第246話 新王都
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どのくらいの速度で飛んでいるのか分からないが、そろそろ何とかしないとウルフローナ王都を通り過ぎる。
しかし、どうやれば止まるんだ? 逆風か? いや、それなら安全装置なしのスカイダイビングのほうが安全に降りられるかもしれない。
「ぎゃぁぁぁ! 止めて止めて!」
コノミちゃんは今でも叫んでいる。
「カナタさん。 どうしますか? 風の逆噴射でもしますか?」
ミズキさんが冷静に聞いてくる。
「いや、風の逆噴射だと変な態勢になる可能性もあるから手を離して落下しよう。 この傘は、出来れば風で叩き落す。 そんな感じでどう?」
「はい、解りました」
「コノミちゃん、このままだと危険だからタイミング合わせて手を離して。 それが無理なら俺かミズキさんに捕まって」
「無理です! 無理無理です! 死んじゃいますって」
コノミちゃんは柄にしがみついたまま首を振っている。
仕方ない、強硬手段だ!
「ミズキさん! 柄を切って傘と分離! 即ここから飛び出るよ」
「了解です。 コノミちゃん、ごめんね」
ミズキさんはそういうと傘の柄を切り、全員自由落下の状態になる。
「ぎゃぁぁぁ!! 死ぬ死ぬ死んじゃう! 鬼! 悪魔! 変態! ロリコン! 粗チン!」
うぐぅ! 最後のは結構きついな・・・見たんでしょうね、ええ、見たんでしょうね! でかくなった時には自信があるから良いさ!
出た瞬間に俺とミズキさんは、傘を無理やり下に叩き落しそこに向かって落ちて行く。
下を見ると小さい町があるので、降りたらあそこに寄ってここがどこか聞いてみよう。
自身の体重を軽くして減速して、地面に降りる。
ミズキさんとコノミちゃんも下に無事に降りたようだし、近くに落とした傘の部品を回収する。
コノミちゃんは本当に怖かったのか、涙を流している。
「コノミちゃん、大丈夫?」
「大丈夫なわけ無いじゃないですか! 死んだと思いましたよ! 大体、ブレーキ付け忘れるって何なんですか!」
コノミちゃんがいきなり立ち上がり、大声で俺に言う。
「いやぁ、ごめん。 間違えて試作品のほうを出しちゃったみたいでさ」
「ごめん、じゃないですよ! 本当に死ぬかと思ったんですから!」
「お昼ご飯に、ヨシさん手製のデザートを付けてるから許してもらっても良い?」
「ん~・・・最低でも2つで、それで手を打ちましょう」
「解った2つね。 それじゃあ、ここがどこなのか調べないとね」
空から見た街のほうへみんなで歩いて行く・・・近づいて行くとその街は見覚えのある街だった。
「ここは・・・塩の迷宮の街だ。 あんな一瞬でここまで来ちゃったのか? と言うことは、音速に近い速度で飛んでたって事か?」
飛んでた時間は正確に測ったわけではないが、5分位と言う所だろう。
何はともあれ、無事でよかった・・・まじで。
「ミズキさん、コノミちゃん、行き過ぎちゃったみたい。 ここは塩の迷宮のある街だよ」
「はぁ? ちょっちょっと待ってください。 塩の迷宮って、結構遠いんじゃなかったですっけ?」
コノミちゃんが慌てながら言う。
「うん、まぁ遠いね。 折角だし塩とってく?」
「取りません! すぐに帰りますよ?」
「は~い、じゃあゴーレムにマジックハウス引っ張らせて帰る? そしたら振動とかも無いし」
「それです!! 最初からそれを思いついてください! じゃあ、ゴーレムたちを出しましょうか!」
全員のゴーレムを出し準備をする。 俺のゴーレムは通信機と繋げば地図と連動し勝手に動ける。
ただ、誰も乗ってないとなんとなく気持ち悪いのでコノミちゃん作成のアル君を乗せる。
後ろに荷台を繋げ、その上にマジックハウスを置く・・・荷台のほうが少し長いのでマジックハウスを前のほうに置けば、後ろにミズキさんのゴーレムを見張りとしておける。
寝ながら移動できれば良いなと思い作っておいたものが早々に役に立つとは・・・なんでも準備が大事だな。
ウルフローナ王都へ設定し、マジックハウスの中には入る。
中は今のところ普通の一軒屋くらいの大きさ・・・みんなが集まってから内装を変えようと思っている。
ミズキさんは外で空飛ぶ練習をし、コノミちゃんは自分の部屋に入る。
