第256話 リサー姫
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折角なので、木工の技術を遺憾なく発揮し鉄や金属を使用しない様に加工していく。
釘が無いわけではない・・・同じサウザンドエルダートレントで杭を作って打ち込み、樹脂で接着するようにする。
こうすれば、壁や杭が一体化して強度が増す。 ただし、杭にも魔法陣を掘り込まなければならないので、俺以外出来る人がいるかどうか分からない。
そんな珍しい加工をしているからかもしれないが、どんどんとギャラリーが増えていく・・・俺はパンダかなにかなのか・・・
最終的には、街にいる木工に携わる人がほとんど集まって来たのではないかと思うほどになった。
学園は午後なので余り人もいない・・・遠くからみててくれるし、邪魔にならないからいいか。
どんどん魔法を使用し加工していくと、ざわめきが大きくなる・・・あんなに真っ直ぐな板に出来るなんてとか、あの出っ張りは何に使うんだ? とか、皆で話し合っている様だ。
一応俺に気をつかって小声で話しているようだが、そのそも地声がデカイのだろう丸聞こえだ。
夕刻の鐘が鳴り、片づけをし始めると職人達は隣の人と話し合いながら帰って行った。
誰も片づけを手伝ってくれないのかい! まぁ、外套を羽織っていたがずぶ濡れだったし仕方ないか。
全部の片づけをして、柱も元に戻し屋根も回収する。
これ、最初に工場関係を作って中でショッピングモールを作れば良かったかも・・・そんな事を雨の上がった帰り道に考えるのであった。
屋敷に帰ると仰々しい馬車が1台止まり、出入り口に屈強そうなフリューテッドアーマーを着た兵士2人が立ち、馬車を囲むようにケーミ(馬+鹿の騎乗出来る魔物)に乗った兵士が6名、屋敷のほうには、ケーミを他の隊員に預けた兵士が4名。
今日誰か訪ねてくるって言われて無いよな? まぁいいや、行ってみないと解らないし。
ウゥルペークラのリサー姫の可能性があるので、マスクだけをして屋敷に近づく。
「そこのお前止まれ! マスクをしているとは怪しい奴だ! 名を名乗れ!」
馬車の前の兵士が大声で叫ぶ。
その大声で、屋敷の扉の所まで行っていた兵士達も戻ってきた。
「そこの屋敷の持ち主ですが、何か御用ですか?」
「何? この屋敷のものだと言う証拠はあるのか?」
兵士は、槍の鞘を取り高圧的な態度で言う。
何だこいつ? 武器を抜くって事は死んでも構わないって事なのか? 頭が悪すぎて、なんていったら良いのか解らない。
「お前、ふざけているのか? 武器を抜くって事は宣戦布告と捉えるぞ?」
俺は兵士と馬車に向かって、スキルの威圧をする。
ショウマ君のように特定の誰かだけに威圧する事は出来ないが、ある程度範囲を絞って威圧する事は可能だ。
威圧した瞬間にケーミが暴れだし恐慌に陥る。
ケーミから振り落とされる兵士たち・・・馬車のケーミも暴れだし、無理やり抑えられたケーミは気絶してしまう。
これ以上やると、ケーミが可哀想だと思い威圧を解除する。
「まだやると言うなら、武力を持って全員を制圧するが?」
俺の言葉に兵士達が顔を見合わせる・・・返答を待つのも面倒なので、横を通り抜け屋敷には入ろうとした時、後ろから声をかけられる。
「わが国の兵が大変失礼をしました。 私を守ろうと必死だっただけですので、許していただけませんでしょうか?」
リサー姫が馬車の扉の前に立ち、笑顔で俺に言う。
へぇ、威圧をくらっても笑顔で俺に話し掛けられるって事はよほど肝が座ってるって事か?
それとも・・・壊れた人かな?
