第245話 帰路
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霧の中に入ろうと思ったときに、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
「お~い、カナタ! 待ってくれ! お~い!」
振り返ると手を振っているパルメントさんとモリスさんとジリコテさんが走ってきた。
「ギリギリになってすまん。 亜空間収納の魔法陣や俺の知っている使えそうな魔法陣を書いておいた。 受け取ってくれ」
パルメントさんは、笑顔で1冊の本を手渡してきた。
「ありがとうございます。 大切に使わせてもらいます」
「俺からはこれだ。 ザックィンムの性能表なんだが、言われたとおり棒グラフで作ってみた。 製本はしてないが大丈夫だろう?」
ジリコテさんからA3位の紙が渡される。
「はい、ありがとうございます」
「ちゃんと今までの木材を棒グラフにしたものを製本し、今度届ける期待しててくれ」
「楽しみに待ってます」
「儂からは、鍛錬の腕輪じゃ。 自分の魔力を使い自身を鍛えるためのものじゃ。 ダンジョン産じゃが、おぬしなら複製できるかもしれんぞ?」
モリスさんから、黒くくすんだ銀色の腕輪を渡される。
「ありがとうございます。 いろいろと試してみます」
ん~、物貰っといてモリスさんに質問がありますって聞きにくいな・・・どうすればいいだろう。
「カナタ、俺と父が出口まで送ろうと思うのだがいいか?」
パルメントさんが言う。
「はい、霧の外まで少し不安だったんでありがたいです」
「はっはっは、カナタにも不安と言う感情はあるのだな。 押して駄目なら破壊するほど押せと言う感じだと思っていたぞ」
「いやいや、ちゃんと引いてみますって。 引いてみても駄目なら破壊するほど押すかもしれませんが」
「そうなのか? 俺は力ずくで何とかしようとしているところしか覚えていないが」
「ひどい事言いますね。 あの時は魔力量を間違えただけですって何度も言ってるじゃないですか」
「オッホン。 仲がいいのはいいが、出発せんといかんのではないのか?」
モリスさんが咳払いをして言う。
俺とパルメントさんは少し苦笑する。
「そろそろ行きましょうか」
みんなに手を振り霧の中を進む。
霧の中を進んでいるときも話に花を咲かせる・・・するとすぐに出口へと着いてしまった。
「カナタ・・・いや、ソメイヨシノのみんな、色々世話になった。 正直、お前たちがいないと今もエルフの里があるか疑問だ。 本当に感謝している」
「いえ、こちらこそ色々勉強させてもらいました。 お世話になりました」
2人もパルメントさんとモリスさんと話して握手をしている・・・コノミちゃんは涙を流して話をしている。
こんな雰囲気で話を切り出すのも何なんだけど、やっぱり気になるし聞いてみるかな。
「モリスさん、ちょっと質問があるんでこっちへ来てもらっていいですか?」
「何じゃね? 答えられることなら何でも答えるぞぃ」
モリスさんは、俺が呼んだほうへと移動してくれた。
「すみません、ずっと気になっていたんですけど。 誰に頼まれて自分たちのところへ来たんですか?」
「何じゃね? 藪から棒に。 ウヌリアンの若造共に不穏な動きがあると言うので見に来たら、おぬし等がいただけじゃ」
「それもあり得ない訳じゃないんですが、おかしい所があるんですよ。 まず1つ目、なぜレティア殿と呼んでいるのでしょう? ここの神ですからレティア様と呼ぶ気がするんですよ。 殿でも尊敬している事は解るんですが、何となくおかしい気がして」
「レティア殿と呼んでいるのは、他の者との差を出したかっただけじゃて」
「そうですか。 じゃあ2つ目、コノミちゃんの魔力量は底知れないと言ってましたよね?」
「うむ、その通りじゃ。 底が見えんよ」
「ならなぜ、俺たちの魔力量が何倍か解るんですか? 大きすぎて解らないのなら同じ大きさに見える気がするんですけど」
「そっそっそれはじゃな。 大きさについては適当じゃ! 何も解らぬというのはカッコ悪かろう?」
それも言えなくは無い、だが俺の見立てと全く同じと言うのはどうも腑に落ちない。
「適当に言ってるのに大きさが解ったと言うことですか?」
「いやいや、大きさが当たっているかも解らん。 本当に適当なんじゃ」
「なるほど、戦闘スタイルをコノミちゃんに聞いて憶測で言ったのかと思ったんですが違ったんですね」
「チラッと聞いていたが、適当なんじゃって・・・本当じゃ」
おかしいな、チラッとでも聞いていたら俺の魔力量が減るはずなんだよな・・・だって、戦闘スタイル近接だもん。
「解りましたよ、信じます。 じゃあ、最後に今現在モリスさんは敵じゃないんですよね?」
「もちろんじゃ、おぬしたちに敵対しようなどと思った事は無い」
