第254話 新魔物?
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フリーマーケットスペースと一般門の間に移動した冒険者ギルドに入る・・・中は大して代わり映えがしていなくホッとするが、人の数は前より多く飲んで騒いでいる。
「おお、人が増えたね。 賑やかなのは良いことだ。 桜食堂のテイクアウトをここで食べてる冒険者が多いね」
「そうですね。 たぶん安いお酒を販売して無いからじゃないですか?」
「あれ? 桜商店で結構安い酒を販売してなかったっけ?」
「そうですね。お酒は売ってるんですけど、この世界のワインやエールの数倍の値段はしますよね? 稼ぎがあるパーティでも1本買って皆で分けて最初だけ飲んで、この世界の安い酒に変えているみたいです。 なので、安いお酒が売っているここで飲むんじゃないですか?」
「あぁ、なるほどね。 安いお酒の販売か・・・何とか売ってあげたいけど。 まだ連続蒸留器の魔道具化もして無いんだったよね? 前に純銅で作った蒸留器を見たけど」
「はい、まだ魔道具化はして無いですね。 ただ、単式蒸留はゴーレム化できると思います」
「マジで? タダシさんの負担も少し減るかな」
「でも、僕もアカネさんから聞いただけなので詳しくは分からないんですが・・・
確かに、タダシさんがお酒の総合監督をしてくれていましたし、人手を動員して作っているのも限界だと言ってましたね。 単純作業のゴーレムを大量に作れば、一気に手間が減りますから楽になるかも・・・でも」
「ん? でも? 何かあったの?」
「カナタさん、土地が足らないんですよ。 僕もリョウタロウさんに、鍛冶場を新設したいとお願いしたんですが無理でした。
カナタさんも工場関係は一般区画か貴族区画に作りたいと言っていたと思うんですが、難しいと思いますよ。 今ある薬の研究・製造工場、服・アクセサリーの製造工場、宿屋を壊すのなら何とかなりますが・・・」
「あぁ・・・そうだね。 いっそのこと工場全部をマジックハウス化した方が良いかもなぁ。 サウザンドエルダートレントなら腐るほどあるし」
「それじゃあ! 鍛冶場を作ってもらえますか?」
「それは構わないけど、火を使うのは禁止で魔力のみでの作成になるけど良い?」
「もちろん構いません! 師匠のネムガさん(鍛冶場のリーダー、ケイタ・タクミに鍛冶の基礎を叩き込んだ人)が、今追い込みらしくて人に教えている余裕が無いみたいなんです」
「へぇ~そうなんだ。 何かあったの?」
「いや、カナタさんの責任ですよ? グラフェン防具の納品作業ですからね? 今子供たちに鍛冶を教えてるのは僕なんですよ? どれだけ大変か解りますか? 場所も限られる魔力も限られる中で教えてるんですよ? 何とかして欲しいんですよ」
「あぁ・・・なんかごめん。 でも、マジックハウスはすぐには出来ないよ? 俺が本気で頑張っても1週間はかかるかな・・・いや、もしかしたらもっとかかるかも」
「いやいや、それでも異常な早さですから・・・用事を済ませて帰りましょう! 今日の授業の準備もありますから」
「あ、そうだね。 立ち話をしてても仕方ないね。 一緒に行く? 待ってる?」
「後ろにいますよ。 会話には参加しませんが」
受付で冒険者ギルドマスターのエミエミさんへの面会をお願いすると、すぐに対応する為か急いで上へと走って行く姿が見えた。
そんなに急がなくても良いと思うんだけど・・・
ギルドマスターの執務室に入ると、床やテーブル、机に至るまで異常なほどの書類に埋もれているエミエミさんがいた。
「思ったよりも早かったわね。 書類が多くてごめんなさいね。 長椅子にでも座っててもらって良いかしら?」
椅子から立ち上がらず、書類を見ながら言う。
「はい、それにしても書類が多いですね」
「そうね。 約半分が八重桜商店連合と八重桜学園での魔物討伐の報告なのよ。 他にも無料で文字が習えると知って移住してくる冒険者やその家族の書類もあるの・・・つまりソメイヨシの関連の物が8割ね」
「あぁ・・・なんかすみません」
「いいのよ、ソメイヨシの関連の資料は私に通すようにしている訳だし。
それに魔物が減れば危険が少なくなるのは解っているし、人が増えれば経済も回るんだから。