「ええ、武器を直接振るわれたわけじゃないので構いません。 ですが、何故このような時間に?」
「殿方の所にこの時間に訪ねる意味をお解りになりませんか?」
「そうですか」
「申し訳ございませんが、ソメイヨシノのリーダーのカナタ様をお呼びいただいてもよろしいですか?」
「その必要はありません。 私がソメイヨシノのリーダーをしているカナタです」
入り口を開けると、武装したセードルフと後ろに控えるミランダに会い全員で苦笑する。
リサー姫と少し話をする事を言い、皆に伝えてもらう。
護衛の者は外で待つようにリサー姫が言っていたので、リサー姫だけ屋敷の応接室へと案内した。
男女2人で話し合うのは危険が大きいので、ミランダを呼びに行く。
王城でリサー姫を見た時にメイドや女性騎士には効いて無い様に見えたし、ラスーリのサミル姫の話しで男しか効かないと言うのは聞いたし、玄関ですれ違ったとき特に何も変化がなかったと言うのも選んだ理由だ。
隠し玉があったり、情報が間違えていたら危ないので慎重にしなければならないが、急に来たので他に手が無い・・・ミランダに訳を話すと、気にしないでくださいと言っていた。
本当に申し訳ない・・・何かプレゼントを用意しよう。
セードルフは玄関ですれ違うとき魔道具の物と思われる香りを嗅いでしまったので、行動が少し怪しくなっていた。
綺麗だとか、姫の為にとか、お声を・・・とか、正直言って気持ち悪い。
「そちらにお掛けください」
俺は、リサー姫に対面のソファーを勧める。
ミランダがリサー姫の前にポテトチップやポップコーンなどの乾き物を目の前に置き、紅茶を入れてくれる。
前に茶葉を新しくしたと言っていたので、匂いを嗅ぎたいが今マスクとるのはまずい。
リサー王女は外套をソファーにかけ、ソファーに座る。
その格好にまず驚く・・・なんと、ノースリーブの膝上丈のワンピースだった。
服のデザイン自体は、桜商店でもチェリーブロッサムでも売っているものだが、素材が違う。
たぶんこの素材は木綿だ・・・木綿はかなりの高級品だったはず、それを布にして服を作ったと言うことだ。
財力も侮れないって事か・・・しかし、縫合や布自体がよれているので技術は高くないのだろう。
「驚いた表情をして貰えて助かりました。 技術の高さでは皆様に全く適いませんので」
リサー姫が、嬉しそうに微笑む。
「はい、驚きました。 木綿の服を見られるとは」
「ここまで作るのに約10年。 皆様が、ここに来たのは2年ほど・・・正直に言いますと、勝てないと思っておりました」
素材を言い当てたのに何の表情の変化も無いか・・・
「そうですか。 しかし、技術にもデザインにも特許がないので、真似されて大変です。 技術を盗まれないように、リサー姫も苦労なさったんではないですか?」
「そうなんです。 何度も何度も研究所に賊が入ろうとして、そのたびに捕まえ・・・失礼しました。 苦労話など聞きたくないですよね?」
リサー姫は転生者というのに確信がもてたな・・・この世界の人だと特許と言う言葉に反応するし、何よりも、接客が上手すぎる。
さて、話の流れに乗って話を聞きだすとしよう・・・
「いえ、お美しいリサー姫のお話ならいつまでも聞きたい気分です」
「そうですか? なら、少しお話しましょう」
聞くまでもなく、自分の国の現状をつらつらと話し始めた。
自国自体は、そこまで衰退していないようだが属国としている国がやばいらしい。
木綿を売って生計を経てていたが、綿花の不作と俺達の服や食品の影響で商人が立ち寄らずに国が立ち行かなくなってしまったらしい。
1年ほどで立ち行かなくなる国なんて、無いのと変わらないんじゃないか?
獣人の種族はクアッカワラビー・・・小さく力が弱い種族のため狩なども出来ずに困っているらしい。
「では、カナタ。 ストックしている食料とお金を渡してもらえるかしら?」
リサー姫が、俺を見て笑顔で言う。
「カナタ様! 駄目です! 正気に戻ってください」
ミランダが俺の肩を掴み揺さぶりながら言う。
「無駄よ! もう既に私の虜なんだから・・・そうね、魔法契約書も用意して頂戴」
「あ~、残念ですがお断りします」
「「え?」」
2人は、驚きの声を上げる。
「演技ですよ演技。 もう1度言いますね、お断りします」
「な! 何で・・・私を褒め称えていたじゃない! 他の男と同じ反応だったはず・・・」
「それはそうでしょう、ウルフローナの王城で1度見ましたし。 さて、その魔道具を止めてもらえますか?」
「それは出来ない・・・この首飾りは私の呪いを軽減してくれているの」
「呪いですか? と言うことは、スキル持ちと言うことですね?」
「もう私の負けね。 仕方ないか・・・私のスキルは【巡り会い】どうしても会いたい人が居たからこうなったんだと思う。 その人に謝罪を一言したい、謝罪を受け入れてもらえなければ殺されてもいい」
「なるほど、呪いの内容は何か解りますか?」
「ええ、私を取り合い殺し合う・・・と言うものだと思う。 男性限定なんだけどね」
うわぁ・・・なにそれエゲツナイな・・・