「それなら良いですよ。 モリスさんにもお世話になったので、敵対したくはないですし」
「もし・・・もしもじゃが、儂が敵対したらどうするんじゃ?」
「ん~どうしましょうか。 戦って勝ったら、奴隷にでも落としましょうかね」
「それだけか?」
「ええ、立場や何かが違いますから、いきなり敵対しても仕方ないですよ。 でもまぁ、一言なにか言ってほしかったと言うかもしれませんがね」
その後パルメントさんとモリスさんと別れ、ウルフローナ国の方向へ歩く・・・いや、1人がんばって空を飛んでいる。
何度も風の力を間違えてしまうのかバランスを崩してしまっているのだが、本人は楽しそうだ。
風の力を一定に出す魔道具の開発をするか話したが、自力で飛ぶのが良いとの事だった。
「ミズキさん、遅いから紐つけて引っ張って良い?」
「引っ張られると、ちゃんと飛べないので嫌です」
ミズキさんがムスッとして言う。
「ちょっとカナタさん。 彼氏なんですから、何とかしてくださいよ」
コノミちゃんが小声で言う。
「まだそのネタ引きずってるの? そろそろ突っ込むのも面倒だからやめようよ。 コノミちゃんもミズキさんがなんとも思ってないって聞いたんでしょ?」
「それはそうなんですけど・・・他の人とカナタさんの対応の仕方が違うじゃないですか」
「そうなの? どこが違うか解らないけど・・・あれじゃない? 魔法の開発とか一緒にしているからとか」
「それも無いとは言えないですが・・・じゃなくって、このままだとウルフローナにいつ着くか解らないですよ?」
「そうなんだよねぇ・・・何とかしなくちゃなんだけど。 あ! 新しい移動方法があるんだけど試してみない?」
「え? なんか嫌な予感がするんですけど・・・」
「でも、早く着くよ? 空を飛べるようになったから出来るようになったんだ。 速度は音を超えない程度だから平気だと思うんだけど」
「解りました。 やってみてください」
了承を得て、ミズキさんに魔法の新しい使用法を思いついたからやってみたいと言う。
二つ返事で了承を得た・・・疑わなくて大丈夫なのか?
俺は三角錐の形の馬鹿でかい傘を取り出す。
傘と言っても開いている傘ではなく閉じている傘なので、3個の羽が付いた魔鉄製の槍に見えなくも無い。
「カナタさん。 まさか、それで飛ぶとか言わないですよね?」
「おお! 正解。 2人は中に乗っててくれれば良いから。 俺は投げるときに亜空間にカーボンナノチューブで体を軽くして一緒に飛ぶ感じだね」
「それって危なく「是非! やってみたいです!」」
「「え?」」
2人そろった感じで返事をするが両方真逆な返事になった。
結局、コノミちゃんがミズキさんの熱意に負け・・・空を飛んでみる事に・・・
傘の中に2人が入り柄の部分をぎゅっと握る・・・柄の部分から出たかカーボンナノチューブで槍をある程度軽くし、魔法とギフトの身体強化を使って槍投げをする。
自分の事を軽くするタイミングもばっちり、これで大丈夫だ。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
とコノミちゃんの悲鳴が発せられるが、大丈夫だろう。
「カナタさん。 これのブレーキってどこにあるんですか? この速度だとすぐに着いちゃうと思うんですけど」
ミズキさんが冷静に聞いてくる。
「大丈夫。 ここにパラシュートが・・・ん? 無い? まさか・・・試作品!?」
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!! 死ぬ~!!」
コノミちゃんの悲鳴を聞きながら、どうするか考える・・・
◇◆◇
「行った様だな」
モリスはポツリと呟く。
「ああ、そうだな。 父よ、カナタと何を話してたんだ?」
パルメントは首を傾げていう。
モリスは、パルメントの仕草に亡き妻の面影をみて微笑む。
「恐ろしい話よのぅ・・・パルメント、儂は引退しようと思っておる」
モリスは天を見上げて言う。
「あぁ? 何だ? 藪から棒に」
「ソメイヨシノには絶対手を出してはならんぞ? 絶対にだ」
「何を言いたいのか解らんが、敵対しようなどと思わん。 俺よりはるかに強いしな」
「そうか、それならば安心だ。 儂は、姫巫女様へ報告に空へ行く。 その後は旅にでも出るかな」
「姫巫女様と言うのは誰だ? 本当に何があったんだ? カナタと話した事となにか関係があるのか?」
「姫巫女様は、レティア殿の上の方だ。 神からのお告げを聞ける唯一の方・・・いや、忘れてくれ。 儂は余生を楽しみたいだけじゃ。 後の事は頼んだぞ」
「ああ、言えぬと言う事は解った。 この国の事は任せてくれ、みんなで楽しくやっていく。 父よ、ちゃんと帰って来いよ?」
「言われんでも、帰ってくるわい」
モリスはそういうと里に向けて歩き出した。
その背中をパルメントが心配そうに見つめながらついて行く・・・