まぁ犯罪発生率も少し増えてはいるのだけど微々たる物ね。 警備体制については陛下が何とかしてくれているから大丈夫よ。
じゃあ、本題にはいるわね。 カナタ君、これを読んで貰って良いかしら? 読み終わったら声をかけて頂戴」
エミエミさんは、紙を手渡すと机の報告書に目を通し始める。
「はい、見てみますね」
A4サイズ位の紙を6枚ほど渡され中を確認する。
そこには、三角の銀色の物体が飛行していたと報告が多数寄せられている・・・それを4枚に纏められたもので、1枚は飛行物体の異常な速さと移動方向、大きな鳴き声について書かれている。
最後の1枚には、物体の概要予想図が書いてる・・・完全に俺の試作人力飛行機の形だ。
「エミエミさん、これって大事になってます?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「その反応ってまさか! はぁ・・・大事になってるわよ。 大々的に冒険者を雇用して調査を行っているわ」
「まじっすか・・・保証金払うので無かった事にとか出来ませんか?」
「それは無理ね。 ここまで来たら倒したと言う事になさい・・・それでも騒ぎは収まらないけど、ある程度は下火になるわよ」
「あぁ・・・そうですね。 報奨金は俺が出しますのでその方向でお願いします」
「解ったわ。 処理する事がまた増えるのね・・・お酒でも飲んでゆっくりしたいわ」
エミエミさんはチラッとこちらを見る。
「解りましたよ。 お酒も摘みも渡しますよ・・・と言うか、夕食を一緒に食べれば良いんじゃないですか? そうすれば、タダシさんの料理とヨシさんのデザートも食べられますし」
「いいのかしら? 料理の神とされる2人の料理なんて貰っても」
「良いですよ。 ただ俺が手伝いに入ってるので、タダシさんのみの料理よりも少し味は落ちますよ?」
「謙遜しなくて良いわよ。 カナタ君は1番弟子なんでしょう? 王家の料理人よりも腕が良いと聞いてるわよ?」
「どうでしょうね? 今はそこまでの腕は無いかもしれませんね。 覚えるのが早い分、忘れてしまうのも早いので」
「それでも楽しみにしているわ。 じゃあ、討伐されたとして報告を上げておくわ。 料金は天引き? それとも一括で払う?」
「紅金貨1枚渡して起きますので、余ったら振り込んでおいて貰えますか?」
「解ったわ。 あ! グランドマスターには報告入れておくわよ?」
「はい、もちろん良いですよ。 では、今夜お待ちしてますね」
冒険者ギルドの外に出ると今もまだ雨が降っていた。
エアヴェールで濡れないのだが、なんとなく雨の中に入るのは嫌な気分だ。
屋敷に帰ると全員既に帰ってきており、タダシさんとヨシさんの2人が昼食の準備をしているところだった。
使用人達は、昨日言っていた通り学園が終わりしだい桜食堂の仕込みを手伝いに行ったようだ。
「リョウタロウさん、あとで相談があるんですけど良いですか?」
「はい、私もカナタさんに相談があるので昼食後に話しましょうか」
「お願いします。 俺は料理の手伝いをしてきます」
料理の手伝いへと行き、肉の仕込をする・・・塊肉をステーキ位の大きさに切り綺麗な布で浮き出ている肉汁をふき取り、筋を切る。
そのままステーキなどに使うかは解らないが、すぐに使えるようにするために必要な処置だ。
薄切りの肉も均一の厚さになるように注意して切っていく。
タダシさんとヨシさんは別の料理をしているはずなのだが、たまに声をかけ道具などを受け渡したりしている・・・本当に阿吽の呼吸だと思う。
タダシさんとヨシさんに今夜ギルドマスターが食事を食べに来ることを伝える・・・もちろん、俺が失敗した事もちゃんと報告した。
呆れられたが、笑って許してくれた。
昼食を楽しく食べ、のほほんとした食事が終わった。
「あれ? タダシさん、ヨシさんがいるって事はチェリーブロッサムはお休みですか?」
「ん? あそこは料理人の修行場だぞ? 儂は監修しかしておらん。 開発した料理を味見し、翌日から販売できるように仕込みを手伝ってるだけだ。 調味料はカスミ(低年齢の犯罪奴隷の1人、子供だけのグループのリーダーで食べるために盗みを働き捕まった)に管理するように言っているから大丈夫だろう」
「そうですか、お任せします」