俺も自分の部屋に入り、ザックィンムの蔦と葉を炭に変えていたものをカーボンナノチューブに作り変えていく。
ザックィンムの素材は、魔力の通りがかなり良くカーボンナノチューブを操ろうとしている俺には最高の素材と言える。
透明な物と黒の物を大量に作り、タコ糸のように木の枠に巻きつけメモ書きを貼っていく。
本当に何事も無く王都へ向けて進み、次の日の昼過ぎくらいには王都の近くまで到着した。
人がいる中をゴーレムで走るのはなんか怖かったため、近くで降りしまい小走りで向かう。
通信機でウルフローナの王都が結構変わったと、リョウタロウさんに言われていたのでワクワクしている。
コノミちゃんとミズキさんもワクワクしているみたいだ。
「あれ? こんな所に壁? いや、城壁か? 人が壁の上とか壁の中にいるし、城壁なんだね」
「街の拡張でもしたんですかね? でも、こんな高い城壁をこんなに早く作れるんでしょうか?」
コノミちゃんが城壁を触りながら言う。
「街の拡張か・・・計画書にはそんな項目もあったかな。 えっとね、このくらいの城壁なら俺とかリョウタロウさんなら出来ないことは無いよ。 でも材料が大量に必要だから、こんなに早く出来るかどうか分からないかな」
「2人にしか作れないって事は、リョウさんが作った城壁って事じゃないですか? でも、城壁だけを見るとヨーロッパに旅行へ来たみたいですね」
「そうだね。 1度でいいから旅行で行ってみたいな」
「家に・・・帰れますよね?」
「大丈夫、約束したんだからちゃんと家に帰すよ。 神が使っている船を奪ってでも家に帰すよ」
その後、城壁の入り口を発見する・・・入り口は2つ、驚くほど長い列が出来上がっている入り口と全く並んでいない入り口。
出来れば並びたくない・・・長い列の最後尾に並べば明日までかかりそうだ。
しかたない、並んでいない入り口に行ってみよう。
「おい、兄ちゃん! そっちは貴族様専用の入り口だぜ? おとなしくこっちに並んだほうがいいぞ?」
ぜんぜん知らない人族のおじさんが叫んできた。
「ああ、そうなんですか? 貴族の友人がいるので、何とかなら無いか聞いてみます。 友人から木札を渡されてますし」
「そうか、ここの兵士は良いやつが多いから大丈夫だと思うが、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
いい人だったなぁ・・・人族のいい話を聞かなかったけど、人ぞれぞれなんだよなぁ。
貴族用の入り口へ行くと、見た事の無い兵士が立っていた。
「失礼ですが、ここは緊急時以外は貴族専用の入り口です。 一般の方はあちらの入り口にお並びください」
「あ、この木札って使える? フラン様から直接貰ったんだけど」
「確認をしてきますので、少々お待ち・・・」
「カナタ様、ミズキ様、コノミ様! 良く御戻りに」
兵士を押しのけて綺麗な鎧の人、片膝をつき兜を取る。
片膝をついたのはカルジャスさんだった。
顔を見た事の無い兵士は唖然としていたが、すぐに片膝をつく。
「あぁ、カルジャスさん。 久しぶり」
「お久しぶりでございます。 陛下も心よりお待ちしています」
「何でここにいたの? たしか・・・貴族になったんじゃなかったっけ?」
「はい、その通りです。 カナタ様たちが帰ると聞き、いてもいられずここに」
「そっかそっか。 でも偽者の可能性もあるんだから検査はちゃんとしてね」
「はっ、すぐに!」
木札の確認と、冒険者ギルドカードを確認してもらい中へ入る。
そこは、綺麗に区画整理された畑が並びすくすくと野菜たちが育っていた。
「新しい王都モンステラへようこそ」
カルジャスさんが嬉しそうに言う。
王都の名前を変えたと説明された。 ウルフローナ国ウルフローナだと分かりにくかったので、ヨシさんが命名したらしい。
壮大な計画の下にたったからモンステラなのだという・・・モンステラも花の名前だと言うことだった。
俺とリョウタロウさん、陛下の最終的な計画では現在の数倍ほどの広さになるし壮大といえるだろう。
他にも、移住してくる人もかなり多く商店も活気付いているようだ・・・その所為で、ソメイヨシノのニセモノが多く出回っていると言う。
帰ってきた早々に色々対策をしなくちゃ駄目らしい・・・頑張りますかね。