姫の顔を驚いた表情で見つめ、指差し口をパクパクと動かしている。
俺は、1人の顔を交互に見て次の事を考える・・・やはりこうなったか・・・
攻撃か? 話し合いか? リョウさんは優しいから話し合いで終わればいいんだけど・・・
「マリア・・・私が・・・俺が、どれだけ・・・どれだけ! うぉぉぉ!」
リョウさんが、いつもより断然速いスピードで近づいてくる・・・が、ケイタ君のトップスピードよりも遅い。
だが、少し反応が遅れギリギリでリサー姫に振るわれた拳を掴む。
リサー姫は驚いた顔をして、動けないでいる。
「リョウさん! 止めろ! 何をしているか分かっているのか?」
リョウさんは距離を取りもう1度突っ込んできた。
俺は保険の為に魔素強制服従を使うと、リョウさんは前のめりになりそうになりながらも勢いを殺さずに攻撃してくる。
「うるぁぁぁぁぁぁ」
リサー姫は動けるようになったのか、祈るように両手を組み力を抜き目を閉じ少し涙を流す。
リョウさんはギフトも魔法も使えないことも気にせず、足を完全に止め拳の連打を打ち込んでくる。
虚実のない拳など俺に届くわけがない・・・何度も拳を受け止め弾き受け流す。
「カナタさん、もう良いです。 リョタさんに殺されるなら、いいんです」
リサー姫が覚悟を決めたように呟く。
クソが! 汚れ役は俺だけでいいんだよ! ふざけんじゃねぇぞ!
話し合ってそれでも敵対するならいい・・・だが、2人はすれ違ってるだけに感じる。
ならば、いきなり断罪させるわけにはいかないだろ!